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会社設立からパイロットテストまで__ウィーシュタインズ設立の経緯(4)

PwCを退職した後、本当に自分がやりたい教育とはどんなものかと双葉郡教育プロジェクトで出会ったスペシャリストの方々や、同じように課題を感じている様々な教育関係者の方とディスカッションを続けました。そのうち私のメンター的な存在である3名(菊池純一先生、武内敏英先生、寺尾のぞみさん)には、ウィーシュタインズ設立にあたってアドバイザーをお引き受けいただけることになりました。

そして、生まれたキーワードが「多彩能®️」です。

「たさいのう」と読みますが、「才」ではなく「彩」としています。というのも「才能」と言ってしまうと、いわゆるエリートだとか、既存の社会の中で役立つ能力というイメージを持ってしまいます。

でも、私がサポートしたいのは、社会の中で役立つ人間を作ることではない。子どもたちの「生きる力」を育む教育を考えたいのです。

生きていく上で本当に大切なことは、社会や他者と比べてどんな能力が優れているかではないのではない。自分自身の中で何が好きで、何が得意で、どんな特徴を持っているかということ。そんなアイデンティティこそが強く生きる根っこの部分になるのではないか。

そんな多彩能は本来どの子にも当たり前にあるはずなのに、現代の枠にはめる教育では、枠からはみ出てしまう子、もしくは、枠の中に入って目立たなくなってしまう子に対して、親も先生も可能性を信じることができず、その子たちが本当に発揮できる力を育て損ねてしまっているのではないか。

子どもは本来みんな天才!一人ひとり絶対に違う。その力を認識し伸ばしたいのです。そんな彩り豊かな能力という意味で「多彩能」という言葉を作り、商標登録もしました。

多彩能が育まれる「場」って?

そこでこの会社ではまず、子どもたちの多彩能を引き出す「場」を作ろうと考えました。

現代の教育で私が感じる課題は、枠を設けることで勉強が苦手・嫌いだと思い込んでしまう子どもができてしまうということ。

例えば、国語の授業で、音読が苦手な子が自分は本を読めないんだ、と思い込んでしまい、大人になっても本を読まなくなってしまう。パズルでは計算や図形の概念を使って遊んでいたのに、算数という型にはめると途端に分からなくなってしまう。美術や音楽も、採点されることで苦手意識が生まれてしまう。

子どもが多い時代に、社会にとって役立つ子どもたちを一度に教育する効率性を考えてのことだったのかもしれません。でも、今の時代、一歩社会に出れば、欲されるのは個性だアイデアだイノベーション…そんな力を伸ばすどころか、芽を摘み取ってしまうことさえあるのに。

そして出会ったのが「ハンズオン(体験型)ミュージアム」です。一方的に知識を与えられるのではなく、見て、触れて、感じて、子どもたちが本気で遊びながら学べるミュージアムです。

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アメリカ、イギリス、イスラエルなど、実際に見に行きました。

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そこは、子どもたちにとても身近な場所にあり、ほとんどが無料でいつでも行っていい。学びと遊びに線引きはなく、ある子は本気で遊び、ある子たちは本気で議論をしていたりします。私もそんな体験型の子ども向けミュージアムのような場所を作りたいと思いました。

言うなれば、家でも学校でも塾でもない、新たなコミュニティ。学校が終わった後や週末にいつでも来られる、あるいはもしも学校に行っていない子がいれば一日中居ることができるような場所です。そこには、彼らの好奇心を刺激するようなモノやコトがある。そして、子どもが自分の能力や、好きなことに出会える多様な環境にしたいと思っています。

さらに、その中での出来事を、お父さん・お母さんなど保護者の方々にフィードバックします。こんな一面がありましたよ、と親御さんが気づかなかったことを伝えたり。たとえば、落ち着きがないと思われている子は好奇心が旺盛、頑固だと言われる子はこだわりや信念を持っていると、いわゆる勉強ではない作業を観察することで、その子の特徴をポジティブに変換することができるように。

私はこの取り組みをもって、親御さんたちのサポートをすることができればと思っています。そしてここで新たに作ったメソッドを、日本の情熱的な先生たちに役立ててもらいたい。親でも先生でもないもうひとつの目になれたらと思っています。


パイロットテスト_STEAMプログラム

私の生業は「思い」を「実行」に移すことですから、今回も哲学や教育理念で終わらせたら意味がない。ロジカルに進め、人を動かし、実現させていきたいと考えています。

現時点でプログラムのベースにしている考え方として「STEAM」があります。

STEAM教育は、もともと「STEM="Science, Technology, Engineering and Mathematics” 教育」から派生したものです。これからのテクノロジー時代に活躍する人材を育てるために、アメリカで始まり世界に広がった教育モデルです。さらに創造性や独創性、アイデアも必要。つまりはそれは「ART」だ、ということで「A」が足されたものがSTEAM教育です。

ただ私は、このSTEAM教育というのは、テクノロジーやアートという個別の分野ではなく、複合的・教科横断的な教育という意味で優れた考え方だと思っています。STEAMの例としては「建築」です。

建築では、構造という意味では数学物理の考え方が不可欠であり、同時に、デザイン性、立てる場所の環境や歴史と、様々な教科を横断して考えないといけません。

そこで、先日行ったパイロットテストでは、建築をベースとして12人の子どもたちにとにかく好きに遊んでもらいました。積み木と模型作りという二つのゾーンをつくって、材料は意識的に揃えて、日本建築の大工の棟梁と、一級建築士、大学生などにも参加してもらい、わからないことがあればアドバイスをしてもらいます。

そして私はとにかく子ども一人ひとりを観察し、多彩能の「カルテ」を作ります。カルテは、人間には「8つの知能」が備わっており、各能力の高さ低さはその人によって違うという「多重知能理論(MI理論)」を元に作ります。積み木のプロセスを見て、どの子にはどの能力が見られるのか、ということをメモしていきます。このカルテは、溜まっていくほどにその精度が上がっていきます。

これを親御さんにフィードバックすることにより、子どもを見る視点が変わり、他の子と違うと悩まれていたことをポジティブに変換できたら良いなと思います。

実際にテストをしてみると、競争したい子もいれば、丁寧にゆっくり作りたい子もいて。中にはなかなか創作できない子もいました。これはもっと入り込みやすい仕組みにしてあげた方が良かったのかな、と反省したところでもありました。

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これからが本格始動です。


今の時代、学校の他にも、習い事など様々な学びのメニューがあります。むしろ多すぎて困るほどに。


だからこそ、学ぶべきメニューを大人が先に選んでしまうのではなく、子どもの中にある多彩能から、その時に見せる好奇心の芽を見つけ、関心に合わせた選択肢(オプション)を用意して最後は子どもに選ばせる。そしてそれを深める手助けをし、見守る大人たちが必要なのではないかと思います。

ウィーシュタインズではこういったパイロットテストの他に、学校法人の経営管理の仕組みづくりや働き方改革のアドバイザーを請け負い、新しい教育に取り組む教育現場のサポートも行なっています。

子どもにも大人にも、好奇心や想像力を刺激する協創的な環境を届けることができればと願っています。

ちなみに、ウィーシュタインズのロゴはカタツムリです。マハトマ・ガンジーの言葉「善きことはカタツムリの速度で動く」。それが善いことでも、人々が受け入れるには時間が必要なのです。

だからウィーシュタインズも焦らずゆっくりと、でも確実に、多彩能を輝かせる学びの場を広げていきたいです。

みなさま、これからもどうぞよろしくお願いします!


最後になってしまいましたが・・・

私が今に至るまで、数多くの方に助けられ、影響を受けてきたことは言うまでもありません。

そのお一人お一人に感謝を述べたいのですがここではとうてい収まりきらないので、個別のお名前を出すのは控えました。

いつも私をまるごと受け入れてくれる家族、応援し時に叱ってくれる大好きな友人たち(年齢問わず)、導き見守ってくださるすばらしい先輩たちへ、感謝と敬意を込めて。


(このnoteは、ライターの馬居優子さんに聴き書きいただきました。ありがとうございました!)

ウィーシュタインズ設立の経緯(1)
ウィーシュタインズ設立の経緯(2)
ウィーシュタインズ設立の経緯(3)

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