さあ、"Justice"の話をしよう -Do the dance again with pocarisweat.-

 またしても間が空いてしまいましたが、ようやく就活が終わったのでこれからはコンスタントに書いていきます。

 今年の4月、大塚製薬の代表的な商品「ポカリスエット」の新しいCMが公開されました。今年放送されたCMの中でも評判が高く、さすが名作を連発してきた大塚製薬といった作品です。ちょっと見てみましょう。

 何度見ても良いですね。僕はもうこのCMみたいな学生時代は終わりましたけど、それでも何だか元気が出てきます。

 印象的なのは、マネージャー達が歌い上げる楽曲。エレクトロを基調にしつつもEDMのようなド派手な展開に持ち込まず、じわじわと力強く高揚していく。だからこそ見ている人の目線を離さない。「うわぁ、こんなキラキラした学生生活送りやがって畜生」とはならない。よく出来てるなぁ。

 そんな話はどうでも良いんですよ。僕がこのCMを見て真っ先に思い出した楽曲があるんですけど、その曲がこちらです。

D.A.N.C.E. / Justice (2007)

 以前、EDMの歴史を取り上げた記事の中でも紹介したフランス出身のダンスミュージック・アーティストJustice。彼らの最大の代表曲がこの「D.A.N.C.E.」なのですが、もう一度さっきのポカリのCMを見て下さい。今度は現在放送中の「サンクス編」です。

 うん、近い。凄く近いよ。逆に嬉しいくらいだよ。ありがとう博報堂。

 良いCMだなぁとは思いながらも「Justiceじゃねぇか!」と突っ込みを入れ、このCMを調べてみると随分と面白い事が分かってきました。まずは、この曲を作曲したのがmochilonという方で、Maltine Recordsの代表的アーティストの三毛猫ホームレスのメンバーだったんですね。ちなみに三毛猫ホームレスの代表曲がこちら。

KANEKURE / 三毛猫ホームレス (2012)

 めっちゃ良い曲だけど一番記憶に残るのは「三菱東京UFJ銀行府中支店 普通 5673337」。最初に聴いた時の衝撃ったら無かったですよ。ぼんやりと揺れる美しいシンセのメロディに浸っていたら最終的に滅茶苦茶お金が欲しくなりましたよ。

 そして編曲を担当したのがYUKSEK。こちらはフランスのエレクトロ・ミュージシャンで一時期"ポストJustice"とまで呼ばれていた人。2009年当時はまさにJustice直系のロック成分強めのエレクトロを振り回していましたが、最近はDisclosure系譜のハウス方向も。

Tonight / Yuksek (2009)

 三毛猫ホームレスが影響を受けているかは定かではないけれど、その可能性はかなり高いし、Yuksekに至ってはもはや師匠筋なわけで、これはもうJusticeオマージュと考えて良いでしょう。むしろオマージュじゃなかったら訳がわからないですよ。ちなみに作詞はNONA REEVESの西寺郷太さんでこれは普通にビックリ。

 でも、2016年の今、何故Justice?

 Justiceの全盛期って世間的には2005年~2007年頃なんですよね。確か最初に話題になったのが、以前も触れた"We are your friends"で、そこからDaft PunkやFatboy Slimのような大物のリミックスを手がけ、その破壊ぶりに一部の音楽好きがざわつき始めていたんです。

Before : Human After All / Daft Punk (2005)

After : Human After All [Justice Remix] / Daft Punk (2005)

 無機質の極みだった原曲を盛大にディストーション・ファンク化。この「極限まで歪みきったシンセ」と「ファンク濃度高めのリズム」はJusticeのトレードマークとなり、満を持してリリースされたファースト・シングルでは早くもその完成形が登場。ダンスミュージック・ファンの度肝を握りつぶしました

Waters Of Nazareth / Justice (2005)

 多くの人に、「あれ、スピーカー壊れたかな?」と疑いながらも、3分22秒後に「Daft Punkを継ぐのは彼らだ!!」と確信させたこの怪曲でついにJusticeは期待の新人という枠を大きく超えて、「今一番ヤバいダンスミュージック・アクト」の称号を獲得したのです。

 そして2007年、待望の1stアルバム「+(Cross)」がリリースされまして、これが前述の"D.A.N.C.E."も収録した、エレクトロもディスコもオペラもゴジラもファンクもテクノも全てを懇切丁寧に破壊した凄まじい代物だったんですね。もう一気にThe Chemical BrothersやUnderworldが過去の存在へと変わっていきました。

DVNO / Justice (2007)

 英国の老舗音楽雑誌、NMEにもKraftwerkやUnderworldと並んでダンスミュージックを永遠に変えることになった40枚の名作に選ばれた本作で、Justiceの地位は決定的なものになりました。日本での人気も非常に高く、翌年の2008年にはサマソニのMOUNTAIN STAGEに出演し、満員の会場に痛烈なノイズを炸裂させ、「次はもっと凄いものを見せてくれるんじゃないか」という期待を誰もが抱いたはずです。

D.A.N.C.E.~DVNO(Live at SUMMER SONIC) / Justice (2008)

 さあ、後はツアーを終えて更に凄い2ndアルバムを作ってくれれば...。

 しかしここで4年待ちます。2011年、もうかなりの人々はJusticeの事を忘れてしまっていました。この頃にはもうDeadmau5やSkrillexが台頭しており、徐々にEDMの時代が幕を開けようとしていました。何せダンスミュージックは速度が命です。1年遅れるだけでもフロアの需要が変わるのに、よりにもよってここ数年で最も急激な変化を迎えた時期に4年のブランクは致命的でした。

 しかし、ダンスミュージックはトレンドの奴隷ではありません。ただ、単純に彼らにしか作れない最高にカッコ良いダンスミュージックを届けてくれれば...。今や日本でもかなり高い人気を誇るZeddもJusticeの1stに衝撃を受けて楽曲を作り始めたのです。きっと彼らなら...。そして2011年、その願いが叶い、Justiceが所属するEd BangerのBusy PがDJセットで彼らの新曲をプレイし始めたのです。同年のSUMMER SONICにもBusy Pが出演し、僕もその新曲を聴く事が出来ました。

 うーん・・・。4年もの空白を超えて鳴り響いた"Audio Video Disco"。別に悪い曲では無かったです。ただ、個人的にJusticeに期待しているのはこういう「ちょっぴり変な、でもまぁ良い感じのポップソング」ではなくて、「トチ狂った、でも最高に踊れるダンスミュージック」だったのです。会場も「...おう」という空気に包まれていました。

 そして嫌な予感は的中し、4年ぶりにリリースされた2ndアルバム「Audio, Video, Disco」では理解しがたい流れを経て、King Crimsonなどのプログレッシブ・ロックの影響を強く受けたプログレ・エレクトロが炸裂した怪作となったのです。当時友人と「なんでこんな事になったんだ」という話をしたのを今でも覚えています。

Ohio / Justice (2011)

 2年後の2013年、JusticeはSONIC MANIAにDJとして出演。僕も観に行ったのですが、見事に1stの曲だけ盛り上がっていて逆に辛い気持ちになったことを覚えています。DJプレイ自体は滅茶苦茶カッコ良かったですよ。

 そして2016年。2011年に萌芽を見せていたEDMは日本でも定着し始め、多くの若手トラックメイカー/DJ達が活躍するようになりました。今日はちょうどTREKKIE TRAXが4周年のアニバーサリーパーティを開催します。彼らの多くは僕と同世代。恐らくJusticeの衝撃をリアルタイムで味わったはず。そして、そんな文脈を知らずに踊るパーリーピーポー。もしかしたらこの時代を作るきっかけとなったJusticeへのリスペクトの感情が、ポカリスエットのCMでの「D.A.N.C.E.」オマージュに繋がったのかも知れません

 さて、すっかり死んだように書いてしまったJusticeですが、ポカリスエットのメッセージが届いたのか、またしてもやたらと長いブランクを経て戻ってきました。期待しないで聴いてみました。ちなみにフリーダウンロードです。

Safe And Sound / Justice (2016)

 再生ボタンを押し、"D.A.N.C.E"を思わせる聖歌隊のようなコーラスとメロディに思ってもいなかった期待を抱き、そして50秒後にやってきたベースライン。

 僕はこのベースラインを9年間待っていたんですよ。

 いや、思いますよ?結局"Random Access Memories"の系譜かよと。でも元々Justiceのルーツにはディスコが存在するし、何よりこのJusticeしか鳴らせない質感ですよ。最高じゃないですか。

 とはいっても、きっと彼らがダンスミュージックの歴史を再び塗り替える事は無いでしょう。でも、僕は現在、物凄くJusticeの新譜をワクワクしながら待っているんですよ。ポカリのCMを見ながら。何百回と聴いた1stと数回しか聴けなかった2ndを聴きながら。"Safe and Sound"を聴きながら。中学生の頃に親に隠れて部屋で踊っていた自分を思い出しながら。

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ノイ村

音楽の話をしよう。軽めに。

最近では1分で読めなくなってきている音楽コラム。

コメント2件

n村さん。お待ちしてましたjusticeのこと、とても面白く拝見しました。n村さんが音楽を「いい」って感じるときというのはどういう瞬間なんでしょうか。「言葉」でくくれない感覚だとは思うのですが、「いい」というのはどんなときですか?いつかまた、お聞かせくださったらうれしいです就職内定、おめでとうございます!
@tokoさん
完全に直感ですね笑。ただ、何かしら突き抜けた要素があると「良い!」と思う事が多いみたいです。
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