深夜の悲鳴は誰の耳に届くのか

ちょっと前にテンプレートとして流行った「消防車が来ない話」。

家が燃えてしまうんだけど、誰も消防車を呼んでいなかったため全焼してしまうという話。大勢が事件を目撃していても「誰かが通報してるだろう」という傍観者効果と呼ばれる心理状態になるらしい。

数ヶ月前から裏手のアパートから子供の泣き声と母親の怒声が聞こえてくるようになった。昼夜問わずで何か叫び声が聞こえるのだ。昨今の痛ましいニュースのコトもあり、少々心配していた。民生委員の人が来るコトがあり、そういった旨の報告もしていたんだけど、あまり進展は無かった。

先日、夕食を済ませてから少しウトウトしていたら、子供の泣き声、男女の怒声、何かをバンバンと叩く音が聞こえて目が覚めた。裏手のアパートからだった。メガネをかけて表に出ると、近所に響き渡る声が延々と聞こえる。いつもより特にひどい。時刻はまもなく午前0時。

こんな時間に暴れているなんていよいよやばいのではないかと思い、警察に電話した。のだが、場所の確認やら何度も確認してくるんだけど全然来てくれる気配がない。家の外ではまだ悲鳴が聞こえる。

「わかりました。そしたら今から家の外に出ます。子供の悲鳴が聞こえると思うので、受話器越しに聞いてください」

そう言って外に出て声を聞かせると、やっとわかりましたと電話を切った。民事不介入だからなんだろうか。それとも信憑性がないと動けないからなのだろうか。初動の遅さが少し気になった。

念のためと思い、僕も外に出て裏手のアパート前で待機する事にした。悲鳴はまだ続く。近くのマンションの人達も雨戸を開けて見ている。要するにそれくらいの声が近所に響き渡っているわけだ。てコトは、何人かも通報しているんだろうと思った。

待つコト10分。

やっと警察のバイクがやってきた。若い人と年配の人だった。若い人に近づいて行き「こんばんは、何件か通報があったかと思いますが、そのうちの1人です」と伝えると、

「1件だけですね。あおいさんですよね?」

って言われた。え!?こんなに悲鳴が響き渡ってんのに僕だけ!?嘘でしょ!?

心の中で驚きつつも、警察官にもこれまでの経緯と今日は特にひどいから連絡した、と伝えた。「どんな会話か聞こえました?」と聞かれたのだけど、わからないと答えた。

なぜならこの家族、どうやら外国人なのだ。

だから先程から「怒声」と書いている。何か怒っているようだけど、それが「罵声」かはわからない。「東南アジア系の方だとは思うんですけど」というと、年配の警察官は苦笑いをした。日本語が通じないと確かに困る。入居している以上は多分日本語も大丈夫だとは思うんだけど。

ある程度の情報を伝えたところで「あとはお願いします」とその場を後にした。家に戻ってからもしばらくは聞き耳を立てていたんだけど、さっきまでの喧騒が嘘のように静かになった。効果はあったようだ。

それにしても誰も通報していなかったのには本当に驚いた。

「誰かがやってくれるだろう」という心理だったのだろうか。あるいは関わりたくないという心理だったのだろうか。前に交通事故の通報をした時に聞いたのだけど、こういった通報は何件出しても良いらしい。むしろ複数から通報があった方が情報としての信頼度、事故現場の場所の精度も上がるため、警察も動きやすいそうだ。

デリケートなコトが増えた社会だけど、困っている人を見過ごす真似は、できるだけ避けたい。

泣いていた子供、ひいては一家に何も無いコトを願う。

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