夏がはじまった香り、夜風。

自由ヶ丘の緑道沿い、とある喫茶店。
私がそこで飲むのは、毎回アイスココアだった。
生クリームが乗ったやつ。氷のせいで中々溶けなくて、最後まで底に残ったままだった。

記憶の中にある匂い、音や味は、当時の物語のシーンをいとも簡単に呼び起こす。
その記憶から引き摺り出されたクリアな情景に、困る時もあるほど。
このNoteの題名を見たときも、浮かんだ情景は全員違うはず。でも、一人一人に物語がある。

肌寒い夜の雨の匂い。
いつもつけてる香水。
教えてくれた音楽。
いつも持ち歩いていたミントのタブレット。
夏がはじまった香り、夜風。

思い出すシーンは、自分の中で大切にしたい物事や思い出に深く刻まれたものばかり。
過ぎた時間の長さは関係なく、中学時代イヤホンを半分こした通学路のバスも、数日前に親友とほろ酔いで歩いた深夜の高田馬場も、同じくらいクリアにその時の情景を呼び起こさせる。

そういった物語性が、匂い、音、味などにはある。
そして同時に、それらは新たな物語を生み出すこともできると思う。


真夏日の夜、涼しい夜風を浴びながら飲む缶ビール。
ふと寄った店で誕生石の指輪を見つけ、運命的な衝動買い。
誰かに伝えたくなるほど綺麗な、満月。
朝日を浴び、散歩がてら飲みに行く近所の珈琲。

私がものを買ったり、何かを食べたりするときも、その物語性に魅力を感じることが多い。
バックグラウンドという意味合いではなく、「なんかいい」みたいな物語的要素。(もちろんバックグラウンド的ストーリーにグッときて何かを買うことも沢山)

私が毎日つけている香水は、2年前の誕生日に大切な人がくれたもの。
凄く気に入ったし勿論嬉しかったので、リピートして自分でも購入した。
人が自分の為に選んでくれた香りが自分の香りとして定着する、という物語性にかなりグッときた。

そういった「なんかいい」物語性が好き。

他人が作用して生んだ物語が、その匂い、音、味などによってふと呼び起こされることは、非常にロマンチックで刹那的。
でも、自分であえて生み出した物語は、その物事をより一層大切にしたいものになる。何もない日々が、映画のワンシーン化する感覚。なんかいい。

自分の人生は自分の物語だし、今日もまた、少しでいい。物語を見つけながら、過ごしたい。ずっとそうでありたいな。


この記事が参加している募集

買ってよかったもの

サポートして頂いたお金は、大切にアートや本を見るインプットに使わせて頂きます。 皆様に素敵な文章を届けるために頑張ります!