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ストーリー28 二人の男の子を育てた主婦ネネさん

ネネさんは、専業主婦でした。二人の男の子の育児にかかりっきりでがんばってきました。特に昨年は長男が大学受験で浪人し、年子の次男も受験という怒涛のような一年を乗り切りました。

この春、二人の息子が無事に大学に進学したころから、何をするにも気力がわかないという状態になってしまいました。医者の勧めもあり、カウンセラーとの面談を重ねると、いわゆる空の巣症候群というものだと理解できました。ずっと気を張って懸命に関わってきたことが、ある日急に無くなってしまったので、心にぽっかり穴が空いたようです。何をどうしていいかわからず、無気力な状態になってしまいました。

カウンセラーのアドバイスは、焦らないでいまの生活に目を向けてごらんなさい、ということでした。そして、三つのことを考えるようにと課題を与えられました。

「いまの状況でできることを考えてみましょう」

最初はなかなか難しく、考えつくことがありませんでした。やることがなくなってしまった、という気持ちに整理がつかなかったのです。今の状況でできることはなんだろうか、しばらく考え続けていました。

息子たちが誕生日にカードをくれました。
「いってらっしゃいといつも声をかけて送り出してくれて、ありがとう」
それを読んだとき、はっと気づきました。前のような関わりはできないけれど、家から通学している間は、身の回りのことをしてあげられる。食事も、洗濯も、掃除も、いってらっしゃいと送り出すことも、おかえりなさいと迎えることも。いまでもできることがある。課題のひとつめに答えが出ました。

「いまの状況だからこそできることを考えてみましょう」

次の課題はさらに難問でした。いまだからこそできること。息子たちに関して言えば、してあげることはどんどん減っていく一方です。手の届かぬところへ行ってしまった気がします。今だからこそできることなどなさそうです。

「息子さんのためばかり考えなくてもいいんですよ」
カウンセラーの一言で少し目先が変わりました。息子たちのためでなかったら、夫のため?自分のため?そう考えると不思議なことに、時間がたくさんあって何かに取り組み始められるように思えてきました。今なら友だちと自由に会うこともできる。夫とちょっと長めの旅行もできる。お金に余裕はないから工夫は必要だけど。そんなふうに思えてきます。これまでとは違う歩みが待っているんだな、と楽しみになりました。

「いまの状況でしかできないことを考えてみましょう」

最後の課題です。さらに頭を悩ませることになりました。いろんなことができる可能性は見えてきたけれど、いましかできないこと?

「いままで私は何をしてきたんだろうか」
もう一度、恐れないで、正直に振り返ってみました。これまであまりにも一生懸命に子どもたちに関わりすぎてしまったこと。やり直したいことがたくさんあって後悔していること。それでも一応息子たちは無事に巣立っていったこと。息子たちのことが恋しくて悲しいこと。いろんな可能性があると分かったけれど、足を踏み出せないでいること。

いましかできないことは、自分の経験を振り返り、整理し、区切りをつけることだと理解できました。

「自分は勉強がしたい、どうしてこういうふうになったのか理解したい」
「これまでの経験を、失ってしまった過去にはしたくない」

ネネさんは、波はあるものの、無気力で何も手のつかない状態から抜け出ることができました。自分の状態がよく理解できるようになり、気力の出ないときは自分に優しくしてあげることもできるようになりました。息子たちがときおり話してくれる大学生活の様子を素直に喜んで聞けるようにもなりました。いろいろなことがあったけれど、あのときがあっていまがある、と振り返るようになりました。

ほめられると調子に乗って、伸びるタイプです。サポートいただけたら、泣いて喜びます。もっともっとノートを書きます。