MP連載第二十七回:だから仕事に早めに着手するべき

前回の倉下さんの記事は、非常に大事なポイントがいくつも出てきました。一度に全部を扱うとむやみに長くなり、わかりにくくもなりますので、ポイントをしぼります。

まず、自発的な脱線について。次のこの一節が非常に重要です。

MPの文脈に即して言えば、詰まった作業はよりいっそうのMPを要求してくるように感じます。それはあまりにもハードなので、なるべくMPを使わない作業に移行したくなる。それがもう一つのタイプの脱線です。

MPの定義にも関わるところがありますが、私はMPというのは、「痛み止めとしての機能」が大であると思っています。

詰まった作業は、精神的な痛みを発生させます。
この痛みを抑えつつ、作業を継続させるのがMPの大事な役割だろうと思います。
そうすれば、作業は過剰な苦痛なく進行し、大きな推進が得られるのです。ただしMPは当然使います。

しかし「詰まり具合」にもよりますが、そういう無理な作業に邁進しなければ、痛み止めなど不要になります。「MPを節約したい」という脳の事情と、この思惑は一致しやすいのです。

Twitterに「脱線」することで、痛み止めは不要になります。

しかし、「本線」の作業が進んでないということが「気になる」のです。これが脱線による新たな痛みとなり、この際、そういう痛みを止めるために、MPが投入されます

他にすることもなく、心おきなくするTwitterに比べ、仕事から脱線しつつやっているTwitteにはなんとなく「消耗感がある」のは、その罪悪感から来る精神的苦痛をMPでもって抑えているせいだろうと思います。

ここで、

・詰まった作業を邁進させる際に生じる苦痛を抑えるためのMP投入量

・Twitterに逃げることで本来の作業が進まないことによる精神的苦痛を抑えるためのMP投入量

どっちが多いか?
脳がそれを計算するのです。

Twitterに逃げても、締め切りが目前に迫っているなど、逃げたことの苦痛のほうが大きいなら、もはや逃げる意味はなくなります。そういうときには、逃げなくなるでしょう。

ギリギリになると、人が仕事に没入しやすくなるのは、このような流れと理解できます。

私は、人は仕事から逃れる罪悪感を持つ必要があるとは言わないにしても、ある種の「本線から脱線する苦痛」を覚えるのは、だから悪いことではないと思っています。これがないと仕事が進まないからです。

むしろ、これを早い段階から少しでも「持ち続ける」ためにこそ、長期的な仕事に早めに取り組むことに価値があると思うのです。

GTDでもよくうけた部分ですが、私たちは「スッキリ一点の曇りのないクリスタルのような青空の心で仕事をるんるん進める幻想」に惑わされています。

仕事を大いにやっている人の伝記を読んだり直接話を聞いてみても、そんな人はごくごくごくごく希です。統計的には完全に無視できるくらいに希です。「やれている」人の話にも、嘘が混じっている可能性が大いにあります。

話を本線に戻しますと、「罪悪感」でなくてもいいのですが、「本線からそれている」なら、それているということを意識することは必要だと思うのです。

結局のところ、いつも青空心理で仕事ができるということは、いつも本線からそれないという意味です。つまり、いつも最適量のMPを、節約したがっているにもかかわらず脳が投入し、心に何の痛みも感じることなく、どんな仕事をもやりこなしているという意味です。

私は、そんな人の話を信じる気になれません。儀礼上、信じているフリくらいはいたしますが。

くりかえしになりますが、Twitterに逃げても、締め切りが目前に迫っているなど、逃げたことの苦痛のほうが大きいなら、もはや逃げる意味はなくなるわけです。

これを逆に言うと、Twitterに逃げても、さして問題がないほど締め切りが遠ければ、逃げる苦痛は小さいため、MPは節約できることになり、おそらく逃げ続けることになるでしょう。

でもそれでもいいことが起こることもあるのです。
倉下さんが書いているとおりです。

たとえば、原稿の構成をさんざん考えてもまったく良い形が見つからなかったので、いったん止めて別の作業に取りかかり、次の日に再開してみたら、あっさり良い形が見つかった、という場合はうまくいったと言えるでしょう。その時点での、それ以上のMPの投入は意味をなさないわけですから、別の作業に「逃げ」た方が効果的なわけです。

このようなことができるためには、そもそも「早いうち」から仕事に着手し続けなければならないのです。そうすると、「罪悪感」を感じる機会は増えるのです。脱線する機会が増えるのですから。

いずれ、脱線する方がMP投入が少なくてすむか、仕事に戻る方が少なくてすむか、非常にわかりにくい「とんとんの日時」がやって来ます。それを逃さないためにも、早いうちから着手する方が有利なのです。