髪の毛の気持ち〜男嫌いで女好き

フローリングに髪の毛が落ちてる。
こんなに長い毛、誰の髪の毛だ?
 
俺のだ。それ以外ありえるか。
ありえて欲しいけど、残念ながらありえない。
 
 
フローリングの上でゴロゴロしていると気付く。
隠れている埃に混ざることもある。
 
トイレに行くと落ちてる。
玄関でえっへんと威張ってる。
 
抜け毛がハゲしいわけではないが、
とにかく至る所に髪の毛は落ちている。
 
なんでこんなに落ちてるんだ?というぐらいに
至る所で威風堂々としている。
 
 
そんな髪の毛を見て俺はふと思う。
髪の毛って生きてるんじゃないかなって。
 
髪の毛にはしっかりとした意志があって、
自分の思うように行動してるんじゃなかろうかって。
 
 
 
髪の毛は男くさい人が大嫌いだ。
男性ホルモンを見ると逃げ出したくなる。
 
男くさい子供はまだ許せる。
でも思春期を超えるともう許せなくなる。
 
だって年齢こそ10代でも
姿かたちは立派な男性だもの。
 
くさいくさいくさいくさいくさい。
男性ホルモンきらいきらいきらいきらいきらい。
 
となると、髪の毛はどうするか。
 
そう。その人から逃げ出す。
 
それがつまりハゲ。
 
 
男性ホルモンがハゲしいのは遺伝、
とくに隔世遺伝が原因とはよく聞く話。
 
実際には違うかも知れないが、
辻褄を合わせるためにそうしておく。
 
だからハゲは隔世遺伝だと言われるのだ。
 
おじいちゃんが男性ホルモンマシマシのキャリアの場合、
孫もかなりの確率で男性ホルモンマシマシ。
 
そうなると髪の毛は逃げるしかなくなって、
結果的にその人はハゲるしかなくなるのだ。
 
 
 
一方で髪の毛は過度の女好きでもある。
女性にはピッタリくっついて離れたがらない。
 
女性であるなら老若男女問わない。
女性ホルモンが好きというよりただの女好き。
 
それに女性は髪の毛のことを大切にする。
下手すりゃ週に1回、髪の毛を整える女性もいる。
 
 
男よりも髪の毛のあり方を重要にし、
男よりも髪の毛と自分を同一視する。
 
そんな女性のことを髪の毛は大好き。
好きで好きで好きで好きで好きでたまらない。
 
だから女性からは片時も離れない。
「死ぬまで一緒だぜ」って思ってる。
 
 
 
そしてまた髪の毛は男性女性問わずに
自分を痛めつける奴のことは大嫌いである。
 
染められまくったり、
くるくる巻かれまくったり。
 
髪の毛だって鬼じゃないから、
ちょっとぐらいなら許せる。
 
自分もオシャレになったような感覚で、
ニコニコニコッとしている。
 
 
でも、それが続いて、
自分が痛められまくると逆上する。
 
「俺はドエムじゃねー」
「いてーんだよ!いい加減にしろ!」
 
そんな風に怒りまくる。
もうその人の言うことを聞く気がなくなる。
 
そうなるとその人から抜け出したり、
もう元気な姿を見せてくれなくなったりする。
 
 
 
意志ある生き物・髪の毛だって年を経る。
その人と同じだけ成長して同じだけ年を経る。
 
そうなるとツヤやハリがなくなったり、
色そのものも白くなったりする。
 
「もう俺もじじいだなー」
「この人と一緒に過ごせてよかったな」
 
そんな風に思っている。
自分を大事にしてくれた人と
過ごしてきた日々に誇りを持っている。
 
 
ちなみに若いうちに白くなるのは、
外敵であるストレスの仕業である。
 
髪の毛は口喧嘩には強いけど、
武器を持った戦いにはめっぽう弱い。
 
ストレスはマシンガンを持ってやってくる。
それはまるで戦場の鬼軍曹のような出で立ちで。
 
マシンガンは円状に髪の毛を打ちまくる。
ぶぶぶぶぶぶ。ががががががががが。
 
そして命を落とす髪の毛。
それがいわゆる円形脱毛症。
 
かろうじて死なずに済んだ髪の毛も、
元気を失って色も白くなってしまっている。
 
 
 
髪の毛にはしっかりとした意志がある。
髪の毛は自分が思うように行動している。
 
となると、どうしてフローリングをはじめとする
部屋中の至る所に落ちまくっているのだろう。
 
 
それはきっと髪の毛の家出だろう。
 
誰にだって無性に外の世界に飛び出して
見たこともないものを見たい、
触れたこともないものに触れたいという冒険心がある。
 
もちろん髪の毛にもその冒険心がある。
 
 
えいやーと人の頭から飛び出して、
物見遊山的にぶらぶら散歩をする髪の毛。
 
本当は戻るつもりだったんだ。
でも戻る方法が見つからないんだ。
 
そう。髪の毛は向こう見ず。無計画の塊。
思い立ったら即実行して失敗するタイプ。
 
 
 
フローリングに落ちている髪の毛には
そんな勇気と輝きと後悔と無念が詰まっている。
 
そういうことにしておこう。