新建築住宅特集 2020年8月号レビュー

8月号は庭特集。今月は、「次の未来に向けた庭を介した家造り」という視点からみてみたい。とすると、特徴的な3つの作品が浮かび上がる。

圧巻だったのは、「西口賢建築設計事務所:大地の家」。熱帯地域では植物の成長が極めて早く、だからこそ植物の成長速度と建築の間に、何かしらの関係性があった。一見すると構法的に弱く見えるヴァナキュラーも、実は周辺の植物資源との間の事物連関と資源を利用する人々のスキルにより規定された強度ともみることができる。ともすると、亜熱帯化する日本の住宅のあり方にも、何か新しい可能性があるのではないか。それを植物と建築の関係から批評的に表現したものとしても捉えられた。庭から作る建築というパラダイム、そして簡素な屋根型が、そんな捉え方を助長する。

「芦沢竜一建築設計事務所:橋本の半納屋」は、非常にわかりやすいダイアグラムで、2つの要素の重なりによる空間の多様性を表現してくれた。そこには、屋根の下=建築という境界も、内外のフロアレベルという境界も存在しない。建築は内外を区切るものではなく、内外をシームレスにつなぐものであるべきである、という、強い主張が内包された作品であった。

「岸本和郎:都市の縮景」は住宅と外との関係の正当性を緻密に設計している。敷地に対して角度をつけることで庭に奥行きを与える設計手法は、東京などの密集地でよく見られる。更に、今回のような旗竿敷地での展開は2000年代以降に顕著に見られる。そんな類型にある作品で、丁寧な内外の関係のデザインと植栽配置によるプライベートの確保が行われている。異なる壁面形状や境界表現と、それらと関係の薄い開口部表現の対話がユニークな作品である。

(教員・佐藤)

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