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「フュージョンの原体験」 Lee Ritenour

こんにちは!

「フュージョン」という音楽に焦点を当てた本Everyday Fusion!!!、第1弾は、70年代に現れたギターヒーロー、Lee Ritenour(リー・リトナー、1952〜)のソロ7作目 "In Rio"(1979)をピックアップしていきます!
(写真のレコード左側にあるサインは、2年前のライブで本人に書いてもらったものです)

あれは2012年、中学1年生の夏のこと。東京のとあるサンバチームで活動している叔母が大量のCDを持ってきました。量にして優に数十枚、紙袋がパンパンの量でした。全て不要らしく、ありがたく譲り受けました。

あまりにも量が多かったため、とりあえず1枚1枚のジャケットを眺めていきました。すると、青い空のもと、レモン(?)のようなものが澄み切った美しい海に落ち、水しぶきを上げている何とも爽快なジャケットのCDが目にとまったのです。その名も

 "JVC SUPER SUMMER VOL.2"(1987)

これは、JVCビクター(1987年当時)が夏向けの爽快系フュージョンを集めたコンピレーションアルバムだったのです。その当時、X JAPANやKISS、Bon Jovi、Van Halenといったハードロック系に傾倒していた僕は、このような爽快な音楽の存在すら知りませんでした。

何も知らない僕は、爽快極まりないジャケットに惹かれ、ひとまず聴いてみようと思い、ラジカセにディスクを入れ再生し始めました。

すると突然、静かなアコースティックギターが流れ出しストリングスが入ってきました。イントロが終わると、アコギで何とも爽快で可愛らしいメロディーが始まったのです!この時点で「おっ!」ってなったのは今でもはっきり覚えています。
サビに入ると、今度はヴォーカルがメロディーを歌い出します。サビが終わるとまたアコギが入り、2回目のサビへ。しかし、サビが終わると、次はいかにも「サンバ」というような笛が鳴り始めました。最後はヴォーカルも入り、静かに曲は終わっていきました。。。

そう、この曲こそ "In Rio" の1曲目を飾る "Rainbow"だったのです!!!

SUPER SUMMER VOL.2を気に入ってしまった僕は、そのまま2曲目も聴いてみることにしました。すると、次の曲は先程とは打って変わって、いきなり元気のいいスラップベース(!)と拍子を刻むカウベルが流れ出したのです。

とりあえず聴いてみると、Rainbowと同じようにアコギがメロディーを弾き始めました。そして、サビに突入。僕は衝撃を受けました。
サビのメロディーラインの美しさ、メロウさがあまりに感動的だったからです。2回目のサビが終わると、今度はベースがスラップのソロをとり始めます。めっちゃ上手いです。またAメロとサビを繰り返し、イントロと同じものがアウトロにも繰り返され、曲は気持ちよく終わりました。
(ちなみにこのベーシスト、当時19歳(!)のMarcus Millerです。自分と同い年で、既に演奏スタイルが完成していたのは本当にスゴイ・・・)

この曲も "In Rio" に収録されており、Lee Ritenourの代表曲でもある "Rio Funk"だったのです!!

この2曲が僕にとって、まさに「フュージョンの原体験」であり、今でもこの時のことは忘れられません。新たな音楽の概念を知った瞬間でした。

その後、"In Rio"は、中学2年の4月、吉祥寺のレコードショップRARELP盤を購入しました。今回の記事の写真で写っているものです。見本盤で950円しました(今思えばかなりの割高感、、)。実はこの作品、Lee Ritenourの作品で最初に買ったものではないのですが、今でも彼のソロ作の中で群を抜いて好きなアルバムの1つです!!!

さて、僕とフュージョンの出会いはこの "In Rio" であったということは伝わったと思いますので、以下、アルバムについて深掘りしていきましょう。

【Recording Musicians】

Lee Ritenour (lead A.G)

⑴ Rio Rythem Section  
Paulinho Braga(dr), Luizao Maia(b)       
Oscar  Neves(rythem g), Don Grusin(key)       Chico Batera(per), Jose Da Silva(per)      Roberto Pinheiro(per), Armando Marcal(per)

⑵ California Rythem Section         
Alex Acuna(dr), Abe Laboriel(b), DonGrusin(key) Ernie Watts(ss,flute), Steve Forman(per)

⑶ N.Y.C Rythem Section   
Buddy Williams(dr), Marcus Miller(b)   
Dave Grusin(key), Jeff Mironov(rythem g)    Rubens Bassini(per)

楽器略称
 dr; Drums
 b; Bass
 key; Keyboards
 per; Percussions
 ss; Soprano Sax
 rythem g; Rythem Guitar(バッキング担当)
 lead A.G; Lead Acoustic Guitar
 (メロディー、ソロ担当)

まずレコーディングミュージシャン一覧をご覧になれば気づくとは思いますが、この作品、何と3ヶ所で録音されているのです。しかも、3ヶ所で異なるミュージシャンを起用しており、それぞれが全く異なったサウンドを出している点が大きな特徴と言えます。
特にカリフォルニアのミュージシャンの中には、Lee Ritenourの1stアルバム("First Course"(1976)) にも参加している人もおり、ここのメンバーは彼にとって、その先の活動も共にしている、非常に重要なラインナップになっているのです。

本作品では、Lee Ritenourは全編でアコースティックギター(クラシックギター)を弾いているため、非常に温かみのある優しいサウンドを感じられます。他の楽器についても、生の鳴りを大事にレコーディングされているようで、アコギ含め、楽器本来の音が醸し出す「オーガニックさ」が本アルバムを決定づけていると言えるでしょう。彼の作品の中でも群を抜いて有機的な音で成り立っている作品である思っています。

1980年代に入ると、彼はかなりエレクトロニックな方向の作品をたくさん作るようになるので、その後の作品とは正反対の方向性と言えるでしょう。

それでは、曲ごとに見ていきましょう。

M-1 "Rainbow" (Don Grusin)(Rio rythem section)

冒頭にも書きましたが、僕が中学1年の夏、人生で初めて出会った「フュージョン」であります。アコギやストリングスによる、柔らかく優しいサウンドに即ノックアウトされました。非常にわかりやすいメロディーですね。あれから、夏には毎日必ずこの曲を聴いているほどです。Dave Grusinによるストリングスがふんわりと包み込んでくれています。乾いたパーカッションのサウンドも夏にぴったりです。サビのヴォーカル部分は一緒に歌えます。全体的に無駄が全くない、シンプルで優しい曲ですね。

ギターソロでも緩急のあるメロディアスで分かりやすい演奏をしています。4分10秒あたりからは、いかにもブラジルというような笛の音やパーカッションの音が鳴ります。この鳥の鳴き声のような楽器は何と言うのでしょうか?僕もよく知りません。Herbie Hancockの1973年作の大名盤 、"Head Hunters"収録の "Watermelon Man"のイントロにも使われている音です。2005年の東京ジャズでの"Watermelon Man"では、Munyungo Jacksonがこの楽器を吹いている様子が映像で見られます。

さて、曲に話を戻します。以前、僕のギター(というか音楽)の師匠がブラジル音楽について、「ミュージシャンの頭の中には常に16分が流れている」ことを教えてくれました。

なるほど。本曲はリオデジャネイロで録音されているからか、Aメロでも、ずっとドラムがハイハットで16分を刻み続けています。サビに入ると、今度はR(右)チャンネルからサンバらしい音で16分を刻み始めます。
ここで着目したいのは、サビの16分刻みが「正確」ではないということ。明らかに「ヨレて」いるんです。自分も体験したことがあるのですが、サンバはアクセントの付け方に特徴があり、自然とヨレて聞こえるわけです。

D'angeloが名盤 "voodoo"(2000)をレコーディングする際に、ドラマーのQuestloveに「あえて正確でないビート」を指示していた話を想起させます(詳しくはyoutubeに載っています)。もっとも、ズレの方法はそもそも異なりますが。。。

M-2 "San Juan Sunset"(Eumir Deodato)(N.Y.C rythem section)

本アルバムのLPを購入してから初めて知った曲。フュージョンをよくお聴きになる方であれば、作曲者でピンとくるかもしれません。この曲はブラジリアン・フュージョンバンドであるDeodatoの "Love Island(1978)" に収録されているものです。ぜひそちらも一聴していただければと思います!
また、彼の1997年作のライブ盤 "Alive In L.A."では、別アレンジの本曲を楽しめますので、ぜひ聴いてみてください!!こちらでは、おそらくYAHAMA製のガット弦サイレントギターを使用しているものと思われます。

この曲も優しい音でアコースティックギターから始まります。キーボードを弾いているDave Grusinは、Fender Rhodesという独特の「浮遊感」のあるサウンド特徴とするキーボードを使用しており、アコースティックギターと相まって、さらに温かみを感じさせます。メロディーラインも親しみやすく、全体的に「静」を基調にした曲です。

そしてもう1点注目したいところが、主にRチャンネルから聴こえてくるリズムギターです。何も考えずに聞き流していては、存在を意識すらされないかもしれません。しかし、Jeff Mironovのバッキングも陰ながらとてもいい仕事をしていると思うのです。この人、フュージョン界隈で仕事をしているギタリストで、渡辺貞夫のアルバム("How's everything", "Morning Island" etc)でもギターを演奏しています。歪みのないクリーントーンでキレのいいカッティングを披露しています。サウンドから判断すれば、シングルコイルのストラトキャスターでしょうか。曲全体のグルーヴを整えている感じです!

M-3 "Rio Funk"(Lee Riteonour) (N.Y.C rythem section)

前出の "Rio Funk" です!僕が2番目に知ったフュージョン。非常に思い出深い曲です。師匠とセッションをしてみたりもしました。
タイトルに「ファンク」と付いていますが、その文字通りイントロから、当時弱冠19歳の天才、Marcus Millerのスラップが登場し非常にファンキーな曲です。M-2とは対照的に「動」を基調とした曲であると言えます。

かなりサウンド的にも作り込まれており、サビではドラムと独立してカウベルがLチャンネルで鳴っておりますし、その他のセクションでもパーカッションが顔をのぞかせ、曲に彩りを与えています。特にサビのカウベルはブラジルを想起させ、このタイトルの意味がよく分かると思います!!

そして、中盤のベースソロは圧巻です。ベーシストではないので詳しい差は分かりませんが、スラップ奏法の代表的な形態として、Red Hot Chili PeppersのベーシストであるFleaと、このMarcus Millerの2人が挙げられることがあります。「フリー型」「マーカスミラー型」なんて言われます。ほとんどの人はMarcus Miller型の奏法はできないとも聞いたことがあります。そのスタイルを19歳にして確立させていた彼はどれだけ凄いんだ!と思わせるような演奏です。
個人的な感想ですが、彼をはじめ、4弦ベースを使っているベーシストは大抵ものすごい上手いです(この因果関係は逆かもしれませんが、、)。John MayerJose Jamesのバンド、前出のD'angelo "voodoo"でも弾いているPino Palladinoにしろ、ベースソロ作品("A Show Of Hands"(1996))もリリースしており、Greg Howe, Dennis Chambersと組んだ超絶技巧フュージョン作 "Extraction"(2003)でも有名なVictor Wootenにしろ超絶上手いです。技術的にもグルーヴ的にも。
("Extraction"については近々Everday Fusion!!!でピックアップします!!)

余談を挟みましたが、とにかくこの曲にはフュージョンの心地よさ、メロディアスさの他にも、まだフュージョンの魅力が詰まっています。それは「ウラのキメ」です。フュージョンを演奏する人には分かると思いますが、多くの方は??かもしれません。例えば、4拍子を取るときに「1ト2ト3ト4ト」というと思いますが、その「1234」が「オモテ」、それに対して「ト」に当たるのが「ウラ」です(詳しくはこちらをご参照ください)。イントロを聴いてみると、最初はベースが単独(後ろでカウベルは鳴っていますが)で演奏していますが、14秒〜15秒で他の楽器がキレよく入ってきます(これが「キメ」と言われます)。このタイミングこそ「ウラ」に当たります。カウベルは「オモテ」になりますので、その差は分かりやすいかと思います。
「ウラのキメ」が重要になるフュージョンは無限にあります笑。
例えば、角松敏生がバンドのオーディション用に作曲したという"Oshi-tao-shitai"なんて、ド頭から3連続で「ウラのキメ」が出てきます。この曲は自分でも演奏したことがあるのでよく分かりますが、本当に難しいです。

長くなりましたが、この"Rio Funk"はこれまで書いてきたように、聴き込むほどにフュージョンの楽しさや魅力が溢れ出てきます。一般的にもLee Ritenourの名曲トップ3に挙げられます。参考までに、2009年のNorth Sea Jazz Festivelのライブでは、もっとダンサブルでメロウな、全く雰囲気の違う演奏を楽しめます。ここのメンバー(Will Kennedy(dr), Melvin Davis(b), Patrice Rushen(key)) も本当に本当にスゴいメンツなんですが、書き始めるとあまりに長くなるので割愛いたします。
(ただ、ベースのMelvin Davisのスラップ奏法の技術は常人ではできないほど高度です。普通スラップは上から指を振り下ろしますが、この人、簡単に言うとその逆の、下から振り上げて弾くのを組み合わせることで非常に多彩なリズムパターンを生み出しています)

M-4 "It Happens Everday" (Joe Sample)(California Rythem Section)

本作の中でもっともメロウな曲ではないでしょうか。特に取り上げたいのが、ソプラノサックスとフルートを吹いているErnie Wattsです。イントロでもサビでも、どこか寂しげですが味のあるメロディーを吹き、これがこの曲を決定づけるものであると思われます。Lee Ritenourもソロでは、アコースティックギターでは通常多用しないチョーキングを用いたりして、曲のムードを引き継いでいると言えるでしょう。基本的にいわゆるサビ部分を何度も繰り返しているので口ずさみたくなります。非常に親しみやすく、メロウかつポップな曲で、アレンジも素晴らしいです。

この曲も実はカバーであります。Joe Sampleと聞けばピンと来る方もおられるかもしれませんが、これはThe Crusadersというフュージョンバンドの1976年作 "Free As the Wind"に収録されています。
何が面白いかと言いますと、この原曲でギターを演奏するのが、1970年代にLee Ritenourと人気を二分したギターヒーローであり「永遠のライバル」とも称されるLarry Carltonであるという点です。2人とも「フュージョン」というジャンルに身を置いていますが、Lee Ritenourはジャズ出身であり、対するLarry Carltonはブルース出身であります。スタイルの差を聴き比べるのも楽しいですよ!!

ちなみにこの2人、その後1995年に「最初で最後」のコラボアルバム、 "Larry & Lee"を共作しています。このアルバム、ギタリストにとっては本当に面白くてですね、前述のようにサウンドからフレーズの傾向から、本当に分かりやすく違うわけです。曲もRitenour作→Carlton作と交互に収録されているので、色々な聴き方ができるのです。参加ミュージシャンも豪華でありまして、特にドラムはOmar HakimHarvey Masonというスタープレイヤーが担当しており、その意味でも聴きごたえがあります。星5つの傑作です。
このアルバムもEveryday Fusion!!!でピックアップする予定でございます。

M-5 "Ipanema Sol" (Lee Ritenour)(California Rythem Section)

この曲はドラムのAlex Acunaがとにかく凄まじい!!白眉の演奏です。
その素晴らしさは後ほどまたピックアップします。

まず、タイトルからして「ブラジル」を感じさせます。Ipanemaといえば、もはや説明は不要ではないでしょうか。そう、ボサノヴァの生みの親であるA.C.Jobimの作でその代表曲でもある「イパネマの娘(The Girl From Ipanema)」を連想させます。この曲はJobimとともに、ボサノヴァを生み出したギタリスト・シンガーのJoao GilbertoとジャズサックスプレーヤーのStan Getzによる演奏が特に有名ですね("Getz/Gilberto"(1963)収録)。Jobimはピアノで参加しており、歌っている女性はJoao Gilbertoの奥さんであるAstrud Gilbertoです。

余談ですが、「ボサノヴァの法王」とも呼ばれるJoao Gilberto(1930〜)は本当に「生きる伝説」というか、色々と凄い方なんです。非常に気難しく、変人奇人と言われておりますし、ライブの遅刻は当たり前だそうです。私の師匠は、なんと今や伝説となった彼の来日公演 "Joao Gilberto in Tokyo"を生で見たそうなのですが、「アーティストは今会場に向かっています」というアナウンスが流れたそうです(このライブを見られたこと自体、非常に羨ましい限りです)。演奏時の空調もストップさせ、マイクによる録音の差にも気づくというまでの耳の持ち主でもあります。あと10年早く生まれていれば、生で拝聴できたかもしれないですね。年齢的にも日本に来ることは、まず絶対にあり得ないでしょうし。ちなみに、その "Joao Gilberto in Tokyo"、なんと今年上映されるというニュースがeplusより数日前に届きまして、ぜひ見に行きたいものです。詳しくはこちらをご覧ください。

さて、"Ipanema Sol"に話を戻します。本曲のイントロは、クラシックギターでいう「トレモロ奏法」のギターから幕を開けます。同じ音を人差し指、中指、薬指、場合によっては小指と順々に高速で弾いております(僕自身、クラシックギターを弾いておりました)。クラシックギターの曲で言えば、Francisco TarregaによるRecuerdos de la Alhambra(アルハンブラの思い出)では全編がトレモロ奏法で演奏されます。

イントロが終わるとドラムの細かい刻みとフルートによって一気に緊張感が高まります。そして、ここが終わるとAlex Acunaのビートが完全に高速のサンバに変化します(サンバのビートはこちらの動画に詳しいです)。
ここで着目したいのが、M-1でも取り上げました、「ブラジルのミュージシャンの頭の中には常に16分が鳴っている」という点です。僕自身は、この曲を4分音符で取ることはできません。やはり16分という細かい単位を意識するからこそ、よりサンバを感じるというか、それらしく聴けるのだと思います。

本場、リオのサンバの動画を見ても、16分という細かい刻みと、M-1でも取り上げたアクセントによる「ヨレ」を感じられるのではないでしょうか。

1分20秒頃からいわゆるサビ部分に入ります。またビートが変化し、今度はパーカッションも入ります。2分前後にあるサビ終わりの「キメ」もちゃんとウラに入っていますね。そして、ギターソロに突入します。
全体がかなりアップテンポで盛り上がっていますので、ギターもかなり強く弾いています。ついでベースソロ。ベースを弾くAberaham Laborielは、生で見たこともありますが非常に元気で陽気なおじいちゃんでありまして、フラメンコギターの奏法も取り入れて大胆なソロを展開しております。「世界一のセッションベーシスト」とも称される凄い方です。

そして、最後にサビをもう一度繰り返します。

そして、このセクションの冒頭に書いたことを思い出してください。ドラマーのAlex Acunaが凄まじい件です。ペルー出身のこのドラマー、ラストのサビが終わったあと(4分30秒すぎ)、その凄さがさらによく分かります。ドラムが非常に細かく凄まじいアウトロを演奏し始めます。師匠も言っておられましたが、ここまでの演奏はなかなかできたものではありません。ここでも注目して聞きたいポイントが「頭の中に常に16分が流れている」ということです。ドラムのアウトロは16分でないと把握できないパターンとなっているように思います。サンバのリズムをドラムに持ち込んでいるようにも思われます。
(彼の演奏については、伝説的なフュージョンバンドであるWeather Reportの代表的なアルバム "Heavy Weather" でも聴けますので、よろしければお聴ききださい)

M-6 "Simplicidad" (Lee Ritenour)(Rio Rythem Section)

この曲はリオで録音されていて、パーカッショニストが最も多いこともあり様々な楽器の音色を楽しむことができます。イントロで聴かれる音は、通称「親指ピアノ」とも言われる楽器、「カリンバ(Calimba)」に似ている感じです。この楽器、どこかでピックアップする予定であるPat Methenyの "The Way Up"の "Part 1"の冒頭でも聴くことができます(左にリンクを貼ったライブ版では、4分52秒あたりから観ることができます)。

ここでも、キーボーディストのDon Grusinが、M-2で取り上げたFender Rhodesのような浮遊感のある音を使い、温かみのある仕上がりとなっております。ちなみに、M-2でキーボードを弾いているDave GrusinはDon Grusinの兄でして、2人ともキーボーディストとして活躍しておられます。
また、オーヴァーダビング(後付け)とは言え、ここで聴かれるストリングスも全体の温かみを作っていると言えます。M-4ほどの物寂しい感じはしませんが、これも「静」を基調とした優しい曲です。

M-7 "A Little Bit Of This And A Little Bit Of That"
                                                              (Lee Ritenour)(N.Y.C Rythem Section)

"In Rio"のラストを飾るこの曲は、Lee Ritenourの1976年発表の1stアルバム "First Course"の最初の曲でもあります。彼の最新アルバムである "A Twist Of Rit"(2015)でも全く違ったアレンジでこの曲を聴くことができます。彼にとってはかなり思い入れのある曲なんでしょうか。

この曲だけ、アコギの音がどこかエレキっぽい部分があります。チョーキングといった奏法を多用していたりしますね。アタックの音といいクラシックギターではないのでしょうか。原曲はサックスが全面的にフィーチャーされていて(原曲で吹いているのはCalifornia rythem sectionにいるErnie Wattsです)、明るめのアップテンポの曲であります。どちらかというと、原曲に近く、ギターが全面的に弾くというよりもJerry Heyのアレンジによるホーンセクションが目立ち、キーボードが重要な立ち位置にいる感じです。

陰ながらベースのMarcus Millerも要所要所でスラップを入れてきたりしていて、存在感を発揮しています。どこかバリトンサックス風の音に感じるような部分もあり、多彩なサウンドで曲に貢献している感はあります。
76年のオリジナルと、本アルバムと最新アルバムと、3つの異なったアレンジで聴き比べてみても面白いのではないでしょうか。


以上、僕自身のフュージョンとの出会いから始まり、本アルバムの解説、コメントを述べてまいりましたが、いかがでしたでしょうか?
多少でもフュージョンの魅力がお伝えできていたとしたら、望外の喜びでございます

書きたいことが多すぎてしまい、話が右に左に逸れたりして、また非常な長文となってしまいました。

ここまで、この拙稿に目を通していただいた方、本当にありがとうございます。一言「フュージョン」と言いましても、その中には非常に多様なスタイルが存在します。この記事のみでその魅力を余すことなくお伝えすることはできませんので、継続して様々な形態のフュージョンを取り上げて参りたいと思います。

第2弾では、打って変わって全く別のスタイルのフュージョンアルバムをピックアップいたしますので、ぜひ一読いただければ幸いでございます。

今後とも、ぜひ本Everyday Fusion!!!をよろしくお願いいたします!!


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