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ご利用は計画的に。

「ジリリリーン…ジリリリーン…」
「はい、もしもし…」
僕とインターネットの出会いは、一本の電話から始まった。
大学4回生、就職も決まった1998年秋頃だった。

「モシモシ…〇〇さんですか?」
女性だ、初めて聞く声だ。
「私、〜〜株式会社の××と申します。」
…なんや、営業電話か。
僕は営業電話を切らない。暇つぶしになるからだ。
その時も、そんな軽い気持ちで話を聞く事にした。
簡単な自己紹介、上っ面の軽薄な世間話をして、談笑する。いつも適当に盛り上げて、最終的に断るのだが、
「インターネットって知ってる?」
当時の僕は何となく聞いたことがある程度でしかなかった。
曰く、インターネットはたいそうスゴいらしい。何でも、世界中の人と家に居ながらにして、パソコンを通じてやりとりができるとの事。これからは会社でも何でも、パソコンが出来ないと、と言う。興味があるなら一度会ってくれと言う。フムフム、そうなのか…じゃあ…という事で、数日後、会う約束をした。
(今考えれば鬼コワイ!自分の娘がこんな営業電話にホイホイ出かけていく様な事があったらきっと張り倒すに違いない。)

 某日、繁華街にある、ガラス張りの高層ビルの空中オフィスの中に僕は居た。見る限り…会社はちゃんとしている。
説明を聞くと、その会社では、仮想空間上で、アバターになって、アクセスしている人達とコミニケーションする、という、オンラインゲームの走りのようなシステムを構築しており、そこで知り合った気の合う仲間と実際に会ったり、現実世界にもコミュニティを作っていて、開催しているイベントに自由に参加できる、というものだった。
当時、卒業〜就職を控えていた僕には、その話はとても魅力的だった。パソコンも学べて、サポートもしてもらえる。就職して、遠隔地に行く事が決まっていた僕は、それらを通じて、現実世界の友人を増やせるという提案に文字通り喰いついた。
では、契約書をお持ちしますね。
金額は…おっと…いち、じゅう、ひゃく、せん…ごじゅうまんえん…えっと、ローンは組めますかね?48回払いで…
(こんな事が罷り通って良いのだろうか?成人とはいえ学生である、当然、一人でローンは組めないので、保証人である親の了解を最終的には取るのだが、恐ろしいビジネスモデルだ。書いてて腹が立ってきた。)

 こうして、僕は生まれて初めてローンを組んだ。
この時は薔薇色の未来しか頭になかった。
数日後、僕の家にはノートPCが送られてきた。
コレを繋げば、夢のような世界が待っていると思っていた。
接続~設定をしながら、初めてある事に気が付いた。
当時、我が家は黒電話だった。(正確には色は白)
ジーコジーコとダイヤルを回し、ジリリリーンとけたたましくベルが鳴る、サザエさん家の電話機である。
余談だが、わが家の家電は、物理的に壊れないと入れ替えが実施されず、電話機など壊れる要素が全くないため、母親が仕事のためFAX導入した平成15年頃まで使用されていたと記憶している。
電話線が1本しかないのだ!
つまり、①電話機から抜いた電話線をノートPCに接続→②インターネット接続→③電話使用不可、という事態になる!
何という事だ!まさかこんな落とし穴があるとは!!
(今ならググって解決できちゃうと思うんですけど、当時は人に聞くことすらままならなかった。インターネット黎明期、知識のある人がいない!)

 その状況で使用開始したものの、家族からはブーイング、長時間使用時に電話料金支払いを請求される(当時は固定電話料金高額だった)等、利用継続に対する環境が過酷となるも、使用できなくても日常生活に困らない、という状況から、次第に忘れ去られていく…結局、ノートPCを手に入れた僕がした事と言えば、タイピングソフトをレンタルしてブラインドタッチの練習をした事くらいで、非常に高い買い物になりました。
尚、余談ですが、その会社とはPCを買っただけでなくサービス利用契約の様なものを取り交わしており、その後もローンとは別に毎月2万円くらいの料金を払い続けていた、という恐ろしいオチがあります。(サブスクリプション恐るべし!)

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