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"古いもの好き"な私の生き残り方

今年は「読書の年」にしようと決めている。
理由は単純で、昨年末に自分へのご褒美として長年恋焦がれていた読書灯をついに手に入れたから。北欧・デンマークの老舗照明メーカー、ルイスポールセンのphフロアスタンド。スタンドの色は真鍮・ブラック・クロームの3色の中から、少し古めかしいクラシックな佇まいに惹かれて真鍮を選んだ。一人で本に読み耽るためのリーディングチェアとしてすでに購入していた椅子に合わせ、"宅読"のお供として愛用している。

自宅の読書灯とリーディングチェア

読書灯選びに限らず、思えば昔から新しいモノより古めかしいモノが好きだ。
小学生の頃は、母の購読していた婦人雑誌が届くのを心待ちにしていた。親の目を盗んではこっそりページをめくり、分別のない目にも格式の伝わる古い旅館、上質な食事やインテリアに心が躍り、まだ見ぬ遠い世界を憧憬した。古都鎌倉と言えどもさほど特徴のない山奥の住宅地で、昭和のピカピカの戸建てに暮らしていた自分の日常からは程遠い世界が目前に繰り広げられるほど、憧れは募った。同級生の中に古い洋館で実際に暮らしている友達がいたり、お稽古先がレトロな洋館だったことも、古いモノへの好奇心に拍車をかけたのかもしれない。三角屋根の欧風建築やピラー(柱)、門や玄関の古い外灯なども印象的な風景として記憶の中に刻まれている。

鎌倉の路地裏散策中、最近出会った古い洋館。昔の思い出の風景と重なる。

30代に入り、最先端の流行をいつまでも追いかけ続けるファッションの仕事に心がそっと悲鳴を上げた頃、東洋占星術との出会いがあった。専門家の立場で今、自分の宿命を俯瞰してみると、この「古物好き」の趣向は面白いほどに運勢の中に描かれている。

持って生まれた運勢には、”時代の顔つき”が宿る。
無邪気で人から愛されやすい赤子の運勢、ロマンティックな少年の運勢、一歩退いた家老のような運勢。実際の年齢とは関係なく、そのような風情をもった人が周りにいないだろうか。あるいは、ご自身はどうだろう。私自身が持っている宿命には、「彼の世の時代」と言われる星が多い。時間の想念も肉体の制約も離れた時代の星で、この星は主に精神の世界で生きやすいと言われている。

かつて編集者として働いていた頃、携わらせていただいたファッションにまつわる仕事の中で、特に好きだったのは"ハイブランド"と言われる名だたるメゾンの歴史や名品を詳解するページだった。モノのスペックを綴るコンテンツではなく、背景にある物語を紡ぎ、価値を語る仕事。最終的に記事は読み手が実際に手に取れるモノに帰結するのだけれど、そこにたどり着くまでの間に語られる"目には見えないストーリー"を編集するのが好きだった。モノという現実を離れ、ブランドという想念の世界を紡ぐ。まさに「彼の世の星」向きの仕事だ。しかしそんな素敵な企画は極々一部で、若手しかいない多忙な編集部の猫の手として、たまたま私にお鉢が回ってきただけの奇跡だった。実際には夜食に「コンビニのおにぎりはビニールをとる時間がないからいらない」と発言し、周囲に呆れられるほど馬車馬のように粉骨砕身働く、極めて現実的な日々をおくっていたのだ。

もし昔の私から今の私に「宿命を鑑てほしい」と依頼が来たのなら、その時の大変さも楽しさも宿命の観点から合点が行く。あの時、すでに東洋占星術には出会ってはいたものの浅薄な知識しかなく、心の深部で受け入れられていなかった。もっと早く運勢の持つ「時代の顔付き」を理解していたら、すぐに生きやすい人生へとシフトチェンジさせていただろうに、という悔恨の念もある。実際に私が変われたのは、不覚にも体調を崩して仕事を離れ、出産も経て環境がガラリと変わった10年近く後のことである。

冒頭で「古いモノ好き」を標榜した私だが、実際には古い「モノ」ではなく、その背景に広がる目には見えない「気配」が好きなのだと改めて気付く。洋館も外灯も手に入れたフロアランプに対しても、物質的なフェティシズムはない。モノ(現実)に囚われない世界。時の制約を受けない思考や価値。「彼の世の星」のもつ時代感ともそれは重なる。

そして「彼の世の星」に限らず、誰もが自身の持つ星の”時代感”を生かすことで、それぞれの人生が星本来の歩みを始め、美しく輝き始める。才能の開花も運によるところが大きい。かなり抽象的な話で、わかりにくいかもしれないけれど。

レトロな味わいのアップルパイを食べながら、小川糸さんの最新刊『椿ノ恋文』を。鎌倉で地元民に長年愛されるカフェロンディーノにて。

古めかしい照明や家具に囲まれた自宅を出て、心から寛げる場所もまた、私は老舗の喫茶店や古いレストランだ。伝統の名作菓子を食べながら店のストーリーを味わい、往年のジャズやクラシックを聴きながら、古典・現代の時代に囚われずに本を読む。

そんな私は今、昔より心が健やかな実感がある。

※運勢の調べ方
こちらなどのサイトから自身の宿命を割り出してください。初年運、中年運、晩年運の3つの星が星の時代感を表しています。


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