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特集 : electrox 2017(2) -FXXK A GENRE.-

 "そもそも、あなたの考えるEDMって何?"


 前回のnoteの続きなので、まだ読んでいないぞ!という方はこちらをご覧ください。今回は現時点で決まってる各出演者を紹介していきたいと思います。前回の記事で「今回のラインナップはかなり興味深い」と書いた意味を感じてもらえたらなと思います。

Diplo [Headliner]

  この記事を読む方に、もし知らなかったとしてもこれだけは覚えておいてほしいのは、「今はDiploの時代」だということ。彼は、例えばULTRA MUSIC FESTIVALやTomorrowlandといった巨大ダンスミュージックフェスティバルで大トリを務めた事は一度も無い。それでも、彼の作り出す楽曲やDJは、常に凄まじい影響をダンスミュージックとポップミュージックに与えてきた。例えば、映画「スラムドッグ$ミリオネア」のアカデミー賞授賞に貢献した、トラウマ寸前の楽曲"Paper Planes"。これはM.I.AがDiploとタッグを組んで作った楽曲である。更に、去年から今年にかけて何度も聴かれることになった"Lean On"もまた、Major Lazor(Diplo+Switch)として、彼が手がけた楽曲である。YouTubeでの再生回数は、現時点で17億回に到達しようとしている。

 活動を始めた2003年頃からゼロ年代後半まで、Diploはハウスやテクノ、更にヒップホップやエレクトロにジャズ、ロックにダブにレゲエまで、世界中のありとあらゆるサウンドを一つのセットに組み込んでジャンルの壁を溶かすような存在だった。そんな彼は、セットの内容こそ現代仕様にアップデートしつつも、今でもこのスタンスを保ち続けている。時にはSkrillexとのユニットJack Üとして、あるいはMajor Lazorとして、あるいはBeyoncèMadonna等のプロデューサーとして、EDM全盛のシーンにおいてビートを全面に押し出した、刺激的なサウンドを鳴らし続けている。ここ数年、彼が力を入れているのが、ヒップホップの流れから生まれたトラップや、レゲエの流れから生まれたムーンバートンという音楽である。ちなみに"Lean On"はムーンバートンの一種だ。では、トラップはどうかというと例えばこんな曲がある。Justin Bieberを再び復活させた"Where Are Ü Now"だ。

 The Chainsmokersの"Don't Let Me Down"を筆頭に、今やトラップはハウスに匹敵するほど巨大なジャンルになりつつある。Diploはその流れを作り上げた一人であり、それは彼が貪欲に音楽を探し続けた結果でもある。2016年はDiploの時代である。彼が今回のヘッドライナーを務めるのは必然だと思う。

Don Diablo

 一方で、そもそもダンスミュージックがEDMとして巨大化するきっかけであり、今でも主力のジャンルでもあるハウス・ミュージックにも変化が訪れつつある。それは言ってしまえば、「4つ打ちのハウス・ビートとド派手なシンセ・フレーズ」というEDMとしてパターン化されたハウスの現状への抵抗だ。それは、冗談交じりで「未来のハウス=Future House」とも呼ばれるが、「70年代から80年代にかけての新しいロック=New Wave」みたいなものだ。それまでの音楽に飽きた人々が、新しいサウンドを作ろうとしている。この動きは多くのダンスミュージック・ファンに支持され、ほとんど不動とも言われるDJ MagのTop 10において、今年、このムーブメントの代表格であるOliver HeldensがAviciiを11位に蹴落とした。そして、82位→30位→15位と急激に順位を上げているのが同じく代表的存在であるDon Diabloである。

 ハウス・ミュージックのマナーには乗っ取りつつも、クールで洗練された音を重ねあげていく彼のサウンドは、新しい何かを求めている現行のダンスミュージックシーンにおいて抜群の威力を持っている。彼のDJセットはほとんど彼の関わった楽曲で構成されており、彼のビジョンは明確だ。それは、未来の音楽を作る事である。「Future Houseはメインステージに合わない」という議論を超えて、今年、彼はTomorrowlandのメインステージに立った。Future Houseは本当にハウス・ミュージックを更新しようとしている。

Clean Bandit

 そんなクールで洗練されたサウンドが求められる状況において、再び時流に乗りつつあるのが、日本でも人気の高いClean Banditである。彼らの場合は、ハウス・ミュージックを土台とした上で、クラシック音楽を効果的に導入することでシーンとは一線を画するサウンドで支持を集めてきた。2014年に起きた"Rather Be"の大ヒットは、前年のDisclosureの大ブレイクも相まって、彼らの鳴らす独特かつクールなサウンドがダンスミュージックファンにも強く求められている事を象徴していた。

 "Rather Be"以降、彼らは独特の音楽性を武器にULTRAのようなダンスミュージックイベントと、Glastonburyのようなロックフェスティバルの両方に出演して、ファンベースを固めてきた。この日本でも年に一、二回の頻度で来日しており人気も非常に高い。しかし、そんな堅実な活動を続ける中、ダンスミュージックのシーンの変化に伴い、彼らが再び注目を集めつつある。今年発表された"Tears"は徹底的に磨き上げられたメロディと目まぐるしく展開しながらも一切の無駄がないサウンドメイクが輝く珠玉の一曲であり、"Rather Be"以来最大のヒット曲となった。

 自然体のままで再び勢いに乗る彼らだが、つい先日、ヴァイオリンを担当していたニールが脱退を発表した。バンドのサウンドの根底を揺るがすほどの変化であり、ファンの多くは不安を抱いたものの、その直後に発表された"Rockabye"はその不安を払拭させる程の出来栄えだ。新たな編成でのライブも期待していいと思う。

Yellow Claw

 では、今年のelectroxは徹底的にクールに攻めるのか?というとそういうわけではない。Diploが自身のレーベルから送り込んだYellow Clawは、Skrillexにとってのダブステップと同様に、トラップのビートに凶悪な暴力性を見出し、予定調和な世界観が蔓延するダンスミュージック・フェスティバルの空間を幾度となく巨大なモッシュピットに変貌させてきたDJである。何はともあれライブ映像を見てもらうのが一番早い。時間の無い方は開始直後の5分20秒くらいから始まる、トラップに暴力性を見出した元祖的存在のFlosstradamusとGTAが手がけた"Prison Riot"が投下される瞬間を観てもらえれば良いと思う。

 その暴力性たるや、かつてのSkrillexやKnife Partyがまだ真面目に見えるくらいだ。更にはただでさえ暴力性MAXだったハードスタイルがトラップと相性抜群であることも発見し、更にフロアの治安を悪化させている(動画の50分20秒辺りを参照)。とはいえ、彼らの魅力は暴力性だけではない。Diploの遺伝子を受け継ぐ彼らは、彼と同様にヒップホップやレゲエから派生したビートを使い、いかにメインストリームを更新するかを企むプロデューサーの一組でもある。今年、彼らはDJ Mag Top 100において、26位もランクを上げ、48位にランクインした。恐らく来年は更に順位を上げるだろう。

Mija

 以前も書いたように、ダンスミュージックにはいくつものレーベルが存在している。その中でも特に強いファンベースを持つダンス・ミュージックレーベルが、Skrillexが主催する"OWSLA"だ。このレーベルが支持を受ける理由は、ストリートカルチャーに強い影響を受けたクールなビジュアルセンス、そして異様にエッジの効いた刺激的な楽曲にある。実際にOWSLAはアパレル・ブランドも展開しており、すぐに品切れになってしまう事も少なくない。この日本でも、ストリートやクラブカルチャーを中心に人気を集めている。

 そのOWSLAを代表する存在がMijaである。2012年にDJを始めた彼女は、その2年後にOWSLAと契約し、2015年には早くもULTRA JAPANのメインステージに立ち、今年も数多くのフェスティバルに出演している。しかし、プロデューサー主導と言われる現在のシーンにおいて、彼女は誰もが知る代表曲を持っているわけではない。Mijaは、独特かつ自由なビジュアルセンスと、"Fk a genre"と言い放ちながらジャンルの垣根を鮮やかに超えていくDJスタイルによって、その人気を高めていったのだ。まさにOWSLAのカラーを体現したような存在である。この動画でも、軽々と自由にジャンルを超えていくDJセットを楽しむ事が出来る。

 楽曲やジャンルが先行しがちな現在のシーンにおいて、彼女のように自由にDJを楽しむスタイルはある意味異質である。しかし、少しだけアンダーグラウンドに目を向けてみると、実はそれが当たり前の話だったりする。だからこそ、electroxのような巨大な空間で彼女のパフォーマンスを楽しむ事の出来る価値は大きい。リスナーもジャンルや形式を無視して、自由に楽しめばいいのだ。ちなみに「代表曲を持っているわけではない」と書いたが、OWSLA以降の彼女はトラックメイキングにも力を入れるようになり、やはり相当にぶっ飛んだ楽曲をシーンに送り込んでいる。

Krewella

 そもそも当時流行していたサウンドを全部ブチ込んだファースト・アルバム"Get Wet"をリリースした2013年当時、まさか彼女達自身も2016年現在まで活動を続けているなんて思ってなかったんじゃないだろうか。ましてや楽曲制作にDJまで担当していたRainmanが脱退して1年以上経ち、DJ Magランキングも圏外になってしまったというのに。それでも、いや、だからこそ、当初は迷走しているかのように見えたバンド・セットを完全にモノにして、今でもド派手で刹那的なダンスミュージックを豪快に打ち鳴らしている。彼女達は2週間前に開催された今年のULTRA Brasilでもメインステージに立ち、客席をブチ上げまくっている(序盤はミックスが酷いので後半の方がオススメ)。

 とはいえ、"Party Monster"という曲まで作っていた当時とは、「ド派手で刹那的」の意味が変わっているような気がする。「弾薬」と名付けられた、今年リリースのEP"Ammunition"では無謀だろうと力強く進む姿、そして現状への怒りを歌い、メロディは最早ゼロ年代のエモ・ロックを彷彿とさせるくらいに感情的だ。リード曲"Beggars"のMVでは、二人はライブの時と同様にヘッドバンギングを繰り返すが、その表情は怒りで満ちている。

 EDMカルチャーが始まった頃、それは言ってしまえば、若者にとっての現実逃避の手段のように思えた。しかし、誰もがすぐに終わると思っていたこのカルチャーは今のところまだ続いている。多分、絶対にこの場所だけは守らなければならないのだ。彼女達は今でも本気でパーティを続けている。その姿は、いよいよ転換期を迎えつつあるダンスミュージック・シーンを象徴する今回のelectroxにふさわしい存在だと思う。


(余談)

 というわけで随分と暑苦しく書いてみました。個人的には、前回の記事で紹介したようなバウンス系/ビッグルーム系が一組もいないというのはちょっとラインナップとして攻めすぎてるんじゃないかという気もしないでもないのですが、クリエイティブマンのこの姿勢は全面的に支持したいです。

 思うに、フジロックに対するサマーソニックのように、electroxがULTRAに対する存在になったという事なのかなと。フジロックって環境の面でもラインナップの面でも、どう考えてもサマソニより有利なんですよね。もはやフジロックってロックにおける世界的なブランドなんですよ。だからこそサマソニはフジロックのカラーとは違うポップミュージシャンを出したり、エッジの効いた新人を沢山出したりしてきたわけです。同じように、どうしたってHardwellやMartin GarrixはULTRAに出るわけで、仮に他のフェスに出てもULTRAで見る方が魅力的なのは明らか。じゃあelectroxはどうする?となった時に、もう独自路線でいいんじゃないかという結論に至ったのではないかという。だってこのラインナップはパリピからかなり距離がありますよ。皮肉とかじゃなくて。普段なら大きなフェスティバルにアクセントとして出演しているようなDJしかいないですよ。

 でも、そうすることでまた新しい循環が生まれるのは楽しみですよね。個人的には、一旦リークされたThe Chainsmokersにはもうちょっと華が欲しいので出て欲しいのと、もはや願望レベルでSkrillex。あとOWSLA勢でValentino KhanやMarshmelloが来てくれたらもう言う事ないです。とはいってもすっかり常連になったVinaiやR3habがやっぱり来るんじゃないかって気もします。あぁ、あとDJ Hello Kittyには出て欲しいですよね。


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ノイ村

26歳の会社員。趣味で音楽の事を書いてます。第一回「rockin'on presents ONGAKU-BUN 音楽文大賞」入賞。 連絡先 : neu_mura@outlook.com
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