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ベースボール・ファッション〜肘当て編〜

 筆者、のぼ〜る広報が野球で使われる用具を紹介しそこから分かることを紐解くことで、プロ野球選手における"おしゃれ"とはなんなのかを追求していく、題して「ベースボール・ファッション」。
 第二回は、肘当てについて紐解いていきます。

肘当ての歴史

 皆さんは、プロ野球の試合を観る時、ヒットを放った選手が肘当てをコーチやボールボーイに渡すシーンを観たことはないでしょうか。

画像は、中日・根尾昂選手がプロ初ヒットを放った際のもの。右手に肘当てなどを持っているのが窺えます。

 肘当て(正式にはエルボーガード)は文字通り、バッターが打席に立つ際に肘をデッドボールから守るために当てるもので、右打者なら左肘、左打者なら右肘に当てます。

 そんな肘当て、プロ野球で普及し始めたのはいつなのでしょうか。答えは、今からおよそ30年前のこと。中日に助っ人としてやってきたアロンゾ・パウエル氏が付けたのが、プロ野球では最初の例とされています。
 1992年、日本に来日した右打ちのパウエル氏は左肘に死球を受けてしまいます。当時はピッチャーもグイグイ内角攻めをする時代。死球も多く乱闘に発展することもザラでした。
 しかし、パウエル氏は乱闘を嫌っていた模様。

 「暴言をはいたり、暴力をふるっても家族が悲しむだけだからね。でも、頭部は絶対にだめだよ。それは許せない」。

中日スポーツ 2019年12月4日 11:23配信の記事より一部抜粋。

 と、頭以外の死球では絶対に乱闘を起こさないということを語っていました。

 とはいえ、鉄の塊のような硬球が肘に当たるとプロ選手とはいえとても痛いです。そこで、同年オフにパウエル氏は防具で肘を守ることを考えました。当初、パウエル氏と契約していたスタッフの旭和男氏は

  「最初はね、バレーボールの選手が使う膝当てのような動きやすいものを考えていたんですよ。そうしたら、パウエルが硬いものがいいと言うんであれこれ考えたんですよ」

中日スポーツ 2019年12月4日 11:23の記事より一部抜粋。

 と、自身が想定していたものと違いパウエル氏と共に試行錯誤したようです。
 アメリカでは肘当てを小さな企業が作っているという噂があったものの、現地でもほとんど知られておらず、最終的には自身たちの手で一点物のプラスチック製肘当てが完成したそうです。
 それが評判を呼び、他社の参入により今ではプロアマに関わらずヒット商品になったのでした。

 今のプロ野球界ではほとんどの人が着用している肘当て。そのルーツとなったのは、中日で3度の首位打者を獲得した名助っ人からきていたのですね。

防具で野球界の技術が低下?

 一方で、肘当てなどの防具が普及したことは良いことだけではないようです。特に近年になって言われるようになったのが"プロ野球選手の技術の低下"。

 防具をつけたということは、少なくとも生身の状態よりは死球時の痛みは軽減されます。それにより、近年ではデットボールに敏感になる選手が減り、むしろ際どい球がきたら「当たりに行く」というような選手まで現れ出しました。
 死球は、端的に言えばピッチャーのコントロールミス。ピッチャーに非があるのはもっともですが、避けない、反応が遅くてもいいという選択肢が出てくるのは非常にまずいことです。

 死球の中でも特にまずい物、「顔面死球」があるからです。前述した通り、パウエル氏も死球は許せど顔面死球は流石に耐えられないという話をしていました。当たりどころが良くても脳震盪や鼻骨骨折、酷い場合は選手生命を脅かされるレベル、死に至る可能性だって十分にあります。
 防具が無かった時代の選手はそういうボールの反応に早く、危険な死球は少なかったと言います。

 データ野球の進歩により150キロを平気で越す投手が増えた昨今、顔面死球は昔よりもずっと危険なものになっています。防具の進歩によって技術が進化しなくなっている、とまでは言いませんが、やはり"野生の勘"、反射神経というものは鈍くなっているのかもしれません。

防具を付けない"オシャレ"

 一方で、肘当てなどを"一切"付けない選手というのも、肘当て開発以降も存在していました。今はもう絶滅危惧種ですが、「数少ない肘当て不着用者」として言えるのが、元中日の平田良介氏。プロ通算1046本のヒットを放った中距離ヒッターは、肘当てをつけない選手として有名でした。

元中日・平田良介氏。両腕とも剥き出しになっており、肘当てをつけていないことがわかります。

 平田氏は自分の体に何か物をつけるのが嫌だったらしく、この状態が良かったそうです。しかし、この状態でバットを大きくベース側に突き出す"神主打法"を採用していたのですから、相当勇気がありますよね。
 しかし、平田氏の現役時代の格好はとても様になっていました。肘当てを付けないのも、また一つの"オシャレ"なんだなと感じましたね。

現役時代の平田氏。この構えからもオーラを感じます。

 また、現役では「おかわり君」こと中村剛也選手も肘当てをしていません。ゆったりとした袖口から顔を覗かせるのはアンダーシャツのみで、肘当てを装着していません。今現役で思い浮かべられる選手といえば中村選手くらいなので、これからも肘当て不着用者として頑張って欲しいですね。

西武・中村剛也選手。両肘に肘当てをしていないことが分かります。

おしゃれな選手と肘当ての組み合わせ3選

 肘当てについての歴史が分かったところで、筆者がおしゃれな選手と肘当ての組み合わせを3つ選びましたので紹介させていただきます。

1 桑原将志選手×白ピンク肘当て

DeNA・桑原将志選手。

 まず1人目は、ハマの元気印・桑原将志選手。日々ガッツのあるプレーでDeNAファンを盛り上げてくれます。
 そんな桑原選手がよく着用しているのがこの白とピンクの肘当て。今年から白の部分が多めになったDeNAのユニフォームに、この肘当てがよく馴染んでいておしゃれですよね。また縁がピンクなのも、桑原選手の熱い心と冷静さが混ざっているようでいいですね。

2 加藤翔平選手×赤肘当て

中日・加藤翔平選手。

 2人目は、中日の加藤翔平選手。加藤選手は手袋や脛当てなど、防具全般を赤にしていますが、やはり肘当ても赤なのがいいですね。ドラゴンズブルーといいコントラストを成しています。
 また青と赤というのは印象が強いので、防具の色のイメージで思い浮かべることができるというのもいいですよね。

3 中村剛也選手×肘当て無し

西武・中村剛也選手。

 3人目は、やはり中村剛也選手でしょう。2016年の侍ジャパン壮行試合ではアンダーシャツすらない"平田氏"状態になっているなど、数少ない肘当て不着用選手の1人です。中村選手は、むしろ付けないからこそおしゃれですよね。

肘当てから紐解いた"おしゃれ"

 さて、ここまで肘当ての歴史やメリット、デメリットなどに触れながらそこから分かる"おしゃれ"を紐解いてきました。名助っ人に防具として生み出され、自身の身を守れることから急速に普及を始めた肘当て。白や赤や黒、丸い形や六角形に近い形など様々なタイプがある一方で、肘当てを付けない選手もいたり、そこにおしゃれを感じられたりしました。
 それを踏まえ、筆者は

プロ野球選手における"おしゃれ"は、その人の覚悟、ムードで左右される

 というふうに考えました。この記事を読んでくださった皆さんも、テレビの前で観戦する時はぜひ肘当てに注目してみてはいかがでしょうか。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

出典・画像引用元

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