レタスバーガープリーズ.OK,OK!

※拙著『現代マンガの冒険者たち』(2008年刊)収録の原稿です。

 長年、『朝日新聞』と『アサヒ芸能』でマンガガイドを執筆しているが、同じ「アサヒ」でも読者層はずいぶん違う。朝日では少女マンガを扱うこともしばしばあるが、アサ芸のほうではさすがに少女マンガは避けている。

 しかし、過去に一度だけアサ芸で少女マンガを紹介したことがあった。それが松田奈緒子の『レタスバーガープリーズ.OK,OK!』だ。

〈何しろ表紙が葵の御紋である。さらに口絵には、戦国武将・直江兼続の甲冑の写真がドーン! 当然、歴史マンガかと思いきや、これがなんとラブコメなのだ。といっても、もちろんタダのラブコメじゃない。主人公は、ミステリー作家・毬手ノ公路綾(本名・菊地綾)。大学在学中にデビューして10年、仕事一筋の三十路女である。

 とにかく、この女のキャラがキョーレツなのだ。熱狂的な江戸・戦国オタクで、趣味は甲冑収集と城巡り。ケータイの着メロは「笑点」のテーマで、電話に出るときは「はい、警視庁捜査二課!」とか「はい、自民党本部です」とか、そんな具合。モデル並みの長身で本来は美人なのに、スウエットに首タオルが基本スタイルで、言葉遣いは時代劇。男友達といえば、甲冑仲間のジジイばかり。

 そんな彼女がようやく出会った理想の男は、同じく歴史オタクで十手収集が趣味の美形イラストレーター。が、男とまともにつきあったことのない彼女のひねくれた思考回路と突拍子もない言動に、2人の恋は波乱含み……。

 ラブコメと呼ぶにはあまりに奇天烈なセンスに大爆笑。司馬遼太郎のことを「白い大木凡人」なんて形容しちゃう眼力には、ナンシー関もびっくりだ。そうかと思えば、「友達とは」「家族とは」なんてテーマでホロリとさせる話もあったりして、ますます侮れない。ザックリした線、崩れまくるキャラの顔、素っ頓狂なギャグ。少女マンガらしからぬタッチは男性読者にも抵抗感は少ないだろう。

 作者は、これが初の単行本。実は私もこの作家についてはよく知らないのだが、「葵の御紋をでっかく」「色は渋く」「キャラクターの絵は入れない」という装丁は本人の希望らしい。名前だけで売れるような作家ならいざ知らず、初の単行本でこういうことをするとは、作者自身も主人公に負けず劣らずの変人と見た。

 きっとあんまり売れてないと思うけど、この表紙なら、逆に男性読者でも恥ずかしがらずに買えるはず。ダマされたと思って、ご一読を。そうすれば、奇抜なタイトルの意味もわかるから〉(『アサヒ芸能』2001年11月15号)

 ……というのが当時の原稿。「変人」とか「あんまり売れてないと思う」とか、今見ると失礼なことを書いているが、実はその後、ひょんなことから作者と知り合い、どういうわけか結婚してしまった。以来、松田奈緒子の作品については、身内びいきと思われそうで触れてこなかったが、“ちょっとヘン”な少女マンガを描き続けている。


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新保信長

あのときの書評

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