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序章〜ピアノで仕事って、どうやるんですか?


「ピアノって、どうやって仕事すればいいんですか?」
「伴奏って、子供のヴァイオリンの相手の時は、プロ相手の時とどう変えればいいんですか?」
「リハーサルの時って、どこまで相手に言っていいんですか?」
「ピアノで伴奏者として仕事をしていくには、どんな勉強をすればいいんですか」

そういう質問を、もう何年も前から耳にしていました。
さらに最近、とても増えてきたように感じます。
毎年何百人もの人が、音楽だけを学び、その先の仕事の仕方やノウハウを何も教えてもらえずに、各地の音大を卒業し路頭に迷っている。
先日、そのようなピアノ科の人たちの叫びが聞こえるような感覚がピークに達する出来事がありました。

自分はピアノの伴奏の仕事をしているのだけど、同じ音大を出た人はほぼ全員ピアノをやめてしまったので、同業者がいない。相談や、話ができる人がいない、という方に出会ったんです。
これにはかなり、ショックを受けました。

私は今、ピアノでアンサンブルや伴奏、ソロでコンサート、時に発表会やオーディション、コンクール等で頼まれ、演奏したり、同時に自分でもコンサートを企画して発信する仕事をしています。周りには、そのような仕事をしている仲間もたくさんいます。

しかし、思えば確かに、私の通った音大卒の人でも、実際演奏を続けている人というのはもちろん全員ではなく、かなり少ないかもしれない。天下の芸大(東京藝術大学)を出た人だって、芸大ブランドだけで、ピアノで食べて行けるはずもなく、容姿も抜群でもちろん技術だって素晴らしく、私がプロデューサーでもやっていたら真っ先に売り出す!という程の逸材なのに、日本人らしい謙虚さ?!で、「私なんてとても」とか、「完璧にできないから」「人様に聴かせられるような完成度にできない」「アンプが大変」「教える方が楽」などと言って演奏しない人も多い。

そうなんだ、じゃあ、あなたがやった方がニーズがあるかもしれないけど、
あなたがやらないなら私がやるよ!

と、私は思いました。

完璧になんて言っていたら、音楽なんて、死ぬまで完璧になんて無理に決まっている。
誰かと比べたら、上にはもう、上がいすぎるんだから、いつまでたっても私には無理、になる。

やりたくないの?弾きたくて音大へ行ったんじゃないの?
何か、音楽で何かができると思ったんじゃないの?
じゃあ何のために行ったの?

つまり、

レベルは関係なく、やりたい人はやるべき!!
と思うのです。

私は、やる。

誰かが欲するから(要請があるから)やるのではなく
それに見合ったギャラがもらえるから、やるのでもない。

やりたいから、やる。
そして、自分が成長できるからやる。

それだけ、と思う。

かけひきは、いらない。

怖いことなんていっぱいある、
いつも失敗と反省にまみれてる。
勉強なんて、終わりはない。
ずっとし続ければいい。
まだまだ、足りないのは当然だ。

でも、私たちは音楽と出会い、普通の人たちよりはそれを深く学んだ。
結果、もっと音楽に込められた作曲家の愛を、感じ取れるようになった。

これを、この素敵な音楽を、誰かと共有したい!
さらに、違う世界とも繋げたい、繋がりたい!

その一心。

結局、やらない人の方が圧倒的に多いのだから、
レベルはともかく、やるが勝ち!
ではないですか?

かくいう私も、大学生の頃までは実はそこまでの野望はなく、なんとなくピアノがすき、で音大へ行った。
きっと、大学の続きで入学したアンサンブルのコースで、ある方と出会わなければ、こんなに充実した素晴らしい世界があるなんて知らずに、生徒さんでも教えてたまにコンサートなどして、孤独なソロの世界にいただろう。

大学のピアノ科ではたいてい、現実味のないソリスト養成のような趣旨でしかレッスンは行われず、授業もしかりなので、実際卒業してからどうやって音楽を仕事としてやっていくのか、ということは一切教えてもらえない。
室内楽や伴奏に興味を持ったり、頼まれたとして、どうやってアンサンブルをするのか、などの本は、岩崎淑先生や、ジェラルドムーアなど、色々と出ているけれど、どう仕事としてやっていくのか、の具体的な情報は、あまりない。ノウハウ本もない。

ピアノの仕事なんて、アンサンブルしてこそなのに、大学では下手したら「伴奏は無駄、受けたらだめ」と禁止されたという人も何人もいるのが驚きだ。

私の先生は幸い、アンサンブルこそ音楽の幸せ、大いにやりなさい、という方で、さらに卒業後に同大学のアンサンブルのためのコースで3年間、世界に通用する音楽の文法というものをみっちり仕込まれたおかげで、最初は「伴奏って、地味。間違えると目立つし、損だな」などと勘違いしていたものの、その素晴らしさ、世界の奥深さ、ポテンシャル、死ぬまで楽しめる幸せに気付いてしまい、もうやめられない。

音楽を生業とするというのは、もちろん厳しく、基本孤独で地味な作業の連続なのだけれど、アンサンブル、人と演奏するということは、続けて行く限り、いろいろなことに出逢ってゆくことができる。
新しい音楽、人、土地。
刺激のつきない夢のような世界だ。

ありがたいことに、ご縁はご縁を呼び、素晴らしい共演者の方々とも出会い、いろいろな楽器や歌と、クリエイティブな日々を過ごすことができている。
私の頭の中は常にクリエイティブなアイディアでいっぱい。
一度だけ途切れたことがあるけれど、その時は、そうだ!ウィーンに住んでみようと思い、日本を飛び出したら、またパンパンに充電された。
他の人のコンサートを聴きにいけば、自分のやりたいことも再発見する。

可能性は溢れてる。
持っている音楽への愛や情熱を、しまいこんでいないで使うべき!
人生は一度きり。

見切り発車のようにしてコンサートを次々企画したり、無理じゃないの?という話を調子よく引き受けたりしていると、もちろん反省失敗も山のように出てくる。
けれど、次の発見も出てくる。
それを面白がって、共に歩んでくれるお客さんとも出会う。

なにより音楽は、一瞬にして人の心の深いところに届き、気分を変えてしまえる魔法のツールだ。

それができるような勉強をしてきた私たちには、
それを使ってこの世にすばらしい音楽を撒き散らす義務がある。

けれど、どうやって???

ノウハウがないって、結構困る。
リスクや収入、自信や技術、いろんな思いが邪魔をして
二の足を踏んでしまうかも。

そこで、私の経験や気づきを、一例として、noteで書いてみることにしました。

これを読んで、楽して、とか、無駄なく、この道でやっていけるものではないと思います。
もちろん、実践が一番。
一番重要な音、そのものや技術は、ネットでは伝えられません。

それに、実際、悲しいかな文化というのは日本ではどーんどん削られるので
依頼をいただいても、予算がないので交通費程度なんです、というお話も少なからずあり、特にフリーの演奏家に対しては生活の制度などもかなり厳しいのが現状です。
そのため、副業や、企業に就職しながら活動している方も多い。

いずれ、フリーの演奏家が、正当なお手当てを堂々と受け取れるような世の中になったらいいのに。そんな場を増やし、仕組みが作り出せたらいいのに、というのも私の夢。

音大は常識や社会性が学べなかったから、会社で世間を見てみたいという理由で、一般企業へ就職する人もいます。
でも、自分以外の音楽家との出会い、特に一流の演奏家の方達というのは、とにかく人間性が素晴らしい。人が出来ていて徳が高かったりして、溢れるほどの魅力的なひとがたくさんいます。学べることは企業より大きいかもしれません。

私が書くのは、教える仕事を専門としたい方や、ソロで勝負したい人たちではなく、実は演奏がしてゆきたい、伴奏やアンサンブルがしたい、けれどノウハウがわからない!えーん!
という人たちへ向けたものです。


私の学んだ、今はなき桐朋学園大学のアンサンブル・ディプロマというコースは、ノウハウこそ教えてもらうものではありませんでしたが、それを全部習得できる場がありました。
レッスンとして技術を教わり、実際伴奏で活躍している人たちを観察でき、山のように伴奏を頼まれ、実践する場がある。
年に5、6名(講師陣より生徒が少ないため、贅沢!と廃止になってしまいました)の卒業生は、ほぼ全員、こどもから世界の一流の演奏家までと共演する実力があり、実際活躍しています。

演奏で仕事に困らない、という意味では、就職率2%と言われている音大の世界には珍しく、100%と言っても過言ではないかもしれません。  

そこで何が行われ、どんな道を辿り、どんな挫折があり、どんなことに気づき、どんな努力をしていったのか。
音楽の技術はもとより、それ以外にどんなテクニックが必要なのか。
伴奏のコツ、気をつけること、実は技術よりも大切なこと。

一例なので、他にも様々な辿り方、いくらでもサンプルがあると思いますし
結構時間がかかると思いますが、なにか一つでもヒントになれば、と思います。

そしてもちろん、伴奏、という言葉は私たちアンサンブルピアニストはあまり好きではありません。
日本特有の奥ゆかしさに溢れてはいますが、ヨーロッパでリサイタルの時にピアニストを伴奏などと書くと大ブーイングされるほどのワード。共演、という言葉を使いたいのですが、やはりここでは、検索でも伴奏、という言葉を使う人がまだまだ多く、わかりやすいので使っています。

これを書くことで、この文が必要な人のところへ届くかわからない。
そのようなシャイな隠れ音楽家は、内向的で、ネットで情報も取りに行かず、じっとしていることが多いからです。
でも、誰かに届くかもしれない思いで書くことにしました。

他の演奏家の話や、質問なども集めながら、公開できればと思います。
知りたいことやアイディアがありましたら、ガンガンお寄せください。


わたしは、たくさんの仲間と、この世に音楽で虹をかけたい。
音楽を学んだという人が、隠れていないで、迷っていないで、諦めないで
一歩を踏み出すきっかけになることを願って。

フリーランス演奏家の可能性を拡げるコミュニティを運営しています

アンサンブルラウンジ
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ご支援下さいましたら経費に充てさせていただき、仕事に繋がるピアノ共演法のワークショップをどしどし提供してゆきたいと思います。