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地域の教育の点検・評価

日本の教育を巡る状況について、杉並区という場を借りて、かなりどの自治体、地域でも共通の課題を書きましたので、皆様の地域でも参考にしていただけると思います。

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9月に「杉並区の教育に関する点検・評価」について、フェイスブックに投稿しました。11月末に、杉並区のウェブサイトに杉並区の内容がアップされましたので、ご報告させていただきます。

自分たちの地域の教育を、行政がどのようにとらえ、翌年度からの教育をどのようにしようとしているかを地域住民が知っていることは、実は大切なのではないかと思います。公教育に対して、批評や文句や愚痴を言う住民は多いけれど、実際に地域の公教育がどのように運営され、それがどう評価され、改善に向けてどのような努力がなされているのかを知りたいとは思いませんか。

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まずは、9月の私のフェイスブックの投稿。
次に、杉並区の広報。
そして、私の点検・評価の文章です。
その後、今後どうしたらいいかについて、職員たちが真摯に話し合い、取り組んでくださっているとうかがっています。これからが楽しみです。

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すぎなみ教育ビジョン2022に基づく「教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価説明会」に出席するため、新千歳→羽田空港から、スーツケースとかお土産の紙袋とかバックパックとか持ったまま、ラフな格好で、直接、杉並区役所へ。

事前提出が求められていた書類は、北海道にいる間(締切5日オーバーだったので)、深夜に作成したもの。(3000字のところ、2000字オーバーで5000字)我ながら辛口に書いたので、どうなるかなあと思っていたら、

意外とみなさん、うなずきながら聞いて下さってちょっとびっくり。

新しい区長さん(岸本聡子さん)も、元オランダ在住だったし、
いったんは断ったこの仕事を、もう一度頼まれたときに、

「私は本音を書いちゃうので、行政の皆さんを危険に陥れちゃうと思うんです、それでも私に依頼して大丈夫なんですか?」

って繰り返し聞いて、それでもお願いされたから、いいということだなって思って書いたわけです。
そうしたら「区長とおんなじこと言うんですね」って言われました。
「やったね!」。

行政の皆さん、教育委員会の皆さん、実は変えたいと思っているけれど、いろいろなことを考えると動けないでいるんだと思うんです。
質疑応答のやり取りの中で、情報を欲しているのだということもわかりました。

だから、外から来た人間が、無責任にいろいろ言い放てば、
もし皆さんの気に入れば、「あの人が言った」って言ってやればいいし、
気に入らなければ、もう仕事を頼まなければいいだけだし。


と、いうことで、緊張してちょぴっとくたびれたけど、いい仕事したかなって思うことにしました。

私の書いた文章は、しばらくしたら(多分11月頃)、杉並区のウェブサイトにアップされるはずです。
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ということで、こちらの報告書に掲載されました!!!

令和5年度教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価(令和4年度分)報告書 (PDF 4.4MB)

杉並区の広報サイトにアップされています。
私が書いた部分は、p72ー76です(この後にコピペします)。


各自治体でこのような点検・評価がなされていると思います。
自分の地域の自治体では、教育についてどのような点検・評価がなされていて、どんな未来を描いているのか。参考にしていただければと思います。

ご関心のある方、ぜひお読みください。
(長くなりますので、ここには私の書いたコメント部分のみ転載します。
元になった報告書を必要に応じてご確認いただければと思います)

*******************ここから
学識経験者評価 【一般社団法人ジェイス 武田信子 代表理事 】
令和5年度における
令和4年度「教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価」

<目的等>
効果的な教育行政の推進に資する 結果に関する報告書を区議会に提出する。 外部に公表することにより、区民への説明責任を果たす。
杉並区総合計画及び実行計画改定を踏まえた教育ビジョン2022推進計画改定に活用

・・・以上を踏まえて、コメントさせていただきます。

最初に、杉並区職員の皆様の行政に対する献身的な努力に対し、敬意を表します。評価表作成という大変手間のかかる作業に費やした時間と労力を考えますと、軽々にコメントすることはおこがましいと承知いたしておりますが、今後の杉並区のために、あえて「理想的な点検・評価」を想定して記述させていただきました。あくまでも今後の検討のきっかけの一つとしていただければ幸いです。

コメントは、様式3を基に記述しました。
様式2には、今年度の成果が記述されており、どのようなことが「できたか」大変よくわかりました。一方で、今回の点検・評価は、上記の通り、今後の更なる教育の改善に向けてのものと思いますので、様式3の記述から気づいた課題点を指摘させていただきます。

1.評価の記述について
事業を企画実施した場合、事実や数量の記述に加えて、その成果という本来の「実績」について、
①質的な分析を②根拠に基づいて
記述することが必要ではないでしょうか。

(例)〇〇を□回実施しました。であれば、
→〇〇を□回、どのように実施し、その結果、□名中◆名に対し、△△の成果が得られました。具体的には…という事例が挙げられます。今後の課題は××であり、それについては次年度以降、◇◇といった取り組みをします。
 という具合です。

2.来年度以降に求められる工夫
本年度そのような記述がなかった事業については、残念ながら、それらが効果的に実施されたかどうかの判断ができなかったため、来年度以降は、計画時点からどのように成果を出すか(例えば、プログラム評価を実施する、アンケートを実施する、観察記録をとるなど)考えた上で事業を実施し、ぜひ評価票にその成果を記入してほしいと思いました。成果の可視化によって、職員の事業への動機づけも高くなると考えられます。
しかしながら、業務が増える一面もありますので、事業に軽重をつけたり、単なる労働過多を招かないために人事的配慮を考慮したりしていただきたいと思います。

3.現状分析と計画 計画の前には事実に基づいた現状分析が必要です。
 分析の結果、現状を改善する方策として、今後数年~10年といった単位で全体計画が作られ(それは常に見直されて修正され)、次年度に予算配分する重点項目と次年度以降に回す項目、恒常的に実施される項目などが示される必要があります。
 そして、実施後にどのように現状が改善されたかという実績の分析と評価が行なわれることで、評価に基づく次年度以降の計画と税金や補助金等による予算を、改めて立てることが可能になるわけです。
 現状分析をさらに深めていただければと思いました。
 その例を最後に6において、記述しました。

4.試行錯誤について
 当然、すべての事業がうまく行くことはないため、うまく行かなかった事業については、原因を分析して特定し(担当者個人の責任にしても改善にはつながらないため、組織としての対応を検討する必要があるでしょう)、
次年度以降の課題として記述し、対応策を講じる必要がある
と思われます。事業の実施計画において区民の意見も聴くことで、ともに失敗を次への糧にすることが可能になるでしょう。長い目で区民に協力を仰ぎ、見守ってもらえる体制を作ることは、大変大きな改革となります。
できるところから、取り組んでいただければと思います。

5.教育ビジョン2022に対する評価について 評価票の記述には、教育ビジョンに「対応」する記述が、必ずしも具体的に詳述されていなかったようです。教育ビジョン推進計画の見直しに資する情報の提供も含め、検討が必要ではないかと思われました。

6.改善のための具体的な例 下記の例は、様式3の4分野から満遍なくとはなっておらず、あくまでも凡例として参考に挙げるものです。
 これらの事例を、担当事業の評価票の記述と照らし合わせながら、それぞれの事業内容を確認し、来年度の計画、実施、評価に活用していただければ幸いです。

1-1.子ども読書活動
・もし乳幼児期に読書習慣をつけることが大切であるならば、10-15年後に中高生が読書しないという課題が存在しているのはなぜか。小学生期にどのような工夫が必要と考えられるか。10年前にこのような類似の事業は存在していたか、それは有効であったか。当時の評価票を見て検討し、効果的な評価のあり方を考えてはどうか。

1-2.健康教育・食育促進
・個別指導を実施したとのことであるが、その成果について記載されていないため、どのような成果が得られたか不明である。せっかくの事業であるから、前年度の個別指導の結果、今年度どう変化したかという調査結果や事例を挙げ、次年度の個別指導の改善に生かすといった工夫をしていただきたい。

1‐3.教育相談体制の充実
・多数の子どもたちが心理的に困難を抱えている現状はなぜ発生しているのか。無気力・不 安(国立教育政策研究所2022.10)に対する個別の教育相談の充実と同時に、どうして多数 の子どもたちが無気力・不安状態に陥るのか考えて、予防することが必要と考えられる
 杉並区の場合、何が原因で子どもたちがそのような状態になっていると考えているか。そ れに対する予防対策はあるか。

1-5. 学力体力向上の支援
・学力と体力の向上の支援の両立のためにはどのような取り組みが必要か。 ・各学年の子どもたちは一日24時間、どの位どのように身体を動かしているか。それはその年齢にふさわしい運動量であるか
机に座っている時間やICTに向かう時間が増えると、運動する時間、遊びながら体を動かす時間が減少する可能性があり、体力の低下に結びつくのではないか。また経験の不足が生じるのではないか
 例えば、家事は、複雑な複数の行動の同時進行であり、日々の生活におけるプログラミングのトレーニングになると考えられるが、現代の杉並区の子どもたちは、学校、宿題、塾に追われ、家事を体験する時間さえない生活をしているのではないか。
 また、かつては、子ども同士の遊びの中や帰宅途中の商店街の大人たちとの会話の中で、非認知能力あるいは社会情動的力と呼ばれる対人コミュニケーション能力などの力が身についたと考えられるが、杉並区の子どもたちは現在、どのような年代の人とどのように日々コミュニケーションを取っていると考えられるか。
 それらの能力の育成に対してどのような対策が考えられるか。


1-8. ICTを活用した学びの充実
・ICTの利活用については、全国の養護教諭の調査で、メディア・ネット依存や視力の低下などの問題が大きな懸念となっている(野井ら, 2020)が、杉並区における実態はどうか。
 上記の研究によれば、保育園ではメディア依存の心配が比較的少ないが、幼稚園ではメディア依存の心配が多くなっている。小学校以降においてはもちろんである。子どもたちの使用を止められない家庭の問題は今後、ますます大きくなるだろう。
 つまり、学校におけるメディア使用の促進が、今後、家庭におけるメディア使用と連関する可能性もあると考えられるが、ICT教育の推進に際し、依存に関する総合的な予防教育や対策はどのように効果的に行われているか。また、推進によって依存が進んだ場合の責任はどこにあると考えるか

・ICTの導入は現代社会において避けられないが、ICT教育の影響は把握しておく必要があるだろう。ICT教育の導入によって、子どもたちの生活の中のどのような時間が減少しているか。その減少を今後、大人たちはどう保障するか。
・「子どもの学びが充実した」という記述があるが、そのエビデンスは何か。

2-4 家庭教育支援の充実
・講座参加者の人数の記載が見当たらないが、杉並区の0歳から18歳までの子どもの親は何万人いて、その中の何人に対してどのような家庭教育支援ができたのかについての考察が欲しい。支援によって、どのような成果があったのか、課題は何かの記載があるとよい。
(参考)杉並区0~18歳人口:令和5年75,300人。合計特殊出生率:令和3年0.96。 保護者(両親)は推定10‐15万人。
・父親に対する家庭教育支援についてはどうなっているか。
・2020年4月から、親などによる体罰の禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が施行されているが、体罰に寄らない子育ての方法を知っている親は少なく、そのために、日本の大人の半数以上が、乳幼児の子育て・教育に体罰が必要であると考えている。この現状に鑑みて、家庭教育支援の中で、体罰に寄らない子育てや教育の具体的方法を大人に伝授していくことが必要ではないか。そのような講座をぜひ実現してほしい。

4-1 学び続ける力の基礎を育む就学前教育を支える保育者の育成
・自然発生的な主体的な遊びは主体的な学びとなるが、そのような主体性はもともと全ての乳児が持っている人間の性質である。ところが日本では、小学生の頃になると主体的に動けない子どもたちが増えていく。大人たちや生活様式の中で、主体性の剥奪が起きないようにするために、どのような工夫がなされる必要があるか
小学校管理職経験者が幼児教育アドバイザーになる際、専門性が異なる分野への派遣に対する配慮はあるか。たとえば、乳幼児発達の研修や保育や幼児教育の知識を得るための事前研修をどのように行っているか

4-6 新しい学校づくりの推進
・少人数学級の実現が望まれているが、同時に、子どもたちのコミュニケーション能力の低下も防止しなければならない。少子化の中で育つ子どもたちを、社会の多様な人間関係の中で生きていける大人に育てるための工夫はどのようにすればよいか。地域との連携はどのように考えられているか。

4-13「杉並区教育ビジョン2022」の理解促進
参考)みんなのしあわせを創る杉並の教育 すぎなみスタイル
【令和4年8月15日号】https://www.youtube.com/watch?v=_fhXWdxggbU

・天沼小学校の子どもたちの幸せ
(下記は、登場した子どもたち全員の発言)
「学校おわり家かえり、ベット(ママ)に乗ってゲームするとき」
「猫といっしょにねころんで、いつか寝おちて、夢を見るとき」
「しあわせは深いねむりに陥って、たのしいきぶんで夢にいるとき」
「布団にもぐり込んですぐに寝るのが、すごくしあわせです」
「幸せは一日終わって夜になり、ふわふわ布団にもぐり込むとき」
「しあわせは、なにも思わず考えず、一人ぼーっと歩くとき」
杉並区の子どものしあわせがこういう状態である現状に対して、子どもたちに幸せを考えさせる前に、大人たちは何をすればいいのか?を大人たちが考えなければならないのではないか?

・そもそも、子どもが「しあわせとは何か」を子どもたちだけで学校の授業で考えなければならない(考えるように大人に言われて考える)社会はしあわせなのか?
 例えば、生きることが幸せでないと感じている子どもたちは、この授業の中でどう発言すればいいのか? 最終的に「こう答えれば大人が満足する」結論を子どもたちが大人(先生)に忖度して出す授業になってしまうのではないか?

 評価票に記述する際、ある一つの事業が、子どもたちばかりでなく、学校教育ばかりでなく、杉並区民の生涯を通しての学びにとってどのような意義を持つのかについて、広く深く堀り下げて考えていくことが重要ではないかと思いました。紙幅の都合上、ここにはごく一部の例を取り上げる形になりましたが、すべての事業に対して、担当課のリーダーシップによって、区民の意見が反映される機会があるとよいと思いました。

 なお、杉並区の教育ビジョンには、人権という言葉が入っていないようです。しかしながら、11月20日の世界こどもの日には、世界の他の国々同様に、ぜひ、子どもの権利条約について、教員も保護者も子どもも子どものいない大人たちも、皆がともに子どもの権利条約を学ぶ日にすることを検討していただきたいと思います。子どもの権利条約には、子どもたちに、自分たちの権利について学ぶ機会を与えることが批准国の責務という記述があることを忘れてはならないでしょう。

 もちろん、すべての区民が生涯学習の場で、世界人権宣言について学ぶ機会も必要だと思います。

 これからの杉並区の教育と学びの充実のために、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。
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長くなりましたが、新しい区長を得て変化しつつある杉並区の行政が動き出し、さらにお読みくださった各地域住民の皆様が参考にして、地元の教育の点検・評価に関心を持ってくださるといいなあと思います。


※ 写真は広島大学教育学部前の柿の木。中国四国教育学会ラウンドテーブルに指定討論者として登壇したときに撮影したものです。

#行政評価 #点検・評価 #杉並区 #教育ビジョン #一般社団法人ジェイス



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