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風邪の時


実はここ二日ほど風邪をひいているらしい。

らしい、と言うのは今し方気づいたからだ。
こんな風邪は大したことはない。
某感染症などでもない。

どうせいつもと同じく胃腸炎なのだ。
また医者に行っても鼻で笑われるに違いないのだ。ここ一年二ヶ月に一度は、某感染症か?と疑っては、鼻で笑われるを繰り返している。
性格の良い医者はあまりにも少ない。
なので、優しい医者に出会うと馬鹿みたいに感激して、そこしか行かなくなる。

医者よ、馬鹿馬鹿しいと思っても患者を鼻で笑うのはよしてくれ。
こっちは弱っているし、身体はよくわかんない事になっているしで、至極真面目に馬鹿なのだ。

わたしはそんな馬鹿なので、笑われることが嫌いだった。なので、医者が嫌いだった。
近所には意地悪な医者しかいなかった
(と思いこんでいた)

いつか忘れたけど、こんな季節にひどい熱を出した事がある。

40度を優に越えていた。
医者は嫌いなので、行かなかった。

人間の身体は40度までしか耐えられず、それ以上は壊れるんだと、何かの漫画でドラえもんが言っていたのを思い出した。

わたしはああ、わたしは壊れていくのか……と覚悟を決めた。これだけ苦しくてもやはり医者は嫌いだった。

そして遂に、あまりの高熱に、わたしの身体は耐えられず崩れ始めた。

バラバラと、丁度Minecraftのブロックみたいな感じに、立方体になってガラガラ音を立てて崩れた。

大変な事になった。と思った。
手足を動かそうにもバラバラなので上手く動けない。ブロックには神経もろくに通っていないらしい。

身体はコロコロ布団に散らばっていく。


それを離れた所から見上げる存在があった。
人間よりも小さくて、存在自体は大きいという、理解は難しいものだった。

「崩れてるね」
「直さないと、元に戻らなくなるな」
「組み立てるのに人が必要だよな」
「直らないんじゃないかな」

口々に言う三人(?)にわたしもいつの間にか小さくなって加わっていた。
わたしは粉々なもんだから、自分を忘れていた。
三人(?)は暫くわたしを交えて、わたしを直す算段をつけていった。

人員の確保が出来た所で、ふと一人が言った。

「所で、お前は俺たちの仲間じゃないなあ」

はて、ではなんなのだ。こんなに小さいのに。

すると一人は指した。
バラバラになって、人間の原型はない、ブロックの山だった。周りには、もう工事現場なんかでよく見るような、足場が組まれ始めていた。

「あれだよ、苦しいかもしれないけど、俺たちが組み立てるからお前はあそこでがんばるんだよ」

やだよ、あそこ苦しいし……わたしも一緒に組み立てるよ。

「でもあそこにいてもらわないと、俺たちも形がわからないんだよ」

「絶対組み立てるから、がんばれがんばれ」

「お前はここ以外の居場所と愛がないといけない」

そんな風に説得されて、渋々わたしはブロックに戻った。ブロックは相変わらずバラバラで、そこらじゅうに転がり、気分が悪かった。

でもわたしの周りには足場が組まれており、小さい何かがわたしを積み上げていくのを感じた。

たまに「もう少しだぞ」「今ここが終わったぞ」という声がした。わたしはその度に身体に留まりながら、工事は一晩中続いた。


いつの間にか眠っていて、目が覚めると、わたしの身体はすっかり組み上がっていた。 
お礼を言おうと起きあがったが、周りには誰も居なかった。

少し寂しかったけれど、わたしにはわたしの居場所があると言ってくれたので、やっぱり寂しくはなかった。

この小さな存在をご存知でしたら、一報下さい。

2021.9.27
名梨ナイ

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