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コツコツ頑張る人が報われる社会のためにキャッシュレスを。「教えて!瀧さん」ゲスト対談(尾原 和啓さん)後編

前回から「教えて!瀧さん」と名前をリニューアルし、掲載場所もWantedlyからnoteへと移行した「月刊瀧」。今回は、尾原 和啓さんをお招きしてちょっと刺激的なお話を聞いてきました!今回は前編に引き続き後編です!

ゲスト:尾原 和啓(おばら・かずひろ)さん※写真左
執筆・IT批評家。京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。現在13職目 、シンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。

相手:瀧 俊雄(たき・としお)※写真右
株式会社マネーフォワード取締役 兼 マネーフォワードFintech研究所長。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券株式会社を経て、株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

キャッシュレスは真面目に頑張る人が報われる社会のために

瀧 :前半では、雇用の話の途中で終わってしまいました。引き続きお願いします。

尾原:もう一つ言わなければいけないことがあります。本来的に言えば、キャッシュレス経済が進めば、プロセスの省略化が進むはずなので、税務処理コストと、会計処理コストが下がる。だから、税金を下げられるはずなんですよ。それを国はコミットせよっていう話ですよね。

わかりやすい話でいくと、エストニアっていう国では、すべてのレジの決済に、IDがついています。全部の税務処理が自分の国民IDに紐づいているから、IDを入力するだけで確定申告は3クリックで終わっちゃうんです。そのおかげでエストニアっていう国から、会計士っていう職業と、税務処理官っていう職業がなくなったんですよ。そのおかげで、エストニアは税率が20%なんだけど、ヘルシーな経営ができているんですよね。だから、プロセスが省略化されるんであれば、それは国や政府の努力目標として、税金を下げる話とセットですよね、と。

尾原:実際、韓国はキャッシュレス決済比率が92%ですよね。あれは、単純に民間の小売業者の税逃れが多くて、それを追跡することが発端です。お店で買ったデータを入力をすれば、税金優遇があるからと言って、個人に入力させました。そうして小売業者側の税逃れを排除できて、結果的に税収が増えたわけですよね。そういう目的でキャッシュレス化を進めたということを、ちゃんと伝えるべきです。だって、機会均等の再確立をするために必要なことなんだから、別に国が税金を取ることは悪いことでもなんでもない。

なんのためのキャッシュレス化を図りたいんですかっていう話です。税務のトランスペアレント(透明性)を上げることによって、公正な税収が増えて、かつ、公正な税務取引コストが下がるから、結果的に税率も下がるっていうのが目的なのであれば、今トランスペアレントにできていない高額取引の履歴を追跡できることが目的のはず。そうじゃなくて、「これから循環経済になっていくのに、現金を使っているっていう感覚を持たせると経済の循環を遅くするから、とにかくフリクションレス(※3)に決済をしていくんだ。GDPそのものは上がらないけど、経済の回転速度が上がるから、結果的にみんなが豊かになるんだ」っていうのを求めたいのであれば、むしろオンラインにおける少額決済におけるフリクションレスにしていくほうがいいし。なんか、「最後はキャッシュレス化しないとダサいじゃん」みたいなところがあって。なんの目的のための手段なのか、ってところなんですよね。

※3 フリクションレス:摩擦がないこと。決済のやりとりをする当事者間での手間や手数料ができる限り少ないこと。

尾原:僕個人の観点としては、所得が二極化してしまうこと自体は仕方がないと思っています。その状態から、国かなんらかのプラットフォームが、機会均等の再確立や資源の再配分をしなくてはいけない。機会均等の再確立をするときに大事になってくるのは、結局、信用データです。ここで言っている信用っていうのは、お金を返す信用っていうよりは、コツコツ真面目にやる人だっていう意味の信用です。

尾原:残念ながら、今は途中で止まってしまっているんですけど、2015年の冬に、UberとZopaが提携した件があります。Zopaっていうのは、イギリスのBtoBファイナンスで、個人が個人にお金を貸せますっていう会社。例えば、あるUberのドライバーは、毎日10人ぐらいのお客さんを乗せて、4年間レビューが4.5を切ったことがなくて、事故も起こさない。めっちゃ安全で良いドライバーですよね。この人が、今までは中古のカローラだったものが、ランクの高いUber Black XLの8人乗りのバンとかに乗り換えると、顧客単価が二倍になることで、確実に収入が倍になるんですよね。もちろん減価償却とかは除いて。となれば、個人はめちゃめちゃ投資したいですよね、この人に。UberとZopaの提携はそういう仕組みを確立させています。でも、ここにおいて一番大事なのは、このドライバーの方の人種や宗教が何であろうが、投資に足るドライブができるという事実には関係ないということです。Uberでレビューが4年間4.5切っていないという事実だけで、融資が受けられる社会というのは素敵じゃないですか。

日本も、知らず知らずのうちに、低所得層の方々の子どもがちゃんと教育を受けられないっていう問題がどんどん顕在化していて、おのずと機会の不平等が広がっているんですよ。でも、その中でも、真面目にコツコツやっている人たちもいるわけです。その人達が浮かばれないから、絶望の中でもっとひどいことをしちゃうリスクもあるわけですよ。少なくとも、コツコツやっていれば融資がされる機会が巡る社会にしていく。そういうものにつながっていくキャッシュレス経済っていうのが、僕は好きです。

瀧 :幸せにしないと。幸せっていうのは、恵まれるじゃなくて、機会の平等が安心して得られるっていうことですよね。

尾原:そうです。やっぱり真面目にやった人が、裏切られる社会っていうのが一番良くないわけです。そりゃあ、努力が報われないことっていうのはありますよ。だけど、踏みにじられてはいけないわけで。

瀧 :そうですね。

「ストックオプションいらない」「個別株もやらない」尾原流の資産運用

瀧 :次は、機会っていうより、結果を出した人じゃないと運用できない資産みたいな話をしたいんですけど、尾原さんって、どうやって資産運用してますか?

尾原:基本的にマクロ投資だけです。だってマクロ投資は裏切らないもん。成長国家のインデックス、ないし為替。最近は為替やらないけど。

瀧 :為替はFXでポジションとるみたいな?

尾原:そうですね、やってた時は。あともう一つやってたのは、「事故株」買い。

瀧 :じこかぶ?

尾原:要は、どう考えてもファンダメンタルズ(※4)が傷つけられていないのに、優良企業がアクシデントを起こして、不当に株価が下がる状態。それを買って、3年ぐらい寝かすとか。要は、僕のやっていることって、生きるスタンスの問題があるんですよ。僕は、スタンスとして、どことでも誰とでも働ける」という自分が好きなんですよね。

だからインサイダーの状態になりたくない。実は、Fringe81の執行役員とか、楽天の執行役員もやってたけど、全部ストックオプション要らないって言ったんですね。だって、ストックオプションもらったら、もらいたいがために3年いたくなるかもしれないじゃん。僕が3年いたくなったら、僕じゃなくなるよ!

※4 ファンダメンタルズ:国や企業などの経済状態などを表す指標のこと。企業の場合は財務状況(資産、負債など)や業績状況(売上高や利益など)を指す。

瀧 :たしかに(笑)。面白い!

尾原:僕が転職しなくなって、新しいことだけを純粋に求めなくなって、普通の人になったら、僕の付加価値なくなるじゃん。それでもあなた、ストックオプションくれるの?いろんなところから、株買ってくれませんかとか、出資してくれませんかっていう話がありますけど、あなたが純粋にいいアドバイスがほしいなら、新しいものを追い続けてる尾原を縛り付けるかもしれない投資をしてくれっていう話は出ないはずだって。

瀧 :コミットされすぎると離れるパターンですね(笑)。

尾原:あなたが面白いことをやっていれば、僕は損得関係なく、アドバイスしに行く。あなたがやっている面白いことを教えてくれれば、それの代わりに、あなたの面白いことを引き出す情報を提供するよっていうのが、僕の生きるスタンスなので。そうすると個別株投資なんてできないんですよ。っていう中で、一番効率よく儲ける投資だけなんです、できるのは。

あとは、人生の時間のバランスですよね。個別株分析をやればいくらでもできるけど、そういうことやっているぐらいなら、未来のことを考えていたい。僕の残念なところは、今日のペイメントの話とか、経済の話とか、なんぼでもしゃべれるけど、他の人よりも考えすぎていて、ほかの人が追いつくのが何年後かわからない。だから、僕から見ると価値のない株式が、なぜか価格が高騰したり、僕から見ると旬が終わっていると思うものが、あとから株価として旬が来たり。だからマクロ投資しかやらない。そのかわり僕は気が長いので、一時的におかしくなっただけで、長期的な観点で見たらどう考えても大丈夫で、かつ僕と関係ない遠いところのインフラとかに投資して、5年経って倍になる。僕から言わせると、あたりまえでしょうと。

瀧 :すごい!こんな美しい投資の話はあんまり聞けないですよ。普通の人たちはもうちょっと…

尾原:それは、ファイナンスにエクスタシーを求めているからですよ。

瀧 :ご自身の生きざまと言える人的資本(ヒューマンキャピタル)にとても正直な内容なんですよ。持株会ってファイナンス理論的にはマイナスな要素があって、同じ投資対象に自分の労働力と自分の資産をダブルで投資していることになってるんですね。

例えば、マネーフォワードに勤めていて、競合である会計ソフトや財務管理ツールの株式を買うかというと、それもまた違う話だし、だからといってマネーフォワード株と逆の値動きをするをする株を買うのかというのも、違う。そういうことを考えたときに、どこにもベットしないで済むライフスタイルを、金融側で築いているような気がして、いいですね。手数料がゼロだったとしても、ロボアドすら使わなさそう。

尾原:AIの方が人間の投資の判断より早いから、いま市場は有望だと思いますよ。でもこれも、僕からはわからないんですよ。だって、この先何年かは有望だと思いますが、AI同士が主流になってきたら、結局アービトラージ(※5)はどんどん縮小していくわけですよね。

※5 アービトラージ:同じ価値を持つ商品の一時的な価格差や利息の差を使って、利益を得ようとすること。例えば、同じ商品がAという市場とBという市場で価格が異なる場合に、割高なほうを売り、割安なほうを買うことでその差額を儲けにする。裁定取引やサヤ取りと言われる。

瀧 :もう一つ、いずれにしても日本人って、投資信託を買わないじゃないですか。確かに手数料を取られますけど、あなたよりも金融のこと考えているプロが投資してくれるという、手数料以上の価値があるわけだから。結局、金融ってトータルの投資期待リターンとリスクの二つでしか考えられないわけなので、日本人が投資信託を買えるようになるための練習として、ロボアドバイザーのほうが適切だと思っています。最終的には、信託やそのタイミングでのロボアドバイザーなり有利な委託先を選べばいいと思うんです。

リスクや不安とのバランスを見極め、投資を継続する大切さ


瀧 :昨年11月に、「お金のEXPO2018」っていうお金に関する様々なことを学べるイベントを実施しました。そこで、アクティブファンドのマネージャーたちに、継続的にドルコスト平均法(※6)で投資してくださいっていうピッチをしてもらったんですね。継続したらキングは決まっちゃうわけなんですが、そうじゃなくて、「継続して、投資に興味のない人でも、分散投資続けたいなと思わせてください」って企画を考えましてね(笑)

※6 ドルコスト平均法:定期的に一定金額分の株や債権を買っていく方法。毎度決まった金額で購入するため、相場に応じて購入量が変わる。(高値の時は少なく、安値の時は多く)

尾原:その思想は正しいですよ。やっぱり日本人っていうのは、不安とかリスクに慣れていない。不安やリスクと常に向き合いながら、結局リスクは確率論だから、リスクに晒す範囲、つまり「自分の中で何%リスクにさらしてOKか」っていう訓練をしていくしかないじゃないですか。プリペイドカードって2万円ぐらいだったら、極端な話、盗まれても構わないよねっていうものなわけで。実際にアメリカの子どもは、プリペイドクレジットカードで、最初にクレジットカードの練習をするわけじゃないですか。それと同じで、投資も保険も、人生はリスクや不安とのバランス、「自分の中の何%をリスクに晒すんですか」っていうのを修行してみるっていう意味で、これはとてもいいステップ。AI投資っていうのはとてもいいと思いますけどね。

瀧 :ありがとうございました。

本やマンガ、他クリエイターのサポートなどコンテンツ費用に当てるつもりです。感想はnoteに上げていきたいな。