命日

この間、乗っていた車を廃車にした。

祖父から受け継いだものだ。祖父は車が好きで、戦争中も運転で隊長の補佐をしていたらしい。終戦して帰国してからも自動車関係の仕事をしていた。といってもメンテナンスとかではなくて、全て運転する方。

そんな祖父も高齢になり、周囲から「そろそろ乗るのやめたら?」と言われ続け、75歳の時に渋々乗るのをやめた。本人的には「昔から乗っているから大丈夫」らしいのだが、もちろんそんなハズはない。もしこのまま乗っていたら大問題になっていたかもしれない。

それから毎日のように祖父は「のあ、お前車乗らないか?」と僕に言い続けた。最初は乗り気ではなかったのだけど、あまりにしつこいので「わかった、乗るよ」と祖父の車を受け継ぐコトにした。

多分だけど、祖父は寂しかったのだと思う。自分の車があるのに乗れなくなるコトが。祖父も高齢だったから、亡くなってしまうまでは乗ろうと決めた(その後に「じゃあ車検だから払え」と言われて12万飛んだのは少し腑に落ちなかった)。

それから十数年の月日が経ち、祖父は93歳で旅立った。

亡くなるまでは、という気持ちで乗っていた車が、今度は祖父の形見になった。おじいちゃん子だった僕は、こうなるとますます手放すコトが惜しくなり、結局そのまま乗り続けた。

車体の塗装は剥げ、窓のゴムが弱り、助手席の鍵は壊れた。それでも乗り続けた。恋人、友達、マンガ家の先生、結構な人を乗せた。

しかしながら車そのものがもう古い。調べたら平成8年製。もう十分乗ったと思ったので、2年前に車検を通した時、次の車検の前に廃車にするコトを心に決めた。

こうして廃車の手続きを進めたのだけど、これが結構大変だった。

周りの友達に相談したけど廃車にしたコトが無いというので、まずネットで廃車の業者を調べた。多すぎてわからん!ディーラーに聞いてみたら「うちでは業者を斡旋するコトしかできない」と言われてまたネットで調べた。

ここで自分の怠慢が牙を向くのだけど、実は祖父から車を引き継いだ時、名義変更を行っていなかった。保険や車検、自動車税はもちろん僕が払っているのだけど、名義が祖父になっているため、廃車の際に遺産扱いになるらしく、遺産相続人(つまり僕の父)の実印などが必要になるとのこと。

いくつか問い合わせて、一番手厚く教えてくれた業者に依頼。役所で印鑑証明やら戸籍謄本やらを取った。これで3000円ほどかかった。廃車だけど動くという理由で業者から5000円もらえるらしいのだけど、労力的にはトントンだ。

引き取りの前日、祖父の遺影を持って車に向かい、記念写真を一緒に撮った。それから遺影を助手席に乗せた。せめて最後、じいちゃんとドライブをしようと、近所を車で回った。

そして引き取り当日、キャリアカーで業者が引き取りに来た。鍵を渡し、車が見えなくなるまで見送った。寂しい気持ちもあったけど、役割は十分に果たしてくれたと思う。今までありがとう。

それが祖父の命日である1/24の出来事。

向こうでも乗ってくれたら嬉しい。

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