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侠客鬼瓦興業76話「爆弾!鉄とソープと人生最大のピンチ!!」

「追島さん、どうぞこちらへ・・・」
春菜先生に案内され、追島さんは保育園裏の入り口へたどりついた。

「ユキちゃん、ここから入った奥のお部屋で寝てますので、ちょっと待っててください」
「あ、あの、先生」
「はい?」
「やっぱり、俺みたいな父親会わないほうがいいっす」
「何をおっしゃってるんですか、ユキちゃん本当に追島さんに会いたがってるんですよ」
「で、でも、先生・・・」
「私でしたら心配いりませんから、さあ」
春菜先生は優しく微笑むと裏口の扉を開けた、しかし、追島さんはその場でぐっと眉間にしわを寄せたまま中に入ろうとはしなかった。
「さあ、どうぞ中へ」
「せ、先生、やっぱりだめです」
「そんな、だってユキちゃん、お話したとおりすごく会いたがって」
「いや、たとえそうだとしても俺にはユキに会う資格なんてねえっす」
「お、追島さん」
「それに俺は、ユキも慶も裏切っちまった最低の男なんです」
「で、でも・・・」
「す、すいません先生」
追島さんはぐっと唇を噛み締めると、春菜先生に頭をさげてさっと後ろを振り返った。

「待って!待ってください」
「・・・・・・」
「それじゃ、せめて一目見ていってあげるだけでも、ね、追島さん」
「で、でも俺は」
「お願いです。ユキちゃん泣いてたんです、追島さんに会いたくて泣いてたんです」
「ユキが!?」
「はい、ですから、せめてそんなユキちゃんの姿を一目覗いていってあげるだけでもお願いします、追島さん」
「せ、先生」
追島さんは、それから無言で春菜先生を見ていたが、
「それじゃ、覗かせてもらうだけ」
かすかにうれしそうな表情をうかべると、春菜先生の後をついて部屋の中へ入っていった。

裏口のドアを入るとそこには小さな廊下が、そしてその先には可愛い絵のかかれた部屋がならんでいた。春菜先生はその中の一つの部屋の前で立ち止まると静かな声で
「追島さん、この部屋の奥にまた小さな小部屋があるんです。そこでユキちゃんは寝ていますから」
「あ、はい」
「どうぞ、お入りください」
追島さんと春菜先生は、静かにドアを開けると、部屋の中へと入っていった。
奥の部屋のドアには小さなガラス窓がついていた。春菜先生はそのドアの前に立ち止まると、唇に指を立てながら追島さんのことを手招きした。追島さんは春菜先生に言われるままに、そっと小さなガラス窓に顔を近づけた。
「あ・・・」
視線の先には、小さな布団の中で静かに絵本を眺めているユキちゃんの姿があった。
「あら、すっかり元気になって」
春菜先生は優しく微笑むと追島さんに合図をして、そっとじぶんだけ部屋の中に入っていった。

「ユキちゃん、おまちどうさま」
「あ、春菜先生」
「ユキちゃんに頼まれたプリン先生買ってきたよ」
「ありがとう先生、」
「パパのプリンのようにおいしいか分からないけど、さあどうぞ」
ユキちゃんは小さな手でプリンを受け取ると、うれしそうにスプーンで口に含んだ。
「おいしい」
「そう?よかったー」
「うんおいしい、でも、やっぱりパパのプリンのほうがずっとおいしいけどね」
「へえ、本当に料理が上手なんだねユキちゃんのパパって」
「へへへ、パパ何をやってもすごいんだ。それでねいつも自分のこと天才だーっていってたんだよ」
「まあ、自分で?それじゃ本当に天才なのね」
「うん」
ユキちゃんの満足そうな笑顔に春菜先生はニッコリ微笑むと
「そうだユキちゃん喉かわいたでしょ、先生ジュース持ってきてあげるね」
「うわー、先生ありがとう」
「どういたしまして」
小さくウインクをすると立ち上がって部屋の外へ出た。そしてそっとドアをしめると、窓から中を覗いていた追島さんにニッコリ微笑んだ。
追島さんは、うっすらと浮かんだ涙を隠すように横を向くと、春菜先生に深々と頭をさげた。 
「あの、今ジュースを持ってきますので、もう少しだけ見ていてあげていただけますか?」
追島さんが無言でうなずくと、春菜先生は廊下へと歩いていった。

追島さんは、ふたたび小窓から顔を覗かせ、普段僕たちに見せる鬼軍曹の顔からは想像もつかないような優しい表情でユキちゃんの様子を覗いた。
「ユキのやつ、あんなに病気がちだったのに、すっかり逞しく成長してくれて」
そんなさなか、春菜先生が出て行った廊下から聞き覚えのある男の声が響いてきた。
 
「先生、春菜先生、遅かったじゃないですか」 
「すいません、ちょっと人にあっていたもので」
「人?」
「誰ですか人って、それよりさっき頼んだあれ、用意できましたか?」
「はい、ちょっと待ってください」
聞き覚えのある男の声、それは顔をぼこぼこに腫らしたイケメン三波のものだった。 
三波は神妙なつくり笑顔を浮かべながら
「すいません春菜先生、こんなお願いしてしまって」
「仕方ないじゃないですか、お母さんが病気でそれで借りてしまったお金なんですから、はい、とりあえず20万円」
春菜先生はポーチからお金の入った封筒を取り出すと、そのまま三波に差し出した。三波は大急ぎで、そのお金をむしりとると
「ありがとう、これで今日のところは、ヤクザに殺されずに済みます」
引きつった顔で袋を顔の横に持ち上げた。 
とその瞬間
ガシッ!! 
三波のその腕を大きな手がわしずかにみ
「ぐわ!痛たたたた!だ、誰だこら!?」
三波は、悲鳴を上げながら後ろを振り返った。
「うわ、て、てめえは!?」 
「てめえ?誰に口きいてんだ。このスケコマシ野郎」 
大きな手の主、それは今までの優しい顔から鬼のような形相へと変わった追島さんだった。


同じころ、夜の堀之内では、僕とめぐみちゃん、それに鉄、そして不機嫌そうにむくれている女衒の栄二さんがネオン街の中を歩いていた。
「まったく何よ、あのヤサオトコ・・・、あんな男のどこが気に入ってお慶ちゃん婚約なんてしたのかしら」
栄ちゃんはポーチを抱えて、ぷりぷりとお尻を振りながら歩いていた。
僕はそんな栄ちゃんを見ながら、沢村研二が現われてからの喫茶慶での事を頭にうかべていた。

お店に現れた、沢村は、明らかに不機嫌そうに怒っていた。そしてなぜかお慶さんは申し訳なさそうに彼を見ていた。
(あの二人、昨日の雰囲気とはまったく違っていたけど・・・) 
沢村はお店に入って僕たちに気がつくと、突然冷めた目で睨み据えてきた。
「なんだ、あんた達また来てたのか?」
「えっ?ま、またって・・・」
沢村の剣のある一言に、僕はきょとんと驚いた。 
「ちょっと研二さん、そんな言い方」
お慶さんがが注意すると、沢村は今度はすごい顔で彼女を睨み据えポケットから携帯をとりだした。
「こんな言い方にもなるだろう、突然こんなメール送ってきて」
「そ、それについては今から説明しますから」
「説明!?わかった説明してもらおう」
沢村は興奮した顔でそう言うと、再び僕たちを見て
「そう言うわけだから、あんた達帰ってくれ」
投げ捨てるように言い放った。

これに対して怒ったのは栄二さんだった。栄二さんはテーブルをポーチでバンとたたいて立ち上がると
「なによあんた?突然現れて帰れだなんて、何者よ!?」 
「俺は慶の婚約者だ」 
「婚約者?ちょっとお慶ちゃん本当にこんなのが、あんたの婚約者なの?」
栄ちゃんの言葉にお慶さんは首をこくりとした。 
「まー、趣味悪いわー、お慶ちゃんやめなさい、こんな男、こういう男はね女を食い物にできる男よ」
栄ちゃんの言葉に沢村は今までに見せたことのない険しい表情で
「そう言うあんたは何者なんだ!」
「ちょっと栄ちゃん、それに研二さん、やめて!」
お慶さんはカウンターから出て二人の間に割って入ると
「ごめんね栄ちゃん、それに君たちちょっとこれから研二さんと大切なお話があるから、今日は引き取ってもらえないかな」
僕たちにすまなそうに頭をさげた。

「大切なお話?お慶ちゃん私だって今大切なお話が」
「ごめん栄ちゃん、お話の続きはまた今度、ね」
お慶さんは再び頭をさげると、今度は沢村研二を見て
「研二さん、ごめんなさい、とりあえずここに座って」
カウンターに彼を座らせた。
僕たちはそんな訳で、しぶしぶ喫茶慶を後にさせられる羽目になってしまったのだった。

(それにしても、あの沢村さんの怒りよう、いったいお慶さんどんなメールを送ったんだろう)
僕はネオン街を歩きながら沢村が言っていたメールのことを考えていた。そんな僕にめぐみちゃんが 
「吉宗くん」
「えっ?」
「だいじょうぶかな、お慶さん・・・、あの婚約者の人、怒りながらどこか切羽詰まったように見えていたけど」
「そう言えば、そんな気も」 
「なんか、お慶さんが心配だな・・・」
めぐみちゃんはそう言いながら、きた道を振り返った。
そのとき 
「あらー!!いっけなーーい!!」 
前を歩いていた栄二さんが突然甲高い奇声を発した。

「どうしたのよ栄ちゃん!急に大声出して、びっくりするじゃない」
「だってさー、私、お慶ちゃんのお店に大事なもの忘れてきちゃったのよーー!」
「大事なもの?」
「そうよ、オートクチュールの私のサングラスよ、あのヤサオトコに盗まれたら大変!!」
栄二さんは真剣に困った顔をうかべ
「ちょっと私、戻ってとって来るから、みんなここで待っていてちょうだい」
そう言うとお尻をぷりぷり振りながら喫茶慶に向って、もと来た道を引き返して行った。

「あんなサングラスのどこが大切なのかしら」
「栄二さんにとっては、大切なんじゃない、ははは」
僕は笑いながら周りを見渡し、思わずハッと青ざめてしまった。
お慶さんと沢村の事で頭がいっぱいになっていたせいて気がつかなかったが、僕たちが立っている場所、そこは何と昨夜足を踏み入れてしまったソープランド、ハメリカンナイトの前だったのだった!

(どわー!よりによってこんな所で待っていてくれだなんてー!?)

僕の心配をよそに、めぐみちゃんは
「あれー、ねえねえ吉宗君、ここ、さっきのピンクのお風呂屋さんだよ」
うれしそうにはしゃぎ始めた。

「吉宗君、吉宗君」
「な、なんだい?め、めぐみちゃん・・・」
「さっきのお慶さんの話だけど、やっぱり男の子って、こういう所入りたいのかな?」
「えっ!?」
「きっと綺麗な人がいっぱいなんだろうね、ねえ、本当は吉宗君も入りたいんじゃない?ねえ、ねえ・・・」
めぐみちゃんはいたずらな顔で僕の腕をつっついた。

「は、入りたいわけ、な、ないじゃないか・・・、はは、はははは」
僕はひきつった顔で笑いながら
「それよりも、ちょっと別の場所に移動しない、ははは、ここお店の前だし」
「えー、だって栄ちゃんにここで待っててって言われたのに、後で怒られちゃうよ」
「で、でも・・・、その・・・」
「何?吉宗君なんかへん、ここじゃ何かいけないことでもあるの?」
「いや、べ、べつにそう言う訳では・・・、ははは・・・」
僕はひきつった苦笑いを浮かべながら、必死にハメリカンナイトに背を向け顔を隠し続けた。 
ところが、そんな僕の恐怖もしらず、めぐみちゃんは
「ねえ、ねえ、鉄君」
「えっ?な、なんすか・・・、めぐみさん」
僕にとってはまるで時限爆弾のような男と、うれしそうに話をはじめてしまったのだった。

「鉄君って、こういう所来たことあるの?」
「えっ?」
鉄は突然訪ねられて、思わずハメリカンナイトのネオンに目をむけた。
「ねえ、もしかしてあるんじゃない?銀二さんと一緒に来たとかさ」
「あ、あの、その・・・、あーははは~!」
恐怖の時限爆弾は、ピンクの建物をみたとたんほっぺをピンクにそめながらだらしない顔で笑い始めた。

(どわー、鉄ーやめれーーーー!!) 
夜の堀之内で僕は、心の中で悲痛の叫びをあげていたのだったのだった。

つづく

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^


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