防衛ホーム上

防衛ホーム

 2003年8月31日、沖縄県沖縄市で、航空自衛隊那覇基地所属の自衛官が爆死した事件は、その後、自衛官の自宅からロケットランチャーなど大量の武器弾薬が発見されたことで大きなニュースとなった。が、同じ自衛官を主な読者とする新聞『防衛ホーム』(毎月1日、15日発行)の同年9月15日付号のトップを飾ったのは、8月27~30日に行われた「平成15年度富士総合火力演習」の記事と「防衛庁・自衛隊 高級幹部等名簿」であった。
 30日の総合火力演習一般公開日の記事が載せられるなら、31日の事件も載せられるのではないかと思うのだが、それについては1行もなし。その代わり(?)、総合火力演習の記事には「富士の裾野で実弾射撃」「実戦さながらの迫力」「疾風迅雷」といった勇ましい見出しが躍る。一般公開には3万2000人が集まり、「スタンドには長嶋茂雄さんや作曲家のつんくさんの姿も見られ、国民行事としての浸透ぶりが窺えた」という。

 記事のメインは、平方紫穂という女性演歌歌手が一日記者として演習の感想をつづったもの。「誇らしくも頼もしい自衛隊!!」との見出しの下、「一人一人の隊員が1つの指令に命を賭けて、また指揮所も現場の隊員の1つの命を守るといった中に作戦が、執り行われて、またその命を我々国民を守る、保護する、と言う使命感にさらしているのだと、感じさせられました」「あのすさまじい爆音の中、日々鍛錬を積み、国防の任務の中に規律と、世論とに、挟まれ身をさらす隊員の方々、そしてその身を案じる上官の方々の苦悩」「平和を願うなら是非とも見ておくべき、催しであると感じました」と、怪しい日本語で自衛隊を礼讃する。
 一方、「防衛庁・自衛隊 高級幹部等名簿」のほうもすごい。全20ページの紙面のうち、なんと13ページ半も名簿に費やしているのである。なるほど、これじゃ自衛官爆死のニュースなど、載せるスペースがなくて当然かも。

 国民の安全と社会の秩序を守るという点では、警察も自衛隊も似たような仕事だが、憲法9条との絡みで常に微妙な立場に置かれている自衛隊は、PRに懸命である。自分たちが外からどのように見られているかを気にし、イメージアップに努める。それが如実に表れているのが、その名もズバリ「部外者の声」というコーナーだ。新人隊員の高校時代の担任教師が教え子の研修の様子を見学した感想をつづったり、大学生がヘリコプターの体験搭乗について語ったり。前述の総合火力演習の記事同様、あまりに礼讃調なのはどうかと思うが、一生懸命PRしようという気持ちは伝わってくる。

 そんな中で目を引くのは「Nice Guysシリーズ」だ。自衛隊員の中から「Nice Guy」をピックアップして紹介するコーナーで、たとえばベテラン輸送機パイロットを取り上げた回では、〈思い出深いフライト〉として、「大手術を受ける女子小学生を空輸し、その後、手術が無事終わり、回復したその子供からお礼の手紙を頂き感激したこと」といったエピソードが語られる。「外国元首のVIPを関西空港に空輸した際、自分でも本当にうまくいったと自負して操縦席で待機していた時、元首が操縦席に来られ『ナイス フライト』と言いながら握手をしに来て下さったこと」って、くーカッコイイ! こういう個々の自衛官の“顔が見える”記事を増やしたほうが、美辞麗句を並べた礼讃記事よりも、よほどイメージアップにつながると思うのだが。

 不思議なのは、なぜか看護師や薬剤師、ホームヘルパーなどの求人広告が出ていること。自衛官からソッチ方面に転職する人が多いのか。だとしても、転職を促進するような広告を載せてOKなのか。
 そして、広告で一番インパクトがあったのは、三菱商事の広告。「更に進化するベストセラー空対空ミサイル」というミサイルの広告である。「卓越した攻撃力と母機の残存性を達成する高度な撃ち放し能力」「湾岸・ボスニア・コソボの実績が保証する高い信頼性・整備性」って、家電製品じゃないんだから、そんなこと自慢されてもなあ……。
 その隣のページでは、海自の施設を一般市民に開放するイベントで、機関砲のハンドルを握った子供の写真に「『気分は海上自衛隊!』20ミリ機関砲の操作もおての物」なんて説明が付いてるんだけど、これって警察に見学に来た子供に拳銃握らせるようなもんでしょう。「気分は海上自衛隊!」とかノンキなこと言ってる場合じゃないのでは?
 ともあれ、ミリタリーマニアにはたまらないこの新聞。年間4000円で一般人でも購読可能なので、興味のある方はぜひ御一読を。日本の防衛問題について、普段とは違った角度から考えさせられることは間違いない。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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