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仕事ができる人は他の人の優れたところもよく知っている

身の回りで「自分より優秀だと思う人」を思い浮かべてみてください。
何人思い浮かびましたか?

10月26日発売の『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』(安達裕哉著)では、「自分より優秀な人」の人数が、その人の器の大きさを示すと書かれています。

「自分より優秀な人」の人数と、器の大きさは、一体どう関係しているのでしょうか?
採用を担当する人事担当者の例を挙げて紹介します。

「自分より優秀な人」の人数がその人の器を示す

人を採用することに関して、本田宗一郎の含蓄のある言葉がある。

「どうだね、君が手に負えないと思う者だけ、採用してみては」

「言うは易(やす)く行なうは難(かた)し」の見本のような言葉だ。本田宗一郎は「自分の手に負えない者」こそが、優秀で採用したい人物だと言っている。

本田宗一郎の器の大きさが表れている。本田宗一郎のこの言葉は、採用の本質を突いているが、この採用方法はふつうの人には実行が難しい。

ほとんどの会社は「手に負えない人」を採用しないため、社員以上のレベルの人は、その会社に来ない。能力の高い人物を採用できないのは、自分たちの器が小さいからだ。

だから、実際には「器の大きい人物」が面接官にならない限り、その会社の平均以上の人材すら、確保するのが難しいのである。

さまざまな会社で採用活動を見てきたが、応募者を見極めてやろうと言っていた面接官が、その実、応募者に見切られているなんてことは枚挙にいとまがない。

したがって、採用活動をうまくやろうと思えば、まず「面接官の人選」が一にも二にも大事である。では、「器の大きい人物」をどのように判定すべきだろうか?

私が少し前にお手伝いした会社も、面接官の人選に苦労した会社のうちの1社だった。

その会社では伝統的に、チームリーダーと役員が面接官をしていたが、私が見る限り、有能な人物はそのうちのよく言って半分程度、残りは年功序列で、能力にかかわらずその地位に就いた人物であった。そこで私はおせっかいとは思いながらも、社長に言った。

著書 :いまの面接官だと、なかなかいい人が採れないかもしれません
社長 :うむ。それは知っている。今年は彼らの適性を確かめてから、面接官に登用する
著者 :適性ですか? どのように確かめるのですか
社長:では一緒にお願いします。ちょうどこれから適性を確かめる面談だから

そう言って私をその場に残した。10分後、1人の役員が入室した。

社長 :今日は、採用の面接官をやってもらうかどうか、少し考え方を聞きたくて来てもらった。いまからする質問に答えてほしい
役員:はい。なんなりと聞いてください

私は、「どんな質問をするのだろう?」と、期待していたのだが、意に反して、社長は役員にあたりさわりのない、ごく当たり前の質問を投げかける。

社長 :どんな人を採りたいか?
社長:応募者の何を見るか?
社長 :どんな質問をするか?

応募者もそういった質問は想定済みらしく、あたりさわりのない、模範的な回答をする。

私は「どうしてこれで適性がわかるのだろう……」と、不思議だった。

そして、20分程度の時間が経ち、社長が言った。

社長 :では、最後の質問だ。誰を面接官にすべきかの参考にしたいので、身のまわりで、自分より優秀だと思う人を挙げてみてくれ

役員は不思議そうな顔をしている。

役員 :自分より優秀……ですか?
社長 :そうだ

役員は苦笑しながら答えた。

役員 :まあ、お世辞ではないですが、社長、あとは◯◯さんです
社長 :◯◯さんか、なるほど。まあ、役員のなかではたしかに頭抜けて優秀かもしれないな。ちなみに理由を教えてくれないか?

役員が理由をひと通り述べると、社長は「……うん、ありがとう」と言い、面談は終了した。その後、2人ほどの役員とリーダーに同じような質問をし、4人目の面接となった。

彼はリーダーであったが、次期役員候補と目される人物であった。最初の役員と同じような質問が社長から投げかけられたあと、最後のお決まりの質問となった。

社長 :では、最後の質問をいいかな? 誰を面接官にすべきかの参考にしたいので、身のまわりで、自分より優秀だと思う人を挙げてみてくれ

そのリーダーは、ちょっと考えていたが、やがて口を開いた。

リーダー :まずAさん、洞察力と、営業力が素晴らしいです。続いて、Bさん、営業力はあまりないですが、人望があり、人をやる気にさせる力がずば抜けています。リーダーのCさん、現場を任せたら社長よりもうまいでしょう……すみません。そして、うちの部のDさん、新人なんですが、ハッキリ言って私よりも設計する力は上です
社長 :ずいぶんと多いな

社長はニコッと笑ってリーダーに言った。

リーダー :当たり前です。皆私よりもいいところがあり、そして、私に劣るところがある
社長 :わかった。ありがとう

役員が退出し、私と2人きりになり、社長は誇らしげに言った。

社長 :というわけで、面接官はアイツに決定だな
著者 :そういうことですか……
社長:彼は器が大きいんだ。私よりも上かもな。私はまだまだ変なプライドがあるからな
著者 :たしかに、面接官に変なプライドは邪魔ですね
社長:そうだろう。「身のまわりで、自分より優秀な人間を挙げてみよ」と言われて、挙げることのできた人数が、その人間の器の大きさだよ
著者:なるほど……
社長:今年こそ、採用をきちんとやりたいな。まあ、彼に任せれば大丈夫だろう

そして、社長の予想通り、そのリーダーは素晴らしい人物を数多く採用した。時には応募者に教えを請い、時には応募者を説得し、八面六臂(はちめんろっぴ) の素晴らしい活躍だったそうだ。

ほんとうに優れた人物は、他の人の優れたところもよくわかるという。世界の富を独占した鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーの墓誌にはこう刻まれているそうだ。

「自分より優れた者に協力してもらえる技を知っている者、ここに眠る」

最高の大きさの器を持つ人物の言葉だ。


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