見出し画像

街角デザイン新宿編:窯変タイル

建築をたのしむ方法は大きく分けてふたつあります。ひとつは全体像をとらえ、ひとまとまりのかたちとして、造形的なおもしろさをうけとめる。いわば鳥の目で俯瞰するやりかた。もうひとつは細部に目をこらし、素材面での質感を味わったり、意匠面での工夫を発見したりする。いうなれば虫の目で注視するやりかた。この両方の視点を意識して、全体と細部のかかわりを把握していくのです。

新宿駅西口広場の場合、なにしろ広場と名づけられているくらいですから、全体像をとらえるのはけっこう至難の業。グーグルマップをつかって空中から仮想的に眺める手もありますが、それは安易すぎてつまらない。寺山修司の有名なことばをもじっていうなら、グーグルを捨てよ町へ出よう、です。そもそも建築というものは、その場に足を運び、スケールを体感していかないと、おもしろみがわかりません。

さて、新宿駅西口広場が広いといっても、それでも吹き抜けになっている中央開口ランプウェイのあたりは、コンクリートの堂々たる曲線に力強さを感じるでしょうし、晴れた日などはコクーンタワーが青空にむかってそびえたつ様子を見上げることもできます(これぞ建築と建築が織りなす都市風景の醍醐味)。

もうひとつの見どころは地上にある大きな換気塔。京王百貨店の前に2基、小田急ハルクの前に2基あり、前者は植物に覆われていますが、後者は竣工当時の面影を残したまま、表面に窯変タイルが敷きつめられた優美な姿がたのしめます。

さきほど細部に目をこらすと申し上げましたが、新宿駅西口広場の陰の主役ともいうべき存在が、この窯変タイルです。陶磁器をつくるときは窯のなかで焼きあげますが、そのとき釉(うわぐすり)が予想もしなかった色に変化するとともに、表面がとろけて鈍い光沢を放つようになります。それが窯変です。あらためて眺めてみると、えもいわれぬ色味とつやつやした表面にうっとり見とれてしまうことでしょう。

たかがタイルとあなどってはいけません。というのも、このだだっぴろい新宿駅西口広場に統一感を与えているのが窯変タイルだからです。こちらがわでもあちらがわでも、同じ素材をくりかえしつかい、意匠面でのリズムをかたちづくることで、全体の連続性を保つという大事な役目を担っているのです。とくに地下と地上をむすぶ階段には、窯変タイルがふんだんに用いられています。

かつて新宿駅西口広場には、もうひとつ、魅力的な細部がありました。床の部分に磁器タイルをつかった円形パターンが広がっていたのです。しかし地下のコンコース、つまり大勢の人々が毎日行き交う場所は、それだけ摩耗や破損が激しいのでしょう、改修の際に取り除かれてしまったのか、いまでは失われてしまいました。

と思いきや、地上にあがったところ、小田急百貨店の前に円形パターンがあった! さらにバスターミナルのほうにわたると、窯変タイルと磁器タイルが接している部分も奇跡的に残っていて、両者の競演がたのしめます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?