カラーチャート

 通常のカラー印刷は、CMYKの4色で刷られている。ざっくり言えば、Cは青、Mは赤、Yは黄、Kは黒。Yは普通にイエローだが、Cはシアンで明るめの青、Mはマゼンタといって、いわゆる赤よりピンクに近い。黒がKというのは、BLACKをBLと略すとBLUEと混同して紛らわしいから末尾のKを取った……と思っていたら、そうではないらしい。調べたら「Key Plate」のKだというんだけど意味わからんし、現場で黒は「スミ」と呼ぶことが多いので、まあ、そのへんはどうでもいい。とにかく基本的には、この4色の掛け合わせで、いろんな色を表現しているわけである。
 たとえば、真っ赤な血のような赤は、M100%+Y100%の通称「金赤(キンアカ)」と呼ばれる色。CとMを同等に掛け合せれば紫になるし、CとYなら緑になる。感覚的には絵の具の掛け合わせと大差ない。パソコンがこれだけ普及している今、ちょっとしたデザインソフトを使ったことのある人なら、おわかりのことだろう。

 出版業界でも、DTP化が進んだ現在では、ほとんどのデザイナーがインデザイン(アドビのデザインソフト)とかを使ってデジタルで仕事をしている。つまり、仕上がりに限りなく近い状態をPCの画面上で確認できるわけだ。もちろんモニター上の色と実際の紙に印刷した場合の色は違うし、蛍光色などCMYK以外の特色はモニターには出ないが、だいたいの雰囲気はつかむことができる。
 しかし、アナログ時代はそうはいかなかった。デザイナーからカラーページのデザインが上がってきても、それはモノクロ。写真やイラストは現物を見ればどんな色味かわかるけど、それ以外の部分に関しては「C20+M40+Y60」などと書かれた色指定の数字から想像するしかなかったのだ。

 そんなときの強い味方がカラーチャートだ。CMYKの掛け合わせパターンを順列組み合せ的に印刷した見本帳で、数字で指定されたのがどんな色か、目で見てわかる。デザイナーのほうも、キンアカとかよく使う色やわかりやすい色は別にして、微妙な色はカラーチャートを見ながら指定していたはずだ。私もちょっとしたデザインなら自分でやることもあったが、その際はやはりカラーチャートに頼っていた。イラストやマンガでも手塗りやカラートーンを貼るのではなく色指定で入稿するケースがあり、その場合もカラーチャートの出番である。
 ただし、あんまりいろんなパーセンテージで指定してはいけない。芸術作品ならいざ知らず、普通の雑誌とかなら製版作業的にも金銭コスト的にもなるべく少ないパターンで指定したほうがいい。たとえばC20+Y40、C20+M30、C30+M20+Y30という指定があったら、Cを20にそろえるか、Mを20か30にそろえたほうがいい、というか「そろえろ!」とフリーになる前に勤めていた出版社の製作進行担当の偉い人に強く指導された。

 当時は初校(入稿して最初に出てくる校正紙)段階ではカラーページもモノクロで、文字だけが入っていて写真はなし。なので、いざ色校(カラーで写真も入った状態の校正紙)が出てくると、色文字や写真にかかる文字が読みづらかったりという事態も発生する。
 そこで誤植が見つかった場合も問題で、スミ文字ならスミ版(K版)の修正だけで済むけれど、M+Yの文字を直すと2版の修正が必要となる。写真の上の白抜き文字を直すとなるとCMYKの4版すべて修正となり、その分お金がかかるので、よほど致命的な誤植でなければそのままにしろと言われていた。
 ところが、フリーになってから出入りしていた某大手老舗出版社の雑誌では、色校段階でデザイナーが平気で色文字の書体を変更指示したりして、「うっそーん!?」と思ったものだ。誤植を直すならともかく書体変更って……。お金のことは別にしても、そこで直しを入れたらあとはもう印刷所任せで、ちゃんと直ったかどうか確認できない。よけいな直しはミスの元……と思ったが、デスクもその変更指示を普通に通していたので、まあいいかと思って出来上がった雑誌を見たら、案の定、修正漏れがあってガックリ。お金に鷹揚なのも善し悪しである。

 今では、初校もカラーで写真やイラストが入った状態で出てくる。カラーチャートを使うこともほとんどなくなった。それでもたまに、西原理恵子さんのマンガの文字色指定などに使うことがあるので、仕事道具のひとつとしてカバンのなかに入っている。


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新保信長

出版業界今昔モノ語り

気がつけば編集・ライター生活も世紀をまたいで30年。その間、テクノロジーは大きく進化し、仕事で使う道具や仕事の進め方もずいぶん様変わりしてきた。この連載では、そんな出版業界の仕事環境の変遷を、道具=モノを軸に振り返ってみたい。(※「季刊レポ」のウェブ連載「ヒビレポ」に201...
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