【ちょっと昔の世界一周】 #18 《No Problem !!》
ひたすら道を歩く。
少しずつだが雲が増えてきたおかげで、夏の日差しが和らいで歩きやすくなった。
しかし、いまだに街らしい景色は見えてこない。
視界に入ってきた建物といえば民家と思わしき建物のみ。
とはいえ久しぶりに建物を見た。
一本道とはいえあとどのぐらいで街につくかは予想ができない。
店や食堂なら腰を下ろせるかと思い、なんとなく視線を向けてみた。
残念ながら民家だった。
玄関先のベンチに腰を下ろしている母親の前で子どもたちが遊んでいる。
一息つくことはできなさそうだが、せっかくなので街までどのぐらいかを聞いてみることにした。
「サバイディー」
この挨拶も慣れたものだ。
遺跡があるので観光地とはいえ、この場所は街外れであろう。
いきなり外国人に声をかけられお母さんは驚いたような表情をしている。
そんな母親のことはいざ知らず、子どもたちは突然現れた外国人に興味津々。
毎回のことだが私の周りに集まってくる。
子どもたちと遊ぶ姿を見て、悪い奴ではなさそうだとお母さんは少しは安心した様子。
そこで宿は近いかどうか聞いてみた。
聞いたといっても「Hotel ? Near ?」といった感じで、Hotelという単語伝えNearと言いながら両手を広げ、その距離を変えながら雰囲気を聞く。
なんとなく伝わったのだろう。
お母さんも両手を動かしながら「そんなに遠くない」といった感じで答えてくれた。
そのやりとりを見ていた子どもたちは楽しそう。
それはそうだ。
お母さんが外国人と身振り手振りで話している。
嬉しそうな子どもたち。
私も宿が近いことを確認できて嬉しくなる。
話も終わり出発しようと思ったが、せっかくなので写真を撮っていいか聞いてみた。
お母さんはどうしようといった感じだが、子どもたちは当然乗り気。
撮らせてもらい画面を見せると笑顔が広がる。
やはり写真はいいものだと思い直し、挨拶はした後でそれほど遠くはないであろう宿へ向けて歩き出す。
先ほどの会話通りそれほど歩くことなく建物が見えてきた。
今歩いてみる道から川が見えるのだが、それなりの距離がある。
しかし、見えてきた建物は川まで続く敷地があるようで、ただの民家ということはないだろう。
『宿に違いない!』
そんな期待を持って歩いて行くと、予想通り〝Guest Hause〟の看板が見えてきた。
その先に街らしい景色はないのでまだ街外れに違いはないのだが、宿を見つけられた喜びでゲートをくぐってみる。
広々とした作りでちょっとしたリゾートのような雰囲気である。
とはいえここはラオス。
さらに地方都市の外れの方である。
建物自体は至る所がボロボロになっていて、あまり活気があるようではない。
それでも川沿いにはレストランが併設されていることを考えると、現地の人というよりも観光客用の宿なのであろう。
敷地内に足を踏み入れると管理小屋のような建物から男性がこちらに歩いてくる。
挨拶をかわし部屋があるかを聞いてみる。
予想通り(失礼だが)空いていた。
安さを求めれば一番安い部屋は40,000キープ。
個室でこれは安いと思い見せてもらった。
だが、それには理由があった。
リゾート感を出してはいるが、部屋に入るとベットのフレーム、さらに床はボロボロ...
バスルームも電気をつけたのにもかかわらず薄暗く、一歩間違えば廃墟探索でもしているようなものである。
さすがにこれは厳しいと思い、ワンランク上の部屋を見せてもらう。
それはそれは見違えるような部屋だった。
その部屋は60,000キープとのことだったが、掃除が行き届いた室内。
設備もしっかりとしているし今まで泊まった宿の中でも最高ランク。
部屋は申し分なく、このまま決めようと思ったがふと気になったことを聞いてみた。
「ワットプーに行きたいんだけど、ここから遠い?」
すると、案内してくれた男性は「No problem !!」と管理小屋の方を指差し自信満々に答えた。
見てみると自転車が並んでいる。
その横には大きく〝Rental〟の文字が書かれている。
そういえば、ガイドブックには自転車を使って行けると書いてあった気がする。
基本的に一本道のようなので迷うこともないであろう。
部屋も問題ないし、移動手段も手に入れた。
街中ではないものの何も断る理由がなくなり、その宿に泊まることにした。
チェックインを済ませ荷物を下ろす。
朝からのドタバタはあったもののひとまずは落ち着けた。
いい意味で準備運動もしたような状態だったので、手荷物をまとめ遺跡へ向かうことにした。
先ほどの男性に自転車を借りたいと伝え改めてワットプーの場所を聞く。
やはり真っ直ぐいけば着くらしい。
自転車を渡され、いざ出発。
と思ったが、気づいたことがある。
鍵がない。
日本を出てからというもの、楽しさの方が強かったのだが、その中で気をつけていたことは防犯。
可能なら宿の鍵の他に自前の鍵をつけた方が安心と、カオサンでの会話で盛り上がった。
その他にも食事中とはいえ荷物を隣の席に置きっぱなしにしないようにもしていた。
なにせ日本とは違う。
例え敷地内にあったものでも持って行く人は持って行く。
その言葉を信じ、それぐらい用心していた。
だがここでは違うらしい。
鍵のことを聞くと、再び
「No problem !!」
と先ほどよりも大きな声で答えてくれた。
この街(チャムパーサック)の人で、自転車があるからといって持っていくようなことをする人はいないらしい。
ラオス自体、そんなことをする人はいないのかもしれないがここまでの道中を思い出し納得できた。
「何かあったら誰でもいいから声かけな!教えてくれるよ!」
そんなことを言ってもらい、先ほどまでは歩いていた道を自転車で風を切り走り出した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?