ニンジャスレイヤー登場忍物とエピソードの関連性視覚化(ニンジャ学会誌897号掲載・日本語版)

※本稿はニンジャ学会誌897号掲載の論文を、投稿規定に基づき半年以上の経過後に公開したものです。なお本論文はいきなり英語論文が載ったら面白いかなと思って英語で書かれましたが、すごく雑で読みにくいのでnote収録にあたり日本語にしました

 今日、ニンジャスレイヤーは多数のエピソードから構成されており、現在連載中の第4部、エイジ・オブ・マッポーカリプス及び物理書籍、与太話的挿話を除いたTwitter連載済第1部〜第3部だけでもかなりの量がある。このため、初読者が最初にどこから読み始めるか、あるいは一つのエピソードを読んだが次に何を読もうかと考えた時に戸惑うことも少なくない。本研究では、オープンソースかつフリーなグラフ可視化ソフトウェア「Gephi」を用いて、エピソード間の関係性をその登場ニンジャで可視化することを試みた。Gephiおよび本研究は、ニンジャスレイヤーのエピソード間関係性を可視化する上で有効な方法たりうるであろう。

*: https://twitter.com/njrecalls
キーワード: ニンジャスレイヤー 視覚化 Gephi グラフ

序論

 二人のアメリカ人作家、フィリップ・N・モーゼズとブラッドレー・ボンドによって書かれたサイバーパンクニンジャアクション小説シリーズ「ニンジャスレイヤー」は、杉ライカと本兌有により日本語に翻訳され、世界でも最もポピュラーなTwitter連載小説の一つとなった。第一部「ネオサイタマ炎上」、第二部「キョート殺伐都市」、第三部「不滅のニンジャソウル」、そして現在も連載中の第4部「エイジ・オブ・マッポーカリプス」に含まれるエピソードは合わせて数百を超える。このエピソード数の多さゆえに、初読者はどこから読み始めていいのか、また次は何を読もうか、と悩むことが少なくないのではないか。ニンジャヘッズにより編集されるWikiには、連載順と時系列順のエピソードリストがあり、また特定のニンジャのページから登場エピソードに飛ぶこともできる。しかしながら、これらのテキストベースかつ1次元的なアプローチでは、エピソード間の関連性を俯瞰するには限界があろう。
 本研究では、従前の方法に加わる第三の方法を模索した。エピソードおよびそこに登場するニンジャ達のデータを元に、オープンソースのソフトウェアGephiを使用して無向グラフを作成してこれを視覚化した。さらにGephiの機能を用い特徴的なクラスターや配置が見られるか検討した。

材料と方法

エピソードとニンジャ
 
本研究では第一部から第三部かつTwitter連載されたエピソードを使用した。エピソードに対して登場するニンジャをリスト化したが、「ニンジャスレイヤー」および「ナラク」を除外した。これらはほぼ全てのエピソードに登場するので、単純に全体の結合を強めてしまうと考えられたためである。複数の呼び名を持つニンジャはなるべく統合した(例えば「キュア」と「ヤイミ・コナギバ」)が、「エーリアス」と「ブレイズ」そして彼女の人格に関するニンジャネームはそのままにした。

グラフデータの生成
 本研究では三種の異なるタイプのグラフ化を試みた。1:エピソードをノードとするもの、2:ニンジャをノードとするもの、3:エピソードとニンジャ両方をノードとするものである。(ノードとはグラフを構成する点を表し、これらの間の関係性を表す線をエッジと呼ぶ)エッジとしては、1:エピソードをノードとし共通して登場するニンジャをエッジとする、2:ニンジャをノードとし共通して登場するエピソードをエッジとする、3:エピソードとニンジャ両方をノードとし、登場することをエッジで表す、の3つの方法をとった。

図1. エピソードをノードとしニンジャをエッジとした場合
例としてエピソードをノードとしニンジャをエッジとした場合どのようなグラフが生じるか概念的に示した。グレーの丸(ノード)は個々のエピソードであり、ある二つのエピソードに共通して登場するニンジャ一人につき一本の矢印で結ぶ。この矢印の本数をエッジの「重み」とし、重みが増すほどノードはお互いに引き合うように引力を設定した。

アルゴリズムとクラスタリング
 GephiのアルゴリズムとしてはForce Atlasを使用した。パラメータはそれぞれ以下の通りである。
 グラフ1:エピソードをノードとするもの
 
Attractive force:30, repulsive force:2000.
 モジュラリティ計算:Randomize: On, Use edge weights: On, Resolution: 0.8.
   グラフ2:ニンジャをノードとするもの
   Attractive force:10, repulsive force:500.
 モジュラリティ計算:Randomize: On, Use edge weights: On, Resolution: 1.0.
   グラフ3:エピソードとニンジャ両方をノードとするもの
   Attractive force:10, repulsive force:1000.
 モジュラリティ計算:Randomize: On, Use edge weights: On, Resolution: 2.0.

結果

グラフ1:エピソードをノードとするもの
 まず最初に試みたのは、エピソードをノードとしニンジャ(モータルも含むが)をエッジとしたグラフである。多くのニンジャが共通して登場するほど、エピソード間の結びつきは強くなる。こうして強い引力で引かれ合うエピソードはグラフ上で近くに配置されることになる(詳細は図1を参照)。また、モジュラリティ計算によりエッジの数でまとまったノードのクラスタ(つまり共通するニンジャが多いエピソード群)を検出した。

図2. グラフ1:エピソードをノードとするもの →SVG
ノードを表す円の半径は接続するエッジの数(つまり他エピソードと共通する登場ニンジャの数)に応じて大きくなるようにした。モジュラリティ計算の結果検出されたクラスタを色分けして示している。青は「ネオサイタマ(インフレイム)」緑は「キョート(ヘルオンアース)」マゼンタは「アマクダリ」、紫は「独立勢力」、黄緑は「ニューロンバーナー」、灰色は「その他」と名付けた。

 図2はこのグラフをGephiで可視化したものである。6つの主なクラスタを色分けして示した。エピソードおよびニンジャの特徴から、青は「ネオサイタマ(インフレイム)」緑は「キョート(ヘルオンアース)」マゼンタは「アマクダリ」、紫は「独立勢力」、黄緑は「ニューロンバーナー」、灰色は「その他」と名付けた。

 「ネオサイタマ(インフレイム)」クラスタは主に第一部のエピソードを含む。しかし例えば、「シージ・トゥ・スリーピング・ビューティー」、「ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ」などいくつかの第二部、第三部のエピソードも含まれている。これらのエピソードをクラスタにまとめている共通の登場人物は、ナンシー・リーである。登場エピソードが多いため、多くのエッジがこれらネオサイタマを舞台としたエピソード間をつないでいる。

 「キョート(ヘルオンアース)」は主に第二部のエピソードを含むが、驚いたことに第三部最終章「ニンジャスレイヤー・ネヴァー・ダイズ」もこのクラスタに含まれている。このクラスタをまとめている登場人物・ニンジャとしてはガンドー、ドラゴン・ユカノ、ダークニンジャが挙げられる。加えて、ダークニンジャ支配下ザイバツのニンジャの多くが第三部に登場する(「ザイバツ・ヤング・チーム」や「アンダー・ザ・ブラック・サン」と共に、第三部最終章に登場する。これらのニンジャがエッジとなって、第三部最終章が第二部と同じクラスタになったのであろう。

 「アマクダリ」クラスタは主にアマクダリニンジャ、またアクシスが登場する第三部エピソードを含む。最もヤバイかつ精妙なエピソードの一つである「マグロ・サンダーボルト」もここに含まれている。

 「独立勢力」クラスタにはサヴァイヴァー・ドージョーやサークル・シマナガシ、ニチョームのニンジャなどの活躍する第二部や第三部のエピソードが含まれている。第三部の重要なエピソードである「フェアウェル・マイ・シャドウ」および「ニチョーム・ウォー」が近接して配置されているのは、多くの共通ニンジャのためである。

 「ニューロンバーナー」はヤクザ天狗やラッキー・ジェイク、49課などが登場するいくつかの印象的なエピソードを含む。しかしながら、このクラスタは共通の登場人物というより主要の強大なニンジャがあまり出演していないという共通点で配置されているかもしれない。

 「その他」に含まれるエピソードはジェノサイドの活躍するものが多い。しかし、「ニンジャ・サルベイション」などのメインストーリーから離れたエピソードも含まれる。総合的に見て、この形式のグラフは意味のある構造とクラスタをなす様である。

グラフ2:ニンジャをノードとしたもの
 グラフ1でエッジとしたニンジャを逆にノードとしたグラフを考えることもできる。これが図3に示したグラフである。この形式のグラフでは、ニンジャがノードとして表され、ある二忍が共通して登場するエピソードがエッジとなりノード間を結合する。

図3. グラフ 2:ニンジャをノードとしたもの →SVG
   グラフ1同様、多くのエッジが結合しているノード(多くのエピソードに登場しているニンジャ)ほど大きい円で表している。A. 全体像、B. 中心付近の拡大図

予想に反し、こちらのグラフは効果的な視覚化とは言い難い。理由としては、クライマックスの少数エピソードに多くのニンジャが登場することで、それらの間の結合が密になってしまいクラスタが不明瞭になってしまうことが考えられる。しかしながら、いわゆるメインキャラクターは多くの共通エピソードを持つため、グラフの中心に配置される傾向が見られる(図3. B)

グラフ3:エピソードとニンジャ両方をノードとしたもの
 最後に、エピソードとニンジャの両方をノードとしたグラフについて検討した(図4)。このグラフでは、ノードとしてエピソードとニンジャの両方が含まれており、あるエピソードにニンジャが出演していればその間にエッジが結合される。結果として、これまでのグラフより大きさは巨大になるが、エッジの本数は少なくなる。この性質は同時にクラスタの判別を難しくするが、グラフの詳細を見ていく楽しさは本研究随一のものである。図4. Bはこのグラフのノードの見方の例を示したものである。「セキトリ」は「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」に接続し、「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」は「ラッキー・ジェイク」に接続している。「ラッキー・ジェイク」は「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」に接続している、と行った具合である。

図4. グラフ3:エピソードとニンジャ両方をノードとしたもの →SVG
 これまでのグラフ同様、エッジの多いノードが大きい円で表されている。A. 全体像、2. ゴッドハンドおよびラッキージェイクの周辺を拡大

結論

これらの検討により、エピソードと登場ニンジャの関係性可視化の持つ可能性が示された。特に興味深い結果となったのはグラフ1:エピソードをノードとしたもので、一番ノード数が少ないため見やすく、クラスタも明瞭である。しかしながら、この方法ではナンシー・リーのような幾人かのメインキャラクターにより、強い集合が生まれてしまう。グラフ2:ニンジャをノードとしたものにも別の問題がある。クライマックスのエピソード群(ニンジャスレイヤーという作品自体もだが)には極めて多数のニンジャが登場するため、ニンジャをノードとする場合多数のノードがそのエピソードで強く結合し集中してしまう。グラフ3:エピソードとニンジャ両方をノードとしたもの、に関してもノードの数が多いことは同様であるが、エッジがニンジャとニンジャ、エピソードとエピソードを直接つなぐことはないため強い集合は出来にくい。この特性はノード一つ一つを辿っていく楽しさにも繋がっている。

 これらのグラフはもちろん完璧な解ではないが、視覚化された構造は美しく、また改善の余地あるものだ。一つの可能性としては、エッジの太さも可変にすることが挙げられるだろう。例えばニンジャネームの登場回数に応じてエッジを太くするなどにより、グラフにはそれぞれのニンジャの重要性が反映される様になる。

 今後の研究、そしてグラフ内の散策のため、SVGフォーマットのものを用意した。文中のリンク、もしくはこちらから。

参考文献

1) Bond, Bradley and Morzez, Philip Ninj@. “Ninja Slayer” series (Japanese translation by Honda, Yu and Sugi, Leika )
Official Twitter: @NJSLYR
Official web site: http://ninjaheads.hatenablog.jp, http://ninjaslayer.jp
2) Ninja Slayer Wiki (Japanese): http://wikiwiki.jp/njslyr/
3) Gephi - The Open Graph Viz Platform: https://gephi.org

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