無駄を削ぎ落とした、完璧な無駄 -Fidget Cubeについて-

 スコスコスコスコスコスコスコスコ...と隣の席から、猛烈な貧乏ゆすりの振動音が聞こえる事はありませんか。

 あるいは、手元にあるボールペンを意味もなくノックし続けたり、人差し指のタップがヘビメタを熱演したりしていませんか。

 寂しくも悲しくもつらいことばかりでもないけれど、何かを考える時や、逆にただただ無意味な時間を過ごさなくてはいけない時に、どうしても身近にあるモノを触りたくなったり、体の一部を動かしたくなってしまう。そんな人のためにピッタリの商品を先日発見いたしました。まさに現在進行形で貧乏ゆすり(BPM195)を続けている僕としては、「これこそ自分のためのモノだ!!」と深く感動し、即座に購入を決めました。

 それが、世界最大のクラウドファンディングサービス、KickStarterから発表された「Fidget Cube」です。

 見てください、この完璧なフォルム。カラーバリエーションは10種類で、必ずあなた好みのFidget Cubeが見つかる事でしょう。気になるお値段、なんと19ドル(日本円で約2000円)です。数日間だけ、いつものランチやディナーを節約すれば、このキューブがあなたの手元にやってくるのです。

 そして、可愛らしいサイコロを彷彿とさせる手のひらサイズのこのキューブには、なんと6つもの機能が隠されているのです。超ハイスペック!

 1. 丸いボタンをカチカチする(音あり/なしの2種類でマナーにも配慮!)

 2. ジョイスティックをグルグル回す

 3. シーソーみたいな形のボタンをパチパチする

 4. 楕円形のくぼみをナデナデする

 5. ギアとボールをグリグリ回す

 6. ダイヤルをクルクル回す

 それでどうなるか?

 例えばライトが点いたり、音が鳴ったり、ギアに暗証番号が付いていてそれを解除するゲームだったり、ポケモンGOと連動していてポケストップをチェック出来たりするのか?

 何一つ起きません。ただひたすらに無意味です。ボタンは、ボタンそのものである事に意味があるのです。

 そう、この「Fidget Cube」は、ただひたすらに「なんか手元にあるモノをグリグリしないと気がすまない人たち」の「グリグリしたい」欲を満たすための、ただそれだけのものです。

 「無意味なものに19ドルも払うなんて馬鹿げてる」という声が聞こえてきます。ちなみにアメリカ発のプロジェクトなので、日本から買うと別途送料が同じくらいの値段かかります。4000円近く払って得られるものが「ただひたすらグリグリできる物体」です。

 それではこちらをご覧ください。全編英語ですが、何となく意味は通じると思います。Oh...the bubble wrap!

 なんか買ったら人生が前向きになりそうな気がしますよね。既に僕は教授との会話中にずっとFidget Cubeをグリグリしている自分の姿を思い浮かべています。一応、「このキューブを買うと、より集中力を高める事が出来ます」的な効果が示されていますけど、個人的には「そんな事よりいいからグリグリしたい。ずっとグリグリし続けたい」という気持ちでいっぱいです。

 きっとそんな人が沢山いたからでしょう。現在、このプロジェクトはKickstarterで圧倒的な支持を集めています。どのくらい圧倒的かというと、

・目標金額(1万5千ドル)は8月31日のプロジェクト発表後、24時間以内に余裕で達成

・現時点で約500万ドル近くの支援金を獲得、支援者の数は約12万人

・ネットメディアは当然として、米国のテレビ局までニュース番組で紹介

 これまで様々なKickstarterのプロジェクトが話題になってきましたが、それらの多くは「誰が見ても実用的だと分かるもの」か「決して多くはないけれど、熱狂的なファンベースが存在するもの」でした。ところがFidget Cubeはそのどちらでもありません。同僚に紹介してみたところ、ただひたすらに困惑していました。

 それでも、確かに12万人近くの人々がFidget Cubeを求めている。そしてその中には僕も含まれています。なんでだろう?と考えてみると、

1. 多くの人々が潜在的に抱えている欲求を刺激している。

 人々はプチプチを筆頭に、潜在的にグリグリしたい欲求を抱えています。こればっかりは人類の不思議なので、これ以上説明しようがないです。ただ、「ムゲンプチプチ」という商品が出るくらい、人はプチプチが大好きなんです。その欲求を、Fidget Cubeは見事に射抜いています。しかし、「ムゲンプチプチ」は現在生産終了しています。

2. その欲求を、完璧に洗練された形で提供している。

 これが重要です。「ムゲンプチプチ」には、多くの問題がありました。特に致命的なのは、スピーカーから音が出るという非現実性です。プチプチは、潰した場所から音が出るからこそ素晴らしいのです。また、ただプチプチを模しただけのデザイン、致命的にかっこ悪いキーチェーンの存在は、「ムゲンプチプチ」をただのジョークグッズへ転落させてしまいました。多くのプチプチ愛好家たちは、その仕上がりに深く失望していました。

 Fidget Cubeは、あくまで実際に触れるものが反応するという現実性、そして徹底的に無駄のないスタイリッシュなデザインを両方兼ね備えています。

 Fidget Cubeは決して単なるジョークグッズではない。むしろそのデザインによって、「グリグリしたい欲求」とは別の、「なんかこれ欲しい」という感情を刺激しているのです。最初に画像を見た時、具体的な商品説明をしていないのに「手にとってみたい!」と思いませんでしたか?

 事実、Fidget Cubeはデザインに執拗にこだわっており、現在は支援者も交えて「キーチェーンの有無」や「パッケージデザイン」について議論を重ねていますが、キーチェーンはあった方が便利なのは当然で、パッケージは普通のダンボールだって構いません。それらは商品のクオリティとはほとんど関係ありません。それらの要素にこだわるのは、商品にとってデザインが非常に重要だからです。

 「こんなもの必要ない」と思うかもしれませんが、「ではなぜ、ここまで人気を集めているのか」について考えてみると、色々面白い事が見えてくるかもしれません。ところで僕はそんな事はどうでもよくて、今すぐにでもグリグリしたくてしょうがありません。同じような想いを抱いた方は、こちらの画像リンクからどうぞ。

テレキャスター・ストライプ / ポルカドットスティングレイ

 このバンドも「音楽以外の要素の重要性」を分かりすぎている例の一つで、自主制作音源で、自主制作PVで、100万再生超えを実現してしまってます。凄い。分かりすぎていて怖い。

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ノイ村

26歳の会社員。趣味で音楽の事を書いてます。第一回「rockin'on presents ONGAKU-BUN 音楽文大賞」入賞。 連絡先 : neu_mura@outlook.com

音楽の話をしよう。軽めに。

最近では1分で読めなくなってきている音楽コラム。
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