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「北欧の貴公子が拓くフュージョン新世界」Jonathan Lundberg "Iterations"

こんにちは!!
Everyday Fusion!!!の第6弾記事が書きあがりました。

これまで、「ハードフュージョン」「ピアノフュージョン」「ベースフュージョン」と各回でテーマを設定して書いてきましたが、今回のテーマは

「ドラムフュージョン」

ドラマーがリーダーとなるフュージョン作品ということですね。

楽器のプレイヤーの中でも、フュージョンを演奏できる人は得てしてレベルが高いことは以前の記事でも書いたとおり!ドラマーでは、Vinnie ColaiutaSteve GaddHarvey HasonDave WecklDennis Chambersといったレジェンドクラスともなると、音楽界全体で見ても超有名です。

しかし、今回はあえてそのようなドラマーには焦点を当てず、若い世代のミュージシャンを取り上げようと思います。

ということで今回取り上げる作品は・・・

Jonathan Lunbderg "Iterations" (2017)

つい最近リリースされた新作です。

タイトルにも書いた通り、今回の主役になるドラマー、Jonathan Lundbergは北欧はスウェーデン出身なんです。北欧の音楽といえば、メタルが有名です。以前にテレビでも特集されていました笑

メタルの中でも、デスメタルブラックメタルは特に有名です。

・Children Of Bodom(フィンランド)
・Dimmu Borgir(ノルウェー)
・Meshuggah(スウェーデン)
・Arch Enemy(スウェーデン)
・Immortal(ノルウェー)
・Dark Funeral(スウェーデン)
・Amon Amarth(スウェーデン)
・Kalmah(フィンランド)

などと挙げればキリがないくらいです。

どれもメタル界ではとても有名なバンドたちで、特に僕も昨年の来日公演に足を運んだノルウェー出身のDimmu Borgirは「ブラックメタル」にオーケストラを合わせるという、いわば「美と醜の融合」ともいうべき独自の手法で、「シンフォニック・ブラックメタル」というジャンルを確立し、世界的かつ商業的にも大成功を収めた初めてのバンドであると言われています。リンク先の動画を見ていただければ雰囲気が伝わるはずです!フルオーケストラとの共演に圧倒されます。

なぜ北欧でメタルが盛んであるのか確実な理由は僕もよく知らないのですが、一説には寒くて陰鬱な長い冬のため、ダークなサウンドを求めてしまうという考え方もあるようです。そう言われると、確かにエレクトロニック系音楽のイメージが強いBjörkの北欧はアイスランドの出身だし、同アイスランド出身のポストロックバンドであるSigar Rosもいたなあと、芋づる式にいろいろに連想されました。

話は変わりますが、そもそもポストロックという音楽は、アンビエント・ミュージック(Ambient Music, 環境音楽)の一種であるドローン・ミュージック(Drone Music、変化のない・あるいはゆっくり変化する音が鳴り続ける音楽)の影響を受けているわけです。ドローンは雅楽にもみられるように、民族音楽的な背景を持っているのですが、現在のドローン・ミュージックはダークな雰囲気のものが多いように思われます(この点のジャンル分けは曖昧で、ダーク・アンビエントと称される場合もあります)。そういう意味では、ダークさという共通項が見いだせるかもしれないですね。

実際、北欧ノルウェー出身のBiosphereというドローン/アンビエントアーティストは、(広義のアンビエントを含む)音響派の中では比較的有名です。ドローン・ミュージックが気になった方、Biosphereにリンクを貼りましたので、ぜひこのドローン(ダーク・アンビエント)の世界に浸ってみてください!!

ちなみに、このドローン・ミュージック(広義のアンビエント・ミュージック)と前出のブラックメタルを融合させたような音楽ジャンルが確立していて、これを「アトモスフェリック・ブラックメタル(Atmospheric Black Metal)」(atmosphereなので「空間的な・霞んだブラックメタル」とでも訳出するのでしょうか)と言います。めっちゃ不気味なのにどこか非常に荘厳で壮大な音楽なのです。

例えば、オーストラリアのMidnight Odysseyというバンドや、ドイツのVinterriketというバンドは個人的に昔から知っていました。リンクも貼ってあるので、ぜひこのオブスキュアで不気味な世界を体験していただきたい!!

アンビエントに関して少し私見ですが、ドローンについては、ミニマル・ミュージックでいう漸次的位相変移プロセス(だんだんと音像やハーモニーなどに変化が出てくる仕組み)と同じだとは言えないとは思いますが、それと似たような変化のプロセスを持った音楽であると言っていいと思います。

アンビエントに関してはまだまだ書きたいことはあまりに多いのですが、話を元に戻しましょう。もしかしたら、どこかでミニマル〜アンビエント〜ドローンを特集する記事を書くかもしれません……それくらい奥が深い。

話をまとめますと、ダークな世界観に影響された音楽が盛んなお国柄のある、北欧はスウェーデンから出てきた新星がJonathan Lundberg(ジョナサン・ルンドバーグ)であるわけですね。彼の経歴を少しだけご紹介しましょう。

彼はスウェーデンの首都、ストックホルム出身で、大学卒業後にはLee Ritunourといったフュージョンミュージシャンとも共演歴のあるドラマー、Carlos Vegaの名を冠した"Carlos Vega Memorial Drum Off Competition"というコンテストで優勝を果たしたのです。

その後の経歴を語る上で、2013年にデビューし、現在では世界的にも非常に人気の高いスウェーデン出身のポップ・バンドであるDirty Loopsの存在は欠かせません。Dirty Loopsは日本でもかなりの知名度と人気を誇っており、日本テレビの「スッキリ」にも生出演していました。

Jonathan Lundbergは、Dirty LoopsのベーシストであるHenric Linderが、弟のEric Linderと2015年に結成したフュージョンバンドであるLinder Brothersのドラマーとしても活躍しました。

実は今回特集している"Iterations"、ソロ作としては2枚目に当たるのですが、1枚目のアルバム"Nebula"は、このLinder Brothersと同じメンバーで録音されているんです2作目に関してもその人脈をベースとして制作されたのだと思います。さらに、Jonathan Lundbergは日本のフュージョンが大好きということで、本作にはなんと元T-Squareの本田雅人がゲスト参加しているのです。

さて、そんな本作、なぜ「フュージョン新世界」というタイトルにしたかと言いますと、詳細な楽曲解説はこの後に書いてありますが、これまでの記事で書いてきたようなフュージョンとは大きく雰囲気が異なっているからです。一筋縄では説明できない。

現代のジャズ界で有名なドラマー、Mark Giulianaはスタンダードなジャズはもちろん、エレクトロニック/ビート・ミュージックに強い影響を受け、"Beat Music"という文字通りのタイトルを冠した作品も制作していますが(つい最近、"BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!"という、そのまんまじゃん!(笑)というタイトルの続編がリリースされました)、本作もどうやらこちらの音楽からの影響を感じるのです。

さらに変拍子も数多くでできますし、かなりメタル系に近い雰囲気の曲もあり、プログレッシブロック/メタルからの影響も明らかです。

つまり、本作はフュージョンにカテゴライズされながらも、数多くのジャンルが交錯する、非常に音楽的にも面白い作品であるので、「フュージョン新世界」というタイトルになったわけです。

ということで、ここからは特に聴いていただきたい曲をピックアップして楽曲解説をしていきたいと思います。

M1 "Antikhytera"

本作の1曲目を飾るこの曲、イントロからループを駆使して都会的でメロウな雰囲気を出しているバラードトラックです。ライナーノーツによると、メロディーでギターとユニゾンしている音は、なんとJonathan本人が演奏するヴァイブ(鉄琴)だそうです。終始浮遊感のあるサウンドと、かなりヴァーティカル(垂直的)に動く独特の美しいメロディーが特徴的な曲ですね。

M2 "Bermuda"

(YouTubeにはないので、spotifyかApple Musicで聴いてみてください)
のっけから16分の15拍子という変拍子で曲が進行していくという、とてもプログレなナンバーです。後半にはドラムソロのセクションも用意されており、影響を受けたと公言しているドラマー、Virgil Donati(Planet X, 晩年のAllan Holdsworthなどのドラマーを務めた)のような拍子の割り方をしたフレーズも聴くことができます。
ちなみに、本アルバムの解説書には「普通の4拍子が基本になっている」と書かれていますが、一部のパートを除いてこれは誤った解釈です。イントロやテーマをアクセント位置の解釈で4拍子と取ることはできないと思います。

M4 "Evolution"

(YouTubeにはないので、spotifyかApple Musicで聴いてみてください)
先述した、日本を代表するサックスプレーヤーである本田雅人がゲスト参加しています。ライブではT-Squareの代表曲である"Megalith"を演奏するほど、ジャパニーズフュージョン好きというJonathan。イントロのギターのカッティングから非常にジャパフューらしい雰囲気です。もちろん、サックスのソロコーナーもあります。かなりビートもはっきりしていて、聴きやすくかっこいいです。

M5 "Behind The Moon"

これもイントロからループを活用して、ビートミュージックとの接近を感じさせます。それこそ、前出のMark Giulianaの演奏のように、現代ジャズのひとつの手法である「打ち込まれたビートを生演奏で再現する」というトレンドに近いことをしているのではないでしょうか。宇宙を連想するようなとても無機質なサウンドの中で、裏拍を基調としたグルーヴが際立ちます。Henrik Linderの6弦ベースソロも秀逸。ちなみに、リンクのライブ動画でのギターとベースはLinder兄弟です。

M6 "Titan"

(YouTubeにはないので、spotifyかApple Musicで聴いてみてください)
完全にプログレ
。イントロからギターの重低音リフが出てきますが、よほど極端にチューニングを変えない限り通常のギターでは出せないので、7弦ギターを使用しているはずです。ギターのみで始まるので最初は気づきませんが、ドラムが入ると、実はギターは全て裏拍で入っているというトリッキーな曲です。しかもよく聴くと、スネアのゴーストノートも入っているので、かなり細かく拍子を解釈してそうです。

この手法、アメリカの若手キーボーディストのPeter Fernandesの"Q.E.D"という曲でも聴けます。こちらのドラムはなんと前出のVirgil Donatiでして、その他も超絶メンバーしかいないので、気になった方ぜひリンクから飛んで聴いてみてください(ギターのRichard Hallebeekは本当に巧い)。

3分50秒でキーボードソロが終わった後の、Jonathanの四肢独立のプレイは凄まじい。ギターとユニゾンするツーバス、Planet Xを想起させる拍子解釈、とにかく凄いの一言に尽きます。

M7 "One More Step"

(YouTubeにはないので、spotifyかApple Musicで聴いてみてください)
こちらもループを活用したビートミュージック的な雰囲気があります。非常にクール。ただこの曲、Jojo MayerRichard Spavenといったドラマーを想起させるような非常に細かい人力ドラムンベースのようなビートがあまりに凄まじい。終始安定してビートを維持できるのがこれも凄い。ギターソロも、Allan Holdsworthのようなレガート(ピッキングをしないで弾く奏法)を活用した流麗な速弾きで巧いです。
ちなみに、彼のチャンネルを探してみたところ、ドラムンベースを叩いている動画があったのでこちらも要チェックです。

M10 "Prim"

(YouTubeにはないので、spotifyかApple Musicで聴いてみてください)
まずメンバーが凄い。
ベースはこれまでの曲で弾いてきたHenrik Linderではなく、フランス出身の超絶テクニシャンであるHadrien Feraud(アドリアン・フェロー)です。ここ日本では、上原ひろみThe Trio Projectで、体調を崩したAnthony Jacksonに替わって参加したことで有名かもしれません。つい先月にもDean Brownのバンドで来日したばかりですね。この人、一切スラップをせず、ただでさえ長いベースを左足に乗せて弾くという(笑)、見るからに巧そうな雰囲気ですが、実際、圧倒的な正確性の3フィンガー速弾きは巧すぎる。中間部でのベースソロは必聴ですよ!!
そしてキーボディストは、なんと元Dream Theaterで、Virgil Donatiとともに超絶プログレインストバンドPlanet Xを立ち上げたDerek Sherinianです。曲の最後に方にあるキーボードソロ、僕も含めてドリームシアター界隈のファンなら思わずニヤけてしまいます。本当に「あの音」です。


今回の記事は以上になります。今回はYouTubeでフリーに聴けるものがあまりに少なくて申し訳ないです………
フュージョンからアンビエントからブラックメタルまで、話が広がりすぎましたが、ここまでお付き合いいただいた方ありがとうございます!!

Fusionはそもそも「融合」という意味の名詞ですが、本作はフュージョンというカテゴリーに属するのに、さらに色々なジャンルが混ざっているので、様々な意味で「Fusion」だと言えそうですね!

さて、次回の記事はいよいよ本命

「ギターフュージョン」

をテーマとしていきますので、ギタリストの方、ぜひチェックしてください!

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