全国きのこ新聞

全国きのこ新聞

 この原稿を書いている現在、日本列島はうっとうしい梅雨空が続いている。しかし、降らなきゃ降らないで、水不足とか、いろいろ影響が出てくるのも事実。とくに農業に従事する人にとっては、梅雨時の天候というのは最大の関心事かもしれない。
 それが証拠に今回ご紹介する、きのこ業界の専門紙『全国きのこ新聞』の6月20付の1面トップ記事は、「全国的に梅雨入り」だ。一般の新聞でも梅雨入りはニュースになるが、1面トップとはさすが。きのこ作りにとって、梅雨入りというのがいかに重要事項であるかがよくわかる。
 その記事の大見出しは「仮伏せは急いで本伏せへ」。素人には意味不明だが、「これから雨が多く気温も上がれば害菌発生などホダ木に悪影響が出るので早急に本伏せへ移行するように」というから、とにかく急いだほうがいい。
 梅雨の影響は、生産過程のみならず、商品管理の面にも表れる。同日付の紙面に「ジメジメの梅雨から乾しいたけを守ろう!」との広告を打っているのは九物食品工業・日田椎茸入札市場。「これから7月中旬までつづく梅雨。乾しいたけ保管で最も大事な時期です。当市場に連絡いただければ品傷みしないように保管いたします」と胸を張る。

 一口にきのこといってもいろんな種類があるが、メインはやっぱりしいたけだ。月3回発行の紙面には、日経平均株価やTOPIXの代わりに「乾しいたけ平均価格」「生シイタケ市場価格」が毎号掲載されている。株価のほうは一時期急上昇したものの、全体的には低迷を続けているが、乾しいたけ相場は今年に入って高値をキープしているらしく、5月16日付の1面には「平均4千円前後を維持」との見出しが躍る。
 ちなみにこの「4千円」とは、キロ当たりの価格。高いんだか安いんだかよくわからないが、「昨年は二千円台からスタートし、四月あたりから徐々に平均価格が上昇を見せ始め、五月には四千円に迫る価格となった」「一方今年は、年初めから四千円目前でスタートし、その後四千円台にはいかないものの、ほぼ四千円のラインを沿うように推移。五月に入り四千円台を超える価格となった」というのだから、待望の大台突破。1面トップにもなろうというものだ。5月30日付の紙面には松山椎茸会、岡山椎茸会、島根椎茸会など各産地の入札指定商社組合が連名で「来たぞ!4000円台。椎茸増産体制を」という広告を出しているし、この不況の折、なんともうらやましい話である。

 しかし、同じしいたけでも、もちろん品質によって値段は大きく変わる。6月13日付の1面では「第三十六回全農乾椎茸品評会」の模様がレポートされていて、この品評会で最高値がついた「こうしん中葉肉厚」は、なんとキロ2万4000円! さぞかし見た目も立派で味も良いのだろうが、掲載されている写真は粒子の粗い白黒写真。普通のしいたけとどこが違うのかさっぱりわからず、ちっともおいしそうに見えないのであった。
 こうした業界の動向、栽培技術や市況を伝える記事が多い中、一般消費者向けのイベントに関する記事もある。5月に熊本で開かれた「春のしいたけ祭り」では、「乾しいたけのつかみ取り、植菌体験、炭火焼椎茸、椎茸市場、オリジナルカレンダー作成など県産しいたけをアピールするための催しが盛りだくさん」だったとか。なかでも「植菌体験(一本三百円)では用意した百本の原木は完売」の人気ぶり。植菌ってそんなに楽しいものなのかしら?
 また、3月には静岡で「すごいぞ!!しいたけ」と銘打ったイベントが3日間にわたって開催され、延べ6000人を集めたというからすごい。主な催しは「椎茸を使った料理教室」「椎茸のクイズ大会」「原木への駒打ち体験」など。「原木への駒打ち体験」とは、つまり植菌体験のこと。やっぱり植菌は楽しいのかも……。

 一方、5月9日付の紙面では、「あの店この店 しいたけグルメ」と題して、大分県の「膳処 ごうや亭」というお店を紹介。会席料理のお店だが、オリジナル商品として、なんと「しいたけグラッセ」「しいたけアイスクリーム」「しいたけ羊羹」なんてシロモノが……。うーん、しいたけには確かに甘味もあるけれど、アイスクリームにするのはいかがなものか。ま、わさびアイスとかもあるぐらいだから、食べられないことはないだろうけど。ちなみにお味のほうは、「口の中で溶けた後にほのかな椎茸の香りを味わうことができる」とのことなので、しいたけ好きな方はぜひお試しを。
 そのほかにも、きのこアドバイザー・舘野孝良氏による「ホダ場の歳時記」と題したきのこエッセイや、「薫るきのこのサクサクパイ」「森のたまて箱」といった「きのこ料理コンクール」出品作のレシピを紹介する「チャレンジきのこメニュー」など、きのこ情報満載。食卓では常に脇役、農作物の中でもどちらかといえば地味な存在のきのこだが、舞台裏は意外とホットなのであった。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という警察官向けの雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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