メンズビオレ

歯ブラシ立ての隣に、1つだけ洗顔クリームが置いてある。他の洗顔料はみんなお風呂場に集まってるのに、この洗顔クリームだけ隔離されている。

誰にも使われないから、1人だけ仲間外れにされている。お兄ちゃんのためにお母さんが買ってきたのに、私の石鹸(2号機)の方が使い心地が良いって言ってお兄ちゃんは一回しか使わなかった。洗浄力が強くて、ごろごろしたスクラブが入ったそれは、肌が敏感なお母さんや私が使うわけにはいかず、お父さんは固形石鹸が好きだからと言って使わず、まだたっぷり残っているのに廃棄されることが決定してしまった。

捨てられるまでの間、歯ブラシの隣でじっとしていることになった。誰もそれに見向きもしない。やがて洗面所の風景にすっかり馴染んでしまって、みんな洗顔クリームのことを忘れてしまった。私しか、その存在を気にしていない。

誰も使わない洗顔クリーム、あまりにも寂しそうだったから一度使ってみようと決意した。いつもの石鹸のふわふわの泡と全然違って、ざらざらのスクラブが頬をつついて痛かった。水で流したら、つるつるのお肌になってさっぱりした。ほんのりシトラスの香りがした。

いつも細心の注意を払っていたからこそ保たれていた肌が少しだけ蝕まれたような気もした。あんなに刺激が強いものを使っていたら肌が荒れてしまう。だけど、もう一回使いたくなってしまった。どういうわけでこう思ったのか分からない。ただ、夜更かしをする時のわくわく感に似てるなとぼんやり思った。

次の日の朝も、洗顔クリームは歯ブラシの隣にいた。皮膚の薄いところにはなるべくスクラブが当たらないように優しく洗った。ちょっと痛かったけど、さっぱりした。爽やかな香りもした。

その次の日の朝も、その次の次の朝も、その洗顔クリームを使った。優しく優しく、刺激が少なくなるように、洗った。いつものふわふわの泡で洗うよりもすっきりした。

ある日、夜も使ってみようと思った。夜はとりわけ丁寧に顔を洗うことにしている。だから朝より多めに石鹸を使って洗う。あの洗顔クリームを使ったら、朝よりも多くのスクラブが肌を攻撃することになる。それでも使おうと思った。

いつもより慎重に顔を洗った。刺激が最小限になるように、じっくり洗った。たくさんの粒が頬を鼻をつついた。痛かった。水で流すとさっぱりした。でも、肌がひりひりした。


もう使うのはやめようと思った。

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