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【ちょっと昔の世界一周】 #10 《バスに揺られて》

出発時間が近づいてくると一台のバスがやってきた。

考えてみれば旅が始まり初めて1人での長距離移動だ。

周囲を見渡すと地元の人らしき人たちが数人と白人のバックパッカーが2、3人ほど。

旅人の方が少ない。
どうやらこのバスは現地の人向けのようだ。

バスのドアが開き運転手が降りてくる。

荷物を入れるスペースを開け待っていた人たちが一同に荷物を預けバスに乗り始める。

私も貴重品が入ったバックは抱え、メインのバックパックを預ける。

ここで、タカダさんや師匠に教えてもらったようにすぐに乗り込まずに荷物の行方を確認する。

私の荷物の後に別の人たちの荷物が置かれていく。

タカダさんからは

「荷物は1番に預けると反対側から抜かれることあるから、少ししてから預けるといいよ。その後に他の人の荷物で見えなくなったら大丈夫。それでダメならそういうもんだと思って諦めな!

とアドバイスをもらっていた。

旅行者向けよりも地元の人がメインのバスの方が安心できる。

そうも言われていたので、多分大丈夫と信じバスに乗り込む。

後ろの方にはだいぶ人がいた。

私は運転席が見える前の方の席に腰を下ろし出発を待った。

『そろそろ出発かな』

そんなことを考えていると、1人の旅行者が乗ってきた。

空いている先を探し、真ん中辺りに座ったようだが見た感じは日本人っぽい。

『日本人かな?だとしたら声をかけようか。いや、違うかもしれないしどうしようかな...』

そう思っていると、女性が乗ってきた。

私の前に座っていた人に声をかけお金を受け取っている。

通路を挟んだ隣の席の人にも同じように声をかけ、お金と交換に紙切れを渡している。

『バスのチケット売りか!』

そう気づいた時には私に話しかけていた。

「ホエアー?サワンナケート?OK?」

サワンナケートという単語を聞き取れた。

「イエス!サワンナケート!」

料金を支払うと、紙切れにサワンナケート(ラオ語で読めなかったが...)と書き渡してくれた。

その後乗務員の彼女は一人一人に確認をしている。

確かにこのバスはサワンナケート行きと書いてあるだが、タカダさん曰くサワンナケート方面行きらしい。

あくまでもサワンナケートには行くのだがその途中、さらに周辺までなら行ってくれるようだ。

そういう意味で最終目的地を確認していたのだろう。

そうしていると、先ほどの女性が戻ってきて運転手に声をかけ、その後ろの席にあぐらをかいてドカッと腰を下ろした。

手に持った札束(ラオスの通貨〝キープ〟は紙幣なので)を数えている。

なかなかカッコいい雰囲気である。

料金の確認が終わったのか運転手にもう一声かける。

そうして、遂にバスが動き出した。

しかし一つだけ不思議な、いや驚くことがあった。

バスのドアが開けっぱなし...

しかも、運転手も乗務員も一向に気にする様子はない。

むしろ乗務員の彼女はドアから身を乗り出し

「サワンナケート!サワンナケート!」

と外の人たちに声をかけている。

しばらくそのスタイルで進むバス。

すると道の途中で急に止まった。

そこへ1人のおばちゃん(地元の人)が乗ってくる。

その人もお金を払い紙切れをもらい後ろの方の席に座る。

こんな感じで街を出るまでに数人の人たちが乗ってきた。

そして、街外れといった感じの風景になった頃にようやくドアが閉まった。

どうやらギリギリまでお客さんを乗せるらしい。

『これがラオスか...』

そう思っていると、乗務員の女性が隣に座ってきた。

先ほどまでの席には途中で乗った人たちが座っている。

前の方で空いている席が私の隣しか空いていなかったので、ここに座るようだ。

しかもさっきのようにあぐらスタイル。

アジアンビューティーといった雰囲気の女性なので悪い気はしないのだが、さすがに狭くなる。

さりげなく『当たってますけど...』といった雰囲気を出してみる。

『んっ、どうした?』といった表情でこちらを見て、少し離れてくれるが結局狭い。

『これも旅か...』

そんな状況だが受け入れることにして窓から見える景色を眺めることにした。

入国後、ビエンチャンに向かう途中にも感じたのだがやはりどこか懐かしさを感じる景色が続いていく。

冷房もない車内は暑いので皆窓を開けているので私も開けていたが、そこからやってくるラオスの匂いも景色と相まってより心地よい気持ちにさせてくれる。

『言葉では表現できないが旅をしてるな...』

窓の方を見ながらそんな気持ちに浸っていると肩に何かが当たってきた。

振り向くと隣りに座っていた乗務員の女性がぐっすりと眠りにつき、私の肩にもたれかかっている。

もう一度外に目をむける…

『さて、どうしよう…』

そんなことを考えながら流れゆく景色を見ていると、次第に私も眠たくなってきた。

*****

それほど長い時間は経っていなかったのだが、ぐっすりと眠れたようで寝起きから意識がはっきりとしていた。

とはいえ、いい目覚めというよりは上下に揺れるバスの影響で目を覚ました。

ビエンチャンの街から離れだいぶ進んだのであろう。
外を見ると舗装はされているとはいえ凸凹の道路。
時々未舗装の道路も進んでいる。

隣に座っていた女性もすでに起きていたようで、そんな状況にもかかわらず運転手の横に立ちおしゃべりをしている。

改めて外を見ると森なのか一面に木々が立ち並ぶ道を進んでいる。

先ほどまでの日差しも少し弱まり快適な温度になってきた。

と、突然。

どこか懐かしい匂いがする。
それと同時にバスに響き渡る雨音。

スコールだ。

乗客一同急いで窓を閉める。

外は暗くなり雨は窓、屋根を激しく打ちつける。

バンコクにいた時も夜に突然のスコールにあった。

ちょうど宿の近くにいたのですぐに戻りその日はそのまま眠りについた。

旅に出て日中の雨は初めてだった。

東南アジアでは7月は雨季の真っ只中。
スコールも覚悟はしていたが、意外にも晴れの日が続いて安心していた。

雨が降ったとはいえバスの中、さらにそこまで長時間は降らないであろうからちょうどよかった。

できればサワンナケートに到着する頃は止んでいて欲しい。

雨粒でびっしりの窓ガラスを見ながらそう願っていると段々と明るくなってきた。

後ろの方で窓を開ける音がする。

それにつられ私も窓を開ける。

雨上がり特有の匂いと涼しい風が流れ込んでくる。

景色は見渡す限りの草原が広がっていた。
時々、一本道が見えその先に小さく建物が見える。

『なんだか落ち着くし、いい景色だな…』

そんな景色がしばらく続き、少しずつ道路脇に建物が見えてきた。

徐々にバスがスピードを落とし止まった。

周りにいた地元の乗客たちがバスを降り始める。

『ブレイク!』

運転手の声が響き渡り、私も含め残っていた外国人旅行者たちが休憩なんだ、と理解し降りる。

「長距離のバス移動はトラブルで進まなくなることあるから、行ける時にトイレ言っといたほうがいいよ」

再びタカダさんのアドバイスを思い出し、他の人たちの流れに乗ってトイレに向かう。

すると、トイレの前に箱があり1人の男性が座っている。

その横を通り抜けトイレに行こうとすると「Hey !!」と声をかけられ箱を指差している。

箱には金額が書いてあり、他の人たちもそこにお金を入れ男から紙を受け取りトイレに入っている。
そこで気がついた。

『トイレの使用料か!』

海外では場所にもよるが公衆トイレが有料という話は知っていた。
設備の維持・清掃の為の資金として使われる。
日本では有料トイレはあまり見ないが海外では一般的。

よくよく思い返すと、バンコク・ビエンチャンでは宿以外でトイレに行っていなかった。

これも海外の常識か…

そんなことを考えながら用を済ましバスへ戻る。

すると、バスの周りにはここぞとばかりに物売りの人たちが群がっている。

皆一様に自分の売っている物と値段を大声で売り込んでいる。

そういえば朝から何も食べていない。

客がやってきたと感じ取ったのか、数人が私めがけて商品紹介をしてきた。
その中で一際目を引いた肉まんのような物を買いバスに乗り込む。

席に戻り食べ始めるとこれが美味い!

空腹ということを抜きにしても美味しい。

何気なく「うめぇ〜」と言った瞬間、通路にいた人が立ち止まった。

「もしかして、日本人ですか?」

目をやると声をかけようかと思っていた日本人らしき旅行者。

「そうですよ。(あなたも)そうですよね?」

と返すとそうなんですよ〜。とのこと。

せっかくなら。と空いている彼の後ろの席に移る。

そうしていると乗務員の女性が人数確認を始めた。

と思ったら物売りの人たちも数人乗ってきた。

突如バスの中で始まる商品紹介。
窓に目をやると窓越しに買い物をしている乗客たち。

『これは置いてかれることもあるよな…』

以前のタカダさんの言葉を思い出していると、運転手が戻ってきて物売りたちが降りて行く。

再びバスは動き出した。

先ほどの彼と話をしてみる。
どうやら中国から南下してラオスに入り、カンボジアを目指して進もうとしたがラオス北部がとてもよく、気がつけばビザなしの滞在期限である2週間が明日に迫っているらしい。

初めての海外旅行で楽しすぎて長居しちゃいました。とのこと。

ならビエンチャンから一度タイに行き、すぐに戻ればまた2週間行けるのでは?と言ってみると

「確かに!そんな裏技あるんすね!」

と大興奮。
しかし、時はすでに遅し…

ここまできたら進む方がいいとの結論に落ち着く。

「世界一周かぁ〜。いいな〜。俺も次はしてみようかな!」

そんな話をしているとあっという間に時間は過ぎていった。

そろそろサワンナケートに着く予定の時間。

そう思って外を見るとだいぶしっかりとした建物が増えてきている。

すると再びバスのスピードが落ちてくる。

「サワンナケート!サワンナケート !」

バスが止まり、運転手の声が響く。

「もう少し先の街まで行けるらしいんで、行けるとこまで行ってみます!」

そう言う彼とお互いの旅が上手く行くようにと言いながら私はバスを降りた。

こうして、初めての単独長距離移動(話し相手はいたが)も無事に終わり、目的地に着くことができた。


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