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一度だけ交わした約束を

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2020年1月13日、新木場STUDIO COAST。

「2020年いっぱいのスケジュールはもう決まってしまっています。なのでまだ、会場押さえてないんですけど……2021年、日本武道館でライブしてもいいですか」
その宣言を聞いた2,400人の口元に、まだマスクはなかった。


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2020年4月10日、ファンクラブツアー4公演の中止を発表。同5月29日、全国ツアー16公演中15公演の中止を発表。
決まっていたはずの「2020年いっぱいのスケジュール」が履行されることはなかった。


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2020年12月18日。
2022年2月12日の日本武道館公演開催と、ツアー2本の開催を発表。先行きの見えない中で、それでも少しずつ前に進み始めたように思えた。


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2021年8月3日、メンバーの1人が脱退。
グループの象徴ともいえるシャウトパートを担当する彼女がいなくなってしまう衝撃は大きかった。
それでも、病と闘いながら果敢にステージに立ち続けたその人の最後の決断を、皆が尊重し、「勇退」という言葉で称えた。
あの日、割れんばかりの歓声の中で誰もが想像した通りの武道館公演は、消えた。


3人でのライブ活動が続いた。
「目標を口にすれば終わってしまうかもしれないと思って、怖くて言えなかった」というあの日の言葉が過ぎった。
終わってしまうかもしれないと思った。もし3人で、決まっている武道館公演までは成し遂げたとしても、そこで終わってしまうかもしれない。
そんなとき、彼女たちは「これ(3人での活動)は延命じゃなくて、先に進むための方法」だと断言した。見透かされた気がした。同時に、延命という直接的な言葉を選んではっきりと否定してくれたことに安心した。その言葉を選んででも伝えるべきだという信頼が嬉しかった。


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同8月22日、シャウト担当として新しいメンバーの加入が発表された。「延命ではない」という言葉の真実を態度で証明した発表だった。いつの間にか半年後に迫った武道館公演に向けて、少しずつ歯車が噛み合い始めていた。
「毎日バイトしてた人が、半年後に武道館に立つんですよ」
冗談交じりに話す言葉に、運命的なものを感じた。


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2022年1月30日、新木場STUDIO COASTが閉館した。
世界も、ライブも、メンバーも変わってしまった。残っているものの方が少ないかもしれない。2020年1月13日に想像した未来はどこにもなかった。
それでも、新しい4人が、新しい地図を、新しい物語を選んでここまで進んできた。約束を果たすために。その先に進むために。


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2022年2月12日、彼女たちは日本武道館のステージに立つ。


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