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2024.2.28「カノン」

うるうアドベントカレンダー28日目。
今日は2024年2月28日。
4年前の今日は、うるう大阪公演3日目です。

なんの音だ?
誰だ。こんな森の奥で、楽器なんか弾いてんのは。

森のどこかから聴こえるチェロの調弦の音。
マジルがその曲を奏で始めます。


パッヘルベルのカノン

「パッヘルベルのカノン」と呼ばれる曲の正式な名称は、『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調』(Canon a 3 Violinis con Basso/ Gigue)といいます。
この曲はドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベル(Johann Pachelbel、1653 - 1706)によって作られました。

Kanon und Gigue in D-Dur

この曲はニ長調(D major)で、『待ちぼうけ』と同じ調性です。
「カノン」とは複数のメロディが順番に重なっていくことで作られる音楽形式です。「パッヘルベルのカノン」は、バロック音楽に用いられる通奏低音がベースに存在するため厳密なカノン形式とは異なりますが、通奏低音の動き(D-A-B-F#G-D-G-A)の上に、3つの声部が順番にメロディを重ねていきます。

通奏低音によって繰り返される8つの音

マジルが一番最初に演奏を始めるこの8つの音は、曲が終わるまで繰り返され続けます。
思えば『うるう』という作品には、さまざまな数字が繰り返して現れます。229はもちろん、ヨイチとマジルが重なる48、ヨイチという名前にまつわる41、そしてマジルの年齢である8。カノンの繰り返される音の数にも、そうした縁を感じます。
そしてこの8つの音から構成されるフレーズは、原曲において28回繰り返されます。

メロディが順番に重なっていくカノンという形式は、『うるう』に繰り返し現れる重なりというモチーフにも繋がっています。
カノンのメロディは上の声部から順番に、輪唱のように重なっていきます。

「パッヘルベルのカノン」冒頭

最初に始まったメロディのたどった道を次のメロディがなぞるように奏でる様子は追いかけっことも言い表すことができます。
3つのメロディは一つずつずれたまま進み続けて、立ち止まることはありません。

しかし最後には、全ての音が一つに重なって曲が終わります。その時初めて、追いかけっこを続けていたメロディが同じ場所にたどり着きます。
背景に二人の年齢が映し出され、「48」という数字で初めて重なる瞬間は、その後ろで奏でられるカノンとの共鳴を感じます。
ヨイチとマジルは追いかけっこを続ける二つの旋律のように、それぞれの道をそれぞれの時間の中で歩き続けてきました。
この瞬間に同じ年齢となった彼らは、カノンの最後の音のように、初めてその道が交わり重なったのだと思います。


秘密の畑のメロディ

『うるう』の中で最初にカノンのメロディが現れるのは畑の場面です。

40年後にマジルがチェロを演奏しているのは、絵本『うるうのもり』では開けた丘のような場所です。
その時どのような景色になっているのかはわかりませんが、マジルが訪れたのは、かつてヨイチの秘密の畑があった場所だったのではないかと想像しています。

ヨイチとマジルにとって、カノンのメロディはあの畑で過ごした時間の温かさ、喜び、親愛の象徴のように感じられます。
あの日の記憶を呼び起こすような旋律をマジルが森に向かって奏でる時、それは『待ちぼうけ』のお礼にヨイチが贈った秘密の畑を、もう一度マジルからヨイチに当てて贈り返しているようです。
カノンのメロディは、マジルが唯一森から持ち帰ったあの日の思い出を、音楽としてヨイチに手渡した贈り物なのかもしないと思います。


「パッヘルベルのカノン」の原曲『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調』というタイトルにあるように、実はこの曲はもう一つ「ジーグ」という曲があります。

カノンの端整で穏やかな雰囲気とは一転した、楽しく明るい曲です。
このカノンの後に存在する曲が、自分にとっては2人が再び出会えたことを祝福しているようにも感じられます。
カノンの最後の音が消えた後、二人がこんなふうに楽しく再会を喜びあってくれていたら、と想像しています。


【うるう日記】2020.2.28 うるう大阪公演3日目

上手、通路側。マジルが走ってきそうな道、目の前に罠があった。
気迫と間、すべてを自分の中から出した言葉で作っているという感覚があった。何もかもが今まで観たうるうとは違っていて、うるう日が迫っていること、この作品がもうすぐ本当に幕を下ろすということ、全てが重なって、その気迫に気圧されないように必死だった。
幕が下りて再び幕が開き拍手の中で立った徳澤青弦さん、すべてを受け止めるような表情をしていた。初めて見るような表情だった。
4回目のカーテンコールの、客席を眺める小林賢太郎さんの笑顔。
 
・幕の向こうにチェロとそれを照らす明かりが見える。沈黙、静寂。

・ふくろう、右後ろから飛んで左前に来たような羽の音
・「10分?!」 になった、会話らしさ
・「私は、いないことになっているから」の重み
・「見られてしまったなあ、 どうしましょう。グランダールボ」一つ一つの言葉を置くように
・馬戦「ヒヒーン、 またしても一人二脚」
・「罠!」の後、胸がつった、みたいな声
・「私だけいつも、仲間はずれ」悲しそう→はやしたてる声が苦しくて悲しく感じた
・あんたがたどこさが響く時間、彼がチェロを奏でる時間
・12年前…落ち葉、拾って、見て、初めて思い出すような表情、一瞬で伝わった
・「誰にも言うなよとしか言われてないからって、何度も来ていいってルールを勝手に作ってるんじゃねえよ」
・「リビング ダイニングキッチン」考えながら言っている間
・「よかったら私に、話を聞かせてくれないか」
・「もう疲れたよ、見てこの温度差」
・「そういうのはね、あまったって言わないんです、選ばれたっていうんです。」の感情が大きい。「クラスメイトとの思い出なんて」の感情、苦しい
・お餅、"ここに"というジェスチャーすると隣に落ちたり、とにかく手に入らない
・「私だけ、もらえなかった」の悲しさ
・「なにそのズボン、流行ってんの?」の切ない声
・「いつもひとつたりない いつもひとりあまる」チェロの高低差にそろえた言い方に
・「おもちがたりない カレーがたりない」悲しい、足りないという言葉の悲しさ、こんなにも
・「余る!あまりにもあまる」やるせなさ、怒り、不満
・3つめ「たりかけてたのに!」足りた時の喜び、「もう取ったもんね!」みたいな言葉、消えた時の「あ」うしろの席から
・「そうだ、一部紹介してあげよう。えっとどこったっけ(棚を探し)あったあった、懐かしい」
・懐かしいという言葉を聞いた瞬間、彼が生きていることの実感
・「こっからのレアなのが面白いんだ。こういうのは先におもしろいって言っちゃだめだな」
・串と串を交差:「これがなんと189人もいたんだ! 本当かなあ」
・づけ:まぐろ、ネタをつけて「いったん忘れる」
・「卵を二つたのんで、ひっくり返して重ねて、ダブルエッグライスバーガーにしてた人:26人もいた、そのみせではやってたんだな」
・「うるうどしがあって、うるう日が…」間がゆっくり「ちょっとしゃべりすぎた」重み
・「めそめそすんな、ほら掴まれ。ほら帽子」優しい手つき、土を払う
・クレソン先生、前奏中に歩きながら一回転 その瞬間に先生になる
・「なんだ、元気じゃねーか、安心した」
・「0人の友達どうやって数える」笑いながら、客席も笑う、それが苦しい
・「友達に?」のあとのとまどい、ものすごくはなれてるだろうが、普通の言い方
・穴の前「えっ帽子?」のぞき込み、滑り、落ちる 帽子を投げて「笑い転げてんじゃないよ!」
・「ことが深刻じゃなきゃいいけど」しゃべる感じ、定型ではない
・「たいそう驚き、ひどく……嬉しかった」
・弓を受け取る前、喜びで一回転、椅子に足をぶつけて、「すいません」と言って受け取る
・「私は混乱した」からすべてが苦しい
「世の中はどうしてこうも」と前に来る時の感情、勢い 前に来る時の進み方
・「私は余分な存在だ。スペードのエースじゃない、予備のジョーカーなんだ」「余分な存在」が先に出たということ
・「頭の中で、何かが」の重み
・雨の中、傘の下の表情 首を横に振ってうつむくのではない、上を向いて、動かない。
私はこの表情を知っている、いまこの瞬間の悲しみを感じる、苦しい表情 目を離せない 悲しみの気迫
・「今日はっていうか、もう来ないのかな」の切実さ
・うしろを向いてしなだれるのは面白いのに、「マジルか?」の声が切実
・「何?どうした? なんだ、その顔」
・「待って!」の声の切実さ たたむ前に、考える間があって、「ちょっと……ついてこい」
・チェロの深い響き
・畑で人差し指を立てて、「待ってて」と示す
・キャベツを広げる時の楽しそうな動き、表情
・野菜の一つ一つの言い方、間 すべてを大切にしている、大切にマジルを見ている
・「ごめん」の響き 「私にはいつだって、ひとつ足りなかったのだから」の響き
・待ちぼうけを聞く表情、「まちぼうけ」と口を動かし、マジルを見て笑いながらうなずく
・畑の野菜の取り方の動き、生き生きとしている 頭にぽんと手を置くようななで方
・影絵、手の組み方の美しさで泣いていた。フクロウもウサギも美しすぎる
・マカ去る時無言でゆーっくり マフラーで汗を拭いて、「うるーう」「うるーう」飛んでいくときまでやってる途中で、チェロが鳴る
→手を開いて、「あ、ほんものがないた」
・「森は数を数えないからだ、なんて、あとからつけた理由です。」「私が 人の世を離れ 一人でいる本当の理由は」
・「彼は私に友達になろうっていってくれているのに」の強さ、一息、切実さ
・「私は、一人で、いるべきなのだから」の苦しさ
・「マジル、実は、君に、話さなくてはならないことが」の苦しさ ここが苦しいことの強さ
・天性の人を…の後「めちゃくちゃ慕われてるじゃねえか」
・ふくろうオバケのチェロの強さ 曲の強さ 曲の感覚の強さ
・「そして、君も。もう、ここへは、来ないでほしい」間
・「ええと。うるう年のうるう日、2月29日に生まれた君には」話始めるとき、うつむいて、迷うような言い方
・「2人目の父親なんだ」の愛おしさ「先生の勧めで、つとめにでたこともあるんだ。でも一つの職場に、そう長くはいられない」
・「いたって普通の男と結婚した」
・「とてもじゃないが、ついていけなかったんだ! だから私は!」激しい叫び、身を隠すような
・「森に逃げたんだ」決意、強さ、本当に27日から全く前までと違うニュアンス
・「このグランダールボの木は、多分、1000年は生きてる」 間
・グランダールボと会話してる「それで、なんていったんだっけ?」「~」導くように尋ねる
・「きけ、マジル」からの気迫、あまりにも
・「必ず」私より先にこの世を去っていくんだよ
「父も、母も」切迫 「クレソン先生も、コヨミさんも、私をばかヨイチとはやし立てたやつらだって、みんな、「みんな」 悲鳴のように裏返った強い声
・「だから私は、ひとを好きにはならない。友達は、つくらない」切実、気迫、迫るものとしか
・「でもほら、もうしょうがないんだ」から、ずっと何かが不安定な声色に聞こえた
・マジルが抱き締める瞬間、チェロが鳴る瞬間の、完全な静寂
一瞬で両手で抱き締められ、表情は固まったまま ゆっくり彼を抱き、食いしばるようにうつむき、すぐにはなれる
・「さあ……もう帰れ」の震え
・正面からぶつかられた時の姿、本当にいる 本当にぶつかられている
・「私は人間の世界から、余ったオバケなんだよ」表情、声色、苦しさ
・「うるーう!うるーう!うる、」お面を取って姿を追い、はっという顔ですぐ木に登る
・木に登った時の震え それを収めるような間 「あぶねえあぶねえ」の部分も笑いは起きない
・「うるーう」と叫んだあと一瞬制静止して、少し揺れ、口を開く それが慟哭の表情
・まちぼうけの楽譜、遠くに落ちる 拾いに行き、見て気づき、すぐ挟む
・まちぼうけ、美しいが小さい声から探す時の大きな声へ

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