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そこにあるのは希望か、失望か。 -Calvin HarrisとEDMとサマソニ-

 日付も変わり、いよいよ本日深夜から開始する日本の洋楽ファンにとっての夏の締めくくり、SUMMER SONIC。以前書いた通り、今年はとにかくラインナップがカオス極まりなく、正直どこから話せばいいのやら..という状態だった。だからこそ、前回はそんな分からなさをそのまま書くことにした。

 とはいえ、やっぱり今年のサマソニはある一点に尽きるのではないかと思う。それがどうなるかどうかで2017年のサマソニがどんな風に語られるのかが決まるし、ある意味では今後の洋楽シーンも変わっていくかもしれない。もしかしたら変わらないかもしれないけど。

 それは、Calvin Harrisのパフォーマンスだ。

 当初、彼が今年のサマソニのヘッドライナーを務める事が分かった時、僕の中では完全に、「Zeddが上手くいってるから思い切ってEDM系でやることにしたんだろうなぁ」くらいにしか思っていなかった。昨年のコーチェラのように、ド派手な照明とアンセム連打の、超華やかなステージが見れるんだろうなと思っていた。

 僕はEDMが大好きだし、その中でも彼の才能は特に素晴らしいと思っていた。あらゆるEDM系のプロデューサーが何人もの作曲家を起用して頑張って時代に合った楽曲を作る中で、彼はたった一人で時代の先を射抜いてしまう。

 彼はバランス能力に特に秀でている。例えば、EDM全盛期に発表された"Motion"では、当時流行していたもののCalvin Harrisのカラーとは若干合わないBounce系の楽曲をUmmet OzcanやR3habを投入することで無理やり取り入れている。それは、当時のCalvin Harrisという"ブランド"が"EDMそのもの"を体現していたからであろう。彼は自身のアーティスト性と時代のニーズを上手く織り交ぜながら活動してきたともいえる。

 つまり、いわゆる音楽評論的な文脈から最も遠い存在がCalvin Harrisだったとも言える。だからこそ、当時彼がサマソニのヘッドライナーを務める事が分かった時、多くの音楽ファンは失望していた。

 しかし、そんな状況は一気に変わっていった。今では、「今年のサマソニのCalvin Harrisを見ないなんてどうかしてる」なんて言われようだ。むしろ本来ならば彼を歓迎するべき、所謂パリピの反応はあまり見られなくなってしまっている。

 そのきっかけが、彼の新作「Funk Wav Bounces Vol.1」であるのは言うまでもない。今作で彼は、"Calvin Harris=EDM"のイメージを真っ向から破壊し、正当に音楽家として評価されることになった。

 本作で彼は、彼自身が愛してやまない80年代のポップ・ミュージックに正面から向き合い、現在進行系の才能達と共に、新たなポップ・ミュージックを創り上げた。その中でも特筆すべきは、やはり現行音楽シーンにおける最重要人物であるFrank OceanとMigosを起用した"Slide"だろう。

 この楽曲の根底にディスコ的なモチーフがあるのは一聴すれば何となく分かる。それでも一切古めかしさを感じさせないのは、Frank Oceanの声とMigosのラップはもちろんの事、Calvin Harris自身の音の選び方が優れているからだろう。この映像を見ると、彼が音に尋常ではないこだわりを持っていること、そして何より音楽が好きで好きでしょうがないことがすぐに分かる。

 「パターン化している」と揶揄されるEDMとは明らかに異なる、ひたすらにポップ・ミュージックを追求した唯一無二のダンス・ミュージック。Calvin Harrisは一見、これまでの彼のイメージであるEDMを捨て去ったように思えた。だからこそ、それまでEDMが嫌いでしょうがなかった人々は、彼の変化を見て、「EDMの時代は終わりだ。これからは純粋に音楽の良さが評価される時代になったのだ」と言い始め、サマソニのチケットを買うことにした。

 よくこの作品と並べて語られる一枚に、2013年にDaft Punkが発表した「Random Access Memories」がある。
 「EDMの潮流を生み出したプロデューサーが、本気で80'sのようなブラック・ミュージック経由のポップスを作る」という意味で両作は共通している。そして、「これでEDMは終わる」と期待されていた点でも重なる部分はある。

 結論から言えば、"RAM"が出てからディスコ好きは滅茶苦茶増えたし、ナイル・ロジャースやジョルジオ・モロダーの評価は上がったが、別にEDMが終わることはなかった。

 確かに、最早EDMはポップ・ミュージックの最新トレンドではない。その点で言えばEDMは終わったと言えるだろう。今はその役目はトラップ系のヒップホップか、あるいはDespacito的ラテンが請け負っている。

 とはいえ、TrapやFuture Bass、あるいはHouseを中心にEDM文脈のダンス・ミュージックは今も盛り上がっているし、ULTRAやEDCやTomorrowlandは依然として盛況だ。僕は今年のEDC JAPANに足を運んでいるのだけど、かつては流行らないと言われていた前述のジャンルが普通に盛り上がっている様子を見て、「ブームではなく、文化として定着したのだ」ということを実感することが出来た。多少人数が減ったとしても、これくらいの方がちょうどいい。ちなみに今年のEDC JAPANでは多くのDJが"How Deep Is Your Love"をプレイしていた。

 とはいえ、2017年、最も勢いがあり、かつ続々と新しく刺激的な動きが起きているのはヒップホップである。「Funk Wav Bounces Vol.1」にはそんな時代を象徴するかのように、旬のラッパーが大集結している。最近の音楽好きの間でのトレンドは、海外というかアメリカとの同時代性であり、そんなムードにも彼の作品はよく合う。ある意味、ここでもCalvin Harrisはバランスを取っているのだ。

 Calvin Harrisは滅多に自身のパフォーマンスを披露しない。それは、元々ラスベガスの高級クラブでのレジデントで十分やっていけるからという理由もあるのだろうけれど、何より彼自身が、自分のアーティスト性とニーズのバランス感覚をどのようにライブで表現するべきか悩んでいるからではないだろうか。

 少なくとも、「Funk Wav Bounces Vol.1」発表後、彼がラスベガスのクラブに出演した際のDJセットは、恐らく同作を大絶賛する人が心の底から忌み嫌うであろう、超アゲアゲのEDMセットだった。とはいえ、ラスベガスという場所がどういう場所なのかを考えれば、これが正解なのかどうかはすぐに分かるだろう。

 昨年のCoachellaでのパフォーマンスもまた、アゲに徹底したEDMセットだった。「Coachellaはロックフェスじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、実際のところ現在のコーチェラはセレブの楽園であって、ロックフェスだった頃の面影はあまり無い。要はラスベガスと同じである。

 そしてサマソニである。正直なところ、彼がどんな事を考えてサマソニへの出演を選んだのかは全く検討が付かない。前回僕が書いたように、サマソニはロックフェスと言い切るのは不可能だが、別にセレブ的空間でもない。

 僕の予想では、サマソニを都市型音楽フェスティバルと解釈して、Coachellaのように普通にアゲアゲのEDMセットを持ってくるんじゃないかと思っているのだけど、EDM全盛期に一切来日していない男がそんな事するのだろうか?もしかしたら、思いっきり「Funk Wav Bounces Vol.1」に寄せてくるのかもしれない。今年、たった一度のフェスティバル出演であるサマソニに向けて、彼が手を抜いてくるはずがない。アジアのマーケットと、自身の音楽家としての感覚の狭間で、彼はどんな答えを導き出すのだろうか?


 いずれにせよ、明日彼のパフォーマンスが終わる頃には、SNS上は絶賛と失望がそれぞれ溢れているだろう。日本におけるEDMの位置付けも変わっていくだろう。彼は今、Daft Punkが足を踏み入れてこなかった領域に足を踏み入れようとしているのだ。その事実自体に僕は物凄くワクワクしている。

 僕個人としては、普通に"Slide"も"This is What You Came For"も"Cash Out"も"Sweet Nothing"も"How Deep Is Your Love"も"Under Control"も"Bounce"も"Summer"も聴きたいし、単純に楽しく踊れればそれでいいと思っている。

 だって仕事は大変だし、雨ばっかりで全然夏を楽しみきれていないから。


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ノイ村

26歳の会社員。趣味で音楽の事を書いてます。第一回「rockin'on presents ONGAKU-BUN 音楽文大賞」入賞。 連絡先 : neu_mura@outlook.com

音楽の話をしよう。軽めに。

最近では1分で読めなくなってきている音楽コラム。
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