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読書ノート⑤6月上旬に読んだ本 続き

先日に引き続き、就活の合間に読んだ本を紹介していく。のんびりしていたら日数が空いてしまった。

前回を読まなくても読めるので、面白い本を探している方、どうぞ。

5.文芸オタクの私が教える バズる文章教室

cakesで連載している三宅夏帆さんの新刊だ。発売日に東京にいたおかげで手に入れることができた。何を隠そう、私が最近読んでいる小説は、三宅さんがcakesの連載の中で紹介したものばかりだ。大ファンとしてはすぐに手に入れられてよかった。

占い、小説、エッセイ、ハウツー本、歌の歌詞と、様々なジャンルの文章を用いて、読みやすく、心に迫る文章の仕掛けを説明してくれる。近現代の有名な作家の文章が例として挙げられているので、誰でも1つは「あ、これ、知ってる!」な文章があるだろう。最初から通して読まずに、興味のあるところから読んでみるのも面白そうだ。

各項目は短くまとまっており、「なるほど!」と思う記述がたくさんあった。特に腑に落ちたところ、まねしたいところに付箋を貼りながら読んだら、この通りになった。

私も、実際にnoteを書く時に心掛けるようになったポイントがある(なんなのかは内緒)。
確かにこうやって書くと、自分の心情がリアルに書ける!嬉しい!と思うことが増えた。伝わりやすさと書きやすさは比例するのかもしれない。

三宅さんの、文章への愛が伝わってきて、とてもよい。そもそも三宅さんの文章が読みやすく、すいすい読めてしまう。

同時に、文芸批評にも興味が出てきた。これからは、単に文章を楽しむだけでなく、裏側にあるしくみにも注目していきたい。
元々、海外小説の訳者による解説を読むのが好きなのだが、評論にも触れてみたい。また、すてきな文章に出会った時に、自分なりに「どうしてこの文章に心惹かれるのか?」を考え、エッセンスを見出していきたい。

6.ナイン・ストーリーズ

先月読んだ『フラニーとズーイ』に関連する本だ。フラニーとズーイの兄・姉が登場する短編を含む9作が収録されている。

野崎孝訳ということで、少し言葉の表現が古い箇所がある。これも味わいと楽しめる人もいるだろうが、私には少し読みづらかった。

それぞれの短編はなかなかに荒唐無稽なストーリーだ。親子の会話を描写していたり、男性が昔の思い出を語っているだけだったり。「えっこれだけ?何を伝えたかったの?」と思ってしまう話もある。それこそが、サリンジャーの持ち味なのかもしれない。

『フラニーとズーイ』の時にも思ったのだが、サリンジャーは、話によって文体が変わる。お固い印象の文体、軽やかな印象の文体、淡々とした文体、様々である。狙って書き分けているのだろう。すごい。そしてそれを訳に反映できる訳者も、すごい。

7.ティファニーで朝食を

今月読んだ中で、1番すてきな小説だった。まだ今月は残っているけど、断言する。

まず書き出しが素晴らしい。

以前暮らしていた場所のことを、何かにつけふと思い出す。どんな家に住んでいたか、近辺にどんなものがあったか、そんなことを。

こんなに魅力的で心に残る書き出しがあるだろうか。心の奥にしまい込んだ、懐かしい景色がきらきらと光っていることが伝わってくる。

語り手はニューヨークに暮らす小説家志望の若者だ。同じアパートメントに住むホリーという女性と仲良くなる。ホリーは若く、美しく、夜な夜な社交界のパーティーに出かけていく。

チャーミングで捉えどころのないホリーは、自分の人生を愛することを知っている。よく小説に出てくる若い女性のように、若さを鼻にかけない。積み重ねた時間が醸し出す魅力をよくわかっている。

だって、ダイアモンドが似合うのはきっちり年取った女の人だけなんだもの。(中略)しわがよって、骨ばって、白髪で……そういう人にこそダイアモンドは似合うのよ。だから年を取るのが愉しみ。(pp.64)

一見わがままで、自由奔放で、眉をひそめたくなるような人物にも見えるホリー。
だが、彼女は自分勝手とは少し違う。他人のことを考えていないというより、自分の心に従うことを知っているだけだ。

いや善きことというより、むしろ正直なことっていうべきかな。規律をしっかり守りましょう、みたいな正直さのことじゃないのよ。もしそれでとりあえず楽しい気持ちになれると思えば、私は墓だって暴くし、死者の目から二十五セント玉をむしったりもするわよ。そうじゃなくて、私の言ってるのは、自らの則に従うみたいな正直さなわけ。卑怯者や、猫っかぶりや、精神的なペテン師や、商売女じゃなきゃ、それこそなんだってかまわないの。不正直な心を持つくらいなら、癌を抱え込んだ方がましよ。だから信心深いかとか、そういうことじゃないんだ。もっと実際的なもの。癌はあなたを殺すかもしれないけど、もう一方のやつはあなたを間違いなく殺すのよ。(pp.130)

ここを読んでいる時、私は就活でくたびれ果ててバスに揺られていた。その日の面接で、これでいい、と信じてやってきたことを、少し否定するようなことを言われて、頭の中がぐらぐらしていた。

ばか正直に答えないで、先方に好印象を与えそうな受け答えをすればよかったかな、でもあんなこと聞かれると思わなかったし、なんて答えたらよかったのかな。
就活中は、内定もらえるかなぁという不安が常に渦巻いているから、少し否定されただけであっという間に自信を失ってしまうのだ。

ホリーの言葉が、そんな私を救ってくれた。「癌はあなたを殺すかもしれないけど、もう一方のやつはあなたを間違いなく殺すのよ」。

そう、先方に合わせて自分を偽ったら、ひとまずのチャンスはもらえるかもしれない。でも自分の心を無視したら、確実に私の命が危ういのだ。理屈や因果関係はわからないけど、間違いない。だからこれでいいのだ…と噛みしめていた。

小説を読んでいると、キャラクターの言葉が、振る舞いが、自分のために記されているように思える時がある。こうやって、自分の状況にひきつけて解釈できるのが、小説のいいところだ。
それが作者の狙った解釈であろうとなかろうと、物語に元気をもらえるなら、きっとそれでいい。

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