Room 1 "Hello World"

「なんじゃ、あっけなく戻ってこれたのじゃ♪」

確かに、見覚えのある部屋だ。何度も味わった芳醇なカカオの香り、封を開けることすら億劫になる程溢れたプレゼントボックス、肌が完全に記憶しているベッドの感触も、目を瞑ってても描ける程焼き付けた海の夜景も、全ては「いつもの」あの場所のようだ

「でも…何か違和感が…」

そんなオーナーの心配を他所に、カンナは小腹の空きを満たそうと、用意されているご馳走を堪能しようと近づいている。

「お前ー、コレ食べてもいいんじゃろ？」
「待て待て、俺はこんなの用意した覚えないから、別の人のものかもしれない」
「どうせ、ほのかやたまきが用意したもんじゃろ？だったらワシのもの同然じゃ！」
「そうやって人の物を勝手に取るから、エレナに怒られるんだろ？」
「そ…それは言うでないぞ！」

見覚えがあるのは確かだが、強烈な違和感を覚えるのも確かだった。一体、その違和感は何だったのか、その事実を知るのに、あまり時間は必要なかったようだ。

「カンナ、何か音が変じゃないか？」
「ん？ものの怪の声でも聞こえるのか？」
「そうじゃない、妙に静かすぎないか？もし、本当に戻ってこれてるなら、小波の音が聞こえるはずなんだが…」
「そうじゃったかのう？確かに退屈するぐらい静かじゃがな」

その違和感は正しいものだった、この空間が紛れもなくRoomであることを、オーナーは敏感に感じ取っていた。

「お客様、どうぞご用心ください」

「お！マリーではないかー！」
「マリー…なのか？」

音もなく突如現れたのは、マリー・ローズのような容姿をした美少女だった。だが、やはりこの少女からも、異様なオーラが放たれており、安易に近づいてはならないという警戒心が、俺を踏み留まらせている。

「ええ、貴方の察する通り、私は貴方が知る"マリー・ローズ"ではありません。私はマリー・ローズでありつつ"マリー・ローズ"ではないものなのです」
「なんじゃコイツ？エナドリ飲み過ぎて頭おかしくなったんか？」

「どう言う…ことなんだ？」
「貴方達がNoclipして、この異空間に飛ばされたのと同様、私もとある"オーナーさん"の手によりNoclipしたことによって、この空間に移動してきたのです。所謂、別のパラレルワールドからの存在ということです」

どうやら、この空間においては、別の"俺"が持つ世界を共有することが可能なようだ。このマリー・ローズは、俺達よりも先に、この世界に迷い込んだのだろう。

「元の世界に出なくていいのか？」
「私の"オーナーさん"は、どうやらNoclipすることを是としているようです。たとえ、戻ったとしても、また此処に戻ってくることでしょう。そして、私は先駆者として果たすべき務めがあることを、この空間で学んだのです。だからこそ、こうして給仕として留まり、貴方達のような放浪者のサポートを買って出ているのです」

「そうか…いかにも"マリー・ローズ"らしい。で、俺達のサポートと言ったが、一体何をしてくれるんだ？」
「先ず、この部屋では一切の手出しをしてはなりません。手出しした場合、より危険なRoomへの転送が確認されています。貴方達がやるべきことは、48時間の待機です。その間は一切の飲食を断って下さい」

「2日も飲まず食わずじゃと！？お主、ワシらを殺す気かー！！」
「心配はいりません、この空間は人間が最も快適且つ体力消費を最低限に抑えられるような環境に、自然と保たれるよう設定されています。また、仰向けのままで1回につき1時間の使用であれば、ベッドでの睡眠も認められています。使用後は必ず12時間以上空けてからの使用を厳守してください」

「わかった、そうやって48時間経ったら、俺達はどうなるんだ？」

「…恐らく、現実世界へ最短距離で移動可能となるでしょう、絶対的な保証は致しかねますが…」

成程、そう簡単には帰れそうにないのだな…

Room1：No.911
SURVIVAL DIFFICULTY : Class2 "Unsafe"
ホテルの一室です、他の客室と違い、ロイヤルクラスの部屋となっているため、とても豪華です。
誤ってRoom0へNoclipしてしまった人たちのほとんどは、このRoomに訪れることになります、いったん落ち着くにはちょうど良い空間となっています。
良くもてなされているように思えても、それらは大抵罠となり得ます。もし食事をしたり正しい睡眠をしなかった場合は、厳しい環境下のRoomに移動することになります。

Entrance
Room0にあるドアを開けるとRoom1に移動します
Room13で8時間以上の就寝に成功するとRoom1に移動します

Exit
48時間待機するとRoom2に移動します
部屋の中の菓子類を食べると一時的に失神を起こし、目を覚ますとRoom200へ移動します
ベッドの使用方法に従わなかった場合、Room13に移動します
マリー・ローズを虐待するとRoom32000に移動します
窓を突き破るとRoom222.22に移動します
台所で調理をすると全身に火が回ったままの状態でVoidへ移動します