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『人間の手がまだ触れない』ロバート・シェクリイ(著)

このままでは、ふたりとも餓死してしまう!手違いのため食料を積み忘れた宇宙艇乗組員は、前方に現われた人跡未踏の惑星に着陸し、食料を調達しようとするが!?ブラックなユーモアあふれる表題作、時空にできた割れ目に挟まってしまった男の奇妙な冒険を描く「時間に挟まれた男」、殺人が特定のルール下で合法化された社会を舞台にしたサスペンス「七番目の犠牲」ほか、奇想天外でウィットに富んだ13篇を収録する傑作集。

傑作社会風刺SF短編集。70年前のSFだけど、ギャグ寄りで普通に面白い。さすがに出てくるガジェットがレトロだけど、その他アイデアは全く色褪せない。黒い藤子・F・不二雄を思い出す。「専門家」は鳥肌がたったし、「儀式」は腹が捩れた。長編も読まねば。以下個別感想。

怪物

異文化遭遇モノ。片方にとって普通の行為でも、他方にとってはタブーであるかも知れない。価値観、文化が全く違う2種が出会った時、どうあるべきだろう、と考えさせられる。しかし、お話自体はコミカル。不幸な遭遇だけど、笑い話にしか見えない所が凄い。

幸福の代償

機械がなんでもやってくれるが、機械は高価で働いて買わねばならない。しかし仕事も機械が全部やってくれるので、ボタンを押すぐらいの仕事しかない。人生とは何か? というお話。お金を稼ぐ機械だけを作らない企業が実にいやらしくて笑える。

祭壇

好奇心は猫を殺す、というお話。でも自分の街に怪しい祭壇があると言われたら、確かめずにはおれないよね。宗教の手口は巧妙だよ、というお話でもあるのかな。

体形

シェイプシフター型異星人が地球にやってくるお話。シェイプシフターにはシェイプシフターの掟、歴史があるのも面白いし、落ちまで秀逸で素晴らしい。伝統とは灰を守ることではない。火を絶やさぬことだ。という言葉を思い出す。掟も、なんのための掟なのかが風化すると代謝ができず、毒となる。

時間に挟まれた男

銀河設営業者のミスで、階段を降りると過去に、登ると未来に飛ばされる事故に巻き込まれた男のお話。業者と役所のやりとりも笑える上に、男がにっちもさっちもいかない様も笑える。オチがまた理不尽で凄い。

人間の手がまだ触れない

宇宙航行中、食糧補給を忘れた二人が、廃棄された惑星の倉庫で食糧を探すお話。ラベルとなんとか解読しながら蓋を開けていくけど、食べれるのか毒なのか一向にわからないのでやきもきする。西洋ならホラー落ちなんだろうが、日本人としては、ごちそうじゃん!としか言えない。

王様のご用命

百貨店の倉庫に夜な夜な悪魔が泥棒に入るお話。泥棒に入る理由がなかなか秀逸。魔法が使える悪魔たちが住む大陸は、数々の恨みを買って滅んだのだろう、と笑った。

あたたかい

これは難解だった。認識のレベルが上がって、世界の位相が異なって見え、その隙間なのか、上の次元かなにかに囚われてしまうお話。恐怖しかない。

悪魔たち

保険外交員が悪魔として召喚されるお話。アメリカで保健外交員は悪魔扱いなんだなと面白い。しかも呼び出したのが尻尾のある炎の悪魔で、さらに金を要求する所が良い。どう落とすのか楽しみにしていたら、悪魔の所業でこれまた笑ってしまった。

専門家

傑作。いろんな種類の宇宙生命体があつまり、1つの宇宙船として機能し、貨物を運ぶお話。しかし、超高速移動を担当するプッシャー族が事故で死んでしまう。航路も外れてしまい馴染みの銀河も遠く、超高速移動なしではだどりつけない。近場で原始プッシャー族を探すしか無い。やっとの思い出見つけたプッシャー族は人間だったが…。という最高の設定と展開だった。この本で一番好きなお話。人間が何故戦争しているのか? について、目からウロコだった。そうあればよいのに、と思わずにおれない。

七番目の犠牲

人間の残虐性を抑えるため、人間一対一の狩りが合法化した世界のお話。狩人と獲物、生き残った方が役割を交互に演じ、騙し騙され殺し合う。今の時代の人間としては、もう一捻り欲しいけど、70年前にこのラストは衝撃だろう。

儀式

歌と踊りの星に宇宙船が着陸し、降り立った二人が神として扱われるお話。ただし、過去にも神が来ており、儀典にのっとり歓迎していたが、なぜかこの星に寄り付かなくなってしまう。神をもてなす様子から、読者にはその理由がありありと理解でき、笑えて仕方がない。宇宙船の乗組員達が不憫でならないけど、笑えて仕方がない。ラストは死ぬのか帰るのかとハラハラしっぱなし。大好きな一編。

静かなる水のほとり

トリにふさわしい綺麗な話。最後のセリフは果たして入力された物なのか。余韻が美しすぎる。


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