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【DVは なおる 続 無料公開分】⑥その後…脱暴力への道

こちらからの続きとなります。

男女同時参加のグループワーク

 また、このグループワークの特筆すべき点としては「男女が同時に参加する」という点でしょうか。DV加害男性も加害女性も、被害男性も被害女性も、そしてそれぞれの小さな子供も一緒に同じ内容のグループワークに参加しているというのが大きな特徴でした。

 加害者と被害者を一緒に参加させるなんて、危険はないのだろうかと当初は勝手に心配もしていたのですが、実際のグループワークでは全く危険などはなく、それぞれ加害者の思いと被害者の思いを安全に語り合える場となっているのが驚きでした。

 ある男性加害者が、自分のパートナー以外の被害女性の話を聞いて、被害者の気持ちを知る…またその逆もあり…落ち着いた状況での相互理解や、相手の気持ちを知るという作業がお互いに深まるというしかけなのだと思います。

 勿論、カップルで参加される方も多く、問題の渦中にいる人も他の当事者とコミュニケーションすることで、お互いに自分の問題に向き合えたり、対等なコミュニケーションのためのスキルを獲得されていくのがよくわかりました。

 またこの場では、加害者も被害者も、男性も女性も一律「当事者」として参加するという形になっており、確かに皆当事者であることで、皆がフラットに話すことができるのではないかと思えました。

押し付けられるのではなく、自ら気づくことで

 以前のDV加害者プログラムでは考えられない状況で、自分にとっては物凄く大事な場になりました。当事者同士で思いを共有することで自分自身を無理なく変えていく、本当に大事で貴重な場であったと言えます。

 グループワークの内容自体も、加害行為を責められるようなものではなく、主に「自分の思いや感情、価値観について」を語るワークが中心でした。

 これまでに、自分の感情や価値観を受け入れてこなかった自分にとって、それは凄く心地よく、安心できる場でした。

 それを複数の人と共有することで、自分の価値観は人と違うこともあることや、自分の感情を語り、人の語りを聞き共有するいう、気持ちの良いコミュニケーションの方法等を、ファシリテーターからの押し付けではない方法で、自ら気付いていくというプロセスでもって、本当に多くを学ぶことができたと思います。

 また、グループワークの参加費が安かったというのも凄く助かりました。DV加害者プログラムが週一回の開催で一回2時間で3000円だったのに対し、こちらのグループワークは月一回(東京では)の開催で、1回の参加で2000円、しかもグループワークの他に、参加当事者との自由な会話が丸一日楽しめます。

 そんなグループワークも、私が初めて参加したときはほんの三~四人だったのですが、今では毎回二十人を超える当事者が集まっています。そんな中で加害者は脱暴力し、被害者は被害を受けない力をつけていき、その過程の結果、心地良い家族関係を再構築できたという人たちを、同じ当事者としての目線で多く見てきました。それも、これまで安全な場としての学びの場を味沢さんは勿論、参加する当事者皆も大事にしているから実現できていることなんだと思います。

脱暴力への道

 自分を変えていくために参加しているグループワークですが、一回二回ではすぐに効果が出てくるものではないとは思います。

 DVとは価値観の押し付けであり、その押し付けが発生する心のメカニズムは、それまで生きてきた中で触れてきた価値観によって、身体に染み付いているので、それを変えるのは容易ではありませんし、今でも価値観の押し付けに近い言動はふとした拍子に出かかってしまい、ヒヤッとしてしまうこともあります。そんな心の動きの癖というものに自分で気付いていくというのが何より難しいし、大事なことでもあります。

 スポーツや武道なんかには、見た目も綺麗で安全な体の動かし方やフォーム・型なんてものがありますが、そういった「型」を間違えて覚えてしまった状態では、なかなか思うようには動けません。

 考え方やコミュニケーションなんかも同じで、一度型を間違えて覚えてしまったものを変えていくには、継続は勿論ですが、しんどさを感じない「型」を間近で見ながら自分もそれに合わせていくという作業が必要になるかと思います。

 グループワークには今も毎月通っていますが、続けて参加し、少しずつ心を委ねて、傷つけない・傷つかないコミュニケーションに慣れていくことで自分自身も変わっていくという実感が回を重ねるごとに強まっています。

支援者への道

 月一回のグループワークに参加して、自分自身の変化はしっかりとあったようです。一年ちょっと過ぎた頃でしたか、数年ぶりに会った友人に「なんだか付き合いやすくなったね」なんて言われたときは本当に嬉しく思いました。

 また、いつの間にかグループワークの外での人間関係では、相談を受けることが多くなりました。味沢さんのグループワークで学んだことを活かして、相談してくれる友人に共感しつつ、いろんなことを伝え、楽になっていくという流れができてたような気がします。

 その頃から、自分と同じようなしんどさを抱えた人が楽になれれば、そのお手伝いができるようになれば良いなと考えるようになり、次の一年はグループワークにも参加しつつ、今度は支援者としての勉強を始めました。

 これも味沢さんが主宰している「メンズカウンセリング養成講座」に一年参加し、支援者としての心構えやカウンセリングのロールプレイ実習等を学んでいき、二〇一六年に晴れて「メンズカウンセラー」として認証されることとなりました。

そして現在、支援者として

 それから二年…二〇一八年現在では、DV当事者や生きづらさを抱える人のカウンセリングを請けたり、東京での脱暴力グループワークに時々ファシリテーターとして参加しています。自分のこれまでの体験が、しんどい思いを抱えた当事者の助けになれば…という思いで務めさせていただいています。

 当事者が支援者になることは傍から見れば怪しい・怖いと映ることもあるかもしれません。支援者と名乗ってはいますが、自分自身は当事者でもあります。しかしそこはクライアントと同じ目線で語るには大事なことであり、忘れてはいけないことだと思います。それを忘れては支援などできないと考えています。

 こんなしんどい体験をしてきたけれど、今は幸せだよ…という当事者としての語りを持っている支援者には当事者にとっての説得力も出てきます。何より同じしんどさで辛い思いを今現在している人にとっては、自分自身の体験がある種のロールモデル・教材になるという一面もあります。

 DV加害者プログラムではファシリテーターから私の経験したことを教材扱いされましたが(笑)、他人から教材として自分のプライベートや秘密を使われるのはたまったものではありませんが、自分の選択で自分を教材にする分には、それでクライアントの不安を和らげたり、癒したりできれば全く問題ではありません。

 過去の自分と同じようなしんどさ・辛さを味わっているクライアントに対しては、私は自分の過去と今の自分をさらけだして、上から教育・アドバイスするのではなく、クライアントと同じ「当事者」としての目線で向き合っていければと思っています。

 そしてそうすることが、過去の自分を癒すことにも繋がるのではないかと考えています。クライアントを癒すことで自分自身も癒される…そんなWin‐Winの関係が作れたらそれは素敵なことなのではないか…と思っています。勿論それには自分の過去の問題がある程度以上消化されており、自分自身も自己を受容できている必要があるかとは思いますが。

 社会にはDVの加害被害・家族問題の他にも、会社でのパワハラだの、いろんな場面での人間関係、コミュニケーションにおける、本当に多くの辛さ・しんどさが散らばっています。そんな痛みに向き合い、自分の手の届く範囲ではありますが、焦らずかつ怠らず、学び合い癒し合い…問題を抱えた人が一人でも多く幸せになれたら…と願わずにはいられません。

最後に

 今回、機会を頂きまして当事者としての自分について、ほぼ包み隠さず語らせていただきました。読んでいて辛い部分もあったかもしれません。こんな体験をしてきた人間がいるんだよ、ということを知っていただきたかったということと、こんな体験をしても幸せになれる可能性は十分あるんだよ、ということを、多くの当事者にどうしてもお伝えしたく筆を執らせていただきました。

 私は一昨年、縁あって知り合った女性と再婚しまして、この十月で一歳になろうとしている子どもと共に暮らしております。

 今は言葉も使わない子どもはただただ可愛いと感じるばかりですが、子がいずれ成長し、言葉で自分を表現しだしたとき、そしてその言葉や価値観が自分のものとずれていたとき、自分がそれをその子どもの価値観として受けとめることができれば、自分の経験は無駄ではなかったと真に実感できるのかもしれません。

 暴力は連鎖するといいますが、その連鎖を断ち切り、今度は真に対等な相互コミュニケーションの連鎖を作ることができれば…と願っております。これを読んでくださった皆様も心地の良いコミュニケーションの中で幸せになっていただければ、それは私にとっても凄く幸せなことなのだと思います。

 メンズカウンセラー 中村カズノリ

【あとがき】


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