君はRadioheadを知っているか? -機能性の時代と「よく分からない美しいもの」-

 「TIME/タイム」という映画を知っていますか?

 「時間=寿命」がそのままお金となり、富裕層が永遠の命を得る一方で、貧しい人々が時間を失って死んでいく世界。

 言わずもがな、人間には寿命というものがありまして、例えばこの世にある全ての音楽を聴く事なんて不可能です。そして、2016年現在、人々はとても忙しい。別に仕事に限った話ではありません。連絡手段が進化し、少しだけ面倒な「電話」という手段はより高速で手軽な「メール」となり、更に"既読"という概念と共に「LINE」へと変わっていきました。直接的なコミュニケーション以外でも、「twitter」や「Facebook」や「Instagram」で友達や他人の思考や行動をいつでも知る事が出来るようになり、そして発信するようになりました。つまり、私達は起きている間、常にコミュニケーションに忙しい。

 そして、私達が「お金か時間、あるいはその両方」を使って購入するものは、「自分のための物」か「コミュニケーションのための道具」です。そして、なるべくなら低いコストで高い効果を得たいと思うのが普通の考え方です。だからこそ、安くて手軽で美味しい食事が人気を集めるわけです。これは前者の場合です。

 コミュニケーションに忙しい時代、「コミュニケーションのための道具」も時間に対するコスパが求められています。だからこそ、気軽に支持したり批判出来る「0か1か」という構図のネットニュースを読む人が増えて、twitterやFacebookを見ながら楽しめる6秒から30秒くらいの動画が人気を集める。通勤/通学時間の合間に読めるような記事が人気になって、更にその記事に"意外性"や"社会性"が加わると、シェアすることで何か優越感を感じる事も出来る。短時間で、高い価値を得る事が出来る物の需要は更に高まっていく。

 そんな時代に、「説明しづらい、よく分からないもの」の需要は着々と減ってきています。その一つが芸術です。


 随分と堅苦しい文章ですね。こんにちは、N村です。冒頭の文章を読んで、「何当たり前のことを言ってるんだ若造が」と思う方がいたらその通りなので安心してください。

 以前、今年のSUMMER SONICで最も見るべきなのはThe 1975であるという記事を書きましたが、その記事を否定するつもりはありません。でも、今年のサマソニのラインナップページを見て、本当に心の底から腹を立ててしまいました。

 何故、RadioheadとThe 1975を被せてしまったのか!!

 ああ、悲しい!2014年にArctic MonkeysとPhoenixが被った時、あるいは2015年にPharrell WilliamsとD'Angeloが被った時の悲劇はまた繰り返されました。ちなみに僕は全て見に行きましたが、マリンスタジアムから幕張メッセに全力疾走するのはもうしたくありません。控えめに言って、一日中広大な会場を歩きまわり、時にはBABYMETALでモッシュッシュして、時にはZeddで踊り狂い、体中に乳酸が蓄積された状態で全力で走るのは苦行以外の何物でもありません。ああもどかしい!そんな風に悩んでいると聞こえてくるこんな声。

「The 1975は興味あるけど、Radioheadは正直よく分からなかったからいいや」

「なんかRadioheadってよく分からないけど、信者がウザいからヤダ」

「Radioheadって誰?Zeddみたいに踊れるの?」

 悲しい。僕は凄く悲しいです。そして、こんな状況だと僕はとても不安を感じます。

 確かに、2003年にRadioheadが出演したSUMMER SONICは、今では伝説として語り継がれています。それは勿論、とある歴史的かつ激レアな楽曲を演奏したからなんですけれど、演奏した理由として、「オーディエンスが素晴らしかったから」というのがあるんですね。でも、それは13年前の話です。2012年に彼らがフジロックに出た時、史上最大かと思われる記録的な動員を記録していましたが、それはフジロックの話です。サマソニは今やULTRA JAPANやSENSATIONと同列で語られるようになったのです。

 ああ嘆かわしい。過去にはメインステージ全部ラウド/メタルな年もあったのに。っていうかAviciiは人だ。フェスじゃねぇ

 こんな状況を作り出したメディアも責任重大だ。「あの伝説の2003年以来、ついにRadioheadが帰ってくる!」、「あのRadioheadがサマソニに!」、「新作を引っさげてのステージに期待!」、「日々変わるセットリスト!90年代の楽曲も多数!」。オーケー、盛り上がってるのは分かった。でも待ってくれ。

 「あの伝説の2003年」って何?90年代の楽曲を披露するのって普通じゃないの?

新作も何も、Radioheadって何?

 最近サマソニを知った人が、とりあえず「Radiohead」でYouTubeを検索する。すると「Daydreaming」が一番上にヒットする。どうやら一番新しい曲のようだ。聴いてみる。

 「よく分からないし長くて眠くなる。もっとこう、フェスらしくみんなで盛り上がれるような、楽しく一体となれるような曲は無いの?」

 無いよ。一曲たりとも無いよ。

 「じゃあいい。興味ない。」

 ちょっと待ってくれよ。そもそも音楽ってどういうものだっけ?「音楽」を広辞苑で調べてみよう。

 "音楽:音による芸術"

 オーケー、少なくとも「ツール」ではない。少なくともみんなで盛り上がれるような、楽しく一体となれるような物だけが音楽じゃない。別に一人でじっくり聴いて、色々な事を考えるような音楽があってもいいはずだ。芸術ってのはそういうものだ。色々な見方がある。色々な考え方がある。色々な答えがある。歴史的な芸術家が描いた作品が30円で投げ飛ばされる事もあれば、子供が描いた絵が数億円で落札されることだってあるんだ。今の世の中、誰もが物事をすぐに「良いか悪いか」の二択で考える。物事ってのはそんなに簡単じゃないはずだ。もっと考える時間を...。

 「どうでもいい。今、この瞬間にも友達から8件もLINEの着信が来てる。そっちの方が私にとっては大事なの。」

 ...確かに友達との時間は大事だ。でも、一人でじっくりと考えたり、人の事を気にしないで、色々な物に触れる事ってのは多分必要なんじゃないか。多分としか言えないのがもどかしいんだけど...。さっきの話で「楽しく盛り上がれる」ってのがあったけど、例えば「楽しい」か「楽しくない」かじゃなくて、「美しい」か「美しくないか」っていうのはどうだろう。例えば、「No Surprises」っていう曲がこの世にはある。一人でじっくりと、出来ればヘッドホンを使って聴いてくれないか。4分間だけ、一人になってみてくれ。

 歌詞を見ると分かるけれど、この曲の歌詞はとても暗い。最後に繰り返される「No surprises please」ってのは人生に疲れてしまった男が静かな人生を望んでる様子を示してる。これは僕だけかもしれないけど、正直毎日を過ごしていて辛いなって思う事も沢山ある。つい、昨日だって就職活動の面接を失敗して深く落ち込んだんだ。「だからこの曲を聴くと共感出来るんだ」なんて話をしたいんじゃない。世の中ってのはそういうものだし、感情っていうのも色々ある。だからこそ、楽しいだけじゃない、あらゆる世界やあらゆる感情を描いた音楽があってもいいじゃないかって思うんだよ。人間ってよく分からないじゃないか。カオスといってもいいくらいだよ。そして、そのカオスに対して向き合った音楽は強く、美しいんじゃないか

 「Idioteque」っていう曲が僕は好きで、この曲は執拗に反復する無機質なビートも相まって凄く不気味な印象を与えるし、歌詞もほとんど意味不明で分裂症気味だ。でもどういうわけか、聴いていると曲の中に引きこまれてしまうんだよ。それは多分、自分の中にある訳の分からない部分。何だか叫びたくなってしまうような部分を垣間見てしまうからなんじゃないか。

 この曲は電子音が中心だけど、90年代にデビューした頃の彼等はいわゆるギターロックバンドだった。それでも、ギターとベースとドラムとボーカルだけで随分と弱っちい感情を随分と強く描きあげた曲を作っていたんだけど、「何でこんなに感動するんだ!?」って思いながらどんどん弱っちい若者の心を掴んでいった。で、人間ってのは大体寂しくて弱いんだよ。多分。だから群れを成したり名前を隠したり、どうでもいいことで優越感を感じたりするわけでさぁ。

 この曲はRadioheadの2ndに収録された曲だけど、サビで繰り返すフレーズは「僕を見捨てないで、僕を捨てないで」って歌ってるわけで随分と弱い。でも僕はなんとなく凄く良い曲だと思うし、合間のギターフレーズもシンプルなのにぐっとくるんだよ。

 で、そんな彼等のある意味では究極にどうしようも無い歌が「Creep」って曲で、これは彼等の1stアルバムに収録された曲だ。本当にクソみたいにどうしようもない曲で、こんな曲に感動してる自分に腹が立つくらいだ。

 歌詞は要約したくないから見て欲しいけど、どうせクリックしないだろうから無理して要約するよ。「君は本当に特別でまるで天使のように美しいのに、俺は本当にクソでウジ虫みたいにどうしようもないやつだ。あの娘が消えていく。俺はこんなところで何をやってるんだよ?」って曲だ。あまりにも象徴的なものだから、デビューしたばかりの頃はこの曲の一発屋扱いされてて、彼等もこの曲を封印するようになった。それからずーっと、めったに演奏してこなかった。だけどその間に彼等は何枚かの歴史的なアルバムを生み出して来たんだ。特に「OK Computer」と「Kid A」はそれまでのロック音楽の文脈を完全に超越してしまった音楽史に"残った"名作だ。そうして、初期のイメージを徹底的に破壊してきたんだ。ところで、2000年に始まったSUMMER SONICは「日本でRadioheadがヘッドライナーを飾るフェスティバルを開く」という想いで始まったんだ。その悲願がついに叶い、Radioheadがヘッドライナーとしてやって来た2003年のSUMMER SONIC。そこで彼らは「Creep」を演奏した

 「Creep」を演奏したから伝説になったわけじゃない。元々人々の心をよく分からないけれど突き動かしてきたバンドが、来日して、多くの人々がその楽曲の数々に浸り、感動して歓声を上げたライブの最後に、「Creep」を演奏したから伝説になったんだ。ひとりぼっちの奴が数万人集まって、「俺はウジ虫だ」って大合唱してるんだよ。クソ素晴らしいじゃないか。

 ...とはいえ、別に「Creep」が凄いってだけじゃないんだよ。元々Radioheadはライブバンドとして高い評価を獲得してきたんだ。だからこそ、今回のツアーは海外であっという間にソールドアウトしたんだよ。彼らのライブでは、さっきまで書いてきた音がもっとダイナミクスを持って...。まあいいや、例えば、「There There」っていう曲のライブ映像が良い例だからそれを見てくれよ。さっきのサマソニの1曲目だよ。そのまま「2+2=5」っていう曲に入るけどそれも凄まじいんだ。

 長くなってしまった...。結局自分も痛い信者の一人だよ...。結局何が言いたいかっていうと、「楽しい」か「楽しくないか」、「共感できる」か「共感できない」か、みたいに二元論で色々な物事が語られがちだけど、「よく分からないけれど自分は美しいと思う」音楽があってもいいと思うし、その一つの究極の形がRadioheadだと思う。だから、今年のSUMMER SONICに行くけど、彼等に興味が無いという人は一度一人で聴いてみて欲しいっていう事です。もう一度最初のリンクを貼っておきますね。

 印象が変わったら嬉しいです。以上です。さっきの人はもうどこかへ消えました。




[余談]

 今回はかなり実験的に書きましたけど、実際凄いバンドだと思うのでこれを機に聴く人増えたらいいなぁと思います。日頃多くの音楽に接してきてますが、ふとRadioheadを聴くと「やっぱりRadioheadはすげぇなあ」と思いますからね。新作「A Moon Shaped Pool」も買って聴きましたけどとても良い作品でした。ロック色は皆無ですけど、元々彼らの静かな側面が好きな僕としては最高でしたよ。もうすぐCDも出るので是非。

 とはいえ、上記の文章ではまるで入門にならないので、個人的なチョイスで彼らの名曲をもう少しだけ紹介していきます。「あの曲が入ってないじゃないか!」という声が聞こえて来そうですけど、これはあくまで入門編です。

Nude / Radiohead (2007, "In Rainbows"より)

Fake Plastic Trees / Radiohead (1994, "The Bends"より)

The Daily Mail / Radiohead (2011, アルバム未収録)

Karma Police / Radiohead (1997, "OK Computer"より)

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ノイ村

音楽の話をしよう。軽めに。

最近では1分で読めなくなってきている音楽コラム。
1つのマガジンに含まれています

コメント4件

Radioheadはじめてちゃんと観ました。DaydreamingもCreepも聴き入りました。思索性の高い音楽だと思いましたが同時にとてもピュアなというか、無垢なあどけなさを感じます。
まさしく「よく分からないけど美しいもの」でした。
いつもたくさんの音楽を教えて頂いてます。ここにお書きになっていること 、とても素敵だと思いました。
レディオヘッドは2000~2005年頃熱烈に聴いてましたね。繊細で好きです。
@tokoさん
気に入っていただけて幸いです!名曲は多すぎて書ききれないので是非他にも色々と聴いてみてください!
@進月さん
ということは「Kid A」の頃ですね。リアルタイムで体感したのが羨ましいです...。先日リリースされた新作「A Moon Shaped Pool」は今までの中でも特に繊細な名作だと思いました。
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