誰でもない人

誰でもない僕が、何でもない文章を綴ります

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#0 拝啓、誰でもないあなたへ

こんばんは。 僕は、うだつの上がらない画家です。 この世界のどこかにいるあなたが、 この世界のどこかにいる僕を、 もしかしたら、 好きになってくれるんじゃないかと そんな淡い期待で筆を取りました。 もしあなたが、 今日も眠れない夜を過ごしていて どこかの誰かの温もりが欲しくて そうしてここに迷い着いたのなら、 どうか、 僕の話を聞いていってくれませんか。 お金も何もいりません。 誰でもない僕が体験した、 ウソかホントか分からないような話を、 た

    • #18 将来の夢

      先輩の経営する接骨院は、来客もなく、すんなり見学させてもらうことができた。 なんてことはない、アパートの一室を解放している接骨院で、治療に使う機器のこと、保険診療のことについて話をした。 行きに40分、帰りは渋滞に巻き込まれて50分。 僕の運転する車の助手席に揺られながら、エリカは、初めて自分のことを話してくれた。 柔道整復師の資格を取ってから働いていた院のこと。 接骨院は「リピート客」が欲しいため、一度で治してはいけなかったこと。 そのため院長と治療方針が合わな

      • #17 人生のどん底で出会った不思議な彼女の話

        営業研修は過酷を極めた。 生命保険の基礎知識は分かったが、肝心の営業手法はまるで教えてもらえなかった。 与えられた担当地区や、職域と呼ばれる会社に、突然飛び込んで行って、ヘラヘラとへりくだりながらチラシを配ったり、アンケートをお願いしたりする日々。 それをどう契約に結び付けたら良いのかも分からないまま、僕らは「ダメで元々」の営業を繰り返していた。 一人、また一人と、心が折れた仲間がやめていく。 最初は15人ほどいた研修生も、数カ月で半分ほどになっていた。 ここから逃

        • #16 生命保険営業の闇

          生命保険の営業と言えば、おばちゃん達がアメを配りながら、加入者をハイエナのように探して回るようなイメージだった。 しかし説明会を聞いてみると、研修制度はしっかりしているし、幼稚園補助金制度を始め、女性の雇用促進など、社会情勢について本気で取り組んでいる会社のように思えた。 僕が惹かれたのは、ファイナンシャル・プランナーの資格取得補助が得られるところだった。 小学生の頃から、どこに行っても虐められるような僕に、営業職が勤まるとは思えなかったが、金融系の知識は、これからデザ

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        #0 拝啓、誰でもないあなたへ

          #15 復職

          僕は親を赦したし、彼を赦した。 全ては〈連鎖〉でしかなかったのだと、受け入れた。 入院した迷惑を謝ると、彼らは快く迎え入れてくれた。 今まで二言目には批判を口にしていた彼らが、ただ相槌を打ってくれた。 認知の歪みがあったこと、 それを治したいと思っていること、 努力したいと思っていることを告げたら、 黙って頷いてくれた。 残念ながら、 「だからこうして欲しい」 というお願いは通らなかった。 「こういう風に対応して欲しかった」 という想いも通じなかった。

          #14 ただ、愛されたいだけだった

          僕は両親が赦せなかった。 妹の代わりだと殴られた日も、 裸に剥かれて外に放り出された日も、 子どもなんか犬猫と同じだと言われた日も、 全部全部赦すことができなかった。 痛くて、怖くて、悲しくて、辛くて、 逃げたいのに逃げることすら許されなくて、 誰も助けてくれないこと、酷く恨んでいた。 みんな死んでしまえばいいのにと、何度願ったか分からない。 親を殺して家に火を着ける妄想を、何度したか分からない。 そういった 恨み辛みを 空っぽになるまで全部吐き出して

          #14 ただ、愛されたいだけだった

          #13 認知の歪み

          早く良くなりたかった僕は、病院から提示されたプログラムに、積極的に参加した。 アートセラピーを選択できたのも良かった。 アートは、僕の心を癒やし、自己肯定感を高めてくれた。 コミュニケーショントレーニングも受けたし、グループカウンセリングも受けた。 段々と、僕のこの苦しさは、「認知の歪み」があるから生じているのだということが分かってきた。 その「歪み」は、親から受けた教育による「連鎖」によって起こっているのだということも分かってきた。 父もまた、厳格な警察官一家の

          #13 認知の歪み

          #12 精神病の入院生活

          精神病棟の入院施設は、「何だかよく分からない怖いところ」というイメージしかなかった。 一般外来は普通に見えたが、今度こそ窓に鉄格子をはめて、奇声を上げ続けている人達と同じくくりになるに違いない……僕は戦々恐々としていた。 だが、現実は思っていたよりもっと「普通」だった。 病棟は許可を取れば外出自由。コンビニにも行き放題だった。 シャワーも使えたし、週に一度は湯船にもつかれた。 別の病棟には鉄格子がはまっているところもやっぱりあって、そこは幻覚や幻聴に苦しんだり、自害や

          #12 精神病の入院生活

          #11 希望に向かえない病気

          「ここを出ていくよ」 「そうか」 新しい依存先が見つかった僕の行動は早かった。 彼は至極アッサリしていた。 きっと、もう僕のような壊れた〈おもちゃ〉は必要なくなったのだろう。 ミカさんから請け負った仕事をこなしながら、新居を探し、家を片付ける。 調べることが多すぎて、毎日ほとんど眠れていなかった。 その上、彼からは「話し合い」という名目で何だかんだ時間を使わねばならなかった。 急ぎの仕事が入っても、そちらを優先させなければ「どうでもいいんだろ」と良心を攻撃され

          #11 希望に向かえない病気

          #10 新しい依存先

          バイト先で知り合ったミカさんは、おしゃれで明るくて素敵な女性だった。 元々は広告デザイナーをしており、仲間と共に地方紙を発行するなど、精力的に活動していたらしい。 しかし震災の煽りを受けて、受けていた仕事が全部キャンセルになり、仲間はバラバラ。借金もできてしまい、今はこうやって日雇いで日銭を稼いでいるらしかった。 ミカさんは、色んなことを教えてくれた。 高時給の日雇いバイトや、広告デザインの作り方…… 「君、元WEBデザイナーでしょ? もったいない。私と一緒に独立しよ

          #10 新しい依存先

          #9 ダブルバインド

          ダブルバインド…要するに〈板挟み〉のこと。 暴力に依存している人間は、「暴力を振るわれた記憶」と「愛された記憶」の両極端な2つの出来事に、惑わされ、悩む。 対象に愛されたいがゆえに、「愛された記憶」を過信してしまうのだ。 「暴力は愛されているから」 「いつかまた優しい人に戻ってくれるはず」 「いつかきっと愛してくれるはず」 その強い信念が、愛から来るのか、依存から来るのかは分からない。 だけど愛されたいから、許してしまう。 どんなにどんなに、酷いことをされたと

          #9 ダブルバインド

          #8 暴力の連鎖

          アルコール依存症であることを認めた彼は、大人しくカウンセリングを受けた。 勝手に飛び出した僕に怒り狂って、暴れ出すんじゃないかと予想していただけに、意外でしょうがなかった。 「父は……長距離トラックの運転手をしていました」 ポツリ、ポツリと、彼が父親との思い出をこぼす。 バブル期は羽振りが良かったこと。 長距離から帰ってきては酒浸りになっていたこと。 景気が悪くなってから、暴れることが増えたこと。 テーブルの下で母親とうずくまり、「大丈夫」と抱きしめられていたこ

          #8 暴力の連鎖

          #7 アルコール依存症

          「電話……ですか? どうして?」 「お相手は、状態からアルコール依存症である可能性が非常に高いです。暴力を改善するにしても、まずアルコール依存症の治療から始めなければなりません」 せっかく離れたのに、自ら呼び寄せるのか。 それに彼が、僕のために治療に応じるなど、あるはずがない。 あんなに道具のように扱われたのに。 『お前は本当に自分のことばっかりだな』 まるでゴミでも見るかのように、僕を見下す彼の顔が思い出された。 「ダメならダメで良いじゃないですか」 確かに

          #7 アルコール依存症

          #6 精神病院

          久しぶりに帰った家は、思っていたよりもずっと暖かかった。 パートナーから受けている仕打ちを話し、僕が馬鹿だったことを謝罪し、うつ病を告白した。 家族は、あれこれと詮索することなく、布団を敷いてくれて、食事を出してくれた。 一つ下の妹がうつ病で入退院を繰り返していることから、対応に慣れていたんだろう。 家族と向き合い続けた妹のことを、とても尊敬したし、有難いと思った。 「しばらく実家に帰ります」というメッセージに、彼は「ゆっくり休んで」とだけ返信を寄越した。 ネット

          #5 うつ病

          日増しに、起き上がれない日が増えた。 ピカピカに磨き上げていた家の中は、段々と荒廃し、既にどこからどう手を付けたら良いのか、分からない状態になっていた。 バタンッ 今朝も一言も会話を交わさず、彼は家を出ていった。 きっと、厄介者を抱えてしまったとでも、思っているだろう。 もう、性処理を求められることもなくなっていた。 それはそれで寂しく、僕は何の価値も生み出さない、産業廃棄物になった気持ちだった。 夕方やっとの思いで起き上がり、水を飲んで、また横になる。 とて

          #4 暴力

          彼は次第に家に帰らなくなっていた。 朝まで飲み明かしては、次の日仕事をサボって一日寝込むということを、繰り返すようになっていた。 聞けば彼のお父さんもそういう人で、外で働く人には当然のことだと言う。 飲んだ次の日休むことを、会社も容認していると言うのだ。 会社勤めをしていない僕には、何が本当のことか判断できなかったし、幸いにしてスキルの高い彼は仕事もクビにならず、年々給与も上がっていっていた。 比例するように、彼が飲み潰れる日が増えた。 少しずつ彼が仕事を繋いでく