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つくられるものがつくるものをつくる ③ 後編

三.くつ

いよいよリレーが始まった。
まずは1年生。たけし君はリレーの様子をじっと見つめる。一斉に走り出したのは全員で6人の男子。赤組、白組、青組の代表それぞれ2人が走っている。

なにやら熱のこもった実況がきこえる。ぼくはリレーの様子がよく見えなかったからしばらくその実況をきいてみることにした。

「皆さん、こんにちは!こちら放送部!さあ!今年も始まりました。始まってしまいました!毎年恒例N小学校組対抗リレー!心は高鳴り、競技場には歓声が広がります。会場のボルテージもMAXに達する中、今スタートの合図が鳴り響きました!一年生の小さな足が一斉に土を蹴り、今走り出しました!

さあ、1年生が走る走る!懸命に走る!
ここで2年生にバトンタッチだ!
手にしたバトンを確実に2年に渡す!
現在の順位は1位赤組、2位青組、3位白組、4位青組、5位赤組、6位白組とどのチームも一歩も譲らない壮絶な争いとなっています!

そして、2年生のランナーたちがコースに駆け巡る!小さな体でも驚異的なスピード!赤組が少しリードを築いていますが、青組と白組も見事な追い上げを見せています!今青組が追い抜く!

さあバトンタッチ。ああっと4位の青組がてこずってしまったか!?
バトンは3年生に託された!現在の順位は1位青組、2位白組、3位赤組、4位赤組5位白組6位青組だ!6位が1位に追いつくのは少し厳しいか?いや、まだまだわからない!6位の青組が驚異の追い上げを見せる!ああっと!?
白組のランナーがバトンを手から落としてしまった!これは順位に影響か⁉しかし、見事な立ち上がりを見せ、バトンをしっかりと次の仲間に渡しました。会場の拍手が沸き起こります。アクシデントもリレーの一部、これが運動会の醍醐味です!

さあいよいよ高学年!4年生のランナーたちが登場し、バトンを受けると駿馬のごとく颯爽と駆ける!
白組が先頭で周回を重ねていますが、何やらトラブル発生!1位の青組のランナーがつまずいてしまいました!これは大きなチャンスです!

ここで5年生のランナーにバトンタッチ。青組は先のアクシデントで3位になってしまった!立て直すのは難しいか!?現在首位は赤組!しかし、そのすぐ後ろには白組が迫る!青組も猛烈な追い上げを見せています。今は首位を争う両者の激しいバトルに注目です!」

いよいよたけし君の番だ。
わぁ~!一位だよ!赤組が1位で来てる!やったね。たけし君。
そうだね。気を抜いちゃだめだ。今まで努力してきた成果をここで出し切ろう!

「さぁ!いよいよ華の六年生!今年の集大成を見せてくれいぃ!首位は赤組!続いて白組、3位に青組、4位に赤組、5位に青組、6位に白組!
ラストスパートだぁ!」

たけし君、まずはバトンを落ち着いて受け取って。そうそう!
よし、走れ走れ!

たけし君はいつものフォームで走っていた。
けれどちょっぴり後ろを気にしているようだった。
気にする必要なんてないぞ!ゴールに集中するんだ、たけし君。
ああ!ちょっとずつあの嫌な奴が距離を縮めてきてる!急いでたけし君!

「さぁ、最後のカーブを曲がって、いよいよ赤と白の一騎打ちだー!どちらに勝利の女神は微笑むのか⁉このまま赤がにげきるか!?
ああっと!白も猛烈な追い上げをみせている!追いつかれるか!?」

いよいよゴールまで一直線だ。焦るな。焦るな。たけし君。大丈夫だ。今まであんなに努力してきたじゃないか。
けど、油断はできない。すぐ後ろにはさっきの嫌な奴が迫ってきている。

ゴールまでもうあと数十メートル。たけし君。気を緩めちゃだめだよ!

「ああっと!並んだ!並んだぞ~!これは熱い!」

うわぁ!まずい!
となりにあの嫌な奴が並ぼうとしている!たけし君!頑張れ!

……あ

その時ぼくのひもがほどけてしまった。そういえばたけし君の結びは緊張のせいかいつもより少し緩い気がしていた。

そして最後。たけし君は僅差で追い抜かれてしまった。

「最後の最後で白組が抜いた~!今年の男子リレー優勝は白組だぁ~!!」

たけし君は息を切らしていた。手をひざについてぼくを見下ろし続けていた。

……ひもは関係ない。たけし君は実力で負けたんだ。たけし君は最後の一瞬「負ける」と思ってしまったんだ。集中が切れたのが伝わってきた。

たけし君が二着でゴールインして、やっぱりぼくを見ながら歩き退場の列に並んだ。たけし君…………

列に並ぶと隣の嫌な奴が言った。
「たけし。お前すごいな。そんなに演技が上手くなってたなんて、驚いたぞ。やっぱお前は俺を立ててくれるんだな。
助かったよ。お前の足が遅くて」
「……のせいだ」
「……?」
「俺の足が遅かったんじゃない。くつの紐がほどけたせいだ」

……え?

「……そうか。じゃあせいぜいくつを恨むんだな。また名脇役のオファーするかもな。そんときはたのんだぞ」
嫌な奴はクラスのみんなに囲まれていた。
たけし君の周りには誰も寄り付かなかった。みんなあの嫌な奴を取り巻いていた。たけし君はぼくを見た。

…………たけし君?

「…………お前のせいだ」


あれから2週間が経った。こいつはおれのことを丁寧に扱わなくなった。
あ~今日も学校か。
「行ってきま~す。よいしょっと」

おい


おい、かかと踏むなよ!ちゃんとくつくらいはけよ!何回踏むんだよ!いい加減にしろ!おい?聞こえてんのか!脇役?
お前がかかとを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も踏むからよぉ
いらいらして仕方ねぇんだよ!あのかけっこで負けたのはおまえのせいだろ!お前の努力とか無駄だったんだよ!最初からそんなのしなくてよかったんだよ!お前は主人公じゃない!脇役なんだよ!おおい!おおい!おおい!
いつまで踏んでんだよ!ちゃんとはけよ!なんでこうなるんだ…………俺が何したってんだよ…………お前がかかとを踏むたびに…………俺は……!!!!


あの日から二ヶ月経った。
捨てられた。
もうくつじゃない。
なんでもない。
ごみだ。
ただのごみ。
袋の中。
誰かに持ち上げられる。
投げられる。
何か不気味な音がしている。

ぐぉおおおおん


ぐぉおおおおん


……………….

…………..





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