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不安が風に揺れて消えるまで #あたたかな生活 #シーズン文芸

note文芸部が新たにお送りする #シーズン文芸 創作企画!
3・4月のテーマは「あたたかな生活」。

本日はこの方、百瀬七海さんです!






坂道をのぼると、目の前に桜並木が広がる。
1年にわずか数日程度しか見ることのできないこの景色は、思わず立ち止まって時間を止めてしまいたい、そんな美しさがあった。

隣を歩く翔の手を取る。翔はちらりと私を見ると、しっかりと私の手を握ってくれた。

「時間が止まったらいいのに」

優しい空色と、柔らかな薄紅色のコラボレーション。ハラハラと風に揺られる桜の花。ふわりと舞う花びら。
時間を止めて、何時間でも眺めていたい。
そんな風に思うのは、きっと隣に翔がいるからだ。

「綺麗だよな、いつ見ても」

私と翔は、もうずっと昔からこの景色を見ている。
1年にわずか数日しか見ることのできないこの景色を、心に留めていた。

この春から、私と翔は新社会人になった。
1日の大半の時間を、会社で過ごす。それは、今まで翔と過ごしてきたたくさんの時間を、今度は一緒に過ごせなくなるということ。
会いたいときにすぐそばにいてくれないのはやっぱり淋しい。

「うん、綺麗」

淋しいのは、私だけじゃない。
私と会えなくて淋しいと、きっと翔も思ってくれているはずだ。

雪のように、桜の花びらが揺れ落ちる。
不安な心も、ゆっくりと溶け出すようにこぼれていく。

私たちなら、きっと大丈夫。
翔の手を、ぎゅっと握りしめる。

淋しい夜は、こんな風に一緒に歩いた桜並木を思い出そう。
不安な夜は、この心を翔にゆっくり溶かしてもらおう。

私たちは、ひとりじゃない。
だから、私は大切な人のために笑顔になれるんだ。
翔の笑顔を見たいから、私は翔のために笑顔になれる。暖かな春の温もりを心に感じながら、翔の横顔を見上げた。

“いつか”なんて、よくわからない未来を不安に感じる必要なんてないんだ。
だって私たちが生きているのは、”今“この瞬間なのだから。

翔の髪の毛に桜の花びらが舞い落ちる。
私はそれを手にすると、ふぅーっと空に向かって息を吹きかけた。


fin





百瀬七海さん、ありがとうございました。
それでは次回もお楽しみに!


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