四月の送り

男の恋人が死んだ。

年度ももうすぐ変わろうかという、落ち着きのない頃合いのことだった。
その落ち着かない空気に飲まれたように、あっけなく男の恋人は交通事故で逝ってしまった。
男は葬式に呼ばれ、何度か顔を合わせたことのある恋人の親族と涙を流し、粛々とその骨を壺へと見送った。
…だというのに、葬式の翌日からも、男の周りは恋人が生きているかのようにふるまい続けた。それは男からすれば何もかもがおかしい事態と言えた。男は恋人への言伝を頼まれ、最近の付き合いの様子を揶揄され、お二人でどうそとお土産をわたされる。人々は言った。「あんなのエイプリルフールの嘘に決まってるだろう」「真に受けるなんて」「あんまりそんな態度でいると不謹慎だよ」
ふざけている様子ではなかった。しかし、恋人は確かに死んでしまい、今やどこにも居ないのだ。男は困惑し、考え、そして待った。

一年後、男は言った。「彼女が生き返った、戻ってきたんだ!」
これで明日には恋人の生存は嘘になるだろう。ようやく恋人は眠りにつけるのだ。

***
エイプリルフールに恋人の葬式をあげた男の話です。

#小説 #四月馬鹿

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