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「ちいさい悪みつけた」



だれかさんが~だれかさんが~みーつけた。


貴方は「小さい悪」を叩く「正義のオナニィ」が好きか、それともそういうのを見せられると、なんともいえず気分が悪くなってしまうタイプだろうか。この違いがどうして生まれるのかという話をしたい。


人は「小さい悪」が大好きなのだ。TVをつければ、たとえば他にいくらでもニュースはあるだろうに「無人販売店の万引きを確保&直撃番組」をやっていたりする。

店外にでていく女性に、TVスタッフが「今ってお代金いくらいれていただきましたか?」などと声をかける。「小さい悪」は最初「払いましたよ」「あれ?おかしいな」などとしらばっくれるが、無人販売店に設置されたカメラに全ては撮影されていた。彼女はトマトとナスで200円分を持ち去ったが、料金箱には5円玉一枚だけいれて店をでていった。「間違えただけなの」「小銭がなかったの」「いつもくるから後でいれるつもりだったの」等々と「小さい悪」はいいわけを続けているが、無人販売所へ日に焼けた屈強な生産農家が戻ってくると、「小さい悪」はプルプルと震え始める。「お願いしますお願いします。もうしませんもうしませんから、許してください許してください」といって地に頭をすりつけ土下座まではじめる。農家は「そういうのいいから、ハイ、警察呼んでください」と宣告する。

テレビはこうした企画で視聴率が手軽にとれるのでやめられない。
「小さい悪」は娯楽である。


YouTubeの娯楽

地上波よりも再生数が広告料収入に直結し敏感なのがYouTubeである。彼等はニンゲンの欲望に忠実だ。それが「私人逮捕系」のYouTuberの隆盛なのだ。ここでも盗撮犯を捕まえてみせて、「もうしませんね?絶対しませんね?絶対ですよ?」とそのたびに謝らせて「はい、絶対しません、ごめんなさい」とペコペコ謝らせ解放されるのかと思わせたところで、「じゃ警察行きましょ!」という持ちネタで笑いをとるYouTuberが人気となっている。


彼等YouTuberたちは、捕まえて逃げようとしてると解釈すると、ただちに実力行使(私人逮捕)に及ぶのだが、「格闘技オタク」のようなYouTuberがいかにも「見せるため」のような派手なプロレス技(?)を駅の構内の衆人環視の中で披露する。
ぐりぐりと締め上げつつ「きもい盗撮犯」を掣肘する。そして「いじるな!消すな!」と盗撮した動画がおさめられた(と彼らが考える)スマホを渡せと要求する。スマホを操作しようとしただけで実力で羽交い締めにし、「はい抵抗した!障害罪だよ」などという。

内心の自由がない「小さい悪みいつけた」

あら


そしてさらに私は以前から予告してたが、もはや問題は「私人逮捕で証拠品を奪う行為や過剰な拘束に、法的正当性がない。人権侵害である」とかいう問題ですらない。
彼等は憲法で保障されたはずの「内心の自由」ですらふみにじる。

というのは試しにいくつか見てみたら、「(盗撮をしてるわけでもなく)ただ制服姿の女学生などがたくさんいるところで『目の保養』または『ラッキースケベ』的なものを期待して(?)、長時間にわたり徘徊してる人」まで「お前キモい!キモいんだよ!」と大声で罵声をあびせていた。さらに、「なんでこんなうろうろしてるんですか。ここにいる必要ないでしょ。あなた不審者なんですよ」などと問い詰めて、ついには警察官を呼んで説教させたりまでしていた。

そうしてこの加速がX世界で大騒動になってしまった。とあるYouTuberによる以下のポストだ。不審者というだけで、ついには集団で取り囲み示威し、警察に連行までしたのである。

https://twitter.com/g_menguts_ch/status/1693171343548981378

駅で3時間徘徊している人は、「内心の悪」が確定し有罪。強制的に警察署に連行されるらしい。「三時間以上駅徘徊罪」爆誕の瞬間である。つまり令和に復活した治安維持法予防拘禁だ。


「頭髪に恵まれない系のスターリン」氏がこれについて、「いや。なんの罪で引き渡すんだ?正義が暴走してきもちよくなって公開オナニーじゃねぇか。これ。 もしこれで引き渡して無罪だったらどうするんだ?」などといっていたが、多くの人に「正義のオナニィ」などと呼ばれている。

とにかく、彼等はニヤニヤ嘲るようにわらいながら多くの仲間たちで取り囲み、「見てたのは事実でしょ、それは間違いないでしょ」「なんでみてたんですか」などと問い詰め、「一般女性がみたらキモイなって思うと思わないですか」「貴方のしてることは犯罪なんですよ」などと語り始める。
ただ駅でうろうろしていたいかにも気の弱そうな人物が「見ていただけ」で犯罪となってしまうらしい。ついにわが日本は「女性をみていた内心の悪」で、有罪となるのだ。集団で威圧し、気弱そうな男性を問い詰め私的制裁の悦びに酔いしれる姿だ。

例によって、私のところには「これ、強面の人が徘徊してたら同じことできる?」「反撃してこない相手にしか強く出られない卑怯者」「日本人に迷惑かけまくっているク◯ド人と戦えよ」とか言う声がよせられていた。まさに「小さい悪みいつけた」である。彼等は大きな悪とは戦おうとしない。なぜって、「小さい悪」が好きなのである、その理由は後述する。ビンラディンから万引きものまで彼等は「小さい悪」こそ許せなくなる精神機構があるのだ。

さて、私はXのDMを開放して誰からも受け取れるようにしている。だから、それこそ「死にたいです」系の相談DMなどもきたことがあるのだが、こんな相談が寄せられた。

彼はこんなことをいってきた――「私はこういう私人逮捕系の動画をみてると(サムネをみるだけで)すごい不愉快になるんです。なんでかな?とおもってました。やはり、こういう屈強な男性が、盗撮をしたひ弱な男性を懲らしめてるというタイプの動画は、女性から多くの支持を集めてるようですが、やはり自分自身がキモイ側だからというだけで、間違った存在だといわれてるようで、不快になっているのでしょうか。」というような質問だった。さらには「私がモテないのはこういう動画をみて喜ぶ側になれない」ところにあるといったような感想すら抱いていた。


――だが安心してほしい。彼がこの動画をみて感じる「気分の悪さ」とはそんな自身の「キモさ」にあるのではない。

そもそも「誰がこうした盗撮私人逮捕系の動画を支持しているのか」ちゃんと考えたことはあるだろうか。

彼は暗黙のうちに「盗撮私人逮捕系動画は女性から多くの支持をあつめている」「女性たちが懲らしめられている姿に喝采を送っている」とか考えていたようだが……果たして? これをちゃんと説明する必要があるなあ、と思ったのだ。

ここから先はこうした「小さい悪」へ異常な関心をよせる動画に、一定数の異常にひきつけられる人がなぜいるのか、一方で、多くの人が「なんともいえず嫌な気持ちになる」という根源的な問に答えようと思う。

もちろん単なる私の感想ではない。

私は、こうした「盗撮私人逮捕系」のYouTube動画とは、一体これは「誰が喜んで視聴してるコンテンツ」なのか――実際に調査してみた。

ある程度予想していたとはいえ、実はあまりに驚く極端の結果がでてしまったのだが、他の一般的なYouTubeのチャンネルとは全く違う構成だった。
これは「小さい悪」をめぐる現代の寓話といってもよいような結果なのだ。
大方の直感を大きく裏切るものだったのだ。つまり、

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