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一人になんてさせやしない

「渇いた」と「乾いた」は同じ読みだけれど、ちがう。
水を出し切って渇くのと、日照られて乾くのと。
前者はやり切った感と、だからこその次への「渇望」があるのに対し、
後者はつらくて、こころがあせる。(乾燥の「燥」は落ち着かない、と言う意味だ)

6月は梅雨時だけれど、ぼくは「渇き」と「乾き」の両方を抱えていた。
今年から来年にかけては、確実にぼくの人生が変わる、はずの年になる。
それは、いつかは告知したい、大きな仕事「2つ」があるからなのだけど、
その2つが6月、「渇き」と「乾き」にはっきり分かれる途中経過を見せていた。
1つについては、まずこれをお願いします!というものを届けて反応を待つ「渇き」。
1つについては、さあこれで!と思ったはずなのになかなか進めずあせる「乾き」。
両極端な状況になっていて、
自分の中のうるおいが、湿度がどのくらいあるのかが分からない状態になっていた。
汲めども尽きぬものは持っているつもりだが、浸してくれるものがなければ尺度は難しいのだ。

・・・で、そんなふうにグルグルと渦巻くものを感じていたなか、
土曜日の夜から、日曜日の朝にかけて、SOSの呼び出しを受けた。
大切な仲間ががんばっている仕事(なお上の2つとはまったく別の仕事です)が、
想定外のことが起きて対応が必要になっている。考える頭は多い方がいい。
そこで、おたすけ隊として出動した。
人助けほど、素直なやる気が出る。
屈託のない仕事の良さを再確認したりもしつつ、
ほぼ徹夜して、なんとか自分が現場でできることはやりきった。
あとは文章をすこし推敲してあげればいいだけ。眠い。仮眠しよう。疲れも溜まってるし。
・・・と思って、ゴロンとしかけた時、この数日、ちらちらと見ていたサイトにアクセスした。

こっちか、リセールのほうばかりを見ていたのですよ、土曜の夕方までは。

いわゆる、「Bツアー」(言い方教えていただきました)。
初日を終えた途端に、
リセールのチケットのサイトは全くつながらなくなった
=みんななんとしても駆けつけようとしている。
=とてつもないものが見られる。
そう思ってからというもの、ずっと、あのオープニングテーマ曲が
頭の中を流れ続けていた。
あの場に行くと、あの場にいけば、
2つの大仕事に振り回されている自分もリセットされて
背中を押されるような気がして。

そのくらい、ギリギリだった(自分語りが多くてすみません)。
ぼくは、とにかく仕事をする時は盛り盛りでサービスしてしまう性分なのだけど、
「そんなサービスしているヒマあったら」というようなことを言われて限界もきていた。
ヒマでやっているワケではない。
サービスをするのが当たり前だと思ってやっているのであって、
仕事なんて最低限やっていればいいという態度で仕事してもろくなことにならないと思っているからやっている。でもそれが理解されない。

そうした屈託は、僕などよりも何万倍何億倍も
サービス精神を持つ人に接すれば吹っ飛ぶ。
そして僕が知る限り、そういう人の最前線に立つ人が、
「Bツアー」をひっさげて、いる場所がある。
行けば、すべてが裏返るぞ。

・・・いやいやしかし、しかしだぞ阿部よ、とまだ思った。
SOSにかけつけて、もう若くないのに徹夜した疲れもある。
大仕事は自分の力だけで乗り切ってみせよう、とカッコつけたことも思った。
ヨシ、このまま仕事場で寝て、仕事場で書き物もしよう。・・・そう理性では判断していた。

でも。


ここも見ていなかったわけではないんです 見ないようにしていましたが

にじゅうまる、である。
ここだけずっとにじゅうまるなのは、それもずっと見ていた。
きっとすこし見づらいとか、他の会場ならそこは席にしないとか
そういう席なのだろう。そこには手をだすまい。それも理性で判断していた。

しかし、


ファンの人はみなこのにじゅうまるに煩悶した経験をお持ちではないだろうか よくやってきましたねすごいです

発売中なのである。買えば、見られるのである。見なくていいんですか。
そしてもし買わなければ、その席は空いたままになるのである。空いたままでいいんですか。
その時、SOSでかけつけた仕事の、推敲する原稿が思ったより早く届いた。
仲間も寝かさないといけない。昼までに全部直して戻せば、
あとは微調整で済む。
―――移動中に、書けるぢゃあないか。

これは、天啓だろうか。
渇いて乾いていた「僕」と言う城の目の前の「堀」が、うまった。
そもそも「自分ひとりで解決しよう」なんておこがましい。
かの人も言った。ひとりになろうとしてもひとりになんてしてくれない。と。

https://note.com/no_answer_butq/n/n50d20a4d9245

自分だって力を貸しに行ったんじゃないか。
・・・よし、力を借りに行こう。
渇きを高まらせてもらい、乾きをうるおしてもらおう。城を、うって出よう。

原稿を受け取ってからここまでの思考はおそらく十数秒。
そのままステージバックA!と 確保につきすすむのに1分。
2分後には飛び出していた。東京駅へ。とても弁当なんて食べるバイタリティはないから、スゴイカタイアイスだけ握りしめて。

フタをすこしだけ開けて、ひと駅待ってから。

車中では空いている席を確保して、後ろの席にも見えないように窓にもたれながら、やるべき仕事を高速で進める。こう言う時は加速する。おれは人間発電所だ。何を言っているんだ。頭の中でそんなノリツッコミもしながら、グイグイと書いて、越後湯沢についたあたりで僕のターンの仕事は終わる。
そこからそういえば昨日1時間くらいしか寝ていなかったことを思い出して、さらに新潟が終点であることに安堵して、眠りについた。

・・・そして、到着。
新潟の駅から間に合うように歩く中で、こんなものを見つけた。

本通運

「日」が隠れている。まるで天岩戸のように。
きのうまでの僕もそんな感じだった。どうにも晴れない。
しかしここから目にする、世にも素晴らしきショウを見れば、
心の岩戸もズズズと開いて、光が差すだろう。

・・・そう思って、会場に足を踏み入れた。
2時間後、ぼくは、もちろん光は差されて晴れ晴れとした気持ちになったのはもちろんだが、それどころではない、僕個人のことなど遥かに超えた、「ある思い」を抱くに至る。

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