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今年もまた、“あの夏”の北野日奈子を思う(乃木坂46・33rd選抜発表/「真夏の全国ツアー2023」)

■ 今年もまた夏がくる

 明日から乃木坂46「真夏の全国ツアー2023」が始まる。今年の全国ツアーは全国7都市での開催で、全16公演。明治神宮野球場公演は史上初の4DAYS開催であったり、昨年久しぶりに実現させた北海道公演から、初めての沖縄公演まで、全体の動員数では及ばないまでも、“全国ツアー”としての規模は最大といってよいレベルでの開催となる。グループが3期生以下の編成となって初めての全国ツアーともなるが、チケットの売れ方としてはいつも通り上々のようで、満員の客席から、全国ツアーでは4年ぶりとなる大声での歓声が聞けそうである。

 筆者は5月8日の「乃木坂46分TV」での日程発表の時点ですべての日程について宿を仮押さえし、北海道公演と沖縄公演は飛行機までおさえてしまうという不退転の決意でチケットの先行抽選に臨んだ。結果として先行で当選したのは広島公演と沖縄公演のみだったけれど、北海道公演は頑張りのかいあって一般発売で両日ともチケットを手にすることができ、初演に立ち会うこともできるし、2都市目となる大阪での公演が最後のライブとなる早川聖来の勇姿も現地で見られる形となり、いくぶんほっとしている。

■今年も思い出す、“あの夏”のこと

 筆者はこのnoteとは別に、坂道シリーズに関してブログを書いているのだが、そこではここ1年ほど、主に筆者として最も思い入れの強いメンバーである、乃木坂46・北野日奈子のキャリアについての記事を書き続けている。北野がグループを卒業してからすでに1年以上が経ち、この間には筆が止まってしまう期間もあったので、いまさらの感もありつつ、しかし自分が見てきた北野のことを、自らの力で文章に残せることに喜びを感じる部分もある。
 昨年には、「あの夏のこと/アンダー曲『アンダー』」の章が、思ったより多くの方に読んでいただけた。そして間が空いてこの6月に、「“代名詞”となった『日常』」「『乃木坂46 北野日奈子 卒業コンサート』」の章の公開にこぎつけることができた。グループのファンの方々の思いや時間の流れと大きく違うことはわかっているが、それでもこれを書けている自分が嬉しい。

 そんなふうに、北野日奈子のことを考えているからこそ、思い出すことがある。「真夏の全国ツアー2017」。特に地方公演最初の都市、宮城でのゼビオアリーナ仙台公演のことである。1年ぶりにアンダーメンバーとして活動するという状況のなか、初めてのアンダーセンターとして「アンダー」を初披露した、2017年8月11日の公演。北野は涙を流しながらひとり、「アンダー」のセンターに立った。

 あの夏のことは、さすがにもう過去のこととして、忘れないまでも、あえて思い出さなくてもよいのだとは思う。筆者もおおむねそういう気持ちだし、それはその後長い時間をかけて、北野がそれを確実に、“過去”にしたからだ。

■33rdシングル選抜と、近年の状況

 「真夏の全国ツアー2023」の開催を目前に控えた2023年6月25日、33rdシングルの選抜メンバー発表の模様が「乃木坂工事中」で放送された。センターは5期生の井上和。過去2年の全国ツアーのタイミングでセンターを務めた遠藤さくら・賀喜遥香、そして前作ダブルセンターの久保史緒里・山下美月が居並ぶ盤石のフロントに、経験豊富な先輩メンバーと5期生をとりまぜたフォーメーション。10作ぶりの選抜入りとなった伊藤理々杏や、加入7年で初選抜となった中村麗乃が話題をさらったりもした。
 グループが歩んできた歴史、選んできた道を否定したいということではないのだが(本当に、本当にないのだが)、いくぶん風通しがよくなったな、と思うようなフォーメーションだった。そしてそれは今作だけではなく、ここ3作くらいの傾向であったのではないかと思う。

 今作でいえば、井上和は前作フロントの4人の間に入る形でセンターとなりつつも、5期生は池田瑛紗が3列目で初選抜となった一方で、前作2列目の川崎桜・菅原咲月が3列目、前作3列目の五百城茉央・一ノ瀬美空が2列目へ、という形で入れ替わりがあった。ほか、岩本蓮加が3作ぶりの2列目ともなっている。選抜とアンダーの間に壁があり、2列目と3列目の間にも壁がある、そんな状況が長かった頃とは隔世の感がある。

 選抜/アンダーのラインでいっても、コロナ禍以降の26th→27th→28th→29thでは卒業メンバー以外に選抜から外れるメンバーを生じさせていなかったところ、それ以降は早川聖来・掛橋沙耶香・清宮レイの活動休止という望まれない状況もありつつではあるが、主に3列目メンバーの入れ替えの形で、佐藤楓や阪口珠美が久しぶりの選抜入り、林瑠奈や佐藤璃果、松尾美佑が初選抜、あるは前述のように5期生も合流、その間に田村真佑や金川紗耶は3列目スタートで2列目にポジションを変えるなど(往時のことを考えればこれは相当例外的な事象である)、いくぶん柔軟な感じを受けるフォーメーションが続いている。

 本当に、隔世の感がある。選抜発表が何度重ねられてもぜんぜんメンバーが変わらないような印象をもつ時期も、かつてのグループにはあった。それは相当な人数規模でスタートした1期生が、数多くグループに食らい付いて実力をつけており、盤石の体制でグループを牽引していたということにほかならないのだが、その事実がアンダーメンバーの絶望として立ちはだかった面もあることを、北野日奈子の歩みを丹念に追ってきた筆者は痛いほど知っている。

 誤解を恐れずにいうと、選抜/アンダーに入れ替わりがあることは、良い緊張感になっているとも思う。かつては、そうした“緊張感”こそがメンバーを磨き、グループを押し上げる、と過剰に称揚された雰囲気もあり、それがいわゆる対立煽りにつながり、ファンに対して内向きに殺伐とした雰囲気をつくっていたこともあったように記憶するが、そうした時期を経て、選抜とアンダーの間に断絶があっても、それぞれの自己実現があるからと別の道を走りつつ、メンバー同士の紐帯は深められる、のような時期もあったように思う。しかしその時期を経て、特に5期生の合流も風穴にしながら、ある意味で改めて、グループ全体がひとつになっているような、そんな印象をもつ。

 そうした試みはこれまでにもいくつもあった。橋本奈々未が、白石麻衣が、生田絵梨花が、あえてアンダー曲を大切に演じる場面がみられることもあった。井上小百合が、伊藤万理華が、齋藤飛鳥が、ずっとアンダー時代のことを大切にしていたことは、いまでも印象深い。岩本蓮加は、久保史緒里は、金川紗耶は、アンダーライブを経験したうえでいまの頼もしさがあるようにも思う。でも結局、ポジションが目に見えるほどひとつながりであるからこそ、実感として生まれる希望があるのだ、という感覚が、結局のところある。

 ただしそれも、メンバーとグループの成熟があってこそだ。選抜/アンダーの入れ替わりの幅でいえば、それは10thシングルの頃までの規模と同程度ともいえるように思う。それでもこれだけ雰囲気が違うように感じるのは、9年ほどの時間をかけて、それが雪がれたということなのだと、北野の卒業を見送ってなおグループのファンであり続けている筆者は感じる。あるいはそれを表明してもよい立場なのではないかな、と、いくぶん傲慢なことを思ったりもする。

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 あの夏から6年。ここまで述べてきたような、選抜だとかアンダーだとか、そういうことばかりがあの夏の北野をつくりだしていたと思っているわけではない、ということが前提ではあるが、でももう、あの夏の北野みたいな思いをするメンバーはきっといないし、いてほしくないし、グループもつくらないだろうな、と思う(ただし、それがただ何かを包み隠しただけのことであるならば、よりいっそう深い絶望としかいいようがないが、いまのところ確実に、そうではないように見える)。
 長いブログを書き続けて、まだ完結してはいないものの、そうした結論に落ち着きつつある。書いてよかったな、と思うし、例えば北野について、何らかの感情がある方にはもっと読んでほしいと思う。アンダーライブや「日常」、「アンダー」。そうした見えやすいものももちろんだが、彼女がグループに残してきたものはその向こうにももっとあるはずだから。

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 というわけで、今月はnoteを1本も書いていなかったなということで、ブログの宣伝も兼ねて手癖で文章を書かせていただきました。

 去年のツアーには1・2期生が5人もいて、掛橋さんも一緒に回っていて、早川さんはいなくて、5期生曲でいうと「バンドエイド剥がすような別れ方」で……と考えていくと、つい最近のような感じもするし、そうでないような感じもするし、情緒がまとまらなくなります。
 でもそれって、まとめると、変化のスピードは変わらない、むしろ加速している一方、それを当たり前のこととして前に進めるようになっている、ということなのではないかな、と思います。

 2月にグループを卒業した2代目キャプテン・秋元真夏さんは、「大人数アイドルグループは世代交代が難しいといわれるけど、乃木坂はそれができたと自信をもって言える」と述べていました。ファンとしても(あるいは、だからこそ?)、その感覚は外れていません。今年のツアーは、それを見届けて、さらに先に進むグループをみられるタイミングかな、と思っています。

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