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もはや「新参者」ではない(2023年の暮れ、坂道シリーズに思う)


■ ライブ漬けの一年

 どの季節も同じようなことを書いている気がするが、ライブをひたすら見ていたら2023年がもう終わっていこうとしている。
 思い返せば、「真夏の全国ツアー2023」に現地で8公演立ち会ったあたりからエンジン全開になってしまい、「Happy Train Tour 2023」を追加公演を含めて現地7公演・配信1公演、「33rdSGアンダーライブ」を現地で3公演、「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」を現地で2公演、「新参者 LIVE at THEATER MILANO-Za」を現地で2公演(櫻坂46、日向坂46)・配信で6公演見てきたことになる。そして「超・乃木坂スター誕生!LIVE」(現地1公演、配信2公演)で2023年を締めくくる形となった。
 この1年で配信23公演、現地30公演。現地で立ち会ったうえでリピート配信も視聴した公演も9公演ある(一部のみの視聴になってしまったものも含む。配信のチケットを買ったのは32公演だったということだ)。綺麗にならしても週に一度はライブを見ている計算になる。ちなみにシングル発売記念の配信ミニライブはここに含んでいない。改めて数え直してみてくらくらしてしまった。

 坂道シリーズの3グループともをあまり軽重をつけることなく追いかけている筆者にとって、直近で特にエポックメーキングに感じられたのは、乃木坂46・5期生、日向坂46・4期生、櫻坂46・3期生が各10公演ずつを行った「新参者 LIVE at THEATER MILANO-Za」(以下「新参者公演」)であった。
 まず単純に、日向坂46および櫻坂46は“期別”の稼働をほとんどしてこなかったグループであるし(期のくくりで単独で行われた公演は「おもてなし会」くらいであり、フルサイズのライブが行われたことはない)、乃木坂46においても、近年の期別ライブは1公演ずつの形がメインであり、「3人のプリンシパル」も趣旨の異なる公演であるから、ほぼ規模が近いのは「三期生単独ライブ」(2017年5月9-14日、8公演)まで遡ることになる。まずはこの点で非常に貴重な公演であった。

 そして何より、同時期に同じ会場、同じような時間枠、期別単独のフルサイズ公演。これほどまでにそれぞれの特徴を並べるようにして見られる機会もそうそうない。各グループ2公演の配信が行われたことも、その貴重さを増し加えていた。
 あるいは、“新参者”として最も後輩のメンバーたちが集められたとはいえ、すでにグループ全体の動きに合流しており、新参者公演と重なる時期にもグループ全体での稼働があった。“新参者”の期のメンバーのみが舞台に上がったライブであったが、それは各グループ全体の現在の姿を照射してもいた。

 本稿では、この新参者公演を軸としつつ、2023年が終わろうとしているいまの各グループの姿について、筆者がなんとなく思っていることを書き連ねていくものである。

■ セットリストを並べて

 ここのところ、筆者は何かにつけセットリストを表にまとめるのが癖のようになっており、今回もまとめているので、ここで改めて掲載しておこうと思う。
 3グループを横並びにして、そしてそのためにオミットした情報もあるため、これで何かがわかりやすくなるのか、むしろその逆なのかはよくわからないが、30公演ぶんあるにしてはコンパクトになったとは思う。

新参者公演セットリストまとめ(筆者作成)

 先ほどは「グループごとに特徴が出たライブだった」というようなことを書いたが、こうして並べてみると、セットリストそのものには共通点が多くみられることに改めて気づく。
 セットリストの1曲目は、それぞれの“最初の曲”で、オリジナルの期別曲は全曲を披露(4曲・4曲・6曲)。「ロッククライミング」「マモリビト」「いつの日にか、あの歌を…」と、最新の期別曲のライブ初披露は各グループともここにぶつけてきた。未経験の曲やフォーメーションなどの面での新たな試みも多く取り入れ(赤字部分)、アンコールは各グループの定番の楽曲で締める。そして最終公演のみのダブルアンコールでは、さらにひとひねりを加えた選曲で客席を盛り上げた。

 また、出演した全メンバーが、どこかしらの楽曲でセンターに立ったという形にもなっている(ここには乃木坂46・5期生のユニット曲ブロックと「五期生 おひとりさま天国」コーナーを含まない)。それも“横並びで1曲ずつ”というような色あいではなく、それをひとつのラインとして意識しつつも、メンバーごとの個性やパフォーマンスの特徴を加味して、適切な人選を行っていたという印象をもつ(個人的には、山下瞳月のセンター4曲に特に痺れたし、それを上回る5曲でセンターに立っている井上和の存在感は圧倒的というほかない)。
 セットリストが練られていたという部分もあると思うし、そのバランスを成立させるような絶妙の時期に行われた公演であったということでもあると思う。

 活動休止で全公演休演となった岸帆夏(全公演終了後、活動辞退を発表してグループを離れた)を除けば、けがで一部の楽曲に出られなかった公演のあったメンバーも散見されたものの、全員が全公演を完走したことになる。
 公演数の多さももちろんであるが、昼夜2公演のライブが行われることも近年ではまれであり、メンバーの発信を追っていると、一様にみな「壁を乗り越えた」というような意識を持っているようである。

 あるいは“新参者”というコンセプトもあってか、積極的に“グループの歴史を振り返る”という場面が設けられてもいたが、それについては以下で改めて書いていくことにしたい。
 ここからは新参者公演のみにこだわらず、それをひとつの補助線としながら、各グループごとにここ最近の出来事などについて触れていくことにする。

■ 日向坂46と“4期生”

 日向坂46について、前稿「ひと席の余白から(2023年秋、坂道シリーズに思う)」では「Happy Train Tour 2023」の宮城公演・福岡公演に空席が残っていたという現象と、それについてのメンバーの語りについて扱ったところである。
 思えば今年の日向坂46は、どことなくずっと、なんだか苦しそうな様子だったな、という印象もいくぶんかある(多くのファンに共通の感覚でもあろう)。

 昨年10月発売の8thシングル「月と星が踊るMidnight」から9thシングル「One choice」まではリリースが半年ほど空き、この時期にはメンバーからもどかしげな発信が時折なされていたと記憶する。実際のところ、ちょうど1年前の6thシングル「ってか」から7thシングル「僕なんか」の間のほうが期間としては長かったくらいなのだが、今回は「リリースが空いて(しまって)いる」という認識を、メンバーがあまり隠していなかったような、そんな感じだった気がする。
 この間の「4回目のひな誕祭」は横浜スタジアムでの開催という形で新たな地平を切り拓いたし、「5回目のひな誕祭」も再び横浜スタジアムでの開催が発表されており、それはライブの成功の客観的な証左でもあろう。「One choice」以降のリリースはコンスタントなペースを維持しており、筆者個人の感覚としては、そこまで何かが停滞しているようにも見えない。

 しかしそれ以外にも、今年は「W-KEYAKI FES.」の“発展的解消”が発表されたり(発表は「4回目のひな誕祭」直後の4月13日で、その嚆矢は櫻坂46のライブ内でのVTRであった。“発展的解消”の先にあるものは、スタジアムで開催する「ひな誕祭」と「ANNIVERSARY LIVE」であるという説明であり、2023年の1年間をひとまとまりとするならば、「W-KEYAKI FES.」の代替のライブはなかったような印象を与えた部分もあろう)、「ひなくり」が“お休み”の形となり、近い時期にKアリーナ横浜で行われたライブは「『Happy Train Tour 2023』の追加公演」という形がとられるなど、リリースがコンスタントに続いていた時期においても、「これまで通りのペースの活動ではなかった」ような、そんな部分もあったのかもしれない。
 どうしてそうなったのかは詳しく説明されていないし、理由を想像したところで詮のないことである。しかし(あるいは、だからこそ)「あったはずのものがない」ような、そんなもやもやとした感覚を、本来的にそれをコントロールできないメンバーとファンが共有してしまっていたような雰囲気があったように思う。
 筆者もひとりのファンである。メンバーとファンの間には確かな紐帯があると信じている。しかしその紐帯を形づくり、確認し、深めるものは、結局のところ目に見える商業的成功であるということには、こういうときに少し悲哀を感じてしまうこともある。「しょせんカネを出して/出させてなんぼ」という話ではなくて(そういう面も多分にあるのだが)、いつも完全な形をしているように見える愛情に比して、現実はえてしていびつな形をしている。

 4期生が新参者公演に取り組んでいる真っ只中であった11月13日に行われた「NHK紅白歌合戦」の出場歌手発表は、ある意味でその極致のような出来事であったかもしれない。日向坂46は出場がかなわなかったというのは周知の通りである。デビュー年である2019年の終わりに「キュン」で出場した最初の“紅白”は、まさに快進撃の象徴であったし、そこから4年連続で出場を続けていたことはグループの成功の目に見える証でもあった。
 この1年近くの期間に耐えてきた悔しさが噴出した部分もあったのだろうか、直後からメンバーによるブログの更新が続き、もちろん全体としては前向きな決意として綴られているのだが、ファンに対しての謝罪の投稿が重ねられていくような形になる。はっきり言ってしまえば異常とも映るような状況であり、ネットニュースにも書き立てられるくらいであったと記憶する。メンバー個々の気持ちの温度の高さと、その近くにあるいくぶんかの危うさを感じさせる出来事であった。
 「紅白出場歌手」という椅子の数はおおむね決まっていて、ライブの開催や作品のリリースよりさらに遥か遠く、コントロールの外にある。インターネットのどこかで読んだ怪しい知識にすぎないが、坂道シリーズ3グループが同時に出演していたこと(2019〜2021年)自体が、全体のバランスからしたら例外的な状態だったともいう。本当なら、過剰にナイーブにならないほうがいいはずだ。

 そのなかにあって、“紅白”にまだ出場したことのない4期生も、グループのメンバーとして悔しさを抱えている様子もあり、それが表出される場面もあった。

私が触れていいものなのか、私なんかが口にしていい事象なのか少し躊躇してしまう自分が居ますが少しだけ私の気持ちを綴らせていただきます。

今年の紅白歌合戦出場アーティスト一覧のなかに日向坂46の名前がありませんでした。
沢山の方への申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
新しい風を吹かせられていたらとかもっと貢献できていればとか、今こうやってタラレバを言っても仕方ないけれど実際体現できていたら違ったはずとも思います。

触れることに躊躇いを感じている時点で自分の覚悟の強さや日向坂46メンバーとしての責任が欠けていると実感しました。

平岡海月オフィシャルブログ 2023年11月14日「31」

 配信のあった新参者公演8公演目(11月18日夜公演)では、公演終盤でメンバー日替わりのスピーチを担当した藤嶌果歩が、「この新参者は4期生にとって最後のチャンス」と表現する。4期生単独の公演に取り組むからという以上の強い決意を感じるような言葉選びに、何が彼女を駆り立てたのかはわからない。藤嶌の可愛らしい声とのギャップが、ピンと張りつめるような緊張感をもたらしていた。

新参者8公演目のスピーチで私は
この新参者は 四期生にとって最後のチャンス だと言いました

日向坂として活動して1年、自信を持って結果を残せたと言えるものが無かった私たちに 目指すべき方向を教えてくれたのがこの新参者でした

ここで終わらせない という強い覚悟が四期生全員に生まれ、一体感という目標が出来ました

藤嶌果歩オフィシャルブログ 2023年12月2日「この熱が冷めないように」

 「一体感」。公演に臨む前に、4期生が自分たちにとっての今回の目標として考え出したというその言葉は、4期生の円陣にも取り入れられ、大切なキーワードとなっていく。清水理央のけたたましいほどの発声からスタートする円陣は客席にまで響き渡り、会場全体の温度を高めてもいた。
 理念的でシンプルな目標。それにむかってがむしゃらに突き進んで、公演の成功とともに確かにそれを実現していった4期生の姿は、あまりにも“日向坂46”を形づくっていた。

■ 4期生と“ひらがなけやきさん”

 日向坂46・4期生は新参者公演において7曲のひらがなけやき名義の曲を披露したほか(「誰よりも高く跳べ!2020」は含まず、最終公演ダブルアンコールの「車輪が軋むように君が泣く」を含む)、これに先立ってスタートした「Happy Train Tour 2023」では公演ごとにセンターを変えて「期待していない自分」も披露している。計8曲とも、このタイミングが4期生にとっての初披露だったことになる。
 「Happy Train Tour 2023」における「期待していない自分」の披露後のMCでは「“ひらがなけやきさん”がいたからこそ私たちがある」と語られ、新参者公演における「ひらがなけやきブロック」の前には「楽曲を通して先輩方の歴史を振り返る」と説明が付されてもいた。

 日向坂46は、過去の楽曲を網羅的に振り返るようなライブは行っておらず(それに近いのはユニット曲を全曲披露した「春の大ユニット祭り〜おひさまベスト・プレイリスト2021〜」[2021年3月26日]くらいだろうか)、特に近年ではひらがなけやき時代の楽曲の披露機会は「ひな誕祭」にほぼ限られるような状況である。2・3期生も演じたことのない楽曲も多く、「後輩メンバーも当時の楽曲をパフォーマンスしてグループに合流していく」ような行動様式がとられてきたわけではない。
 改名前の楽曲の取り扱いは難しい。4期生はみな当時のグループのことを“ひらがなけやきさん”と呼ぶが、改名後に加入した彼女たちは、どれだけグループでの時間を重ねても、「ひらがなけやきになる」ことはできない。
 ひらがなけやきとして活動した1・2期生、および上村ひなのにとっては、そこでの記憶は自分自身のキャリアの一部であり、それは一体不可分のものである。思い出せば懐かしく輝いているし、あえて思い出さなくてもそこにあるのだ。しかし新メンバーを迎えてグループの歩みを未来につないでいくためには、それを伝えるための過程が必要になる。
 4期生がまだ4期生としてまとまって活動している時期における単独の公演、という機会をとらえて、それが大々的になされたような形であるといえるだろうか。

——けやき坂46時代の曲を歌う意味をどう捉えましたか?
清水 けやき坂46さんの曲を歌うこともあるのかなと思っていたけど、こんなにたくさんの曲を披露させていただけるなんて想像していませんでした。ダンスの先生から当時の映像をたくさん観させていただいたんですけど、「頑張ろう」と気持ちが奮い立つ楽曲ばかりで、おひさまのみなさんに楽曲を届けたい使命感が沸いたんです。先輩方が築き上げた曲の雰囲気、曲に込めた気持ちを受け継いで、伝えていきたいという想いがありました。

『BRODY』2024年2月号 p.29

——けやき坂46時代の曲を歌うことをどう考えましたか?
渡辺 ファンのみなさんから「四期生を観ていると、ひらがな時代のメンバーを観ている気持ちになる」と言われることがあるので、私たちがグループの歴史を受け継いでいきたいと思いました。メンバーと「今の私たちがひらがな時代の曲を歌うことに意味があるんじゃないか」と話して、気持ちをひとつにしたんです。

『BRODY』2024年2月号 p.41

 あるいはもうひとつ、筆者が記憶にとどめているのは、新参者公演のなかで感じた3期生の存在である。特に、加入時期の関係もあり、こういう文脈でこぼれ落ちてしまいがちな、いわゆる“新3期生”についてだ。
 “新3期生”は、ひらがなけやき時代を経験していないという意味では4期生と重なる存在であり、先に加入した同期・上村ひなのが数か月間をひらがなけやきの一員として過ごし、オリジナルの楽曲はないながらもその後は柿崎芽実のポジションなどでパフォーマンスにも参加する機会があったのとは対照的でもある。
 新参者公演における「ひらがなけやきブロック」でメンバーが着用していたのは、ひらがな時代の象徴ともいえる「期待していない自分衣装」であった。これは、オリジナルのバージョンが白を基調としたものであるのに対し、「デビューカウントダウンライブ!!」の際に空色を基調としたものが上村のために新たに制作されたという経緯をもつ。そして今年の「4回目のひな誕祭」の際には、髙橋未来虹・森本茉莉・山口陽世のぶんも上村のものにあわせてつくり足されていた。
 そして、その3期生4人ぶんの「期待していない自分衣装」が、すべて4期生によって着用されていたのである(平尾帆夏、藤嶌果歩、宮地すみれ、渡辺莉奈が着用)。ひょっとすると、衣装の色に偏りがないほうがよい、という程度の意味合いだったのかもしれないが、でも、白色のオリジナルの衣装で全員を統一することもできたはずだ。筆者には、3期生4人の存在も、そこで振り返られた“ひらがなけやき時代”に位置づけられたような、そんなふうに見えた。

 そして新参者公演の最後、10公演目の終わり。「日向坂!4期生!」のダブルアンコールに応えてステージに戻ったメンバーが歌唱したのは、ひらがなけやきの楽曲「車輪が軋むように君が泣く」であった。
 「走り出す瞬間ツアー2018」では本編の最後に、「ひらがなくりすます2018」ではアンコールにおいて披露され、客席と一体となって合唱するのが当時の定番であった。しかし、改名以降は映画「3年目のデビュー」のエンディングで用いられた程度で、一度もライブでの披露がない状況が続いていた。

古い列車は古いレールを走って
古い車輪が軋む
次の世代は新しいレールの上
夢追いかけ どこまででも 走れるはず

信じるまま 思うままに 回せ車輪

「車輪が軋むように君が泣く」ラスサビ

 あまりにも、あまりにもひらがなけやきの記憶として存在していた一曲。涙を浮かべながら4期生が歌い、客席が声を合わせたその歌詞が、“ひらがなけやきさん”から彼女たちへの力強いメッセージであるように聴こえた。

■ 「4期生のおかげでもう一度ひとつになれた」

 4期生が新参者公演を終えて間もなく、12月9日・10日に「Happy Train Tour 2023」の追加公演がKアリーナ横浜で行われる。1日目はそれまでのツアーの公演をベースとしつつ、この日が最後のライブとなる潮紗理菜の卒業セレモニー、およびクリスマスの演出が組み込まれたような形であった。
 大阪への初演から4期生による披露が重ねられてきた「期待していない自分」は、この11公演目で正源司陽子がセンターに立ち、一応の完結をみることになる。腰の治療のために活動を休止している丹生明里にかわり、ツアーを通して「One choice」のセンターにも立ち続けた正源司。この日には、岸帆夏の活動辞退についてMCで涙ながらに言及する場面もあった。

「Happy Train Tour 2023」セットリストまとめ(筆者作成)

 そして2日目では、ライブ全体の演出は維持されながらも、中盤以降のセットリストが大きく組み替えられる。ここまでの11公演でDJコーナーを務めてきた藤嶌果歩にかわって、「出張ひら砲らじお」として平尾帆夏が登場し、新たな展開があることを予感させると、4期生は平尾がセンターの「ロッククライミング」を披露。新参者公演で初披露され、10回の披露が重ねられていたが、全体ライブでの披露はこのときが初めてであった。
 これに続く「期待していない自分」では、「私達にも、この曲に懸ける思いがある。」として、1・2・3期生が登場。センターはもちろん佐々木美玲で、衣装は「期待していない自分衣装」である。空色の衣装に身を包んだ上村・髙橋・森本・山口もここに加わっていた。そして楽曲の終盤では4期生も加わり、全員でのパフォーマンスとなった。

 その後の曲目にも入れ替えなどがあったなかで、新たに1曲加えられる形となったのが、16曲目の「青春の馬」であった。
 ここにも髙橋・森本・山口は加わっており、これは初めての出来事であった。森本は潮の、山口は渡邉美穂の、髙橋は宮田愛萌のポジションに入り、丹生のポジションは詰めていたような形だっただろうか。髙橋がいくぶん感極まっていた様子だったのも、森本と山口がかなり気合いの入った様子であったのも、筆者の気のせいではないと思う。

 「青春の馬」は、4期生に研修期間の“課題曲”として与えられたもので、この1年は「おもてなし会」「4回目のひな誕祭」および新参者公演と、もっぱら4期生が披露してきた楽曲であった。
 それをここにきて、1・2・3期生が全員で披露したことには、大きな意味があったのではあるまいか。ここには4期生が加わっていたわけではないが、この1年間でじゅうぶんにその存在感を感じられるようにもなっていた。全員で横並びになって歌いつなぐような形とはまた違ったやり方で、「青春の馬」はこの日、グループ全体の楽曲となったのである。

(「4回目のひな誕祭」までの「青春の馬」については、以下のnoteで書いたところでもあるので、参照されたい。)

 この日のアンコールでは、「5回目のひな誕祭」の開催発表があったのち、佐々木久美が長めのスピーチをする場面があった。日向坂46のライブでは恒例のような形ともなっているが、新参者公演や潮の卒業を経て、あるいはグループの状況をふまえてか、いつも以上にシリアスに聞かせるようなスピーチであったようにも思う。
 「どこか私たちメンバーに迷いがあるようなときがあったり、それを本当なら察されてはいけないのに、おひさまにもちょっと『あれ?』って不安な気持ちにさせてしまったり、そんな瞬間があった」と、この1年間のグループの状況を説明し、「ある目標を決めました」と伝える。
 「私たちはこのメンバーでもう一度、東京ドームを目指します」。

 前回の東京ドーム公演、「3回目のひな誕祭」以降、グループは4期生を新たに迎えていたし、あるいは前回は濱岸ひよりが休演となってしまったという経緯もあった。今度はまた全員で東京ドームに、という語りは、この間にもカジュアルになされることが多かった。
 しかしグループとしては、どちらかというと“次の目標”を模索していたような、そんなふうに感じることもあった。その最たるものとして、そこまで大々的にいうわけではなかったが、「次はドームツアーがしたい」という意識を共有していたような様子もあったように思う。

「でも、まだまだ私たちは3年目で、これからかなえたいことも行きたいところもいっぱいあるし、“約束の彼の地”(東京ドーム)と歌い始めたときは、ここがゴールかなと思っていたけど、きょうここがまた新たな出発の場所となりました。」

2022年3月31日「3周年記念MEMORIAL LIVE~3回目のひな誕祭~」
佐々木久美ダブルアンコールスピーチ

 「もっと新しい景色を見る/見せる」ために、もっと違う、もっと大きな目標をと追い求めていたところからすると、それはいくぶん下方修正のようにも映るかもしれない。でも、実際にはそうではないということをグループが確信できたからこそ、「東京ドーム」がここで掲げる目標となりえたのだと思う。

DAY2のMCで、目標のお話がありました。

この間みんなで話し合う時間があって、
日向坂のこれからのこと。もっとどうなりたいか。
意見を交換し合いました。

叶えたい夢や目標は本当にたくさんあって、
どれも素敵だし大事にしたいなと思うのですが、

日向坂として今掲げる目標は
「東京ドーム」に決まりました!

3回目のひな誕祭での盛り上がり、熱量、夢が叶う瞬間。最高潮だったなと思います。

だからこそ、もう一度東京ドームに立つという目標は私たちにとって高い壁であり、更に成長させてくれる場所だと思いました。

是非おひさまの皆さんも見守って下さると嬉しいです。

金村美玖オフィシャルブログ 2023年12月16日「Holiday」

 久美はこれに続いて、4期生の新参者公演に言及する。

「やっぱり、すごく、私たち先輩たちは、4期生の『新参者』を観させてもらったんですけど、すごく熱くて、すごいハッピーにあふれていて。やっぱりもう一度、こういう気持ちでみんなで上を目指さなきゃいけないなって、4期生のおかげでもう一度ひとつになれた気がします。
 これからもおひさまのみなさんを楽しませ続けられるように、みんなで頑張っていきます。本当にこれが今の私たちの思いなので、おひさまの前でこうしてまた夢をお話しすることができてよかったです。」

2023年12月10日「Happy Train Tour 2023」追加公演DAY2
佐々木久美アンコールスピーチ

 4期生が掲げた「一体感」に重ねるようにして、「4期生のおかげでもう一度ひとつになれた」と、グループの状態について述べた。
 あのときいなかった4期生と一体になったからこそ、二度目の東京ドームにさらに大きな意味が生まれたのだと思う。そこで見られるのはきっと、また新たな景色であるはずだ。

 そしてダブルアンコールで演じられたのは、「約束の卵2020」。ライブでの披露はあのときの東京ドーム公演以来のことで、4期生にとっては初めての披露であったということにもなる。グループが新しい坂を上り始めた、象徴的な瞬間だった。

もっと、もっと先へ。
そう信じるメンバーひとりひとりの強さと、そばにいてくれるおひさまの温かさ。
そのすべてが、前を向き続ける理由になっています。
手を振り返してくれた、あなたの笑顔。一緒に見上げた、あの夜空。
すべての思い出が、追い風になっていく。
日向坂の物語は、続いていきます。
さあ、私たちらしい2024年へ。
今年も一年、ありがとうございました。

2023年12月24日深夜放送 日向坂46 年末スペシャルCM
(ナレーション小坂菜緒、BGM「約束の卵2020」)

■ 櫻坂46と“3期生”

 日向坂46・4期生より約3ヶ月あとにグループに加入した形となる櫻坂46・3期生であるが、それもわからなくなるほどのスピード感でグループに合流していった、という印象がある。
 両者の「おもてなし会」は1ヶ月をおかずに開催されており(日向坂46・4期生はその前に「Happy Smile Tour 2022」東京公演や「ひなくり2022」にも出演しているが)、4月には「4回目のひな誕祭」および「3rd TOUR 2023」と、グループ全体のライブに本格的な出演をスタートさせている。

 「3rd TOUR 2023」における櫻坂46・3期生は、自己紹介コーナーや初めての3期生曲「夏の近道」の披露のほかに、「Dead end」を3期生のみでパフォーマンスしたほか、ツアー終盤では「BAN」を1・2期生と合同で披露する形となっていった。
 この夏に行われた海外公演(パリ・マレーシア)には3期生の出演はなかったが、「OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2023」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023」では舞台出演のため欠席であった小林由依のポジションを曲ごとに異なる3期生が埋めており、「IDOL RUNWAY COLLECTION Supported by TGC」には3期生として単独で出演を果たしている。
 楽曲の面でも、5thシングル所収の「夏の近道」に続き、6thシングルでは「Anthem time」と「静寂の暴力」の2曲の3期生曲が制作されており、かなりのスピード感で駆け抜けていくような印象をもった。

 これに続く7thシングルのフォーメーションが発表されたのは2023年9月17日放送の「そこ曲がったら、櫻坂?」でのことであった。事前告知では従前通り「フォーメーション発表」とされていたものの、番組終盤でその発表が始まると「選抜制度を導入」とナレーションで宣言され、谷口愛季、山下瞳月、中嶋優月、村井優の4人がその“選抜”に入ることになる。
 その3期生4人を含めた、16人の選抜メンバー以外のメンバーが「BACKSメンバー」であると同時に定義され、BACKSメンバーは1期生2人、2期生3人、3期生7人というバランスではあったが、ここに至って正式に、グループとして初めて、選抜制が導入されたという形になった。

 筆者は繰り返しこの話をしてしまうのだが、6thシングルまでの櫻坂46において、「選抜制度」は存在しなかった。「欅坂46 THE LAST LIVE」で「Nobody's fault」が披露された2020年10月13日から、この2023年9月17日深夜までの1069日と数時間において、櫻坂46はそのフォーメーションについて「選抜」という表現を一度たりとも(公式には)してこなかったのである。
 そこには明らかに、欅坂46時代に“幻”となった9thシングルの記憶が存在した。9人の2期生が合流していた2019年の欅坂46は、9thシングルのタイミングで「選抜制度を導入」と宣言している。2期生9人のうち7人がその“選抜メンバー”に選ばれ、1期生7人、2期生2人がそこから外れたものとされた(「欅って、書けない?」2019年9月8日放送回)。
 当時のメンバー全体の人数は26人。その後間もなくグループを離れたメンバーもいたが、半年後には坂道研修生を経てさらに6人のメンバーが加入してもいる。この人数規模で常時動き続けるのは現実的ではなかったかもしれないし、選抜制は遅かれ早かれ訪れていたものである、いまのグループにとって必要なことだった、とメンバーが受容、あるいは説明し、多くのファンもやがてそれに続いていったのだったと思う。
 しかしその9thシングルは最後までリリースに至らなかった。その直接的な最初の要因は、MV撮影が悪天候で順延になったことであるとされ、選抜制度と関係があったものとしては語られていない。その後、9thシングル表題曲となる予定であった「10月のプールに飛び込んだ」と、選抜外のメンバーによる「コンセントレーション」をはじめとする、9thシングルに収録される予定であったと思われる楽曲はベストアルバムで日の目を見ることにもなるが、しかし“選抜制度”は、まるで不幸にも流産した水子のように、痛切さばかりが記憶に残されることになる。

 櫻坂46のオリジナルメンバーとなり、1stシングルに参加したメンバーは、あのときと同じ26人という数であった。理屈からいえば、やはりそこにはすでに“選抜制度”があっていい人数だったということになる。
 しかしグループはこのとき、「欅坂46の頃からも大切にしていた、“全員で楽曲を届ける”という思いを込めた編成」として、1・2列目の「櫻エイト」8人+3列目メンバー6人×3フォーメーション=26人、という形をとることとなり、この枠組みは3rdシングルまで、“3人のセンター”体制は4thシングルまで、櫻エイトシステムは5thシングルまで、そして“選抜制ではない”とする体制は、6thシングルまで維持されたことになる。
 このとき1・2期生は17人(このうち、活動休止中の遠藤光莉は6th・7thシングル不参加)。ここに加わったのが11人の3期生であった。苛烈なレッスンを重ね、しかし笑顔とそのキャラクターを輝かせながら、一方で紛れもなく、そのパフォーマンスをもってすでにグループに合流していた。欅坂46のファンであったメンバーや、坂道シリーズ全体が好きだったというメンバーもいる。しかし彼女らは紛れもなく、「(欅坂46ではなく)櫻坂46をめがけて加入してきた」のであった。

 長くなりすぎてしまった。ともかく、その3期生が本格的にグループのフォーメーションに組み込まれるというタイミングで、しかしまるで何でもなく、前作までのフォーメーション発表と同じような間合いで、櫻坂46は選抜制度を導入したのであった。
 あのときと比べたら、いくぶん静かなものだった。それはグループが3年近くをかけて身に付けてきた、ある種の強さがあってこそだろう。

■ 「櫻の木のマモリビト」

 新参者公演のセットリストを見ると、3期生がこの公演で新たにパフォーマンスに取り組んだのは、「2ndシングルまで(=ユニット曲すら存在しなかった時期)のカップリング曲」「5thシングルまでの表題曲」でざっくりと説明がつく、ということに気づく。
 日向坂46が普段触れることの少ないひらがなけやき曲を披露したのが“歴史を振り返る”過程であったとするならば、櫻坂46のそれはグループの根っこと幹にあたる部分をなぞって再確認するような過程であったといえるだろうか。

 もちろん、そうでもしないとフルサイズのライブのセットリストを組むための曲数に達しないという事情もあったかもしれない。しかし、現役でグループ全体のライブで披露されている楽曲をここまでセットリストに投入したことは、そしてあるいは、ここまでのスピード感で3期生をグループ全体のフォーメーションに組み込んできたこともまた、先輩メンバーの卒業が相次いでいることと無縁ではあるまい。
 坂道シリーズで最もキャリアが長いということになる櫻坂46の1期生も、この新参者公演に重なるタイミングで土生瑞穂がグループを卒業し、さらに小林由依も卒業を発表した。このふたりを数えなければ、残るはもう3人、ということになる。
 あるいは、かつて二度にわたって行われた「BACKS LIVE!!」についても思い出される部分もある。「私たちで、櫻坂46を、強くする。」と掲げて行われたライブは、全員がセンターに立ち、メンバー全員がすべての楽曲を演じられるような状況をつくり出した。その後、一時グループ活動を離れていたメンバーや、グループを卒業したメンバーのポジションが「BACKS LIVE!!」を経験したメンバーによって埋められる場面が多くなり、メンバーの変遷があってもグループのパフォーマンスを落とさず、むしろ高めるような、まさにグループを「強くする」ことにつながった。
 ポジションを補充するためだけに新メンバーが加入するのではないとはいえ、次にこの役割を担うことになるのは、間違いなく3期生だろう。

 こうした状況をあらためてふまえると(あるいは、そうするまでもなく)、このタイミングであてがわれた最新の3期生曲「マモリビト」は、メッセージが強い。われわれに対してではなく、それを歌唱する彼女たちに対しての、である。

先人はこの場所を祀って 私たちを待ってくれていた
名もなき者 その夢はここから始まる

とても重いその責任を 今 この腕の中に受け取った
美しいその歴史と 傷だらけのその日々も 全部
この聖地でみんなで誓おう そう 今度は私たちの番だ
若く 強い後人が次にやって来る日まで
誰一人ここを動かない

「マモリビト」1Bメロ・1サビ

 坂道シリーズを追いかけるようになってけっこうな時間が経った。そんな筆者を含む多くの“オタク”は、「ああ、こういうタイミングで若いメンバーにあてられる歌詞ね」と、自然と受け身をとる向きも強いかもしれない。時にやや訓示的ともとれるものも散見される歌詞や、そうした曲を“下ろす”ことについて、とやかくいう声も聞こえてくる。それも含めて、いつものことだ、という気がしてくる。
 しかし一方で、メンバーによる語りをつぶさに聞いていると、みな一様と言っていいほどに「これはわたしの曲だ」と真っ直ぐに受け止めているように思う(今回に限らず)。あるいはもう少しいえばそれは、いうなれば“プロのアイドル”としてなされている表現ではなく、等身大の反応により近くも感じられる。あえていうまでもなく、彼女たちはそのキャリアの序盤を走っている。なめられきったネジ穴のような“オタク”とはわけが違うのだ。

 「マモリビト」でセンターを務める小島凪紗は、毎公演の楽曲のパフォーマンス前に、楽曲が歌うメッセージと重なるスピーチを行っていた。3期生のなかでも年少組にあたるメンバーで、かつ物怖じしない明るいキャラクターがフォーカスされる場面も多かった彼女。グループの姿には欅坂46時代から触れてはいたが、いろいろなアイドルを追いかけていたタイプで、活動最初期には目指すアイドル像に「まだ明確な目標がないんです」とも語っていた。

——小島さんはどんなアイドルになりたいですか?
小島 まだ明確な目標がないんです。さまざまな経験をしていくなかで、1年後くらいに「こうなりたい」という理想像が見えていたらいいなと思っています。いまは「これ」と決めず、広い視野を持っていろんなことにチャレンジしたいです。

『BUBKA』2023年6月号 p.12

 アイドルという意味では、間違いなく何者でもなかった彼女たちは、それぞれのきっかけでグループに集まり、ほどなくして間違いなく“櫻坂46”となっていく。グループで過ごす日々のなかでは、いつしか“その先”を見出そうと模索する時間も訪れることになる。しかしいまの彼女たちはまだおそらく、どこまでも“櫻坂46”でしかない。
 櫻坂46は特に楽曲に入り込んでパフォーマンスをするグループである。楽曲の強いメッセージが彼女たちの心情に必要十分にマッチしていることを願うところだが、あまり心配はなさそうだ、というふうにも見える。お披露目前の研修の時期から数えれば、もう1年以上が経過してもおり、ちょうど時宜をとらえた楽曲でもあったのかもしれない。

——新たな三期生楽曲『マモリビト』についても聞かせてください。
小島 『夏の近道』や『静寂の暴力』ともまた違う曲調で、歌詞も自分たちとリンクする内容なんです。今は先輩たちがいるけど、ここから何年後かには三期生が先輩となる日も来るでしょうし、いつの日か入ってきてくれる後輩たちにもいい影響を与えられるように、そして卒業後に「私が櫻坂46だったんだ」ってまた心が帰ってこられるようにと、アイドルとしての一生が描かれているのかなって思います。……(後略)

『BUBKA』2023年12月号 p.25

 「咲かない人は、いない。」、そうキャッチコピーの付されたオーディションで彼女たちはその場所に集まった。「おもてなし会」での初めてのパフォーマンスも、同じメッセージから始められた。しかしその彼女たちが、「同じように努力してるのに 咲く花と咲かない花はなぜ?」と歌う。「報われない今生も神は見ている」と。
 そしてそうしたすべてを引っくるめて「自分には何が できるのだろうか?」と問う。そこに描かれた「アイドルとしての一生」、それが具体的にどのようなものとなるのかはまだわからないが、しかしそこに確かな形をつくるための強さはすでに、彼女たちに備わっているように見えた。

■ 「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」で見たもの

 3期生にとっては新参者公演の途中、12月の3公演を残したタイミングで開催されたのが、「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」(11月25-26日)であった。会場はZOZOマリンスタジアムで、欅坂46時代を含めて初めての野外スタジアムワンマンライブ。直前まで暖かい日が続いていたものの、この2日間から本格的に冬が到来したような気候のなかでの挙行であった。
 3期生は、4曲のオリジナル曲をすべて披露(「静寂の暴力」と「マモリビト」はDAY1とDAY2の日替わり)。さらにDAY2では「BAN」がツアーのときと同様の1・2期生・3期生合同の形で披露され、さらに7人の3期生を含む7thシングルBACKSメンバーによる楽曲「確信的クロワッサン」が初披露。さらにBACKSメンバーはこれに続き、DAY1ではオリジナルのフォーメーションに準拠したメンバーで披露されていた「条件反射で泣けて来る」を、井上梨名をセンターとして披露してもいる。
 土生瑞穂の卒業セレモニーが行われたDAY1に対して、DAY2は「先を見つめた未来を感じさせる別内容のステージとなる」と事前に広報されてもおり、文字通りそうした内容のセットリストとなった。

 2020年12月9日、シングル「Nobody's fault」でデビューを果たした櫻坂46。そのデビュー3周年を記念するライブが、グループにとって初挑戦となる野外スタジアムで開催される。
 1月に新メンバーとして三期生が加入し、いきなり躍動。また全体として海外へと活動の場を広げるなど、目をみはる躍進の年となった2023年。本公演はその1年を総括する2daysということもあり、開催発表と同時に大きな注目を集め、リアルチケットは争奪戦に。
 初日の11/25には、1期生メンバー・土生瑞穂の“卒業セレモニー”が行われ、2日目の11/26は、先を見つめた未来を感じさせる別内容のステージとなるだけに、両日とも見逃すわけにはいかない!

櫻坂46「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」Stagecrowd配信ページ
(改行と段落冒頭の字下げは筆者による)

 また、DAY2の「条件反射で泣けて来る」披露後には「7th Single BACKS LIVE!!」の開催が告知され、これを受けて井上がポジションやライブへの思いを語る場面があった。シングルごとに入れ替わりの幅のやや大きい櫻坂46のフォーメーションにあって、井上は「Nobody's fault」の歌唱メンバーを外れたことをはじめ、悔しい思いをすることがやや多かった立場だし、その思いを自ら発信する場面も多々見られた。「選抜制」の導入にあたり、彼女がそこから外れたことは、“またしても”の試練のような、そんなふうにも見えていた。
 しかし井上は、「選抜発表があったときに、自分の力不足を感じながら『悔しいな』って思いもしました」と率直に語りつつ、「選抜メンバーに選ばれないとできないことってたくさんあると思います。でも、今ここにいる私たちにしかできないこともいっぱいあると思います」と強く言い切る。「BACKSメンバーに選ばれる」という言葉づかいに、グループへの献身と決意がにじんだ。3期生をフォーメーションに合流させ、2年ぶりの「BACKS LIVE!!」も開催する。グループはそのセンターポジションを井上に託したのだと、彼女の言葉を聞いて、そう思えるようになった。
 あるいはこの日の「承認欲求」では、前夜にグループを卒業した土生瑞穂のポジションで、井上が初めてこの楽曲のパフォーマンスを披露する。「流れ弾」では、活動休止中の小池美波のポジションにも入っていた。これもまた、グループが井上に寄せる尋常ならざる信頼と、それに応える本人のパワーを感じる出来事であった。

 中盤以降はほぼすべての演出または披露楽曲が変更された2日間のライブ。そのなかで最も印象深かったのは、やはり終盤のブロックだったかもしれない。「BAN」には3期生が加わり、続いて披露されたのは「マモリビト」。小島凪紗が少し息を切らしながら、新参者公演でも行っていたものと重なる内容のスピーチをして、現地で観ていただけで36000人、配信を含めたらそれを大きく上回る数のファンに、グループの一員としての決意を伝えた。

「私たちが櫻坂46として加入して間もなく一年が経ちます。ずっと憧れていたこの場所に、私たち11人はしっかりと根をはろうと、これまで手を取り合って努力を重ねてきました。
 その中で見つけた私たちにとってのいちばん大事な役目。それは、櫻坂46の一員として、このステージに並び立つことです。
 櫻坂46、3周年。これまでもこの先も、その責任を胸に、この大好きな櫻の木を全員で守っていきます」

2023年11月26日「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」DAY2
「マモリビト」披露前 小島凪紗スピーチ

 これに続く本編ラストの2曲は、DAY1と同じ「Start over!」と「承認欲求」であったが、「Start over!」の披露前には3期生による煽りのパートが挿入され、会場全体がジャンプをしながら藤吉夏鈴を迎えるような演出が行われてもいる。
 こうした場面も含めて、DAY1からDAY2にかけて、3期生がさらにぐっとグループと一体となったような、そんな印象をもった。

■ 「語るなら未来を…」

 そんな「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」の翌週に行われた、新参者公演のラスト3公演。最終公演のダブルアンコールでは、欅坂46の「語るなら未来を…」が披露される。センターは山下瞳月で、オリジナルの衣装を着用してのパフォーマンスであった。
 連続公演の“お約束”からいっても、前々日に行われていた日向坂46・4期生の最終公演からいっても、ダブルアンコールの準備が行われていることは誰もがわかっていたといっていい。櫻坂46(および欅坂46)は、ダブルアンコールやアンコールでTシャツではなく歌唱衣装で登場し、新曲や特別な楽曲をサプライズで披露することも多く行ってきたグループである。
 筆者は正直、「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」の流れをくんで、ここに「Start over!」をぶつけてくるのではないかと予想していた。そのくらいのことはやってくる。グループにも、3期生にも、そのくらいのエネルギーは確実にみなぎっていた。

 欅坂46の楽曲をここで、と予想していたファンもいたのかもしれない。しかし筆者にはそれは考えつかなかったというか、発想の欠片もなかった。
 ひらがなけやき時代とほどよい距離感でつながっているように見える日向坂46と対照的に、「欅坂46を、超えろ。」と宣言して改名再スタートを切った櫻坂46は、自分たちが欅坂46ではないことを証明するために、力を尽くしてきた部分も大きかったように思う。
 「デビューカウントダウンライブ!!」「BACKS LIVE!!」「W-KEYAKI FES. 2021」DAY1(櫻坂46単独公演)のセットリストは、全曲櫻坂46のオリジナル楽曲で構成。素直に考えればそこに欅坂46の楽曲が入ってくる余地はないように見えるが、「持ち曲が少ないから」のような理屈づけをして、欅坂46の楽曲の披露を予想または期待する声も少なくなかったと記憶する。
 日向坂46との合同公演であった「W-KEYAKI FES. 2021」DAY3でも、改名以前の楽曲として披露されたのは「W-KEYAKIZAKAの詩」のみであった。この楽曲は、「欅坂46 THE LAST LIVE」において、ソロ曲・ユニット曲以外の楽曲で唯一セットリストに加えられなかった曲でもあった。「太陽は見上げる人を選ばない」や、合同ユニット曲であった「猫の名前」の披露なども期待されるところであったが、依然として欅坂46時代との緊張感のようなものが保たれていた印象であった。

 「1st TOUR 2021」を経て行われた「1st YEAR ANNIVERSARY LIVE」は守屋茜と渡辺梨加にとっての卒業の区切りのライブとなり、卒業セレモニーのなかで青空とMARRYの「ここにない足跡」と「青空が違う」が披露される。ここに至ってようやく“解禁”のような形となるが、以降も1期生が卒業する区切りにあくまで限定しての披露が続けられていくことになる。
 該当するのは「渡邉理佐卒業コンサート」、尾関梨香と原田葵の最後のライブとなった「W-KEYAKI FES. 2022」(振替公演)、菅井友香の最後のライブとなった「2nd TOUR 2022 "As you know?"」東京ドーム公演、土生瑞穂の最後のライブとなった「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」DAY1である。菅井が選曲した「10月のプールに飛び込んだ」「不協和音」「砂塵」が例外といえる程度で、それ以外は欅坂46時代の"楽しい思い出"として、ときにメドレーも使いつつ、参加したユニット曲や明るめの楽曲が披露される形が徹底されているように思う(菅井も上掲3曲以外はそうした選曲であったと感じる)。
 なお、「W-KEYAKI FES. 2022」では日向坂46が「語るなら未来を…」、櫻坂46が「NO WAR in the future」を披露し、両グループが合同楽曲「太陽は見上げる人を選ばない」を披露してもいる。

 頑なともいえるほど、欅坂46との距離感に注意を払ってきた櫻坂46。しかし、その歴史の大部分を担った1期生のほとんどはグループをすでに離れ、今年迎えた3期生は改名以降初めての加入メンバーでもある。「新せ界」展では「欅坂46時代を経て櫻坂46がある」ことが改めて確認されてもおり、このタイミングで3期生がストレートに欅坂46の楽曲を披露することにも大きな意味があったのだと思うし、あるいは、機は熟していたともいえるのかもしれない。
 しかしそこで選曲されたのが「語るなら未来を…」であった、というのは、絶妙な選曲であるようにも思う。表題曲を外しつつも、欅坂46的な雰囲気の楽曲として人気が高かった"全体曲"でもあり、直前にグループを卒業した土生瑞穂がセンターに立ってきた経緯もあった曲で、かつ日向坂46(およびひらがなけやき)によっても演じられてきた曲である。
 あるいは、「語るなら未来を…」という曲名およびその歌詞からは、過去ではなく未来を志向せよ、という強烈なメッセージ性も感じる。3期生の存在は間違いなく、グループの未来である。あるいはこの状況全体が、改名後の日々をどれだけ積み重ねてもなお"欅坂46"を切望してきた観客への痛烈な意趣返しのようにも思えた(なんて表現すると、言いすぎの誹りもあるだろうか)。
 披露後には涙を浮かべる3期生もおり、全公演完遂の達成感以上に"欅坂46"が与えたエネルギーや、その反面のプレッシャーもその姿からは見てとれた。しかし(これから先欅坂46時代がどのように扱われるとしても)、彼女らが歩んでいくのはあくまで櫻坂46としての日々である。
 これからも、櫻坂46の歩みを見届けていきたい。そう思うよりほかないし、よりいっそうその思いが強くなった公演であった。

この一瞬一瞬を、大切に思いながら過ごしてきた一年。
出会いや別れはつきものだけど、これまで以上に前向きに、そして大きな希望をもって活動できたと思います。
今年生まれた新たな蕾は、次の櫻坂の未来です。
その蕾が花開く瞬間を、どうかみなさんの目で、見届けていただけますように。
今年も一年、ありがとうございました。では、また来年お会いしましょう。

2023年12月24日深夜放送 櫻坂46 年末スペシャルCM
(ナレーション小林由依、BGM「マモリビト」)

■ 乃木坂46と"5期生"

 2022年の初頭にグループに加入した乃木坂46・5期生は、日向坂46・4期生、櫻坂46・3期生と比べて長いキャリアをもち、今年1枚目の32ndシングルではグループ全体のフォーメーションに合流。グループ恒例の"新人抜擢"でのセンターを29thシングルで務めた中西アルノに続き、33rdシングルでは井上和がセンターに立ち、「真夏の全国ツアー2023」を引っ張るなど、グループをフロントラインから引っ張る存在になっているメンバーも多い。
 ここ数年ほどの乃木坂46は期別の稼働が多いグループでもあり、そのなかで5期生も、二度の「お見立て会」や「新・乃木坂スター誕生!LIVE」「超・乃木坂スター誕生!LIVE」のほか、今年2月には「11th YEAR BIRTHDAY LIVE」のなかで5期生ライブを経験しているなど、すでに単独でのライブの経験を重ねてもいる。
 あるいは、2月には秋元真夏が、3月には鈴木絢音がグループを卒業。5月の「齋藤飛鳥卒業コンサート」をもって、1・2期生が全員グループを離れたことにもなった。"後輩だけ"で駆け抜けた夏の終わり、梅澤美波が「私たちが乃木坂46です」と宣言したことはいまなお記憶に新しいが、オリジナルメンバーがすでに誰もいなくなっているという点でも、グループのなかでの存在感や立ち位置は他グループとやや異なる部分があるように思う。

 今回の新参者公演のセットリストも、あまり厳密でなく、あくまでイメージでいうならば、グループ全体のライブの相似形のようであった。序盤と終盤では5期生曲と表題曲を畳みかけるように繰り出す一方で、オリジナルでないメンバーが演じるユニット曲のコーナーや、アコースティックアレンジで歌唱を聴かせるコーナー、一人一曲プロデュースのコーナーなど、乃木坂46が得意としてきたライブの形が随所に見られる構成であった(そのなかで、一人一曲プロデュースを「おひとりさま天国コーナー」と題し、全員がソロでのパフォーマンスを行う形に統一した点には、新規性があったといえるだろうか)。

「真夏の全国ツアー2023」セットリストまとめ(筆者作成)

 ユニット曲のコーナーで披露された6曲はすべて5期生が初めて披露する楽曲であった。31stシングル所収で比較的新しい「銭湯ラプソディー」と「アトノマツリ」、長らく行われていなかった、オリジナルの椅子パフォーマンスを継承した「革命の馬」、メンバーを絞って歌唱を聴かせた「隙間」、オリジナルメンバーの印象が強烈な「無表情」と「言霊砲」と、幅広くバランスをとりながら選曲されている印象をもった。
 「おひとりさま天国コーナー」においても、井上和がソロ歌唱した「強がる蕾」からは深川麻衣だけでなく賀喜遥香の姿も思われた。池田瑛紗は乃木坂46のオリジナル楽曲ではなく伊藤万理華が個人PVで歌唱した「まりっか'17」を「てれっさ'21」としてカバー。池田と万理華のアーティスティックな面の重なりも含め、出色の選曲であったといえるのではないだろうか。
 オリジナルではないメンバーがそれぞれの解釈でカバーしてステージで演じることで、リリースから時間が経過した楽曲がステージで息を吹き返すとともに新たな色と記憶を得る。乃木坂46は曲数もメンバーも多いグループだ。どのメンバーにも、どの楽曲にも、思い入れをもつファンがいるだろう。常に"現在"を更新しながら、新たなファンも長いファンも包摂していく、そんなグループの姿勢が、新参者公演のセットリストからも垣間見えた。

 そして、最終公演のダブルアンコールで披露されたのは「I see…」。4期生楽曲であり、日向坂46、櫻坂46と同様に、一定のひねりを加えた選曲であるともいえそうだ。しかし近年のライブの定番曲であり、「真夏の全国ツアー2023」では5期生も含めた全メンバーの編成で全16公演で披露されてもいる。
 セットリスト本編には位置づきにくかったかもしれないが、間違いなく現在のグループが持つ武器である。ダブルアンコールという機会をとらえ、いくぶんすんなりとそれを繰り出し、会場を最高潮に盛り上げて公演を締めたのは、さながら王者の風格であったように思う。
(あるいは、配信のあった8公演目でのみアンコールで「日常」を披露したことも、これに準ずる印象を与える選曲であった。)

■ グループの結束感

 5期生がフォーメーションに合流してから3作目となる34thシングルでは、冨里奈央が新たに選抜入りし、5期生の選抜メンバーは7人を数えるまでになった。32ndシングルでの五百城茉央・一ノ瀬美空・井上和・川﨑桜・菅原咲月の5人から、33rdシングルで池田瑛紗が、34thシングルで冨里が加わった形であり、単調増加といえる状況である。
 これは4期生の選抜メンバーが徐々に増加していった時期とほぼ重なる現象である。24thシングルで遠藤さくら・賀喜遥香・筒井あやめが選抜入りした4期生は、25thシングルで筒井が一度選抜から外れるものの26thシングルで再度選抜入りする。加えてこのときには清宮レイと田村真佑が、27thシングルではそこに早川聖来が、28thシングルでは掛橋沙耶香が、29thシングルでは柴田柚菜が、30thシングルで金川紗耶と弓木奈於が加わった形であり、この間に選抜から外れた4期生はいない(ただし、5期生は32ndシングルからアンダーメンバーに合流したのに対し、4期生のアンダーメンバー合流は28thシングルから)。
 あるいは、29thシングルでの「絶望の一秒前」以来毎シングル5期生曲が制作されているという状況にあって、池田と冨里は選抜入りする直前のシングルで5期生曲のセンターを務めていたことにもなる。29th・30th・31stシングルの5期生楽曲センターである井上・菅原・川﨑も選抜メンバーとして活動を続けているという状況とあわせて、そこに一定の秩序をかぎとることもできるかもしれない。

 選抜メンバーの選定って難しそうだな、と、最近とみに、素朴に思う。個別に迷うポイントが多いというよりは、そこで示した姿勢がグループ全体の舵取りに直結するからだ。
 シングルの発売や選抜発表が予告されると、ファンコミュニティを避けるように行動している筆者ですら、無邪気になされる無数の「選抜予想」が目に入る。ブラウザは閉じ、YouTube動画は「チャンネルをおすすめに表示しない」をタップして消し、SNSのpostは「関連性がない」と報告するようにしている。グループの姿を追っていると、「予想」として自らの手でメンバーの間に線を引くことはもうできない、そう思うようになってからすでに数年が経つ。
 選抜発表の様子そのものがショーにされなくなってずいぶん経つし、むやみにかき回すことももはや望まれない。全体として秩序を保ち続けることを重視し、ファンダムの内ゲバでメンバーやファンを過剰に疲弊させないようにする。そんな空気があるように見える。
 しかし一方で、当然のこととして選抜システムは存置され、選抜発表は多くの人の関心事であり続ける。選抜に入れば「おめでとう」、入れなかったら「次こそきっと」と声をかけることが、わかりやすい"推し"の形で、グループの構造上そこには手をつけられないだろう。だからこそ、まったく変動させずに続行することもできなくて、そのバランスは常時探り続けるしかない。
 近年でいえばその変動は、メンバーの卒業および活動休止にともなうシングル不参加によって担われてきたと称してよい。3期生・4期生の初センター抜擢のタイミング(18th・24th)では選抜メンバー全体の人数が絞られ、多くのメンバーが選抜から外れる現象も起こってきたが、29thシングルではその形もとられなかった。
 30thシングル以降は3列目のメンバーに若干の入れ替えを生じさせることで、選抜未経験だったり、長く離れていたりするメンバーを順繰りに選抜入りさせる方針をとっているように見える。それは2013-2014年ごろのフォーメーションの推移と重なるものでもあり、結果として現役メンバーのうち選抜未経験が5人という数は、史上最小を記録している。

 現役メンバーの人数が36人というのも、史上最少ではないもののかなり少ない水準であるといってよい。最大瞬間風速的には50人を記録したことのある乃木坂46の総メンバー数は、メンバーの新規加入直後は「だいたい46人」のような規模になり、そこから30人台までじりじり減少していくことを繰り返している。

乃木坂46・メンバー人数の推移(3ヶ月きざみ)
※各月末日現在。ただし、当該月末に卒業したメンバーは卒業済みと扱う。
西野七瀬、齋藤飛鳥の卒業日は12月31日と扱っている。加入はメンバーとしてプロフィールが公になった時点とし、これにしたがって秋元真夏は結成時加入、相楽伊織は2014年6月加入と扱っている。ただし、川﨑桜は厳密には2022年4月1日加入の扱いになるが、簡単のために3月時点で加入していたとみなした。池田瑛紗の加入は2022年3月19日となり、岡本姫奈も活動開始は2022年3月の予定であったため加入はそのタイミングとみなしており、グラフ上は5期生11人は同時にメンバーに加わっていることになる。

 34thシングルでは掛橋沙耶香と金川紗耶が活動休止にともなう不参加の扱いでもあり、シングルの参加メンバー34人は史上最少に近い数字である。これを下回っていたのは1桁シングルの時代であり、選抜メンバーの人数がいまより少ない。
 「毎日総選挙」と銘打たれ、激しい競争と目まぐるしい入れ替えがメンバーを鍛え、エンターテインメントとしてファンの熱も上げる、そんなコンセプトでスタートした乃木坂46の選抜制度は、もはやその通りには機能していないといってよい。システムの機能不全を指弾したいのではなく、時代の要請にうまく軟着陸しているのだと思う。

 なぜ長々とメンバーの構成の話を続けているかというと、現在の乃木坂46には、グループとしてかなり結束している印象を受けるからだ。そこにはいろいろな要因があると思う。1・2期生の全員卒業を受けて、単純に年齢やキャリアの幅が詰まったこともあるだろうし、それをグループが直面した難局ととらえ、それを乗り越えるためにまとまった面もあるだろう。新キャプテン・梅澤美波を筆頭に、折に触れて「体育会系」を自称する3期生のリーダーシップも作用していよう。後輩メンバーもそれについて行っているだけではない。
 しかしそれに加えて、やはり構造上の要素もあると思うのだ。期ごとの人数のバランスもよく、選抜/アンダーの風通しも一時期よりは確実によくなっている。メンバー卒業のペースもいくぶん鈍り、グループ全体としてもある程度の落ち着きをもって活動できているように映る。全体の人数が少ない水準にあることも、全員が全員に目をかけやすいとでもいおうか、そんな状況をつくり出しているように思う。
 あいまいな言い方になるが、「昔より分断が少なくて、見やすい」。個人的には、そんな感覚がある。

 ただし、ずっとこれを維持することだけが望まれるかというと、そうではないようにも感じられるところが難しい。もちろんそれだけとはいわないが、メンバーの多さはグループに規模感をもたらす。動ける部隊がいくつもあることはグループの活動の幅を広げ、ライブの規模も大きくしやすくなるだろう。少し下世話な話をすれば、メンバーの数は売り上げにも直結するものだ。
 あるいは人数の多さはメンバーの多様性でもある。一定のトーンのなかで、しかし「いろんな子がいる」ことが、グループアイドルの強みでもあろう。
 こうした点も含めて、そのときどきの判断は柔軟になされるべきだし、事実それを重ねてきたからこそ、現在のグループがあるのだと思う。
 ひとりのファンとしても、グループのあるべき姿を「これ」と狭めて見ないようにしよう、と感じている。

■ 「いつの日にか、あの歌を・・・」

 34thシングルに収録され、新参者公演において初披露された5期生曲「いつの日にか、あの歌を・・・」。センターを務めるのは、グループ最年少の小川彩である。
 歌詞としては"新参者"としての5期生への当て書きという色彩があり、タイトル通り「遠くから憧れてた」「あの歌を歌える日まで」、「思い込め 願い続けている」、というような心情がモチーフとなっている。
 ここまでにも述べてきたように、5期生はすでに、かつてグループに対して多用された「次世代」の扱いを超えて、先輩メンバーと同様にフロントラインを走っているように思う。ステージの規模感や先輩の背中の大きさに震えているような様子はもうない。
 そうしたなかであてがわれたこの曲の歌詞は、例によってやや訓示的にも感じるし、それ以上に「いまの彼女たちのことではない」という印象をもつ。

 ただし、それは「この曲をあてがうには遅きに失した」というようなことではない。逆に、例えば5期生の1曲目、2曲目としてあてがわれていたとしたら、先輩メンバーとの距離感や差をことさらに強調しすぎてしまっていたかもしれない。歌詞が描いたモチーフの先、「永遠のテーマ」を乗り越えた場所に、いまの5期生はすでにたどり着こうとしている。
 そんないま歌われたからこそ(しかしセンターには年若い小川を据えることで"後輩"のイメージを再確認させながら)、そうしたあわいの部分が表現され、過去も未来も感じられる歌唱になっていたのではないだろうか。

 新参者公演では、さらに11曲が5期生が「披露したことがある」楽曲として加わった(ユニットコーナーの6曲と「初恋の人を今でも」、および「おひとりさま天国コーナー」のうち、「強がる蕾」「世界で一番 孤独なLover」「私のために 誰かのために」「心の薬」。「まりっか'17」はカウントのしかたの問題から、数に含めていない)。
 上掲noteの基準にのっとり、数字を更新する形で述べるならば、158曲/276曲をすでに披露している。彼女たちはすでに、どまんなかの乃木坂46だ。

2023年、乃木坂46は1・2期生が全員卒業し、新体制で過ごす初めての年になりました。だから……
自信を持たなきゃ。心の中で、それをずっと考えていました。
責任の重さは近くにありすぎたし、揺らぎもなかったわけではありません。
それでも一年の終わり、あのときより自信をもってみなさんに伝えられます。
私たちが、乃木坂46です。
一年間ありがとうございました。皆様、よいお年を——

2023年12月24日深夜放送 乃木坂46 年末スペシャルCM
(ナレーション梅澤美波、BGM「人は夢を二度見る」)

 今回の新参者公演では、先にも述べたところだが、各グループともが「期別曲」の初披露を、ここにもってくる形となった。改めてその歌詞を振り返ってみると、「ロッククライミング」は「ワクワクしながらいくつもの壁を乗り越える」、「マモリビト」は「誰一人ここを動かずに櫻の木を守り続ける」、「いつの日か、あの歌を・・・」は「先輩の歴史を誇りに思い、バトンを受け継いで歌う」という、それぞれのグループのカラーや現状になじませた仕立てとしながらも、重なるコンセプトで書き下ろされていた。
 あるいはそこから派生させながらここまで綴ってきたように、各グループはそれぞれの"新参者"と一体となって先へ進んでいくことに、意識的に取り組んでいる時期にある。新加入と卒業があるグループだから当たり前のことと言ってしまえばそれまでだが、しかし各グループの状態がよりいっそうまちまちであった「坂道合同新規メンバー募集オーディション」の頃よりも、各グループが希求しているものが重なっているという印象を、ここまで書いてきて改めて抱いた。

 新参者公演の最初の告知時には「坂道合同新人戦」という形で広報が行われていたことを思い出す。それぞれのグループが対面するようなステージではなかったし、直接何かを競うような場面も設けられなかったわけだが、会場、公演数、セットリストの大枠、新曲の披露など、種々の条件が揃えられた公演であったことは確かである。比喩としていうならば、「同じ競技を戦った」ということだろう。
 加えて、先輩メンバーも含め、他のグループの公演に足を運んだメンバーも多かった。それは3グループ合同で行われた公演であることに加えて、新宿で10公演ずつ、という、忙しいメンバーにとっての利便性の面もあったかもしれない。
 「ステージの上で混ぜこぜにしない」というのは、坂道シリーズらしいマネジメントであったと思うが(実際のところやろうとしても難しいのだろうけど)、そのなかにあって、普段(少なくともパブリックイメージよりは)かかわりの薄い3グループが交流、ないしそれぞれの個性を相対化して再確認する機会として、当初想像していた以上に、機能していたように見える。

■ 物語をつむいで

 総括のような文章を書いてしまったが、もう少し付け加えようと思う。新参者公演は、3月から体調不良により活動を休止していた岡本姫奈の活動再開のライブでもあった。5期生初参加の「32ndSGアンダーライブ」(岡本は「さざ波は戻らない」には参加している)、および「真夏の全国ツアー2023」という、メンバーにとっても大きな意味をもったライブに参加できなかった形ではあったが、新参者公演を見ていると、彼女らしいキャラクターのままで元気に復帰してくれた、というように映った。

 岡本は33rdシングルは完全に不参加の形となっており、5期生曲「考えないようにする」にもオリジナルメンバーとしてクレジットされていない。また、この曲が初披露された「真夏の全国ツアー2023」明治神宮野球場公演1日目(8月25日)では、足の骨折により川﨑桜も休演となり、参加していなかった。
 川﨑は10月18日のシングル発売記念配信ミニライブには参加し、このときが10人での初披露となった。川﨑のポジションは上手側の端。楽曲冒頭のメンバーが一列で手をつなぐ場面、神宮では宙に向かって差し出されていた菅原咲月の左手を、川﨑が確かに握っていた。
 さらに新参者公演では、川﨑のもうひとり上手側で、岡本もこの楽曲に参加していた。MVにも参加していない彼女にとっては、このときがほんとうに初披露であったということになる。ひと月前には同じように宙に差し出されていた川﨑の左手を、岡本が握る。それは多分に実際的なポジションの問題であったのかもしれないが、しかしグループの紐帯がメンバーひとりひとりを支えてステージに立たせていることを象徴する情景にも見えた。

 新参者公演を終えた2週間後の12月16-17日には、3公演の「超・乃木坂スター誕生!LIVE」が開催される。さすがに驚くべきスケジュールの密度と言わざるを得ないが、"スタ誕ブロック"は3公演まったくセットリストを変えるという挑戦的なステージを、5期生は堂々たる様子で演じきっていた。
 また、終盤の「5期生スペシャルライブ」のブロックは、本編は5期生曲6曲、アンコールでは公演ごとに異なる夏曲と「おひとりさま天国」を披露し、「乃木坂の詩」で締めるというシンプルな構成であった。シンプルであるがゆえに、彼女たちがまさに「どまんなかの乃木坂46」であることが感じられたし、あるいは1年前の「新・乃木坂スター誕生!LIVE」では「17分間」のセンターとして言葉に詰まりながらスピーチをしていた川﨑が流暢なMCでライブを締めるなど、1年間という時間の流れを感じる場面もあった。

 この「超・乃木坂スター誕生!LIVE」は、直前にインフルエンザに感染してしまった冨里が休演となり、メンバー10人で臨まれたライブでもあった。新参者公演を11人全員で完遂していただけに、冨里本人をはじめ、みなショックの大きい出来事であったと思う。
 あるいは冨里は、本人もブログで改めて綴っていたように、最初の「お見立て会」を新型コロナウイルスの濃厚接触者となったことにより休演、「真夏の全国ツアー2022」明治神宮野球場公演を新型コロナウイルス感染により休演するなど、"運がない"とまとめてしまうよりほかない出来事を、これまでにも経験してきた。

新参者が終わってから5期生の絆がより深まり次のスター誕生ライブを皆で乗り越えたら頑張ったって言葉にして言えるねって話していたのに…
もう苦しくて、みんなにどう言葉をかけていいかもわからないです。

私はいつも大事な時に体調を崩したり、濃厚接触者になったり、運がないのかな。

ネガティブなことばかり考えてしまうけど、薬飲んで早く治したいです。

配信を見るのも少し辛いけど、皆が頑張っている姿見て画面越しに応援したいと思います。

冨里奈央公式ブログ 2023年12月15日

 今年の夏がくるまでは、全メンバーのなかで唯一、"聖地"明治神宮野球場のステージに立ったことがなかった冨里。だからこそ、今年の神宮1日目に「考えないようにする」の初披露が設定されたようにも映る。
 やり切れない気持ちに応えるように、「超・乃木坂スター誕生!LIVE」3公演ともで、メンバーから観客へ、ペンライトを冨里のカラーに揃えることが呼びかけられる。ターコイズ一色に揃った客席を、冨里も配信で目にしたことだろう。空いたセンターポジション、代わりに歌い出しを歌ったのは井上和。このときしかない、特別な情景である。
 以前にも似たようなことを書いたことがあるが、グループが"完全体"であることは少ない。しかしそれは、理想として厳然と存在し続けるし、それを求める気持ちは誰もが捨て置けない。その気持ちがグループに、メンバーに、あるいはファンに、いくつもの物語をつむがせる。
 そして、そうやって生まれた物語が、ときに心を救い、すべての時間に意味を与えていくことを、すでに彼女たちは知っている。

 日向坂46では「Happy Train Tour 2023」追加公演1日目(12月9日)を最後のライブとして潮紗理菜がグループを卒業(最終活動日は12月26日、卒業日は12月31日)。岸帆夏が活動辞退を発表したのは12月7日で、一方で潮の卒業セレモニーには、活動休止中の丹生明里が姿を見せる場面もあった。
 また、櫻坂46では、「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」1日目(11月25日)をもって土生瑞穂がグループを卒業する一方、2日目のステージで遠藤光莉が活動休止から復帰している。小林由依の卒業発表もこの直後であり、予想していた以上にメンバーの"出入り"を感じる冬になったな、という印象もある。

 これらについてもうひとつ印象に残っているのは、両グループが2日間の公演のうち1日目に卒業セレモニーをあてたということである。メンバーが卒業していく姿は大きなひとつの物語であるが、先にも述べたように、2日目の公演で間を置かずにそのポジションに入る後輩の姿が同じステージで見せられたことは、新たな物語をさらにつむごうとする試みであったようにも思う。
 それぞれのグループに、それぞれの色をした大きな河が流れている。卒業とか、年末とか、時間についてはそうした区切りでどうしても意識してしまうが、でもその河はいつも等しく流れ続けているのだと忘れないようにしたい。


 欲張って3グループについて、新参者公演の範疇を超えて振り返ろうとしたので、いつも以上に長くなりすぎてしまいました。これまでのnoteより引用も少なく、だいぶ読みにくい仕上がりになっていると思いますが、でも、書きたいことは書き終えられたかな、と思います。気持ちよく2023年を終えられそうです。

 タイトルは1956年の経済白書において用いられた「もはや『戦後』ではない」のオマージュです。戦災からの復興を宣言したフレーズのように記憶され、また引用される向きも少なくないフレーズですが、実際にはそのようなニュアンスではなく、「回復を通じての成長は終わった」とし、復興需要ではなく近代化によって成長していかなければならない、と厳しく説くものでした。
 新参者公演を終えたメンバーたちも、グループのなかではもう、もはや「新参者」ではなく、すでにグループの換えがたい一部となっています。グループの喜びは彼女たちの喜び、グループの痛みは彼女たちの痛みで、逆もまた然りです。これからももっともっと強くならなければならない道のりが続いていくはずで、しかし彼女たちはそこをしっかりと歩き始めているようにも見えます。

 一方でわれわれファンは、突きつめると結局は傍観者でしかありません。その「傍観」に意味を見出す消費者が多いからこそ活動が成り立っているということでもありますが、だからこそ「点ではなく線で見続けること」というマインドを忘れたくないな、と思います。

(点ではなく線で見ようとしすぎた結果、北野日奈子さんについて振り返るために中元日芽香さんの生い立ちから振り返ることになったブログ記事も、年末年始でお時間があれば、よろしければご覧ください。)

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