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「平成最後」の大傑作フュージョン作 Simon Phillips "Protocol Ⅳ"(2017)

こんにちは!!
Everyday Fusion!!!の第3弾記事でございます。
ここ最近、新たな記事を書く余裕がなく、しばらく間が空いてしまいました。。。久々の更新となりますね。

第1弾記事では僕自身のフュージョンとの出会いから始まり、フュージョンというジャンルそのものの魅力を取り上げ、前回記事では方向性を一気に変えて「ハードフュージョン」をピックアップし、その魅力に迫っていきました。

まず、今回のテーマを何にしようかと色々考えておりまして、いくつかの候補で迷っておりました。しかし、ちょうど時期が時期でして、あと1ヶ月ちょっとで「平成」という時代が幕を閉じますね。そこで、今回のテーマは

「平成最後」の大傑作フュージョン作

ということで、ここ数年でリリースされたフュージョンの新作の中で、個人的にNo.1と思うアルバムをピックアップしていきたいと思います!!

さて、そのテーマで僕が選んだフュージョン作は、前回の記事でも名前を挙げました、イギリス出身の超絶ヴァーサタイルドラマー、Simon Phillipsが1989年に開始したソロプロジェクト、その名も "Protocol" の第4作目である "Protocol Ⅳ"でございます。最初に本作品の主役であるSimon Phillipsについて、少しご紹介いたしましょう。

【Simon Phillips (1957~)】

ロンドン出身。特定のバンドのメンバーとして活躍したドラマーではなく、様々なジャンルのアーティストのライブやレコーディングに参加してきた、いわゆる「セッションミュージシャン」という括りと言えます。父親がディキシーランドジャズ(最初期のジャズ)をプレイしていていたことから音楽に目覚めたというし、1997年にこの世を去った、1960年代モードジャズ期に活躍したジャズドラマー、Tony Williamsへのトリビュート作品 "Another Lifetime" (1997)をリリースしていますし、元祖「超絶技巧」ジャズドラマーであるBuddy Rich (1917〜1987)からの影響を公言していることなどからも、彼の音楽の根底には「ジャズ」があると言えそうですね。
(Tony Williamsは前回の記事でも触れておりますのでそちらもぜひ!)

実際、彼はそれまでバンドで共に活動していたピアニスト/キーボーディストのJeff Babkoと「原点回帰」的な異色のジャズアルバム "Vintage Point" (2000)をリリースしております。

彼はセッションミュージシャンとして非常に多くのアーティストと共演をしてきました。1977年には英ハードロック/メタルバンドのJudas Priestのアルバム "Sin After Sin" に全面参加しています(このアルバムには、昨年11月の来日公演でも演奏された、彼らの代表曲の1つである "Sinner"が収録されております。この曲、爆笑の空耳でも有名です。検索してみてください)。1980年代には、「三大ギタリスト」の1人であるJeff Beckのアルバム("There and Back"(1980))やツアーにも参加し、来日公演も行っています。

余談ですが、「三大ギタリスト」とは
・Eric Clapton
(ex-Cream)
・Jimmy Page (Led Zeppelin)
・Jeff Beck
を指します。
ちなみに、「三大ギタリスト」現代版は
John Mayer
Derek Trucks (Drerek Trucks Band, Tedeschi Trucks Band, The Allman Brothers Band)
John Frusciante (ex-Red Hot Chili Peppers)
と言われております。

ちなみに、Jimmy Pageは小柄ながら号砲のようなドラミングをするSimon Phillipsを "Fuckin' Cannon" と形容しています。

彼のキャリアの中で最も世に知られている活動と言えば、やはり何と言っても米ロック/AORバンド、TOTOでの活躍と言えそうです。TOTOはもともと、Boz ScaggsSteely Danといったアーティストのアルバムに参加してきた一流スタジオミュージシャンたちが集まって出来たバンドで、そのオリジナルメンバーであったSteve Porcaro (1957〜1992)が38歳という若さで急死したことに伴い、Simon Phillipsがその後に加入、2013年まで在籍していました。

ちなみに僕、先月TOTOの来日公演を観てきまして、凄まじかったですね。あのバンドは基本的にほぼ全員がボーカルをすることができ、皆歌がめちゃくちゃ上手いのに加え、会場の音響も最高でした。楽器の分離感や音域のバランス、棲み分けも完璧に調整されていました。そして何と言っても、ギターのSteve Lukatherがあまりに上手くて感動。出音がクリアだったのはもちろん、速弾きから泣きのギターソロまで正確でしたし、ニュアンスのお化けって感じでした。

ただ、やはり僕はSimon Phillipsのドラミングが好きです。今のドラマーであるShannon Forrestも悪くはないし上手いんですが、やはり前者の方が細かいところまで計算されているというか、多方向からバンドを刺激している感がありまして、2枚くらい上なのかな、、、、って思います。

Steve Porcaroについては前回の記事でも少しだけ触れていましたね。TOTOの代表曲である "Rosanna" で聴かれる「ハーフタイムシャッフル」を生み出し、また、フュージョンの大名曲として非常に有名なLarry Carltonの "Room 335"を収録しているアルバム、"Larry Carlton" (1978)に全面参加していることでも有名なスタジオミュージシャンでした(つまり"Room 335"は彼がドラムを叩いています)。

話が逸れまくってしまいました。彼は1992年の "Kingdom Of Disire" からTOTOに参加しまして、先月の来日公演でも演奏されました、同アルバム収録のテクニカルなインスト曲(ボーカルなし)の "Jake to the Bone" といった曲を生み出していきました。

その他、共演アーティストは多岐にわたります。Keith Moon亡き後、1989年のThe Whoの再結成ライブでもドラムを叩いておりましたし、1990年にはMick Jagger (The Rolling Stones)のバンドのメンバーとして来日し、東京ドームでも演奏。ハードロックギタリストのMichael Schenkerのバンド、The Michael Schenker Groupにも参加し来日公演も行っていますし、僕も大好きな米プログレッシブメタルバンド、Dream Theaterの元キーボーディストであるDerek Sherinian"Inertia"(2001), "Black Utopia"(2003)"といったソロ作でも彼のドラムを聴くことができます。

そして、ここ日本で最も有名な彼の活躍と言えば、間違いなく日本人ジャズピアニスト、上原ひろみの"The Trio Project"でしょう。2011年のトリオ作、"Voice"からベーシストのAnthony Jacksonとともに参加し、現在もこのメンバーで活動を継続しております。最新作は2017年に出された "Spark"ですね。東京国際フォーラムをソールドさせるほどの人気ぶりです。ライブ映像もyoutubeに数多くアップされているので、ぜひご覧ください!
その他、XJAPANのボーカリストであるToshiのソロ作、"Made In Heaven"でも彼のドラムを聴くことができます!

ちなみに、彼はレコーディングエンジニアとしても仕事をすることがありまして、1989年のProtocolプロジェクトの1作目では自分ですべての楽器をプレイするのみならず、レコーディングまで自らが行なっていました。また、前出のDerek Sherinian (ex-Dream Theater)、同じく元Dream TheaterのドラマーであるMike Portnoy、日本でも大人気であるMR.BIGの超絶ベーシストBilly Sheehan、そして前回の記事でも触れましたネオクラ系速弾きギタリストのTony MacAlpineの4人で結成されたバンド、Portnoy, Sheehan, MacAlpine, Sherinian(通称PSMS)の日本でのライブ盤("Live In Tokyo"(2013))では、なんとエンジニアとしてミックスを手がけているのです!!このアルバム、その界隈の方なら、おそらく確実に聴いたことはあると思われます。

せっかくですので、Simon Phillipsのドラムキットやプレイスタイルについても軽く触れておきましょう。配置などは変われど、彼は昔からTAMA製の巨大なツーバスキット(脚で踏むバスドラムという太鼓が2つ付いているキット)を一貫して使用しております。彼曰く、「多彩な音を作るため」としていますが、実際彼は膨大な数のタム(手で叩く方の太鼓)やシンバルを余すところなくフル活用しているのです。
来日公演時に本物のキットを見てきましたが、メタル系のドラマーか!とツッコミたくなる巨大キットは圧巻でした。以下の写真です。

そんな機材を使用しているSimon Phillipsですが、そのプレイスタイルにも非常に大きな特徴があります。それは「オープンハンド」です。

どういうことかと言いますと、普通のスタイルですと、ハイハット(ドラマーの斜め左に設置している2枚重ねのシンバル)を右手で叩き、左手でスネアを叩く、すなわち、左右の腕が交差する形ということになります。前出のMike Portnoyはこれです。こちらの動画を少し見れば、交差の意味が伝わると思います。

しかし、「オープンハンド」ですとハイハットを左手、スネアを右手で叩くという、通常と正反対の叩き方になるのです。彼は右利きなのですが、通常と反対のスタイルでプレイしているのです

なぜかというと、要約すれば彼曰く、ドラムキットが拡張していくにつれ通常のスタイルだとハイハットとスネアを叩いている時に、もっとも高い音のタムを自由に叩くことができないことになり、それを避けるためにこのスタイルになったのだそう。詳しくはこちらの動画で解説されています。

このようにして、Simon Phillipsは巨大な多点ドラムキットと変則的なプレイスタイル、そして驚異的なリズム感覚と安定性で非常に多くのアーティストやジャンルを渡り歩いてきた、というわけですね。メタルからロック、ジャズ、フュージョン、ポップスに至るまで軽くこなせてしまう、世界最高峰のヴァーサタイルドラマーの1人というわけであります。


この作品、フュージョンの中でも「王道」というよりも、前回のテーマとしました「ハードフュージョン」に分類される作品でありますので、もし前回の記事を読まれていない方がいらっしゃいましたら、そちらも併せて読んでいただけるとより、本作品の面白さやカッコ良さがより伝わるのではないかと思いますので、前回の記事もぜひ!!

軽くSimon Phillipsもご紹介したところで、本題に入っていきましょう!!
まず本作品のレコーディングメンバーからご紹介していきたいと思います。

Simon Phillips (dr)
Greg Howe (g)
Ernest Tibbs (b)
Dennis Hamm (key)

本作品のメンバーで、まず着目したいのが、ギターのGreg Howeでございます。前回、取り上げました Howe/Wooten/Chambers "Extraction"でも大々的にご紹介いたしましたギタリストでございますね。
実は、この人、本作 "Protocol Ⅳ"から新たに加わったのです。

Simon Phillipsのソロプロジェクトの第1弾である"Protocol"(1989)は、彼がすべての楽器をプレイし、レコーディングまで行っているため別として、バンド編成となったプロジェクトの2作目、"Protocol Ⅱ"(2013)、そして3作目 "Protocol Ⅲ"(2015)でギターを務めていたAndy Timmonsは本作ではフィーチャーされず、その後釜としてGreg Howeが抜擢された、というわけです(彼の詳細な紹介は前回の記事をご覧ください!!

メンバーについてさらに詳しく言いますと、それまでバンドにいたキーボーディストのSteve Weingartも、本作からDennis Hammに交代となっております。つまり、本作品では前作からバンドメンバーの半数、2人も交代となり、一気に音楽の方向性に変化をかけてきた、と言えるわけですね。

では、具体的に何がどう変化したのか、考察していきましょう。

上述の通り、メンバーの半数が交代となった本作、このプロジェクトでドラムに次いで重要なパートとなっているギターがAndy TimmonsからGreg Howeになりました。つまり、一言で言えば、音楽性が一気に「フュージョン」らしくなったと言えます。

どういうことかと言いますと、2人のギタリストはProtocolプロジェクトでは共に「フュージョン」という音楽をプレイしているものの、そのバックグラウンドとなっている音楽性が異なっている、ということです。

Andy Timmonsはもともと、Danger Dangerというハードロックバンドに在籍していたギタリストであり、KISSとの共演歴もあります。大学ではクラシックギターを専攻していたこともあるようですが、基本的にはロック側からのアプローチでフュージョンをプレイしていると言えます。

ギターソロでもペンタトニックといった、ロックで頻繁に使用される手法を多く聴くことができます。前回の記事でも触れましたGreg Howeの「スケールアウト」の手法はあまりないように思われます。
彼がギターを弾いた "Moments of Fortune" ("Protocol Ⅱ" (2013)収録)はロックバラードと言える曲ですが、個人的にはストレートな「ロックギタリスト」としてのAndy Timmonsがかなり出ている曲だと思います。

対して、本作にフィーチャーされているGreg Howeは、Allan Holdsworthといったフュージョン系をルーツに持っており、そのプレイもAndy Timmonsとは異なり、アーミングを多用してウネウネした弾き方をしますし、スケールをなぞるといったロック系の速弾きはあまりしません

ちなみに、Andy Timmonsのソロデビュー作 "Ear X-Tacy" (1998)収録で彼の代表曲の1つ "Cry For You"の2分33秒ごろでは、スケール(音階)を上昇するという典型的なロック系の速弾きを聴くことができます。ロックをルーツとして持っていることの現れとも言えるのではないでしょうか。

個人的にはGreg Howeの方が好きなのですが、Andy Timmonsの方が幅広い音楽を弾けるギタリストであると思います。ロック系をルーツに持っているためプレイに強いクセがないのに加え、クリーントーンでもドライブサウンドでも非常に細かいニュアンスを表現できますし、エモーショナルなフレーズを構築することに長けている印象です。様々なジャンルの音楽にも溶け込める、言うなれば「カメレオン」的なギタリストだと言えるのかもしれないですね。

Greg Howeについては、前回の記事でも熱弁いたしましたように、あまりにプレイやフレーズの個性が強すぎるために、ロックをやろうにも彼の色を消すことができないんです。例えば、彼が2013年ごろにやっていたロックバンドであったMaragold"Evergreen Is Golder" では、2分30秒ごろ、ギターソロに入った途端に笑ってしまうほどの「Greg Howe感」が聴けます。
だからこそ、これまでバンドメンバーとしてではなく、ほぼ一貫してソロギタリストとして活動していたのかもしれせんね。

"Protocol Ⅳ"に伴うツアーで、前出のAndy Timmons時代の "Moments of Fortune" をGreg Howeが弾いている動画があがっているので、ぜひ原曲と比較していただきたいのですが(リンクの動画の1曲目)、弾き方やフレーズの手グセがバリバリ出てきます。タイプが異なりすぎる2人のギタリストの違いがわかっていただけますでしょうか、、、?

そして、ベースのEarnest Tibbsについても軽くご紹介します。彼はMarcus Millerといったスタープレイヤーのベーシストではないし、Nathan Eastのようにセッションベーシストであり且つソロ作品もリリースするようなタイプでもありません。基本的に誰かのバックで堅実にボトムを支えていくという、地味だけども必要とされるタイプのベーシストと言えそうです。

この人もフュージョン・スムースジャズ界隈のミュージシャンとの共演は多数で、Simon Phillipsのほか、Scott HendersonHarvey MasonEric MarienthalDavid Benoitといったミュージシャンとの共演歴があります。あのAllan Holdworthも、自身のトリオのベーシストとしてツアーでフィーチャーしていた時期もあり、動画も公開されております

キーボードのDennis Hammについては、最近の若手ミュージシャンらしく、影響を受けたというミュージシャンが多岐に渡ります。Kenny GarrettBrad MehldauBranford Marsalisといった純ジャズ系(特にBrad Mehldauは一括りにはできませんが、、、)から、Souliveなどフリー系、Kenny LogginsといったAOR系、Death Cab For CutieBjörkといったオルタナティブロック系、そしてChick CoreaYellowjacketsといったフュージョン系、、と相当に広い音楽に造詣があると言えそうです。

最近で有名な共演と言えば、クラブ系(詳しく書くと長すぎるのでひとまずこれで括ります)界隈や現代ジャズ界隈で有名なベーシスト、Thundercatのアルバム "Drunk" (2017)に参加し、"Them Changes"といった曲で彼のピアノやキーボードを聴くことができます。

Dennis Hammについては、個人的にはAllan Holdsworthの晩年のバンドでドラマーを務め、加えて前出のMike Portnoyの脱退に伴う、Dream Theaterのドラマー候補にも選出された、オーストラリア出身の超絶ドラマーであるVirgil Donatiのソロアルバム "In This Life" に彼が参加している印象があります(これは非常に好きなアルバムでもあります)。

ちなみに、Thundercatの兄であるRonald Bruner jrもまた超絶に上手くて、Allan Holdsworthのもとで活動していた時期もあれば、Flying Lotusらビート系のアルバムにも参加していますし、22歳という若さで亡くなったジャズピアニスト、Austin Peraltaとも活動しておりました。
実は僕、彼がソロアルバムを出し、それに伴う日本公演のために来日した際に渋谷のHMV booksでトークショーが開かれるというので、高校の中間テストが終わった日(笑)に行ってきまして、直接質問したことがあるんです。

「ビート系からジャズ系、ツーバスも踏むことからメタル系の影響もうかがえると思うんですが、いかがでしょうか?」そんな内容だったと思います。もちろん多くの音楽から影響を受けて制作したものだ、とのことでした。

近年はテクノロジーが発達し、YoutubeやSpotify、Apple Musicといった動画サービスやストリーミングシステムが身近な環境にあり、家にいながら、CDやレコードなどを買わなくとも気軽に多くの音楽に触れられる時代になっています。つまり、これまでに触れてきたDennis HammにしろRonald Bruner jrにしろ、現代の有名な若手ミュージシャンたちは総じて多くのジャンル/スタイルの音楽から影響を受けていると言えるわけですね。


参加メンバー(+α)関連の情報についてはこれくらいにしておき、また曲ごとの簡単な解説や聴きどころなどをご紹介いたしましょう!!

M-1 "Nimbus"

何も再生されないぞ?と感じますが、イントロがフェードインしてきますね。イントロはディレイやリバーブを駆使して、広がりのある世界が広がってきます。そこで不思議な音のメロディーが流れてきて、何の音かと思った方もいらっしゃるかもしれませんね。

あれはGreg Howeがギターで弾いています。テクニカル的に解説すると、「タッピングハーモニックス」という奏法です。ハーモニックスはどこかの記事でも触れた気がしますが、弦はある一定の部分に軽く触れて弾くと、倍音といって、元々の音と同じ音(絶対音)だがオクターブ高い音を鳴らせる奏法です。この奏法について、上述の「一定の部分」を叩く=タッピングすることで得る方法です。つい先日公開されたばかりの、本曲のライブ版で詳しく確認することができます。

30秒前後からドラムが入り、特徴的な太鼓の音が聴こえてきます。これは、彼が昔から愛用するTAMA製の「オクタバン」という細長い太鼓です。こちらからサイトに飛べますので、ぜひご覧になってください!
このオクタバン、愛用するドラマーはかなり多く、前出の元Dream TheaterのMike Portnoyや、日本ではXJAPANのYOSHIKIも使用しております。

1分13秒頃にイントロ部分が終わります。1分24秒からAメロに入るまでのフレーズを聴けばよくわかるのですが、Greg Howeはアーミングを多用するうえにディレイをかけていて、非常に立体的な音を構築していますね。
Aメロ部分はGreg Howeの立体的な音に、Dennis HammのRhodesのような浮遊感のある音が重なって非常に美しいです。

2分17秒からいわゆるサビ部分に入ります。ギターの和音の使い方がここはロック系ですね。そして最初はキーボードソロに突入します。一音一音選んで、余裕のある素晴らしいソロだと思います。3分40秒では、この先も何回も出てくる、特徴的なキメ部分が連続します。こういう複雑なセクションがSimon Phillipsらしくかなり作り込まれており、「ドラマー視点」のフュージョンの面白さでもあるのです

4分10秒頃からギターソロが始まります。イントロと同じくオクタバンを刻むドラムをバックにソロが展開されていきます。比較的静かなパートであるので、エモーショナルなフレーズから始まり、だんだんとボルテージを上げていきます。そして、またキメの部分兼ドラムソロが始まります。拍子の中を自由に駆け回って細かく正確なフレーズを連発します。

6分24秒でまた頭に戻り、キーボードとギターのユニゾンパートなどを経てフェードアウトしていきます。かなりキャッチーな曲であり、覚えやすいと思います。リズム的には、そこそこ複雑な部分も多く登場していましたね。

6拍子が基本となっている曲でした。

M-2 "Pentagle"

ギターのカッティングからスタートします。拍子としては5拍子ですが、後半のリズムの割り方が特徴的で変に聴こえますよね。
ドラムが入ると、キレのいいハイハットの音と非常に細かい多くのスネアの音が聴こえますね。

Simon Phillipsはオープンハンドであり、上で掲載した写真を見ていただければわかると思いますが、ハイハットが手前に傾いてセッティングされている上に、スネアに対して相対的に低く設置されています。したがって、スティックではハイハットの側面を叩く、すなわちTop(上)とBottom(下)の2枚のハットを両方叩くようなスタイルではなく、Topをスティックの先で叩くため、非常に高度なコントロールを要するわけであります。しかし、その分繊細な音作りが可能であるというメリットもあります。ここではハイハットのオープンを多用するフレーズですが、一般的な音とは明らかに異なりますし、明らかに繊細にコントロールされているのが聴けますね。

それに加えて、非常に細かいスネアの音を聴くことができます。これはゴーストノートと言われており、メインの音とはアクセントをつけて区別されます。指の細かいコントロールが必要とされ、ロック系の激しいドラムを叩くドラマーを見ると、ゴーストノートを綺麗に入れている人はそうそういない印象です。詳しくはこちらで解説されています。

40秒からギターが入ります。例によってアーミングやスライドを多用する曲線的な音になっております。1分45秒あたりではまたキメが出てきますね。2分10秒台からはキーボードソロに入ります。4分からまた頭に戻り、ドラムソロが始まります。キーボードソロの後ろでもGreg Howeが弾いていたリフの上でドラムが自由に駆け回ります。5分30秒台でも、上述のゴーストノートがはっきりと聴けます。そして、そのまま曲は綺麗に終わります。

一応拍子についても軽く解説をしますと、冒頭でも書いたように、ソロ以外は基本的に5拍子であります。だから、曲名が"Pentagle"なのかもしれませんね。ソロセクションは全て9拍子で回しています。ですので、上の段落で書いたGreg Howeのリフも9拍子ということになります。

この曲も1曲目のNimbusとともに、つい先日スタジオライブの動画が公開されましたので、ぜひ見てみてください!

M-3 "Passage To Agra"

イントロから非常に民族的な旋律が聴こえてきます。来日公演の際に、確かインドか何かをイメージして作った曲という解説をしていた記憶があります。アグラはタージマハルのあるインドの街ですしね。そう思えば、たしかにそれっぽく聴こえますよね。イントロではギターが単音でバッキングをして、その上をベースとキーボードがユニゾンでメロディーを弾いています。

この曲は4拍子が基調ですので、比較的に耳に馴染みやすいかと思います。
2分10秒台のサビ部分は本当にエスニックというか、民族音楽的ですよね。
3分10秒前後からはギターソロに入ります。例のように完全にアウトしている音も聴こえます。レガートによる速弾きも混じり、素晴らしくかっこいいです。

5分直前には、ドラムがビートを刻み出して一気にロックバラード調に変化します。5分35秒ごろからキーボードソロです。Rhodesのような音でのコードがあり、その上でメインのソロが取られていますので、おそらく複数台のキーボードを使って、左手でコード、右手でソロをとっているのでしょう。

この曲はエスニックな響きを持ちながらも、メロウかつテクニカルな要素も併せ持っているので、個人的には好きです。

M-4 "Solitaire"

ツーバスの気持ちいい装飾音から入るこの曲、超ファンキーです。この曲は終始、7拍子で進行しています。メロディーが裏拍に入っていたり、前に食い込んでいたりしていて楽しいです。この曲でも、ドラムは多くのゴーストノートを入れています。

48秒からライドを使用してサビ部分に入ります。1分20秒からはギターソロです。45秒あたりはレガートによる速弾きが聴け、2分4秒ごろでは、チョーキング(弦を指で上に持ち上げ、音程をあげるテクニック)したまま、高速でピッキング(トレモロ)し、アーミングで音を揺らすという、かなりハッタリが効いております。2分10秒半ばでは、以前にも書いたワウペダルを使用し始め、20秒あたりではほぼフルピッキングです。

2分35秒からキーボードソロに入り、3分50秒ごろにまたテーマに戻ります。そしてドラムソロです。5分23秒ごろにはシンバルとスネアの高速連打が聴けます。今年早稲田を卒業したドラマー、川口千里もこれを得意としており、通称「郵便配達」と言われるテクニックの1種です。こちらの動画、3分40秒ごろでみられます。確かに配達してるように見えますね。

M-5 "Interlude"~ M-6 "Celtic Run"

Interludeは直訳すれば「間奏」ということになりますが、主にヒップホップやR&Bといったジャンルの作品で登場しています。個人的な経験ですが、Interludeは美しい曲が多い印象です。例えば、
・Jamie Isaac
"Interlude (Yellow Jacket)"
・Robert Glasper
"Centelude"
Kenichiro Nishihara"Childhood Interlude"
など挙げればキリがありません。

本"Interlude"も例によって非常に美しいです。ピアノの後にストリングが登場し、49秒からはギターがメロウに奏でます。ちなみに、このストリングアレンジ、Simon Phillipsと共演歴のあるPhilippe Saisseという、スムーズジャズ系のキーボーディストが担当しています。この人は、川口千里の最新トリオ作品で全面的に参加している人であります。ライブ映像もあります。

Ineterludeから、そのまま次のCeltic Runに突入します。イントロの方は基本的に7拍子で進行します。54秒からは一気にロックなリフが飛び出してきます。ドラムも8ビートで、最もロックらしいセクションになりそうです。

2分15秒からはギターがメロディーを担当します。テーマに戻り、3分20秒からは静かになり、キーボードソロに入ります。だんだんと音数が増えていき、4分50秒前でギターソロにバトンタッチです。ここでもワウペダルを使用しグルーヴィーなソロを展開します。

テーマを繰り返し、ラスト1分はギターが弾きまくります。圧巻です。

M-7 "All Things Considered"

イントロの入り方は少し分かりにくいかもしれません。すぐに入ってくるギターの刻みは裏拍で入っていますので、それを考慮すると拍子の整理がつきやすいと思います。

しかし、この曲も8ビート4拍子が基本
ベースは、最初のうちは、時々メロディーラインをユニゾンする時もありますが、基本的に4分音符で均等に刻んでいます。2つののセクションを繰り返して進行していきます。

1分40秒からはギターソロに入ります。ここでもGreg Howeはワウペダルを駆使しています。ペンタトニックを主体としたロックテイストなフレーズが聴け、あまりアウト感のあるソロではありません。約1分のギターソロを経て、キーボードソロに移行します。どちらかというと、キーボードの方がアウト感の強いソロといった印象です。こちらも約1分のソロです。

これが終わると4分ごろから一気にメロディーの方向性が変化します。Greg Howeがチョーキングとアーミングを併用する十八番のパターン。美メロです。そして、ラスト1分半はキーボードとギターが4小節ごとにソロを交代で回していきます。ここでは両者弾きまくっています。最後はそのままフェードです。

この曲は比較的シンプルで複雑なキメはありません。曲の構成も簡単ですね。しかし、そういう時ほど裏で刻んでいるベースに着目するとけっこう面白いラインを弾いていたりします。ドラムは単調に聴こえますが、曲全体としてはかなりスウィングしているというか、跳ねている感じに聴こえます。それを作る一因がベースだと思うんです。ABメロの裏では、上述のように単調なベースですが、各楽器のソロ裏でのベースはかなり裏拍に入ったり、スタッカート(短く切る音)を交えたりしています。それだけで、曲全体の印象も変わるんですよね。

M-8 "Phantom Voyage"

本アルバム唯一のバラードになります。Greg Howeの弾くメロディーの美しさにどんどん引き込まれていきます。「アウトした速弾き」というイメージが強い彼にバラードを弾かせても、こんなにエモーショナルな音になるのか、と思いました。

最初のうちはアドリブを交えつつ、記譜されたメロディーを弾いているのでしょう。しかし、ここでもアーミングを多用した「ウネウネ感」は健在です。2分前後からは、いよいよサビ部分に突入します。裏で鳴っているキーボードが立体的な音空間を創出し、加えてピアノも4分音符でバッキングしています。非常にメロディアスで感動的。ところどころでギターがオーバーダビング(二重以上に録音を重ねること)、もしくはキーボードがメロディーをユニゾンしている点もニクいです。

サビが終わるとGreg Howeがギターの音色を変えてソロに突入します。
テンポがかなり遅い曲ということもあり、緩急が付けやすく、何箇所かで聴けるレガート速弾きも冴えて、非常に楽曲にフィットしています。また通常の音に戻し、これまでと同じメロディーを繰り返します。キーボードもRhodesのような音に変えたりと、曲のムードを保ちます。

ラスト1分40秒はキーボードソロです。ピアノの音色ですが、アタックの印象などが生のピアノっぽくないので、おそらくキーボードで弾いているのでしょうか。このソロでフェードアウトしていきます。

最高に美しい曲です。

M-9 "Azorez"

ラストの曲はメロウなイントロかと思いきや、ツーバスのドラムをバックに、Greg HoweとErnest Tibbsがユニゾンを決めるという元気な曲であります。最初の40秒台半ばからは、まさにSimon Phillipsの得意とするドラムの刻み方ですね。1分17秒の部分はスネアが裏で入っているので表紙が分かりづらいかもしれません。

最初に少しだけギターソロが入ります。またイントロのメロディーに戻ったかと思いきや、キーボードのコード感が異なっています。

2分20秒を越すとギターソロ突入です。3分を過ぎてからの流れるようなフレーズにところどころスキッピング(今弾いているに隣り合う弦をまたいで移動して弾くテクニック)して、垂直的な動きを感じさせるところもかっこいいです。例によってレガートの速弾きに加え、3分33秒では、フルピッキングの速弾きが聴けます。

またテーマに戻り、キーボードソロです。ここでは完全にRhodesの音色で弾き、バックでなっているキーボードの音も相まって浮遊感がすごいです。

最後にテーマに戻り、ギターソロで転調しつつアウトロが終わっていきます。

今回取り上げた作品はSimon Philliosという「ドラマー」視点のフュージョンであるため、解説でも拍子やリズムについてはかなり触れていましたが、拍子やリズムの複雑さもドラムフュージョンの面白さであるわけです


楽曲の解説はこれで以上になります。今回は15000字超になってしまいました、、、書きたいことが多過ぎて、あまりに長くなってしまいましたね。

ここまでお付き合いいただいた方、大感謝です!!

楽曲解説では、楽器のプレイそのものを楽しむインストゥルメンタルミュージックの、僕なりの楽しみ方、視点を交えて書かせていただきました。音楽の楽しみ方は人それぞれですので、決して強要はしませんが、参考程度になれば幸いです。

さて、次回以降の記事については大きく以下の分類に当てはめながら、しばらくは書いていこうかと思っています。

・「ピアノフュージョン」
・「ギターフュージョン」
・「ドラムフュージョン」
・「フュージョングループ」
・「ベースフュージョン」
・「ハードフュージョン」
・「スムースジャズ」

更新の間隔が1ヶ月以上空いてしまい、もはやEvery Month Fusion!!!
になってしまっていますので、今後はもっと安定して更新していけるように頑張ります。

もうすぐ大学が始まってしまい、正直書いている時間も本当になくなってしまいそうですが、こちらも継続いたしますので、ぜひ読んでやってください。。。

最後に、無料という方針は変えませんので記事はフリーで最後までお読みいただけますが、もしお気持ちいただけるようでしたら投げ銭などいただければ望外の喜びでございます。

今後ともEveryday Fusion!!!をよろしくお願いいたします!!!


【参考】
https://www.keyboardmag.com/artists/talent-scout-dennis-hamm
http://www.markbass.it/artist-detail/ernest-tibbs/

※文中の写真は全て自分で撮影したものになります。転載はご遠慮ください。


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