さぁ、当日券を買いに行こう。-自己肯定感の時代におけるヒーロー、Marshmelloについて-

最初に結論から書きますね。

このnoteを読むのに、まだMarshmelloの来日公演のチケットを買ってない人は、当日券を買え。そして踊れ。

3月22日(金) : 幕張メッセ、23日(土) : 神戸ワールド記念ホール

以上!(予定がある人はしょうがない)

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以下、本編です。

1. 現実とは違う、「もう一つの世界」を肯定するMarshmello

今やカンヌやアカデミー賞が露骨に敵視するようになるほど、映像コンテンツにおいて大きな影響力を持つようになったNetflix。一見無敵かと思われる彼らが、今年、こんな発言をしたことが話題となりました。

Netflix「ライバルはフォートナイト。すでに負けている」と発言。TV画面の奪い合い激化 (engadget, 2019.1.18)

"フォートナイト"とは、今やビデオゲームにおける最流行ジャンルとなった「バトルロイヤル」形式のオンラインゲームの代表的存在。現在進行形で死ぬほど流行っており、かくいう僕もよく遊んでおります。"ゲームとして"遊ぶ分には基本プレイ無料なのが良いですよね。

今、"ゲームとして"遊ぶ分にはと書いたのがポイントで、このゲーム、課金要素はありますが、お金を払ったところで特にキャラが強くなったり操作が楽になったりとか、そういう恩恵は全くありません。その代わりに、衣装が選べたり、新しい踊りを覚えられたりします。

「え、それだけなの?どういうこと?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これでフォートナイトは莫大な利益を生み出し、Netflixを超える影響力を世界に与えているのです。

さて、現代はビデオゲームの時代です。もしかしたら、その影響力は既に映画やドラマを上回っているかもしれません。

2018年にビデオゲーム業界は4兆7000億円超もの売上をアメリカだけで記録、ゲームが映画やストリーミングサービスよりも人気コンテンツに  (Gigazine, 2019.1.28)

言わずもがな、ビデオゲームは、現実で出来ない事をするための最強のツールです。インフラが整い、オンラインゲームが定着した現在では、ビデオゲームは我々が生きるもう一つの世界と言って良いでしょう。

(完全に余談ですが、僕も現在進行系で「Apex Legends」と「Red Dead Online」に死ぬほどハマっておりまして、特に後者では女性キャラを使って「クールな西部劇の女性ガンマン」に成り切りながら1899年のアメリカを満喫しております。)

我々は、"フォートナイト"の世界で、現実の自分にどうしようもなく存在する限界を超えた、ファッションやダンスやコミュニケーションを楽しんでいます。

そして、Marshmelloはそのことを正面から肯定してくれました。彼は"フォートナイト"上で自身の単独公演を実現してしまったのです。

2019年2月2日、参加したオーディエンスの人数は1,000万人以上とも言われています。それぞれのプレイヤーは、ビシッと自前の衣装とダンスを用意してこの日を待ち望んでいました。

先週、ある女性と話していたら『うちの息子が土曜日にはどこにも出かけないって言い張るの。フォートナイト初のマシュメロのコンサートに行かなきゃいけないからって』と言っていました。
ゲーム「フォートナイト」でDJが人々を熱狂の渦に! 仮想ライヴから見えたメタヴァースの未来, WIRED.jp 2019.2.20)

普通に考えたら、そのお金を貯めてリアルな服を購入して、本物の体でダンスを覚える方がよっぽど建設的だと思うでしょう。でも、そんなことをしたって、理想の自分には程遠いわけです。ただでさえ、生活の中で"理想"のハードル自体がひたすらに高くなっていくというのに。

Marshmelloは、彼らのファッションやダンスのチョイス、何より"フォートナイト"そのものを「クールだ」と考え、そして実際にコンサートを実現してしまったのです。そう、これはフォートナイトの世界に生きる僕たちのために開かれた、"本物のコンサート"なのです。

この"歴史的なコンサート"は、彼の代表曲、"Alone"から始まりました。これが、このコンサートの"異常さ"と"正しさ"を表しているのではないかと思います。

"I'm so alone
Nothing feels like home
I'm so alone
Trying to find my way back home to you"
すごくさみしい気分だ。
どこにも居場所がない気分だよ。
僕はひとりぼっちなんだ。
どうにかして、君のところへ帰る方法を探しているんだけどさ。(筆者訳)

2. 現代のポップミュージックのスタンダードを鳴らすMarshmello

映画「スパイダーバース」。まだ見てない方は是非あの異常なポップカルチャーの洪水を浴びていただきたいですが、あの映画で僕がグッと来たのは、「人種・性別・なんなら種別すら超えて、誰もがスパイダーマンになれる」ということでした。それって、ヒーローに助けられる側としても凄く嬉しいことじゃないですか。

そして、Marshmelloも、あのマスクとスーツさえ着ていれば、DJだろうがゲームキャラだろうがMarshmelloになってしまう。もはや、Marshmelloは「Marshmelloというキャラクター」になっていて、誰もがそのキャラクターの活躍を楽しむようになっている。実際、彼の中身が誰なのか、どんなパーソナリティを持っているのかは気にしていないし、むしろ知りたくない。だって、その情報を知ってしまったら、また自分と比べてしまうだろうから。

それほど匿名性が高いキャラクターだからこそ、Marshmelloは他のポップスターがゴシップや政治や社会問題に絡みつかれてしまって身動きが取れない中で、「誰もが楽しめる混じりっ気のないポップミュージック」を作ることが出来るのです。それは言い換えれば、誰もが自分の感情に当てはめられるような音楽ということ。

例として、昨年の大ヒット曲「FRIENDS」という曲を取り上げてみましょう。

「昔から仲の良い二人がやがて恋人同士になる」という古臭いテンプレートを「何度ただの友達だって言えば分かるの?あなたはただの友達!あぁ!友達ってどう書くか知ってる!?F-R-I-E-N-D-Sって書くんだよ!!!」と木っ端微塵に吹き飛ばす痛快な歌詞。

「幻想を抱かれがち、かつ美化されがちなアプローチ」を「誘われる側」として否定する構造。更に上手いのは、リリックMVを見て分かる通りにMarshmelloは「誘う側」であって、Anne-Marieが演じる「誘われる側」を勇気づけると同時に「誘う側」に寄り添っているんです。これぞMarshmelloの本領発揮といったところではないでしょうか。

さすが、「友達にしたいDJ、ナンバーワン」のMarshmelloです。

(おすすめのレシピを紹介してくれるMarshmello)

(ゲーム実況者になってオーバークックをプレイするMarshmello)

(アメリカ版SASUKEに挑戦し、思いのほか活躍してしまうMarshmello)

複数の解釈が出来るような歌詞というのは、優れたポップミュージックにはよくある話かとは思いますが、先程も書いた通りに、Taylor Swiftが「自身の物語」を必要としたり、Ed Sheeranが「みんなのうた」化する時代を踏まえれば彼の特異さが際立つのではないでしょうか。

現在進行系で大ヒット中の"Happier"も、「恋人との別れをどうにか前向きに捉えようとしている」とも取れるし、「避けられない別れを前に、相手を励まそうとしている」かもしれない。もっといえば「命のサイクル」についての話かもしれない。それは聴く人ひとりひとりに委ねられている。

"Know that means I'll have to leave
Lately, I've been, I've been thinking
I want you to be happier, I want you to be happier"
「自分がここを去らなくちゃいけないってことは知っているよ。
最近ね、ずっと考えていることがあったんだけどさ、そう。
君にはもっと幸せになってほしいと思っているんだ。」(筆者訳)

彼は"寂しさ"を描くのが非常に上手い。その最たる例は、Emo Rapの絶対的な存在だったLil Peepが亡くなってから発表された"Spotlight"でしょうか。Lil Peepの楽曲の中でも飛び抜けてシンプルな仕上がりになっているのは恐らくMarshmelloの手腕でしょう。だからこそあまりにも残酷に、ソリッドにLil Peepの声が突き刺さります。

Lovin' you is like a fairytale
I just can't pick up the phone again
This time, I'll be on my own, my friend
One more time, I'm all alone again
君を愛するなんて、まるでおとぎ話の世界にいるみたいだ。
でも、もう電話に出ることも出来ない。
今だけは僕を一人にしてくれないかい。
また僕はひとりぼっちになってしまったんだよ。(筆者訳)

散々、「EDMは終わった」と声高に叫ばれる時代に、Marshmelloが快進撃を続けているのは、その匿名性が故に得られた純粋さにあるのではないでしょうか。だからこそ、彼のDJセットは無条件に楽しいし、一緒にシンガロングしている時にふっと泣きたくなる瞬間が訪れてしまうのかもしれない。

3. 自己肯定感に悩まされる時代に、そっと寄り添うヒーロー=Marshmello

Marshmelloの音楽は、いわゆるベース系と呼ばれる激しいサウンドをベースに、キラッキラのシンセ音と、とびっきりエモーショナルなメロディで味付けすることで、ガッツリ踊りたい人でも、じっくり浸りたい人でも誰もが楽しめるハイブリッド型ダンスミュージックです。現行のEDMシーンはおろか、ポップミュージックシーン全体でも似たような存在はまずいないでしょう。

そう言ってしまえばそれで終わってしまうし、多分それだけでも彼の強さを示す理由になるかとは思います。ただ、Marshmelloの音楽には、そんな手法"だけ"ではなく、「どんなリスナーの心にも寄り添ってくれる」という、本当の意味での優しさが満ち溢れています。

他の人のことばっかり考えたり見ているうちに、周りと自分の境目が曖昧になって、「自分という存在」を認めることが難しくなる。そんな日々の中で、あなたという存在をちゃんと祝福できる場所、それがMarshmelloの音楽なんです。

"I work hard every motherfuckin' day-ay-ay-ayy
I work hard, I work hard every day-ay-ay-ayy, yeah
But today is my day, it's my day"
「毎日、人のために死ぬほど働いてばっかりだ。あぁ、毎日必死で頑張ってるよ。でも今日は自分が主役なんだぜ。今日はその日なんだ。」(筆者訳)

だから、今日だけは現実のことは忘れて、Marshmelloの鳴らすエモーショナルなダンスミュージックに身を委ねてみませんか?せっかくだからフォートナイトみたいな踊りを踊ったっていいんですよ。

だって今日は他ならぬ、あなたのための日なのだから。

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ノイ村

26歳の会社員。趣味で音楽の事を書いてます。第一回「rockin'on presents ONGAKU-BUN 音楽文大賞」入賞。 連絡先 : neu_mura@outlook.com

音楽の話をしよう。軽めに。

最近では1分で読めなくなってきている音楽コラム。
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