未成年のレポート1

アバズレみたい。

学生時代に母親から言われた。
鎖骨あたりに紐がクロスした流行りのデザインの服を着ていたから。特別露出が多いものではないけど母の目にはそう映ったらしい。

15歳のある日、こっそりアイシャドウを買った。やらしいものでも無いのにベッドの下に隠していた。母親に見つかると何か言われるかもしれないから。



見つかった____

そして案の定、禁止になった。肌に悪いからとの事だったけど理由はきっと他にある。初めての子育ての中で娘が女になっていく。私が色気づくのが怖かったんだろ。
見栄っ張りな母の事だから私が外でそれを使わないかも気にしていたはず。自分で楽しむためだけに買ったアイシャドウは毒親急行ゴミ箱行き。
えーー、全然上手いこと言えてなくて1mmも笑えない、きっと文面上で滑っている。アイシャドウが見つかったときもこのくらいサーっと血の気が引いたものだ。

あの時のアイシャドウさんへ
使命を全うしたかっただろうにごめんね…可愛くなれなくてごめん。中学生のノイアより

そういえば中学時代は顔を見られたくなくてマスクを毎日していた。長い前髪にメガネにマスクは完全に不審者だったけど素顔を見られるよりも好奇な目で見られる方が全ッ然マシだった。マスクを外さなければならない給食の時間は超苦痛、食べてる時の顔は変じゃないかと神経をすり減らす。

クラスのカーストの中で美男美女が優遇されるのは確かだったが、顔だけが全てだとは思ってない。最低限の身だしなみが出来ていればそれなりに青春もできたかも。うねった髪と分厚い眼鏡と荒れた肌では踏み入ることが出来ない領域が確かにあった。

ありのままの自分を受け入れて欲しいなんて気持ちはこのころからさらさらない。

待っていたら白馬の王子様がくる?外見も含めて愛してくれる人が現れる?複雑な環境も仕方なくて可哀想な自分をいつかは理解してもらえる?

甘いんだよ馬鹿が。

会う相手に不快感を与えない程度の清潔感を保つことは社会に溶け込んで生きていく上で必要なこと。それをわかっているのにできないジレンマ。
自分が求める立ち位置につく為にやるべき事は理解しているのにそれを抑圧される悲しさや怒り。

母親が悪い、私は可哀想。

ううん、違うかも。逃れられない呪縛の中にいた"風"で母親に歯向かうほどの勇気が無かっただけ、どう見られても気にしない強さを持てないのが悪いんじゃないか。自分が変わる志を持ててないだけ、所詮はその程度の気持ちなんだろ。

"甘いんだよ馬鹿が。"

そもそもこんな風に生まれた自分が悪いんじゃないか。こんな風な娘が生まれて可哀想なのは実は母親の方なんじゃないか。どうすればいいの…?

どのように昇華すればいいか分からない気持ちはどんどん恨み辛みのようなものになって、鉾のような形に蓄積された。

"甘いんだよ馬鹿が。"

このような思考の槍は自分の中で繰り返し自分に向けられほぼ毎晩潜考した。

ほんとは分厚い眼鏡をかけたく無かったし、良い香りのシャンプーを使いたかったし、自分のお年玉で買った服もアイシャドウも否定されたくなかった。可愛くなることを抑圧されて育った反動は大きい。

わたしは未成年で整形した。

28万円を落とさないように奪われないように大切に握りしめて新宿に向かう。
お金と、未成年の整形の同意書が一緒に入った封筒が冷や汗で少し破れていた。

続く

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